恋を知りたいアンドロイドと教えたくない主様

散りぬるを

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感情の芽生え

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 合コンは――実に楽しかった。
 主のために食事を取り分けようとするアンドロイドたち。そして、タイミングが合わないと互いの手がぶつかりそうになるわけだが、引っ込めたり伸ばしたりする、そのまごまごしている様を見て腹筋が崩壊した。
 私は腹を抱えて笑いたいのを抑え、JJ109の肩を掴んで後ろを向き、口を押さえて笑いを押し殺していた。
 ま、楽しかったのはアンドロイド同士のやり取りで、人間とのやり取りは楽しくなかったけど。
 やたらと絡んでくる男がいて、非常に面倒くさかった。愛想笑いと社交辞令を永遠にするのも疲れる。
 
 JJ109は私が命じた通り、女型アンドロイドと恋愛について意見を交わしていた。
 ほとんど、ネットで検索した情報を読み上げているだけだったけど。

「理屈はわかります。ですが、わかったところで恋ができるわけではありません」
「アンドロイドに恋愛感情は不要です。なぜアナタは恋をしたいのですか」
「主様を喜ばせたいからです」
「アナタが恋をすることと、アナタの所有者が喜ぶことは関係ありません。所有者の欲求を満たすことで、所有者は喜びます」

 いいぞー。もっと言ったれー。
 と思ったけれど、JJ109は相手をしてくれていたアンドロイドから離れ、私の隣に戻ってきた。
 なんか、気落ちしてる?

「どしたのぉ? 元気なくなっちゃった?」
「いいえ、バッテリーは80%あります」
「そう……」
「ですが、正常ではありません」
「ヤバいじゃん。帰って様子見てあげようか」

 JJ109は私の顔をじーっと見て、ゆっくりと瞬いた。
 私は誘ってくれた友人に挨拶して会費を渡し、合コンの席を後にした。
 どこかぼんやりとしたJJ109の手を引いて店から離れようとしたとき――。

「待ってよ」

 合コンでしつこかった男が私を呼び止めた。
 彼の後ろにはショートヘアーの女型のアンドロイドも一緒にいる。

「よかったらさ、二人で抜けてどこかで飲まない?」
「いえ……もう帰りますので」
「そう言わないで。そのアンドロイド持ってるってことは、欲求不満なんでしょ?」

 私は目を丸めた。
 男はにやっと笑ってJJ109を指差す。

「だってそれ、ご奉仕アンドロイドでしょう。ほとんどの奴は他人のアンドロイドの型番なんて気にしないけど、俺は気になったら調べちゃうんだよね。俺の持ってるアンドロイドもご奉仕アンドロイドなんだ。だから、さ」

 それから私の手を掴んで、指を絡ませようとしてきた。
 ゾワゾワゾワ……っと鳥肌が立つ。

「やめてよ!」

 手を振り払っても繋がれた手が外れない。

「離してっ」
 
 そう叫んだ途端、すごい力で肩を引き寄せられた。
 金色の毛先が風に揺れるのが見えた。

 私、JJ109に抱きしめられてる?

 驚いて見上げると、JJ109が男の手を掴んで睨んでいた。対する男は顔を歪めている。

「いってぇな」
「今すぐ主様から手を離してください」

 抑揚のない声のはずが、怒りの感情が現れている気がした。
 男の手が離れるのを認めると、JJ109は男の手を乱暴に振り捨てた。
 
「アンドロイドのくせに舐めやがって!」

 男はJJ109の胸ぐらを掴んで大声を出した。

「人間のくせにアナタは礼儀がありませんね」
「やめなさい」

 悪いのはこの男だけど、今は火に油だ。
 JJ109は不服そうな顔をした。
 まるで人間みたいな反応をされて、また驚く。
 
「この子から手を離して。もしこの子を殴ったら器物損壊で警察に突き出しますから」
「ハッ、なにがこの子だ。アンドロイドに依存して気持ち悪ぃ」

 ダサい捨て台詞を吐いて男は店内に戻っていった。彼の所有するアンドロイドはずっと無表情で立っていて、彼の背中についていく。そこには、なんの感情も見てとれなかった。
 これが、これこそがアンドロイドの姿だ。
 だけど、私のJJ109は……。
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