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共に生きたい人

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 オフィーリアはハイウェルの休暇中、そばを離れず世話をし続けた。彼が眠りたいと思うときには何時だろうと歌い、眠りに導いた。

 屋敷の使用人たちはなにかを予感しているのか、オフィーリアをもうひとりの主人のように敬い、丁重にもてなした。
 そして七日目の夜。いつものようにハイウェルがベッドに座り、オファーリアが椅子に座って話しているときのことだった。

「ずっと疑問だったんだが、君はなにを歌っても人を眠らせることができるのか」
「そう思っている人が多いようですが、本当は歌い継がれている三曲だけです。それも全部、子守唄」
「子守唄!?」

 意外そうに目を丸めるハイウェルに、オフィーリアはクスクスと笑った。

「親が子を寝かしつけるときに歌うものだと教えられてきたので、そうなんだろうなと。でも私、ずっと思っていたことがあるんです。この歌は誰かを眠らせるためじゃなくて、自分の悪夢を鎮めるために作られた呪文なんじゃないかって」
「その呪縛から解放されることはないのか?」
「血が薄くなればいずれは消えるでしょう」

 昔は一日に何度も歌う必要があったらしい。だが、今は一日に一度で良くなっている。少しずつセイレーンとの繋がりは薄くなっているはずだ。

「ですが、私にもし子供ができたら私と同じように過ごさなければならないでしょう」
「君が誰とも婚約しないのはそれが理由か?」
「まぁ、ええ。それに、望まれることもないですし」

 オフィーリアは寂しい自嘲を唇に漂わせた。
 この歳にもなって婚約の話が出ないなら、この先も出ないだろう。
 ハイウェルが妻を迎えたときには潔く身を引き、この恋を終わらせるつもりだった。
 今はひとときの夢を見ているに過ぎない。

 ハイウェルはすこし黙り、空気を変えるように咳払いをひとつした。

「オフィーリア。その、大事な話がある」
「はい、なんでしょう」
「私は恋愛ごとに疎く、女性を喜ばせる方法を知らない。ロマンチックというものがなにか、いまだに理解できない」

 いきなりどうしたことだろう。
 話の意図が掴めなくて「はあ」と気の抜けた返事をしてしまう。
 だが、ハイウェルはいっそう表情を引き締めオフィーリアを熱く見つめた。

「だから、結論だけを伝える。君を私の妻に迎えたい」

 オフィーリアは信じられないとばかりに、笑いたいのか、泣きたいのか判然としない表情を浮かべた。

「い、今……なんと……? 私を、ですか?」
「君を愛してる。共に生きるのなら、君とがいい。君でなければだめだ」
「本当に……?」
「ああ。君を幸せにするのは、私でなければいやだ」

 オフィーリアは深いため息のように呼吸を震わせて、ハイウェルの肩に抱きついた。

「本当に、あなたを愛し続けてもいいの? あなたを諦めなくてもいいの?」
「私が共に過ごしたいのは君だけだ、オフィーリア」

 そっと包み込むように抱きしめられ、全身の力が抜けていく。
 今自分たちがなにをしたいのか、言葉にするまでもなく向かい合い唇を重ねた。
 口づけを止める理由はなく、ただ深く長く互いを求め続ける。
 濃厚な口づけにオフィーリアはだんだん身体の奥が熱くなってくるのを感じた。特に股の間の、誰にも触れさせたことない場所がヒクヒクと疼いてくる。初めて性的なことに目覚めたオフィーリアは、甘い息をもらしてハイウェルのうなじを撫でた。

「オフィーリア、一刻も早く式を挙げよう。君を抱けない日々が続いたら別の悪夢を見そうだ」
「ふふっ、私もです」

 それからふたりが結婚したのは、一年後のことだった。家柄の差や政治的な理由から話が進まなかったが、ハイウェルがオフィーリアを諦めなかったため、ふたりは無事結婚するに至った。
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