9 / 10
共に生きたい人
しおりを挟む
オフィーリアはハイウェルの休暇中、そばを離れず世話をし続けた。彼が眠りたいと思うときには何時だろうと歌い、眠りに導いた。
屋敷の使用人たちはなにかを予感しているのか、オフィーリアをもうひとりの主人のように敬い、丁重にもてなした。
そして七日目の夜。いつものようにハイウェルがベッドに座り、オファーリアが椅子に座って話しているときのことだった。
「ずっと疑問だったんだが、君はなにを歌っても人を眠らせることができるのか」
「そう思っている人が多いようですが、本当は歌い継がれている三曲だけです。それも全部、子守唄」
「子守唄!?」
意外そうに目を丸めるハイウェルに、オフィーリアはクスクスと笑った。
「親が子を寝かしつけるときに歌うものだと教えられてきたので、そうなんだろうなと。でも私、ずっと思っていたことがあるんです。この歌は誰かを眠らせるためじゃなくて、自分の悪夢を鎮めるために作られた呪文なんじゃないかって」
「その呪縛から解放されることはないのか?」
「血が薄くなればいずれは消えるでしょう」
昔は一日に何度も歌う必要があったらしい。だが、今は一日に一度で良くなっている。少しずつセイレーンとの繋がりは薄くなっているはずだ。
「ですが、私にもし子供ができたら私と同じように過ごさなければならないでしょう」
「君が誰とも婚約しないのはそれが理由か?」
「まぁ、ええ。それに、望まれることもないですし」
オフィーリアは寂しい自嘲を唇に漂わせた。
この歳にもなって婚約の話が出ないなら、この先も出ないだろう。
ハイウェルが妻を迎えたときには潔く身を引き、この恋を終わらせるつもりだった。
今はひとときの夢を見ているに過ぎない。
ハイウェルはすこし黙り、空気を変えるように咳払いをひとつした。
「オフィーリア。その、大事な話がある」
「はい、なんでしょう」
「私は恋愛ごとに疎く、女性を喜ばせる方法を知らない。ロマンチックというものがなにか、いまだに理解できない」
いきなりどうしたことだろう。
話の意図が掴めなくて「はあ」と気の抜けた返事をしてしまう。
だが、ハイウェルはいっそう表情を引き締めオフィーリアを熱く見つめた。
「だから、結論だけを伝える。君を私の妻に迎えたい」
オフィーリアは信じられないとばかりに、笑いたいのか、泣きたいのか判然としない表情を浮かべた。
「い、今……なんと……? 私を、ですか?」
「君を愛してる。共に生きるのなら、君とがいい。君でなければだめだ」
「本当に……?」
「ああ。君を幸せにするのは、私でなければいやだ」
オフィーリアは深いため息のように呼吸を震わせて、ハイウェルの肩に抱きついた。
「本当に、あなたを愛し続けてもいいの? あなたを諦めなくてもいいの?」
「私が共に過ごしたいのは君だけだ、オフィーリア」
そっと包み込むように抱きしめられ、全身の力が抜けていく。
今自分たちがなにをしたいのか、言葉にするまでもなく向かい合い唇を重ねた。
口づけを止める理由はなく、ただ深く長く互いを求め続ける。
濃厚な口づけにオフィーリアはだんだん身体の奥が熱くなってくるのを感じた。特に股の間の、誰にも触れさせたことない場所がヒクヒクと疼いてくる。初めて性的なことに目覚めたオフィーリアは、甘い息をもらしてハイウェルのうなじを撫でた。
「オフィーリア、一刻も早く式を挙げよう。君を抱けない日々が続いたら別の悪夢を見そうだ」
「ふふっ、私もです」
それからふたりが結婚したのは、一年後のことだった。家柄の差や政治的な理由から話が進まなかったが、ハイウェルがオフィーリアを諦めなかったため、ふたりは無事結婚するに至った。
