乱交パーティ会場のワケあり清掃員は、メガネ紳士に恋をする。

散りぬるを

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突然のお誘い

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 乙津さんは、約束してくれた通り途中でコンビニに立ち寄ってくれた。手早く二人分のアイスコーヒーを買って車内に戻る。

「これ、良かったら。お礼にどうぞ」
「ありがたく頂戴します」

 アイスコーヒーを飲んでも、車は走り出さなかった。もしかして、眠いのだろうか。
 乙津さんのタイミングに任せようと黙っていると、彼の低い声が言葉をつむいだ。

「先程の話ですが」
「ん? は、はい」
「あなたの気持ちが追いついていないうちに、セックスがどんどん進んでいった、という可能性はありませんか?」
「へ?! あ、いや……どうっすかね」

 呆気あっけにとられて、言葉遣いが砕けてしまった。
 この人は、会話が途切れてから今まで、ずっとそのことを考えていたのか?

「彼らの性行為を見ていても思いましたが、前戯ぜんぎが短く、性欲の衝動のままに挿入している。あれで興奮できれば良いですが、もしそうではない場合は感じなくて当然です。前戯は相手の緊張をほぐし、受け入れてもらうための時間です。濡れたら良い、勃てば良いの問題ではありません」
「え……」
「あなたが経験したセックスがあのたぐいであれば、それはあなたのせいではない。引け目を感じる必要はありませんよ」
「そう、なんですかね……」
「例え本当に感じなくても、それは体質です。あなたが悪いなんてことはありません。だから、感じない自分をあざけるのは、今日でやめませんか」
「……っ」

 喉が震えた。
 鼻奥が熱くなって、ツンと痛む。
 ヤバい。と思った時には遅かった。
 ポロリと涙がこぼれて、頬を伝っていた。

「すんません……ははっ……あー、なんでだろ」

 乙津さんはティッシュを私の目元に当て、優しく拭いてくれる。

「あり、がと……ございます」

 涙が止まらない。
 乙津さんは何も話さず、私が落ち着くまで静かに寄り添ってくれた。

「感じなかったり、痛みを経験すると、次のセックスでも身構えてしまい余計に感じなくなるでしょう。立木さんには、自分はちゃんと感じられるんだという自信と経験が必要だと思います」
「アドバイスが的確過ぎて……ふっ……これから授業でも始まりそう」

 泣きながら笑う私に、乙津さんは頷いた。

「試してみませんか。私で」
「えっ」

 フリーズする私をよそに、乙津さんはシートベルトをして、エンジンをかけた。

「とりあえず、ご自宅までお送りします。十分間、ご自宅の前で待ちますので、試してみたいと思うなら着替えなどを用意して、車に戻ってきてください。私の家なら、ホテルと違ってお金の心配はいらないし、疲れて寝ても構いませんので」
「あ、あの、えっ?!」
「車を出しますので、シートベルトを」
「いや、ちょっと」

 乙津さんは私の方へ身を乗り出して、シートベルトへと手を伸ばした。
 思わぬ近さに心臓がバクバクと騒ぎ出す。

「答えはご自宅の前で伺います」

 カチャッと装着音が鳴る。

 私は今、乙津さんからセックスのお誘いを受けている、のか? なぜ?
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