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外面完璧なイケメン義弟

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 七星ななせと弟の月翔つきとは、両親とともに母方の実家へ訪れていた。目的は家族揃っての年越しだ。十二月三十日から泊まり、親戚も集まって賑やかな正月を迎えた。
 二日の朝に、ふたりは両親を残して一足先に自宅へ帰ることが決まっていた。他所の家に長く滞在したくない月翔がうまい理由を作ったのだ。七星はというと、月翔に巻き込まれるかたちで一緒に帰ることに――。

「今日で帰ってしまうなんて寂しいわぁ」
「ふふっ、僕も寂しいです」
「月翔くんがお酒強いとは思わなかったよ」
「ご馳走してくれたお酒、すごく美味しかったです。ありがとうございました」

 名残惜しいとばかりに言葉をかける祖父母に対して、月翔は爽やかな笑みを浮かべていた。三十日からずっと貼り付けたままの笑顔には、疲れが滲んでいる。

「次会うときは、その金髪がどうなっているのか楽しみだわ」

 祖母は月翔の頭髪を眩しそうに眺めた。
 ひと月前、二十歳の誕生日を迎えたまさにその日、彼は黒かった髪を金色に染めた。以来、今日まで金髪は維持されていた。整った顔立ちに金髪は驚くほど似合っていて、スタイルの良さも相まってモデルのよう。
 七星は、親戚の女性陣がうっとりと月翔を見つめるさまを幾度となく目撃した。視線に気づいた月翔が愛想笑いをすると、彼女たちは照れをごまかすような態度をとった。

 それらを見ていた七星は、なんとも言えない気持ちになっていた。
 自分も長い髪をバッサリ切ったし、黒かった髪も茶色にした。なのに、たいして話題にならず月翔ばかりで面白くない――なんて、思うはずはなく。むしろ月翔のおかげで、大袈裟なリアクションを向けられなくて済んだ。
 そういうことではなくて。
 月翔の本性を知っているだけに、胸がチクッと痛むのだ。月翔はやわらかな笑顔の下で、ひどい悪態をついているに違いなかった。きっと今だって、定型文を声に出しているだけ。そんな気がしてならない。

「七星ちゃんもまたおいでね」
「…………」

 白けた目で月翔を見ていた七星に、祖母の声は届いていなかった。

「七星ちゃん?」
「えっ、あぁ、はい。また」

 電車とバスを乗り継いで自宅へと向かう。その間、七星と月翔は最低限の会話しかしなかった。
 通り過ぎる人々が月翔の容姿に心をときめかせ二度見、三度見をするたび、七星は月翔からすこし距離をとった。
 あれが恋人? とヒソヒソ話をされるのも、そういう目で見られるのも辛い。
 平凡な自分の容姿が恥ずかしくなってしまう。
 しかし、離れようとしても無意味だった。
 月翔は、七星の手首を掴んで逃さなかった。
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