屋敷の使用人たちはなにかを予感しているのか、オフィーリアをもうひとりの主人のように敬い、丁重にもてなした。
そして七日目の夜。いつものようにハイウェルがベッドに座り、オファーリアが椅子に座って話しているときのことだった。
「ずっと疑問だったんだが、君はなにを歌っても人を眠らせることができるのか」
「そう思っている人が多いようですが、本当は歌い継がれている三曲だけです。それも全部、子守唄」
「子守唄!?」
意外そうに目を丸めるハイウェルに、オフィーリアはクスクスと笑った。
「親が子を寝かしつけるときに歌うものだと教えられてきたので、そうなんだろうなと。でも私、ずっと思っていたことがあるんです。この歌は誰かを眠らせるためじゃなくて、自分の悪夢を鎮めるために作られた呪文なんじゃないかって」
「その呪縛から解放されることはないのか?」
「血が薄くなればいずれは消えるでしょう」
昔は一日に何度も歌う必要があったらしい。だが、今は一日に一度で良くなっている。少しずつセイレーンとの繋がりは薄くなっているはずだ。
「ですが、私にもし子供ができたら私と同じように過ごさなければならないでしょう」
「君が誰とも婚約しないのはそれが理由か?」
「まぁ、ええ。それに、望まれることもないですし」
オフィーリアは寂しい自嘲を唇に漂わせた。
この歳にもなって婚約の話が出ないなら、この先も出ないだろう。
ハイウェルが妻を迎えたときには潔く身を引き、この恋を終わらせるつもりだった。
今はひとときの夢を見ているに過ぎない。
ハイウェルはすこし黙り、空気を変えるように咳払いをひとつした。
「オフィーリア。その、大事な話がある」
「はい、なんでしょう」
「私は恋愛ごとに疎く、女性を喜ばせる方法を知らない。ロマンチックというものがなにか、いまだに理解できない」
いきなりどうしたことだろう。
話の意図が掴めなくて「はあ」と気の抜けた返事をしてしまう。
だが、ハイウェルはいっそう表情を引き締めオフィーリアを熱く見つめた。
「だから、結論だけを伝える。君を私の妻に迎えたい」
オフィーリアは信じられないとばかりに、笑いたいのか、泣きたいのか判然としない表情を浮かべた。
「い、今……なんと……? 私を、ですか?」
「君を愛してる。共に生きるのなら、君とがいい。君でなければだめだ」
「本当に……?」
「ああ。君を幸せにするのは、私でなければいやだ」
オフィーリアは深いため息のように呼吸を震わせて、ハイウェルの肩に抱きついた。
「本当に、あなたを愛し続けてもいいの? あなたを諦めなくてもいいの?」
「私が共に過ごしたいのは君だけだ、オフィーリア」
そっと包み込むように抱きしめられ、全身の力が抜けていく。
今自分たちがなにをしたいのか、言葉にするまでもなく向かい合い唇を重ねた。
口づけを止める理由はなく、ただ深く長く互いを求め続ける。
濃厚な口づけにオフィーリアはだんだん身体の奥が熱くなってくるのを感じた。特に股の間の、誰にも触れさせたことない場所がヒクヒクと疼いてくる。初めて性的なことに目覚めたオフィーリアは、甘い息をもらしてハイウェルのうなじを撫でた。
「オフィーリア、一刻も早く式を挙げよう。君を抱けない日々が続いたら別の悪夢を見そうだ」
「ふふっ、私もです」
それからふたりが結婚したのは、一年後のことだった。家柄の差や政治的な理由から話が進まなかったが、ハイウェルがオフィーリアを諦めなかったため、ふたりは無事結婚するに至った。
6
お気に入りに追加
99
あなたにおすすめの小説
冷酷無比な国王陛下に愛されすぎっ! 絶倫すぎっ! ピンチかもしれませんっ!
