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第一話

踏み越えた先にあるもの(4)*

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「なっ!?」

 ヴェルナは目を丸めたまま固まった。
 驚きを通り越して感心してしまう。
 
「よ、よく勃ったな……」
「……俺も驚いてる」
「お、前さ……私の、男の時の顔が過ったり、気持ち悪くなったりしなかったのか?」
「なかった。お前の声で頭がいっぱいになって、なんか、それどころじゃなかった」

 カルロは、ははっと力なく笑った。

「抜かないと送って行けねーわ」
「抜くなら一人で抜いてろ! あっ」

 ぬるぬると滑りのよくなった割れ目に、太い指がゆっくりと沈む。肉芽の方へと移動したかと思えば、入り口の方へと下がっていく。

「絶対挿れねーからさ……ここに、俺のを挟んでほしいんだけど」
「はあ?! 胸とアレを確かめるだけって話だったろ! 離せ!」

 一瞬の隙をついて立ち上がり脱出を試みる。
 しかし、視界がぐらりと揺れて、ベッドに放り投げられた。ギシッとベッドが軋み、うつ伏せに倒れたヴェルナの上にカルロが覆い被さった。
 身体の下に手を差し込まれ、胸と秘部がまさぐられる。

「お前だけ気持ち良くなるのはズルいだろ」

 お前が勝手にしたことだろ、と抗議したかったが、服を脱がせてくる手を止めるのに必死で、言葉を返す余裕はなかった。
 カルロはヴェルナのズボンと下着を膝までずり下ろした。

「四つん這いになれよ」
「こんなことして、後悔するのはお前の方だからな!」
「後悔なんてするかよ……」

 腰を持ち上げられ、ヴェルナはされるがままに四つん這いになった。
 カチャカチャとベルトを外す音がする。

(逃げるなら今のうちだ。手が離れているうちに、逃げないと)

 ヴェルナはシーツをぎゅっと握りしめた。

(逃げ、ないと……)

 硬くて熱いカルロの昂りが、潤んだ割れ目に触れてくる。
 
「脚、閉じろ」
「…………」

 ヴェルナは身動きをしないことで、最後まで虚しい抵抗を続けた。
 シーツのすれる音と、ベッドの軋む音が同時に響く。
 ヴェルナの右耳にカルロの吐息が触れた。

「それとも、挿れてほしい?」
 
 低く囁かれてゾクゾクと背中が震える。
 ヴェルナのとろけきった入り口をカルロの昂りが、試すようにえぐってくる。
 クチュ、ヌチュ、と卑猥な水音が立つ。

「ふっ、ヒクヒクしてる。どうする? お前がほしいって言うなら、このまま」
「閉じる! 閉じるから」
「ちょっ、急に挟むな」

 秘部と内腿から伝わるカルロの昂りに、ヴェルナは深く息を吐き出した。
 熱い。硬い。なのに、柔らかくて気持ちいい。
 カルロの気配が背中から遠ざかり、腰を掴まれた。ゆっくりと前後に腰が動き始める。

「あー、い。すげー快い」

 ギシッ、ギシッとベッドが絶え間なく軋む。
 ヴェルナはシーツに顔を押しつけて、声が出ないよう必死に耐えた。

「あっ……う……くっ」

 シーツを掴む手に、いっそう力がこもる。
 徐々に腰の動きが激しくなり、ヴェルナは堪らず嬌声を上げた。
 
「あっ、それやめっ……入るって!」
「挿れねーって。すこし強めに押し当ててるだけ。ちょっと入ってるかもしれないけど」

 昂りが入り口の浅いところまで押し込まれ、すぐに外れて遠ざかる。
 ヴェルナは自身の指を噛んだ。
 うっかり流れに任せて「そのまま挿れて」と言ってしまいそうになる。それくらいなかが切なくなっていた。
 
「なぁ、最後、尻にぶっかけていい?」
「勝手にしろっ」
「本当に? 久しぶりだから、たぶん、結構出ると思う」

 カルロは口早に言うと、それきり黙ってヴェルナに腰を打ちつけ続け、しばらくすると昂りが引き抜かれた。
 ぐんっとベッドが大きく沈んで、カルロの荒い息だけが響いた。
 ポタポタと液体が尻を汚していくのを感じる。

「悪ぃ。すげー出た。拭くもの用意するから動くなよ」

 ヴェルナは頭を動かして、遠ざかるカルロの背中を見つめた。

(カルロは職場の仲間で)
 
 ヴェルナの片手が、ゆっくりとシーツの上を滑る。

(同じ歳の男友達で)

 太腿を辿って秘部へ流れ、中指が割れ目に埋まる。

(けど、そんなのもう知るか)

 すべてが、どうでもよくなった。
 とにかくこの奥の疼きをなんとかしたい。

「あっ、んっ……あぁっ」

 タオルを持って戻ってきたカルロの、息を飲む音、視線を受けながら、奥へ奥へと指を沈めていく。
 カルロはベッドに座ると、ヴェルナの秘部を両手で広げた。

「物足りなそうだな。俺がやってやろうか?」
「うん」
「うんって……ふ、いいよ。指、抜いて。前でも弄ってな」

 愛液でたっぷり濡れた指で肉芽を転がす。
 カルロの指が臀部にかかった精液を拭い、そのままヴェルナの入り口に塗って、ゆっくりと押し込んだ。

「あぁ! ダメッ」
「ダメじゃないだろ。ほら、ちゃんと前触って。もっと激しく。ココから汁が溢れて止まらなくなるくらい、もっと激しく。そう、そのまま。イクまでやめんなよ」

