7 / 10
密室の秘め事
しおりを挟む
治療の一環という建前から始まった食事会は、二ヶ月経った今でも続いていた。
勘違いしない、と心に決めていたオフィーリアも流石にハイウェルの目を意識せずにはいられなくなり、新しいドレスを購入し、薄化粧をするようになっていた。
一方で、ハイウェルの態度は、出会った頃と比べて随分と軟化した。面白かった本の話や、遠征地で見た美しい景色の話、あるいは最近の社交界の話などを聞かせてくれるようになった。彼のプライベートな思考を覗くことを許された。そんな気がした。
「最近、すこしだけ寝つきが良くなった気がする」
「本当ですか!?」
ハイウェルは深く頷いた。
「君の言う通り、私には安らぎが足りなかったようだ」
「このまま焦らず、ゆっくりと眠ることに慣れていきましょう。最後まで私がお支え致します」
言ってから、やや思い上がった言葉だっただろうかと我に返る。
しかし、ハイウェルは柔らかく目を細めて笑みを浮かべるだけだった。
「君は私の狙いを見抜いていただろう?」
「え?」
唐突だったから、この話の先が読めなかった。
「私がいつ「歌え」と命じるのか、君はずっと警戒していた。だが、もうその心配はしなくていい。私は君に歌を求めたりしない」
オフィーリアは目を丸くして、瞳を潤ませた。
「私が求めているのは、君と過ごす時間だ」
瞬きひとつすれば、たちまち涙は落ちてしまう。
横を向いてうつむいてさりげなく涙を拭い、ふふと笑って見せた。
「ハイウェル様はお酒が入ると、ときどき変なことをおっしゃるので困ります」
「変なこと?」
「だって変ですよ。私はなにもしていないのに……あなたにそんなふうに思ってもらえるような人間じゃ」
「君は君のままでいい。君がいるだけでいいと思う人間だっている」
「そんな……私はそんな……」
誰かにそんなふうに言ってもらえる日が来るとは、思ってもみなかった。
返すべき正しい言葉が見つからない。
熱くなる頬を隠すために、ホットワインに手を伸ばす。いまだアルコールに慣れることはなく、一杯を空にするだけでやっとだった。おかげで顔も身体もほてって、思考もふわふわする。
ハイウェルに気を遣われながら帰りの馬車に乗り込み、促されるままに彼の肩にもたれた。
大変な不敬をはたらいていると、頭の片隅では自覚しているが「どうにでもなれ」と思っている自分もいる。
ずっと触れたかった。ハイウェルを独り占めしてしまいたいと思うほどに、秘めた恋心は燃え上がっていた。
「君が酔うのは珍しいな」
「ごめんなさい」
「気にしなくていい。それに、君にはもう謝ってほしくない」
「では、どう言えば」
「楽しかったと言ってくれたらそれでいい」
「……楽しかったです。ハイウェル様と過ごす時間は、私にとっても心地いいです」
「オフィーリア」
声に熱がこもったのを感じた。
ハイウェルの手が、オフィーリアの艶やかな手の甲を包みこむ。
ランタンの光があるだけの薄暗い馬車のなか、ふたりはどちらともなく見つめ合った。今なら誰の目もない。秘密を共有するには、ちょうどいい空間だった。
オフィーリアはハイウェルの指を握り返し、目をゆっくりと閉じた。
節立つ指の背が頬を撫でてくるのをうっとりとした気分で受け入れる。うなじに回った手のひらに支えられ、唇をそっと塞がれた。求め合うように唇を吸って、頭の角度を変えて何度も重ねる。ワインのせいか、それとも気持ちが昂っているせいか。絡めた舌が熱くてたまらない。キスを止めて至近で見つめ合い、背中に手を回して引き寄せ、また唇を重ねる。御者が声をかけるまで、ふたりは夢中になって口づけをしていた。
「また明日会えるのに、君と離れたくないと思ってしまうな」
「そんなふうに思ってもらえるなんて、夢のようです」
ハイウェルはオフィーリアの髪を耳にかけ、そのまま耳の付け根にキスをした。
「朝が来ても、どうかこの口づけを忘れないでくれ」
低い囁きにオフィーリアは甘くため息をつき「はい」とか細く返事をした。
