幼馴染み(♀)がプレイするMMORPGはどうしてか異世界に影響を与えている

坂森大我

文字の大きさ
上 下
225 / 226
エピローグ

大いなる旅路に……

しおりを挟む
 気が付くと諒太はベッドに横たわっていた。視界にはどうしてか運命のアルカナのタイトル画面が表示されている。いつもであれば、召喚陣が目に入っていたはずなのに。

 慌てて飛び起きる諒太。しかし、次の瞬間には安堵している。

 右手に握られていたのだ。ロークアットから貰った誓いのチョーカーが……。
「マジか……」
 振り向くとクレセントムーンに召喚陣は浮かび上がっていない。
 本当に召喚陣が消失していたのだ。セイクリッド神は諒太の願いを叶えている。

「んん?」
 諒太は気付く。誓いのチョーカーに目をやっただけであるが、視界に入ったのは余計なものである。

「リナンシーの加護……」
 世界間の繋がりが消えた今、飛び出してくることはないだろうが不吉に思えて仕方がない。神に匹敵する力を持つ妖精女王は世界線を越えていた。

「あいつ俺の魂を喰うとか話してたけど、俺は転生できんのか?」
 今になって不安を覚えている。もし仮にリナンシーが魂を食べてしまえば、諒太は転生できなくなるかもしれない。

「ま、あいつよりセイクリッド神の方が格上だろ。残念だったな、リナンシー」
 残念妖精の悔しそうな顔が思い浮かぶ。是非とも会って弄り倒したい。まだ死ぬつもりはなかったけれど、諒太はこの人生の終わりにも期待してしまう。

 アルカナにログインする気にもなれず、諒太はそのまま眠ることにした。明日からまた学校が始まるのだ。月曜日という億劫に感じる一週間の始まり。新しい人生の如く、諒太は勉学にも力を入れようと思う。

 夢を見ることすらなく、諒太は朝まで眠り続けるのだった……。

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 二週間が過ぎていた。今日は六月一日。待ちに待ったアルカナⅡの発売日である。
 既に諒太は支払いを終えており、予約ダウンロードを済ませていた。家に帰れば、即座にログインする予定である。

 今日も今日とて夏美と下校中。やはり話題はアルカナⅡが中心である。
「それでナツ、キャラメイクが終わったら連絡をくれ。お前と同じジョブじゃつまらんからな……」
「あいよ。それでリョウちんは何をアルカナⅡに持っていくの?」
 聞けば夏美はブレイブシールドとドラゴンスレイヤーを持っていくらしい。武器を持っていくのは割と賭けであったけれど、夏美はアルカナⅡのステータスも同じ脳筋戦士だと信じているようだ。

「俺も王者の盾は持っていくつもりだ。後衛専門だったとしても、盾があると安心できるからな……」
「じゃあ、土竜叩きは置いていくんだ?」
「不遇装備だぞ? 低レベル時から使う武器じゃねぇな……」

 アハハと笑う夏美。彼女も恐らく分かって聞いている。大槌には有用なスキルがないのだから、土竜叩きは選択肢に入らないのだと。

「それじゃ、あと一個は? もしかして誓いのチョーカーを持っていくの?」
 NPCからもらった誓いのチョーカーは効果を引き継げる。夏美はアルカナⅡでも諒太がロークアットを攻略するのではと考えているようだ。

「いや、誓いのチョーカーは持っていかない。俺の魅力値はぶっ壊れてるから心配無用だし」
「リョウちんのステで決まってんのは不幸だけだって! 流石にアルカナⅠの魅力値みたいなことにはなんないと思うけど?」

 確かにと諒太。かといって、ロークアットとの約束は来世の話だ。現状は一介の男子高校生であり、今は水無月諒太として人生を歩んでいくしかないと考えている。

「それで二つ目だが、俺は聖王国のプラチナカードを持っていくつもりだ……」
 諒太は悩んだ結果、王者の盾とプラチナカードを持っていくことにした。残金が適応されるか分からなかったけれど、何かしらの要職に就けるはずだと。

「おお、その手があったか! あたしも聖王騎士団長のままがいいし、プラチナカードを持っていこう!」
 即座に考えを改める夏美。幼い頃から彼女は何も変わっていなかった。

「ねぇ、リョウちん……」
 ここで夏美が話題を変える。悪戯な笑みを浮かべながら、諒太に視線を合わせた。

「結婚しようよ!」
 いきなりすぎる話に諒太は咳き込んでいる。唐突に何を口走るやらと思うも、彼女がいうところの結婚はアルカナの世界に違いない。

「今思いついたんだろ? まあでも、お前は顔出しでプレイするから、結婚しておくのは悪くないな」
「そゆこと! あたしって超絶美少女天使じゃん!? だからよ!」

 何がだからだよと諒太。しかしながら、諒太としても面白そうだと思う。彩葉やチカの子供を見ていると、育成してみたくなっていた。

「絶対の絶対だからね! ローアちゃんにもらった誓いのチョーカーは移行しちゃ駄目だよ!」
「わぁってるって。俺は水無月諒太なんだから……」
 夏美には諒太の返答を理解できなかったことだろう。
 諒太はもう勇者ではない。魅力値が異様に高く、力だけでなく魔力にまで秀でた第二の勇者ではないのだ。異世界を救う使命も王女殿下との約束も水無月諒太の人生には存在しなかった。

「ナツ、次の人生は予約済みなんだか、生憎と水無月諒太はフリーだから安心しろ」
「リョウちん、年齢イコールのくせして、モテるみたいにいわない方が良いよ?」
「馬鹿め。俺は特定のところではモテモテなんだよ。ま、それは中二病を患ったような世界だけどな……」
 晴れ渡った空を見上げて、諒太は笑みを浮かべている。
 もう完全に吹っ切れた。自身が何者であるのか。何者であったかどうかなど、現在では何の意味も持たず、自分はどこまでも水無月諒太であるのだと。

 二人はいつもの交差点で別れる。それこそ長話しているような暇はない。
「じゃあリョウちん、聖王国で会おう! 妻をあまり待たせるでないぞ?」
「タルトロールはやめろ。まあでも、俺はマジで楽しみなんだ。またナツとプレイできるのがさ……」
 青信号になったというのに、夏美は自転車を漕ぎ出せない。諒太が妙な話をするものだから……。

「何それ? 二ヶ月間ずっとしてたじゃん?」
 小首を傾げる夏美に諒太は小さく笑う。
 説明したとして無駄だ。ロークアットに世界の真理を教えるよりも、ずっと高難度である。異世界の話をしたとして、馬鹿にされるのがオチなのだ。

「ま、気にすんな。中学時代を思い出してしまっただけだ……」
 体の良い嘘であったが、中学時代の話を持ち出されては夏美も頷くしかない。それこそ別れの言葉すら夏美はかけられなかったのだ。

「リョウちん、前もいったけど、ずっと一緒にゲームしよう! 十年経っても二十年経っても、百年経っても!」
「俺はエルフでもドワーフでもねぇぞ?」
「んなことは分かってるけど、ずっと一緒にいようよ!」
 よく分からない告白のようにも感じられる。だが、夏美らしいと諒太は思った。
 彼女が側にいる生活は水無月諒太の人生において必要なもの。彼女が欠けていた三年間があるからこそ、余計にそう思う。

「なら手始めにアルカナの世界で甲斐甲斐しくしてみせろ」
「よおし、あたしができる女だってことを思い知らせてやる!」
 何だか勝負事になってしまうが、二人にとってはこれが通常運転である。近すぎず遠すぎずの関係を続けていけばいい。

「とりあえずはアルカナⅡもよろしくな?」
「うん! 三つ指ついて待っててあげるよ!」
 二人はここで各々が家へと向かう。既にダウンロードは終わっているはず。直ぐさまゲームを始められる状態である。

 帰宅するや、諒太は真っ先に自室へと飛び込み、クレセントムーンの状態を確認していた。

「よっしゃ、ダウンロード終わってんじゃん!」
 直ぐさまヘッドセットを被る。移行設定をしてから、諒太はアルカナⅡを起動。
 この度は所属だけでなく人種まで選ぶことができる。間違えないように選択し、いよいよスキャンが始まった。

 待っている時間がもどかしい。諒太はこのリスタートが楽しみで仕方なかった。急な嵐が起きることもなく、今度ばかりはまともにプレイできるはずだと。

 キャラメイクが終わると待望のログイン。以前にあった気持ち悪さはなく、ただ普通にゲームが始まっていた。

 この度もセイクリッドサーバーである。従ってオープニングは女神の話を聞くことになった。再びセイクリッド世界が危機に瀕していること。勇者の血を引く自分たちには世界を救う使命があるのだと。

 諒太は割と感動していた。自身もよく知るセイクリッド世界。完全なゲームとなってしまったけれど、セイクリッド神の声はどうしてか諒太の記憶にあるままだった。

 最後にセイクリッド神は口にしている。
 冒険の始まりに相応しい、お決まりとなったあの台詞を……。


 大いなる旅路に幸あらんことを――――――――。


                          ☆☆ FIN ☆☆



**********************
本作はこれにて完結です!
最後まで応援いただきありがとうございました。
のちほど、あとがきを更新させていただきます。
**********************
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

処理中です...