 ヴェルナの息が、これ以上ないほど乱れる。

「うねってきた。はーあ、このまま挿れてぇ」
「ダメッ、挿れたらダメッ」
「ふっ。それ、どっちの意味?」

 快楽を貪るように、肉芽と膣なかの刺激を追う。

「も、むりぃ……おっきいの、クるっ」

 快楽の絶頂を迎えて、ヴェルナは鳴き声を飲み込んだ。ビクビクビクッと尻が震え、呼応するようになかがうごめいた。

「ははっ、すげー締まる」
「指、動かさないでっ」
「お前が締め付けるから抜けないんだよ。俺はこうやって抜こうとしてるのに、ほらまた、ギュッと締め付けてくる」

 笑いを含む言い方で、ヴェルナを責め立てる。

「もう一回、前触れよ。また気持ち良くなりたいだろ?」

 理性が吹っ飛んだ頭では、もうなんの抵抗もできない。ただカルロの言いなりになって、快感をむさぼり続けるだけだった。

「ダメッ、また私!」
「早すぎんだろ。まだイくな」
「むりっ、むりぃ」
「手ぇ止めんな、そのまま激しくこすり続けろ」
「やだっ、やだっ」

 拒む言葉とは裏腹に、肉芽をこねて潰す指先が止まらない。

「イったら、指、二本に増やすからな」
「ダメェ!」

 ヴェルナが背中を逸らして悲鳴を上げると同時に、ズプリと容赦なく二本目の指がなかへと突き立てられた。

「あーあ、入っちまった」
「あ……あぁ……ぁ……」
「そんなに、二本目がほしかったのか? ……ふっ、お前、手ぇ止まんなくなってんのな。こんなに濡らしてたら、ほんとに挿れちまうぞ」
「それだけは……やだ……」
「分かってる。次で最後な」

 眠気で薄れゆく意識のなか、鋭い快楽がヴェルナを現実に引き戻してくる。

「お前のせいで、また勃ったんだけど」
「やっ、んんっ! 知ら、ないっ」
「知らないじゃねーんだよ。またココを使わせろ。今度は、この入り口に浅く突っ込んで出すから。お前もちょっとは挿れられたいだろ。さっきこすってた時、すげーひくついてたもんな」
「あっ、そこ! そこ……もっとほし、ほしいぃ」
「ここか?」

 一番気持ちいいところを押されて、前後に揺さぶられる。はしたない水音を立てながら、飛沫しぶきがシーツに落ちていく。

「カルロ、カルロ! もうイッていい? イッていい?」
「まだだ」
「むりっ、我慢ができ」
「じゃあ、もう俺に隠し事しないって約束できるか?」

 ヴェルナは頭を縦に大きく振った。

「それなら、いい。……ほら、イけよ」

 プライドも何もかもを失い、快楽に屈服してしまったヴェルナは、声を上げることもできないまま、身体を震わせて達した。
 ゆっくりと暗くなる視界。遠のく意識。カルロの心配する声を聞きながら、ヴェルナは深い眠りの底へと落ちていった。




* * * *

 翌朝。窓の外から小鳥のさえずりが聞こえ、カルロは目を覚ました。

(目ぇ開けんの、怖ぇ……)

 隣を見たら、男の姿になったヴェルがいるはず。

(いや、でも、あいつのことだから、早々に帰ってるかもしれないな)

 恐る恐る目を開け、頭を動かし、隣を見た。

「居るのかよ!」

 昨晩の乙女は一体どこへやら。
 金髪の美丈夫が衣服を乱したまま眠っていた。完全に男に戻っている。鍛えあげた筋肉や、がっしりとした顔の輪郭も、すべてが元通りだ。

 カルロの声に、ヴェルが反応する。ぴくりとまぶたが震えて、ゆっくりと持ち上げた。
 ぼんやりと天井を見て、流れるようにカルロへと視線を向け、みるみる表情が険しくなる。

「よ、よぉ……おはよう。よく眠れたか? お前、あの後、酔い潰れてさ。ずっと寝てたんだぜ?」
「よくもまぁ、他人ひとの体を好き勝手にしたくせに、そんな冗談が言えるな?」

 猫のように可愛らしかった声はどこへ。
 太く低い声が、なんだか懐かしく感じる。だが、昨晩の行為でヴェルの喉はすっかり痛んで、かすれ声になっていた。
 のそり、と起き上がったヴェルは、カルロから思いきり枕を引き抜いた。

「待て、話し合おう。あれは酒の勢いで」

 ヴェルは枕を持って、大きく振りかぶった。

「覚悟しろ、クソ変態野郎!」

 顔面に衝撃が来る直前、カルロはそれを見逃さなかった。

(俺より立派なもん、持ってんじゃねーよ!)
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