こんな日がずっと続けばいいと願ってしまう一方で、本当はハイウェルの顔色が良くなっていないことに気づいていた。
彼は嘘をついている。
ランス曰く、ぼんやりとする時間が増えてきたと言う。やるべきことを忘れたり、執務室横の仮眠室で眠る回数も増えてきたらしい。だが、それも短時間のことで、眠る前よりやつれた顔で起きてくると言っていた。
(歌うべきなんだわ。でも、私の歌を聴いたら後悔するかもしれない。彼に嫌われたくない……)
オフィーリアはいつもより飲みすぎたせいか寝坊をしてしまい、歌う時間を逃した。ついてないなと気を落としたあとに待っていたのは、ロレンスから届けられた伝言だった。
「ランス様から伝言。ハイウェル様の体調が良くないから、今日は来なくていいって」
「そんな……! ハイウェル様は大丈夫なんですか?」
「さあ。ただ、ランス様はピリついていたけど」
オフィーリアは組んだ手をギュッと握り込み、沈痛な面持ちでうつむいた。
「俺が言うのも変だけど」
ロレンスは相変わらず気難しい顔でオフィーリアに語りかけた。
「歌ってほしいって言う奴には聴かせてもいいんじゃないか」
どこまで、なにを知っているのかはわからないが、彼は全てを察した様子でそう言った。
オフィーリアは「だけど」言い淀んだ。
「俺はアンタを恨んでいないけど、今さら謝ったりもしない。時が巻き戻っても、またきっとアンタを傷つけることを言うと思う。でも、俺がアンタの歌を嫌ったことと、アンタの歌を望んだ人たちがいたことは別の話だろ」
オフィーリアは唇を噛み締めた。
もうずいぶん許されていたんだとわかって、たまらなくなった。
「アンタの歌を望んだ奴は、アンタに歌ってもらえて嬉しかったと思うよ」
「そうでしょうか」
顔を覆って、つぅと涙が流れるままに任せて言った。
「アンタの優しさに救われた奴だっていたと思うよ。じゃなかったら、『ミーフィズのセイレーン』なんて噂が生まれるはずがない」
「でも、あれは、間違っていたんです」
「正しくもあっただろう」
「私、ずっと、後悔していたんです。歌わなければよかったって……。私は、ずっと自分が許せなかった……!」
オフィーリアは嗚咽を漏らした。
誰にも打ち明けてこなかった長年の苦しみを口にしたことで、感情とともに涙が溢れ出す。
ロレンスは伸ばしかけた手を引っ込めて、ため息を落とすように言った。
「聴きたくなかったけど、でも……アンタの歌声は好きだったよ」
ロレンスと別れて宿舎に戻ったオフィーリアは、痛む頭を枕に沈めて目を閉じた。ハイウェルのことが気がかりで歌う気にもなれない。今夜はきっと悪夢を見ることだろう。そしてそれは、本当に起きた。
夢のなか、オフィーリアは夕焼けに染まる執務室に立っていた。
ハイウェルの机には故人を悼む白い花束が置かれていた。
「お前のせいだ」
ランスの声に振り返ると、怒った彼はオフィーリアの胸ぐらを掴んで机に押しつけるように乗り上げてきた。
「ハイウェル様が死んだのはお前のせいだ!」
「ランス、さ、ま……」
「なぜ歌わなかった! あの人の顔色がどんどん悪くなっていくのを見ていながら、なぜ傍観していた!」
「ごめ……なさ……」
「死んだ者は帰ってこない! それがわかっていながらなぜ歌わなかった?」
ギリギリと力の限り襟を絞るように掴まれて、息ができなくなる。
オフィーリアは力一杯ランスの腹を蹴りつけて、隙ができたところを魔法の力でランスの身体を突き飛ばした。
「勝手なこと言わないでよ!」
オフィーリアは自分でも信じられないくらいの声量で叫んでいた。
「騎士団長が眠り続けたら、誰が騎士団を回していくのよ! あなたにできるの!? 責任持てるの!? どうせなにもできなかったら、あの人を眠らせた私のせいにするんでしょう? もううんざりよ、私のせいにしないで!」
自分の歌で救われるならいくらでも歌おう。
かつてそう思って戦地で歌ったけれど、それはただの自己満足だと気づいた。気づいたのに、望まれてあとに引けなくなっていた。本当は途中から歌いたくなくなっていたのだ。
蔑みと拒絶の視線に貫かれながら、それでも歌い続けるしかなかった。遠く離れた地にいる家族に会いたいと泣く人々を前に、オフィーリアは歌うことで彼らの涙から逃げたかったのだ。
「歌で救われるなんて幻想だわ! 歌がなくたって人は眠れるのよ!」
「だが、ハイウェル様は死んだ。お前が歌っていれば避けられたかもしれないのに」
「違うわ! もっとやれることはあった!」
「なにがあった!? お前はいったいなにを成し得た!? あの人に期待を持たせただけだろう!!」
ランスに突きつけられた言葉の刃はどれもが正しかった。正しかったから、鋭すぎた。
オフィーリアは執務机に縋るように伏せって泣いた。
歌ったら後悔するという未来が見える。でも、歌わなくても毎日「これでいいのかな」と不安になっていた。本当はハイウェルのために歌うべきだとわかっていた。だが、自分の心を守るためにずっと避けてきた。
ひっくとしゃくりあげたと同時に、悪夢から目覚める。
膝を抱え、絶望した。気づいてしまった。
(あの人を愛しているなんて嘘だわ。私は自分が可愛いばっかりで、本当は誰のことも愛していなかったんだ。ハイウェル様、ごめんなさい……)
どうかハイウェルが死にませんようにと天に祈り、夜明けと共にハイウェルの屋敷へと歩き出した。会えなくてもいい。生きていることを確認できればそれでいい。
オフィーリアはこぼれる涙を何度も拭って、本当の自分を取り戻しながら歩き続けた。
勘違いしない、と心に決めていたオフィーリアも流石にハイウェルの目を意識せずにはいられなくなり、新しいドレスを購入し、薄化粧をするようになっていた。
一方で、ハイウェルの態度は、出会った頃と比べて随分と軟化した。面白かった本の話や、遠征地で見た美しい景色の話、あるいは最近の社交界の話などを聞かせてくれるようになった。彼のプライベートな思考を覗くことを許された。そんな気がした。
「最近、すこしだけ寝つきが良くなった気がする」
「本当ですか!?」
ハイウェルは深く頷いた。
「君の言う通り、私には安らぎが足りなかったようだ」
「このまま焦らず、ゆっくりと眠ることに慣れていきましょう。最後まで私がお支え致します」
言ってから、やや思い上がった言葉だっただろうかと我に返る。
しかし、ハイウェルは柔らかく目を細めて笑みを浮かべるだけだった。
「君は私の狙いを見抜いていただろう?」
「え?」
唐突だったから、この話の先が読めなかった。
「私がいつ「歌え」と命じるのか、君はずっと警戒していた。だが、もうその心配はしなくていい。私は君に歌を求めたりしない」
オフィーリアは目を丸くして、瞳を潤ませた。
「私が求めているのは、君と過ごす時間だ」
瞬きひとつすれば、たちまち涙は落ちてしまう。
横を向いてうつむいてさりげなく涙を拭い、ふふと笑って見せた。
「ハイウェル様はお酒が入ると、ときどき変なことをおっしゃるので困ります」
「変なこと?」
「だって変ですよ。私はなにもしていないのに……あなたにそんなふうに思ってもらえるような人間じゃ」
「君は君のままでいい。君がいるだけでいいと思う人間だっている」
「そんな……私はそんな……」
誰かにそんなふうに言ってもらえる日が来るとは、思ってもみなかった。
返すべき正しい言葉が見つからない。
熱くなる頬を隠すために、ホットワインに手を伸ばす。いまだアルコールに慣れることはなく、一杯を空にするだけでやっとだった。おかげで顔も身体もほてって、思考もふわふわする。
ハイウェルに気を遣われながら帰りの馬車に乗り込み、促されるままに彼の肩にもたれた。
大変な不敬をはたらいていると、頭の片隅では自覚しているが「どうにでもなれ」と思っている自分もいる。
ずっと触れたかった。ハイウェルを独り占めしてしまいたいと思うほどに、秘めた恋心は燃え上がっていた。
「君が酔うのは珍しいな」
「ごめんなさい」
「気にしなくていい。それに、君にはもう謝ってほしくない」
「では、どう言えば」
「楽しかったと言ってくれたらそれでいい」