仙崎ひとみ
恋愛
子爵家のひとり娘ソレイユは、三年前悪漢に襲われて以降、男性から劣情の目で見られないようにと、女らしいことを一切排除する生活を送ってきた。
18歳になったある日。デビュタントパーティに出るよう命じられる。
噂では、冷酷無悲な独裁王と称されるエルネスト国王が、結婚相手を探しているとか。
「はあ? 結婚相手? 冗談じゃない、お断り」
しかし両親に頼み込まれ、ソレイユはしぶしぶ出席する。
途中抜け出して城庭で休んでいると、酔った男に絡まれてしまった。
危機一髪のところを助けてくれたのが、何かと噂の国王エルネスト。
エルネストはソレイユを気に入り、なんとかベッドに引きずりこもうと企む。
そんなとき、三年前ソレイユを助けてくれた救世主に似た男性が現れる。
エルネストの弟、ジェレミーだ。
ジェレミーは思いやりがあり、とても優しくて、紳士の鏡みたいに高潔な男性。
心はジェレミーに引っ張られていくが、身体はエルネストが虎視眈々と狙っていて――――
慰み者の姫は新皇帝に溺愛される
苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。
皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。
ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。
早速、二人の初夜が始まった。
【R18】騎士団長は××な胸がお好き 〜胸が小さいからと失恋したら、おっぱいを××されることになりました!~
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
「胸が小さいから」と浮気されてフラれた堅物眼鏡文官令嬢(騎士団長補佐・秘書)キティが、真面目で不真面目な騎士団長ブライアンから、胸と心を優しく解きほぐされて、そのまま美味しくいただかれてしまう話。
※R18には※
※ふわふわマシュマロおっぱい
※もみもみ
※ムーンライトノベルズの完結作
【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話
象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。
ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。
ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。
大事な姫様の性教育のために、姫様の御前で殿方と実演することになってしまいました。
水鏡あかり
恋愛
姫様に「あの人との初夜で粗相をしてしまうのが不安だから、貴女のを見せて」とお願いされた、姫様至上主義の侍女・真砂《まさご》。自分の拙い閨の経験では参考にならないと思いつつ、大事な姫様に懇願されて、引き受けることに。
真砂には気になる相手・檜佐木《ひさぎ》がいたものの、過去に一度、檜佐木の誘いを断ってしまっていたため、いまさら言えず、姫様の提案で、相手役は姫の夫である若様に選んでいただくことになる。
しかし、実演の当夜に閨に現れたのは、檜佐木で。どうも怒っているようなのだがーー。
主君至上主義な従者同士の恋愛が大好きなので書いてみました! ちょっと言葉責めもあるかも。
【R18】はにかみ赤ずきんは意地悪狼にトロトロにとかされる
梗子
恋愛
森の入り口の村に住むクレアは、子どもたちに読み書きを教えて暮らしているごく普通の村娘
そんなクレアは誰にも言えない秘密を抱えていた
それは狼男の恋人のロイドがいるということー
ある日、村の若者との縁談を勧められるが、そのことがロイドに知られてしまう。
嫉妬に狂ったロイドはクレアを押し倒して…
※★にR18シーンがあります
※若干無理矢理描写があります
【R-18】嫁ぎ相手は氷の鬼畜王子と聞いていたのですが……?【完結】
千紘コウ
恋愛
公爵令嬢のブランシュはその性格の悪さから“冷血令嬢”と呼ばれている。そんなブランシュに縁談が届く。相手は“氷の鬼畜王子”との二つ名がある隣国の王太子フェリクス。
──S気の強い公爵令嬢が隣国のMっぽい鬼畜王子(疑惑)に嫁いでアレコレするけど勝てる気がしない話。
【注】女性主導でヒーローに乳○責めや自○強制、手○キする描写が2〜3話に集中しているので苦手な方はご自衛ください。挿入シーンは一瞬。
※4話以降ギャグコメディ調強め
※他サイトにも掲載(こちらに掲載の分は少しだけ加筆修正等しています)、全8話(後日談含む)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる