幼馴染み(♀)がプレイするMMORPGはどうしてか異世界に影響を与えている

坂森大我

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最終章 勇者として

聖域にて

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 ログアウトした先は聖域である。
 とりあえず世界間の道はまだ存在するらしい。

「勇者リョウ早かったのですね……」
 眼前にはセイクリッド神。本来なら用事などなかったけれど、彼女は諒太と同じく世界線の移行に左右されない存在だ。今ならば幾らでも話すことがあった。

「教えてくれ。セイクリッド世界も改変を受けたか?」
 まず間違いなく肯定されるはず。それだけは諒太にも分かる。
 セイクリッド神は少しも動揺することなく、淡々と答え始めた。

「大規模な変化が起きました。私が見ていた未来視も既になくなっております」
 ゴクリと唾を飲み込む。改変は予想していたけれど、セイクリッド神が見ていた未来までもが変わってしまったなんて。諒太は覚悟を持って、この先を聞かねばならない。

「それは良い方か? それとも悪い方に変わったのか?」
 まずは端的に聞く。世界の変化がセイクリッド神にとって都合の良いものであったかどうかを。

「私としましては悪くないと。ただ……」
 セイクリッド神の返答に少しばかり安堵する諒太だが、続けられたのはいい内容ばかりではない。

「貴方にとっては最悪の未来となっております――――」

 意味が分からない。セイクリッド神と諒太は一蓮托生であるはず。セイクリッド神にとって歓迎すべき事象であるのなら、諒太にとっても朗報であるはずなのに。

「過度な同質化が一度に図られました。貴方がセイクリッド世界で成し遂げた全てのこと。それらは過去に起きた出来事となっております」
 説明を受けても理解できなかった。過度な同質化がもたらせたのは情報の共有であろう。夏美がリナンシーを何度も見たと話していたことから、諒太の功績はアルカナの世界に同期したのだと思われる。

「過去の出来事って何だよ?」
 どうにも混乱している。だからこそ納得できるまで問いを投げるだけ。諒太は詳しい話を求めていた。

「妖精女王が向こう側へと顕現したこと。その要素は勇者リョウの足跡を過去とするしかなかったようです。今や勇者リョウは明確に過去の偉人でしかありません……」
「しかし、リナンシーは過去にもいるだろう?」

「もちろん存在しますが、世界の改変は最も適切な分岐が選ばれます。どうも貴方は向こう側の改変条件を満たしてしまったようです。不可能であったことを成し遂げた。それは改変事項に当たり、貴方が歩んだ軌跡を過去に当て嵌めることで収束を図っております。この世界で経験した全てを過去の功績とするしかなかったようですね……」

 残念妖精が飛び出しただけで、改変が起きるなんて異常事態だ。諒太だけでなくリナンシーもまた予想していなかった。

「妾は過去から現在まで婿殿にしか加護を与えていないぞ? 過去に加護を与えた者がいるなら矛盾が生じたかもしれないが……」
 リナンシーが口を挟む。責任を感じているのか、いつもの軽口はない。

「だからこそですよ。一連の変化の起点は貴方です。向こう側において貴方の加護は何らかの制約があったか、若しくは許可されていなかったのだと思われます。加えて向こう側は世界に存在する勇者の数を明確に一人と定めていました。それが覆って二人となったのです。引き金となったのは貴方の加護だとしか考えられません」

「ちょっと待て! 俺は世界の改変を受けないんじゃなかったのかよ!?」
 諒太もまた疑問をぶつけた。セイクリッド神から与えられた時空を歪めし者。それにより諒太は改変の影響を受けないはずなのだ。

「残念ながら、時空を歪めし者は向こう側において十分な効果を発揮できません。貴方が過去へと向かうなど想定外。向こう側で起きた強力な変化には抗えないようです」
 確かにセイクリッド神はアルカナの世界が管理下にないと話していた。彼女の加護はセイクリッド世界を飛び出した諒太にまで及ばなかったらしい。かといって、諒太は夏美たちのように完全な改変を受けていない。記憶を有したままであるのは少なからず加護が働いた結果だと思われる。

「マジか。どうしてこんなことに……」
 何度も頭を振る諒太だが、彼には思い当たる節があった。
 世界が整合性を保とうとする理由を一つだけ知っている。

『定義された理を超えるプレイヤーを待ち望んでいた――――』

 それは敷嶋奈緒子の言葉であった。ファーストフード店で彼女とあったとき。諒太はルイナーの討伐可能性について聞いたのだ。彼女が何かしらの手段を設けていることを。

「あれは勇者が二人になることだったのか……?」
 よく考えてみると違和感はない。勇者一人の神聖力では倒せない設定だと彼女は話していたのだ。単純に勇者が増えることで、討伐可能性をプレイヤーに与えたはず。また定義された理とは各サーバーに勇者が一人しか選定されないという話であろう。それを超えるのだから二人目の勇者がキーである可能性は高いように感じる。

「じゃあ、その方法って……」
 方法については考えるまでもなかった。何しろ改変を受けた夏美たちが話していたのだ。二人目の勇者となる条件にリナンシーの加護を受ける必要があるのだと。フェアリーティアをもらうまでに好感度を上げきるしかないことを。

「大半のトッププレイヤーは早々にフェアリーティアを手に入れている。敷嶋さんは死に戻りでも不可能だと話してた。フェアリーティアは一度しか手に入らないから……」
 考えるほど辻褄が合っているように思う。フェアリーティアは効率的に装備を強化できるアイテムだ。好感度を上げきれる魅力値に達するよりも早く、全プレイヤーが手に入れようとしただろう。

「妾のせいじゃ! どうしよう、婿殿!?」
「落ち着け。俺にとって最悪と聞いたけど、悪くない話だ。二度もルイナーと戦うよりも、三百年前で決着がつけられる。それにお前の加護は一因であって、他にも条件があったはず。それを俺が満たしていたから、経験の全てを同質化して勇者となった。どこの世界であろうと、俺はルイナーを倒すだけだ……」

 諒太は決意を語る。閉ざされた扉を開いてしまった彼であるけれど、実をいうと好意的に捉えていた。マヌカハニー戦闘狂旗団の実力は既に理解している。ロークアットたちをルイナー戦に連れ出すよりも、ずっと安心できた。

「それでこの世界のルイナーはどうなっているんだ? 過去において封印は既に選択肢から外れているんだろう?」
 諒太は質問を始める。改変が起きた今となっては振り返ったとして前へと進まない。ならば現状から最善の選択をするだけであると。

 セイクリッド神は小さく頷いてから、問いに答え始める。
「現状、ルイナーは黒い渦となっております。その存在はかなり希薄なもの。恐らく過去において貴方たちが討伐する可能性が高いのだと考えられます」
「だろうな。俺の仲間たちは信頼できる。必ず討伐すると誓おう……」
 笑みを浮かべるセイクリッド神であるが、その表情は直ぐさま失われている。

「勇者リョウ、私は貴方に謝らねばなりません。願いを叶えるどころか、現在における貴方は過去の存在となり、英雄として語り継がれることすらなくなっています」
 諒太の意気込みにセイクリッド神は謝罪を返した。諒太の献身に対する褒美すら与えられていないのだと。

「気にしなくていい。どうせ俺は異界人だ。それによりゲームに近付けるなんて最高だよ。俺は根っからのゲーマーなんだから……」
 言って諒太は聖域をあとにする。既に用事もなかったけれど、適切なログアウトをするにはセイクリッド世界に戻るべきだと。

 このとき諒太はセイクリッド神の謝罪を甘く考えていた。彼の想像よりも多大な変化が起きているなんて考えもしなかったのだ……。
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