「……楽しかったです。ハイウェル様と過ごす時間は、私にとっても心地いいです」
「オフィーリア」
声に熱がこもったのを感じた。
ハイウェルの手が、オフィーリアの艶やかな手の甲を包みこむ。
ランタンの光があるだけの薄暗い馬車のなか、ふたりはどちらともなく見つめ合った。今なら誰の目もない。秘密を共有するには、ちょうどいい空間だった。
オフィーリアはハイウェルの指を握り返し、目をゆっくりと閉じた。
節立つ指の背が頬を撫でてくるのをうっとりとした気分で受け入れる。うなじに回った手のひらに支えられ、唇をそっと塞がれた。求め合うように唇を吸って、頭の角度を変えて何度も重ねる。ワインのせいか、それとも気持ちが昂っているせいか。絡めた舌が熱くてたまらない。キスを止めて至近で見つめ合い、背中に手を回して引き寄せ、また唇を重ねる。御者が声をかけるまで、ふたりは夢中になって口づけをしていた。
「また明日会えるのに、君と離れたくないと思ってしまうな」
「そんなふうに思ってもらえるなんて、夢のようです」
ハイウェルはオフィーリアの髪を耳にかけ、そのまま耳の付け根にキスをした。
「朝が来ても、どうかこの口づけを忘れないでくれ」
低い囁きにオフィーリアは甘くため息をつき「はい」とか細く返事をした。
こんな日がずっと続けばいいと願ってしまう一方で、本当はハイウェルの顔色が良くなっていないことに気づいていた。
彼は嘘をついている。
ランス曰く、ぼんやりとする時間が増えてきたと言う。やるべきことを忘れたり、執務室横の仮眠室で眠る回数も増えてきたらしい。だが、それも短時間のことで、眠る前よりやつれた顔で起きてくると言っていた。
(歌うべきなんだわ。でも、私の歌を聴いたら後悔するかもしれない。彼に嫌われたくない……)
オフィーリアはいつもより飲みすぎたせいか寝坊をしてしまい、歌う時間を逃した。ついてないなと気を落としたあとに待っていたのは、ロレンスから届けられた伝言だった。
「ランス様から伝言。ハイウェル様の体調が良くないから、今日は来なくていいって」
「そんな……! ハイウェル様は大丈夫なんですか?」
「さあ。ただ、ランス様はピリついていたけど」
オフィーリアは組んだ手をギュッと握り込み、沈痛な面持ちでうつむいた。
「俺が言うのも変だけど」
ロレンスは相変わらず気難しい顔でオフィーリアに語りかけた。
「歌ってほしいって言う奴には聴かせてもいいんじゃないか」
どこまで、なにを知っているのかはわからないが、彼は全てを察した様子でそう言った。
オフィーリアは「だけど」言い淀んだ。
「俺はアンタを恨んでいないけど、今さら謝ったりもしない。時が巻き戻っても、またきっとアンタを傷つけることを言うと思う。でも、俺がアンタの歌を嫌ったことと、アンタの歌を望んだ人たちがいたことは別の話だろ」
オフィーリアは唇を噛み締めた。
もうずいぶん許されていたんだとわかって、たまらなくなった。
「アンタの歌を望んだ奴は、アンタに歌ってもらえて嬉しかったと思うよ」
「そうでしょうか」
顔を覆って、つぅと涙が流れるままに任せて言った。
「アンタの優しさに救われた奴だっていたと思うよ。じゃなかったら、『ミーフィズのセイレーン』なんて噂が生まれるはずがない」
「でも、あれは、間違っていたんです」
「正しくもあっただろう」
「私、ずっと、後悔していたんです。歌わなければよかったって……。私は、ずっと自分が許せなかった……!」
オフィーリアは嗚咽を漏らした。
誰にも打ち明けてこなかった長年の苦しみを口にしたことで、感情とともに涙が溢れ出す。
ロレンスは伸ばしかけた手を引っ込めて、ため息を落とすように言った。
「聴きたくなかったけど、でも……アンタの歌声は好きだったよ」
ロレンスと別れて宿舎に戻ったオフィーリアは、痛む頭を枕に沈めて目を閉じた。ハイウェルのことが気がかりで歌う気にもなれない。今夜はきっと悪夢を見ることだろう。そしてそれは、本当に起きた。
夢のなか、オフィーリアは夕焼けに染まる執務室に立っていた。
