幼馴染み(♀)がプレイするMMORPGはどうしてか異世界に影響を与えている

坂森大我

文字の大きさ
上 下
206 / 226
最終章 勇者として

迫り来る決戦の日

しおりを挟む
 木曜日となっていた。諒太は相変わらず、ロークアットたちのレベルアップと打撃スキルの熟練度上げに勤しんでいたけれど、レベリング時間が限られるロークアットたちはまだレベル150にまで到達していない。

「決戦まであと二日か……」
 まだウルムの鎧製作は完了していない。しかしながら、諒太は間に合うとは考えていなかった。

 恐らくはロークアットの創作本にあったままだ。ウルムの製作は夜の九時に間に合わず、諒太は遅れて参戦することになるだろう。

「ま、俺は俺にできることをする……」
 諒太はまだローリングアタックという槌スキルを習得できていなかった。夏美曰くクリティカルヒットが確定というスキル。是が非でも習得したいと考えていたというのに。

「結局、俺はAランクスクロールを手に入れられなかったな……」
 諒太は使い勝手の良いAランクスクロールを一つも手に入れていない。ドロップするという魔物を狩ったりはしたけれど、手に入るのは魔石ばかりであった。
 今日も今日とてログインしようかというところで、スマホが着信を知らせている。

【着信 九重夏美】

 未だボッチである諒太に電話してくるのは一人だけだ。五月も中旬に差し掛かろうというのに、幼馴染みしか連絡先を交換していない。

「もしもし?」
 嘆息しつつも応答に出る。本日が本番であるというのに、何の用かと思う。

『リョウちん、暇かな? 今日はイロハちゃんしかログインできないんだけど、こっちにこれない?』
 何と夏美の要件は一緒にプレイすることであった。諒太としてはロークアットたちのレベリングが残っていたけれど、彼女たちは順調にレベルアップをし現在は147というところまで来ていた。切羽詰まっている状況でもなく、夏美との共闘は悪くない話である。

「分かった。ログインしてロークアットに今日のレベリングは中止だと話しておく」
『そうこなくっちゃ! 彼女たちはこっちに来れないよね?』
「そりゃ無理だろ。俺は一応、そっちと繋がっているけど、彼女たちからすればアルカナは過去だからな……」

『そだねー。残念だけどリョウちんだけで来てよ……』
 どうにも不満を覚える話であったが、諒太はアルカナの世界へログインしようと思う。
 まずはロークアットへと念話を送り、本日のレベリングが中止になった旨を伝える。

『ロークアット、悪いが今日のレベリングは中止になった。俺は三百年前に顔を出さねばならない』
 今のところセイクリッド世界に時間的制約はない。厳密にはアルカナの世界でも制限などなかったけれど、一番乗りを目指すマヌカハニー戦闘狂旗団の方針により、14日のチャレンジが決定しているのだ。

『三百年前というと大賢者として向かわれるのでしょうか?』
『そういうことになる。俺が勇者のまま現れては大問題だからな。ちょっとした用事だから、明日はまたレベリングを再開する。二人にも伝えておいてくれ』

 了解しましたとロークアット。少しばかり残念そうにも聞こえたけれど、諒太はそのまま聖域までリバレーションを唱えている。

 僧兵はミーナが取り計らってくれたままだ。諒太が現れるや、扉の前から外れてくれる。諒太は軽く挨拶をしてから、聖域へと入っていく。

 例によってセイクリッド神の姿がある。諒太に特別な用事などなかったけれど、一応は声をかけていくことに。

「えっと、まだ決戦じゃないのだけど、ちょっとした用事があってな……」
「構いませんよ、勇者リョウ。私は貴方の活動に文句など一つもありません。私の要求はこの世界の救済のみ。過程は考慮致しません」
 セイクリッド神の思惑は何も変わっていない。そもそも彼女は同質化による改変を理解した上で異世界召喚を推し進めたのだ。過程などにこだわるとは思えない。

「そうか。じゃあ、行ってくる。あと出迎えとかいらんからな? 用事があるときは呼びかけるし……」
「まあ、そう言わずに。貴方には感謝しているのです。何の見返りもない勇者を請け負ってくれたのですから」
 そういえば諒太にメリットは何もなかった。世界を救う対価として諒太はリバレーションの使用を望んだけれど、それは結局のところ世界が選定しただけであり、女神からの報酬は何も用意されていない。

「もし俺が戦わなければ、セイクリッド神はどうしたんだ?」
 少しばかりの雑談。この現状は諒太が彼女の思惑通りに動いた結果である。よって諒太が戦わなければ、決して現状には導かれることなどなかったはず。

「私は貴方を信じるだけです。仮定の話など存在しません。召喚対象は強者であるだけでなく、使命を果たしてくれる資質を持つ者です。正義感や責任感。吟味した上で選定しておりますので、私は貴方を信じられます」
 どうにも一定の未来がセイクリッド神には見えていたようだ。諒太やダライアスが使命を投げ出さないことを彼女は確信していたように思う。

「そうか……。まあでも、割と大変だった。それで聞きたいのだけど、俺はこの世界で死ぬとどうなる?」
 ずっと考えていたこと。諒太はついでとばかりに聞いている。返答により態度を翻すつもりもなかったけれど、それは確認すべき事柄の一つだ。

「貴方が考えているままです。向こう側と過度に同質化しておるこの世界でも、魂の復帰は容易いことではないのですよ」
「向こう側では最初からやり直せることを知っている?」
「大差はありません。失われた魂は輪廻に還り、新たな人生を始めることになる。向こう側が異なると感じるのは記憶を有した転生であるからでしょう」
 どうやら死に戻りのリスタートは同一人物としてカウントされていないらしい。確かに彩葉も髪型や髪色を変えるだけでなく、ステータスも変更となってリスタートしている。
 プレイヤーの魂が異なるプレイヤーとして輪廻したと考えるならば、それは世界に元々あった理だといえた。

「なるほどな。ま、俺は死ねばそれまでってことか。別に今さらだけど……」
「勇者リョウ、もし仮にルイナーを討伐できたのなら、願いを一つ叶えましょう」
 意外な話になる。既に諒太は要求をしていた。召喚陣を消してくれと頼んでいたというのに。

「別にいいよ。俺はやりたくて勇者をしている……」
「欲がありませんね。もしも希望があればいつでも言ってください。一応は私も世界を治める女神の一角ですから……」
 恐らく最後まで願うことはないと思う。諒太はセイクリッド神に手を挙げてから、ログインと口にする。

 何の希望もないのだ。あるとすればルイナーの討伐。このゲームにも似た世界をノーコンテニュークリアにてハッピーエンドに辿り着くことだけ。

 困惑したような女神セイクリッドの表情を目にしながら、諒太はアルカナの世界へとログインしていく。
 表情とは裏腹に届く彼女の声を聞きながら……。

 大いなる旅路に幸あらんことを――――。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...