ハイウェルの机には故人を悼む白い花束が置かれていた。
「お前のせいだ」
ランスの声に振り返ると、怒った彼はオフィーリアの胸ぐらを掴んで机に押しつけるように乗り上げてきた。
「ハイウェル様が死んだのはお前のせいだ!」
「ランス、さ、ま……」
「なぜ歌わなかった! あの人の顔色がどんどん悪くなっていくのを見ていながら、なぜ傍観していた!」
「ごめ……なさ……」
「死んだ者は帰ってこない! それがわかっていながらなぜ歌わなかった?」
ギリギリと力の限り襟を絞るように掴まれて、息ができなくなる。
オフィーリアは力一杯ランスの腹を蹴りつけて、隙ができたところを魔法の力でランスの身体を突き飛ばした。
「勝手なこと言わないでよ!」
オフィーリアは自分でも信じられないくらいの声量で叫んでいた。
「騎士団長が眠り続けたら、誰が騎士団を回していくのよ! あなたにできるの!? 責任持てるの!? どうせなにもできなかったら、あの人を眠らせた私のせいにするんでしょう? もううんざりよ、私のせいにしないで!」
自分の歌で救われるならいくらでも歌おう。
かつてそう思って戦地で歌ったけれど、それはただの自己満足だと気づいた。気づいたのに、望まれてあとに引けなくなっていた。本当は途中から歌いたくなくなっていたのだ。
蔑みと拒絶の視線に貫かれながら、それでも歌い続けるしかなかった。遠く離れた地にいる家族に会いたいと泣く人々を前に、オフィーリアは歌うことで彼らの涙から逃げたかったのだ。
「歌で救われるなんて幻想だわ! 歌がなくたって人は眠れるのよ!」
「だが、ハイウェル様は死んだ。お前が歌っていれば避けられたかもしれないのに」
「違うわ! もっとやれることはあった!」
「なにがあった!? お前はいったいなにを成し得た!? あの人に期待を持たせただけだろう!!」
ランスに突きつけられた言葉の刃はどれもが正しかった。正しかったから、鋭すぎた。
オフィーリアは執務机に縋るように伏せって泣いた。
歌ったら後悔するという未来が見える。でも、歌わなくても毎日「これでいいのかな」と不安になっていた。本当はハイウェルのために歌うべきだとわかっていた。だが、自分の心を守るためにずっと避けてきた。
ひっくとしゃくりあげたと同時に、悪夢から目覚める。
膝を抱え、絶望した。気づいてしまった。
(あの人を愛しているなんて嘘だわ。私は自分が可愛いばっかりで、本当は誰のことも愛していなかったんだ。ハイウェル様、ごめんなさい……)
どうかハイウェルが死にませんようにと天に祈り、夜明けと共にハイウェルの屋敷へと歩き出した。会えなくてもいい。生きていることを確認できればそれでいい。
オフィーリアはこぼれる涙を何度も拭って、本当の自分を取り戻しながら歩き続けた。
4
お気に入りに追加
100
あなたにおすすめの小説
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
【完結】何んでそうなるの、側妃ですか?
西野歌夏
恋愛
頭空っぽにして読んでいただく感じです。
テーマはやりたい放題…だと思います。
エリザベス・ディッシュ侯爵令嬢、通称リジーは18歳。16歳の時にノーザント子爵家のクリフと婚約した。ところが、太めだという理由で一方的に婚約破棄されてしまう。やってられないと街に繰り出したリジーはある若者と意気投合して…。
とにかく性的表現多めですので、ご注意いただければと思います。※印のものは性的表現があります。
BL要素は匂わせるにとどめました。
また今度となりますでしょうか。
思いもかけないキャラクターが登場してしまい、無計画にも程がある作者としても悩みました。笑って読んでいただければ幸いです。
泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。
待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる