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最終章 勇者として

アークエンジェル

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 六日をずる休みした諒太は連日に亘り、ロークアットたちとレベリングをしていた。
 やきとり攻略法により既にレベルは147となっている。ただし、従魔以外の仲間たちは時間的制約があって、平均してレベル135であった。

「とりあえず、準備はできたな。アスモデウスと戦ってみるか……」
 夕飯前に彼女たちを送り届け、日が沈んだあと諒太はセイクリッド世界に再びログインしている。
 思案した結果、悪魔王アスモデウス戦は一人で戦うことにした。ロークアットたちは推奨レベルを超えていたけれど、やはり彼女たちを危険に晒したくはない。

 ロークアットの豪運は惜しかったけれど、連休最終日の夜は一人で戦うことに。
「リョウ様……」
 ログインをし、聖王城前に転移するや諒太は声をかけられていた。
 振り向かずとも分かる。背後に誰がいるのかなんて。

「ロークアット……」
 間が悪いことに、どうしてかロークアットは聖王城前の広場にいた。彼女はマヌカハニー戦闘狂旗団の銅像前に立ち、諒太に声をかけている。

「どうした? 夕飯の時間だと思ったけど?」
 とりあえずは理由を聞く。偶然であれば誤魔化すだけだと。

「いえ、恐らくリョウ様が直ぐに戻られると思ったからです。リョウ様は食事をするフリをしているのではないかと」
 どうにも勘が鋭いように思う。食事時に全員を送り届けたのだが、どこか不自然さがあったのかもしれない。

「まあ実際に戻ってきたしな。それで要件は?」
 薄々と分かっている。ロークアットが何を口にするのか。しかし、諒太は聞いておかねばならない。何を察知しているのかを。

「要件というほどではございませんけれど、わたくしも連れて行ってもらいたい。恐らく今から強大な何かと戦うおつもりでしょう?」
 ロークアットに悪魔王アスモデウスの話はしていない。確かにロークアットの幸運値は魅力的であったが、自身がレベルアップするにつれて、諒太は一人で戦うべきだと考えるようになっていた。

「ロークアットは知っているか? 悪魔王アスモデウスを……」
 間違いなく彼女は知っている。けれど、分かっていないだろう。憧れの英雄たちが辿るべき道程にそれが存在しているなんて。

「はい? わたくしが書いたお話に出てきた悪魔でしょうか?」
 小首を傾げるロークアット。やはり彼女は知っていても、分かっていない。悪魔王アスモデウスが想像上の悪魔ではないこと。イフリートの解放を諒太が目指していることについて。

「それは実在する。悪魔王アスモデウスは三百年前にも、この現在にも存在するんだ。精霊王イフリートを捕らえ、その力を操っている……」
「いやそんな!? イフリート様は悪魔に囚われているのですか!?」
 流石に看過できなかったらしい。声を荒らげているのは精霊信仰の表れであろう。ロークアットは険しい表情をして諒太を見ていた。

「嘘じゃない。なぜなら俺が今から討伐に向かう相手こそが悪魔王アスモデウス。歴史を変えないためにも、俺はその悪魔を討伐しなければならない……」
 ルイナーの封印時に諒太は救援に向かう。その彼は赤いリングを身につけているのだ。もしも流れを変えるほどの力がイフリートにあるならば、諒太はアスモデウスを討伐し、イフリートを解放せねばならない。

「真実……なのですね?」
「俺が嘘を言ったことがあるか?」
 諒太の質問返しにロークアットは記憶を掘り返し、諒太との思い出を振り返るようにしていた。

「嘘は……ないですかね。リッチの大扉前で置き去りにされることはございましたが……」
 少しばかりの冗談に諒太は笑みを浮かべる。もう懐かしく感じる話だ。あの頃の諒太は今よりもずっと弱く、戦う理由が一つしかなかった。

「記憶にないな。紳士な俺が姫君に無礼を働くはずがない。それに俺は君と共闘して、リッチを討伐したはずだけど?」
「そうでしたかね?」
 二人して声を出して笑う。
 諒太とロークアットは同じ未来を見ている。諒太は一人で戦うことが難しくなったと知り、ロークアットもまた悪魔王との一戦に自身が加われるはずと。

「じゃあ、ソラを呼んできてくれるか? 従魔は彼女だけ連れて行く」
「了解致しました」
 本来ならソラも連れて行く予定はなかった。諒太がいない時間は聖王城にて働いていたのだ。しかし、ロークアットが参加するならば、万が一の回復役は必要となるだろう。

 しばらくしてロークアットがソラを連れて戻ってきた。息を切らせ走る彼女は何を急いでいるのやら。

「お待たせしました! またも置いて行かれるのではないかと考えていたのですが……」
 どうやら過去の話をまだ引き摺っているようだ。
 諒太としてはもう彼女を連れて行くことに踏ん切りを付けた。ロークアットは謎の指輪を持っているし、創作本にも問題となる内容を見つけられなかったからだ。

「心外だな? 俺はいつもジェントルマンだぞ?」
「過去の行いを振り返ってはいただけませんか?」
 再び笑い合う。恐らくは何の苦労もなく倒せるだろう。ゲー速の攻略情報を見ても諒太に隙はなかったのだ。

「とりあえず俺はディバインパニッシャーを撃ち続ける。恐らく三発もあれば、仕留められるだろう。アスモデウスは悪魔であり、神の属性に対して耐性がないからな」
 攻略記事にはそう書いてあった。神聖力とは異なる神の属性。パラディンや上位神官が唱えるホーリー系の魔法だけでなく説明書きに神を含む魔法がそれに当たるという。ゴッドや聖が付く剣技なども有効らしい。

「リョウ様は博識ですわね? どこでそのような情報を調べられるのですか?」
 流石に攻略記事だとはいえない。とはいえ、ロークアットへの説明は決まっている。彼女が知り得ない説明には決まり文句があった。

「天界での情報なんだ。天界は俺の仕事を手助けしてくれるから」
「ああ、そうでしたか。やはりリョウ様は立派な勇者様ですね……」
「閣下の指輪は装備しているな? 早々に討伐しよう」
 焔の祠の場所は分かっている。攻略記事によるとガナンデル皇国第二の都市エデルジナスから北東に進んだ場所だという。祠事態は聖王国内であったけれど、近くに聖王国の街は存在しない。

「ああ、そうだ。ロークアットは通行証を持っているのか? ガナンデル皇国の……」
 一応は聞いておく。もし仮に衛兵が出てきては厄介だと。夜に姫殿下を連れ出しただけでなく、捕らえられるなんて流石に弁明できない。

「わたくしは王族ですので、通行証は必要ありません。それに友好国ですからね……」
「ああ、そうだったな。それなら問題ない」
 考えていた通りの返答に諒太は頷きを返す。これにより事前の確認項目はなくなっていた。ソラとロークアットをパーティーに組み込み、諒太はポータルへと向かう。本来ならワイバーンを使って向かう予定だったが、ロークアットが一緒であればポータルの方が早い。

「ロークアット、エデルジナスには行ったことあるんだったよな?」
「一度だけですが……。シュトレンというお菓子がお勧めなんです!」
 迷子イベントにて知ったことだ。ディストピアで盗賊団を殲滅したあと、ロークアットはエデルジナスへと向かった。シュトレンというお菓子を食べようとして。

「それは楽しみだな。焔の祠までの道中に食べてみよう」
 ロークアットが司祭にパスを見せると、直ぐさま祝詞が唱えられた。
 行き先はエデルジナス。諒太が初めて訪れる街であった。
 瞬時に転移した三人。教会から一歩出ると、そこはガナンデル皇国である。

「クラフタットに似てるな……」
 街の様子はクラフタットを彷彿とさせた。路上で寝転がるドワーフたち。酒樽があちこちに散乱しているのは、ある意味クラフタット以上だといえる。

「わたくしが来たときは昼間でしたが、ドワーフさんたちは同じように寝てましたね」
 笑みを見せるロークアット。幼少期の記憶と重なっているのかもしれない。通行の邪魔になるドワーフも良い思い出であるようだ。

「ま、俺たちはシュトレンを買って、ワイバーンを借りよう。さっさと悪魔王とやらを討伐して帰るぞ……」
 観光に来たわけではない。諒太はイフリートを解放し、あわよくば火耐性のある防具を手に入れたいと思う。

 道中のお菓子を手に入れ、二人はワイバーンを借りる。攻略本によるとワイバーンならば現地まで十分ほどの距離であるらしい。

「飛べ、ワイバーン!」
 諒太としては久しぶりのワイバーンである。異なる世界線にあった戦争以来だ。この先にルイナーの封印が控えている以上は、少し慣れておく必要があった。
 十分という僅かな旅。シュトレンを頬張ったあと、諒太はワイバーンを自在に操っている。手綱から両手を離しても操舵できるのかどうか。或いは急な旋回にて火球回避ができるのかと。

「ま、ワイバーンは問題ないな……」
「リョウ様、ひょっとして三百年前の封印戦が近いのでしょうか?」
 割と真剣にワイバーンの操舵を試していたからか、ロークアットが聞いた。彼女は既に世界線が同時進行していると分かっている。不安げな表情をして問いを向けていた。

「その通りだが、心配はしていない。君の英雄たちはやるべきことをしている。あの五人は天界でも有数の実力者だから……」
 全ては語ったままである。諒太は封印に関して不安を覚えていない。仮に死んだとしても、諒太以外は死に戻るだけなのだ。既に最後の覚悟まで決めた諒太を不安にさせる要素などない。

「俺の本番はそのあとだからな。五人を守りつつ、俺はルイナーを討伐しなければならないんだ」
 決意を語る。諒太がこれほどまでにレベリングに精を出したのは、ひとえに守るべき仲間がいたからだ。ゲームでは楽勝になる前にボス戦へ挑むことが多かったけれど、此度は十全の準備をしてから挑むだけだ。

『そうじゃぞ! 必ず世界を救うのじゃ!』
 ふと声が聞こえた。諒太の視界にはソラとロークアットだけ。なのに諒太の心へ響くような声がする。

「じゃじゃーん! 大復活なのじゃぁぁっ!!」
 右手の痣が疼いたかと思えば、輝きが飛び出して来た。ヌポンという妙な音を立てながら、残念なあの妖精が現れている。

「リナンシー!?」
「妾じゃ! 心配かけたの!」
 心配どころか、完全に存在を忘れていた。リナンシーがまだ諒太に加護を授けたままであることなんて。

「もう大丈夫なのか?」
「うむ、婿殿が錬成しなくなったからの! ようやく回復できたわ!」
「リナンシー様、今から悪魔王と戦いに行くのですよ? このようなときに出てこなくても……」
 不満げなロークアット。やはり彼女は敬意を払う傍ら、リナンシーを邪魔者のように感じているらしい。

「カッカ! ロークアットよ、いつぞやの迷子以来じゃの!」
「迷子になどなっておりません! 何度、言えば分かってもらえるのですか!?」
 どうやらロークアットはずっとからかわれているようだ。そのせいで余計に疎ましく感じているのだと思われる。

「リナンシー、あんまロークアットをからかうな。もうすぐ目的地だから、静かにしろ」
「分かっておるのじゃ。妾も悪魔退治に協力する。悪魔には聖なる力が有効じゃろう?」
「それはお前から最も遠い属性だろう? 大人しくしておけ……」

「婿殿は相変わらずドSじゃな……。基本的に妾は攻撃魔法を持っておらぬが、悪魔を弱体化させる聖なる光を放つくらいはできる! イフリートのクソ馬鹿を救出する手助けくらいはできるのじゃ!」
 聞けばリナンシーは精霊王の二人と面識があるらしい。同質化により長く会っていないことになっているようだが、悪魔に囚われた現状を憂えているとのこと。

「知り合いなのか? ま、俺が問題なく解放してやんよ」
「頼むぞ、婿殿!」
 リナンシーに戦う理由があるのなら、諒太はもう説得しない。ドラゴンゾンビとの一戦でも上手く逃げ回っていたし、彼女の参戦は問題ないと考えている。

「ああ、そうだ! なあリナンシー、ソラはどうやれば進化できる?」
 諒太にはまだ一つだけ懸念していることがあった。セイクリッド神の未来視によると、ソラはアークエンジェルという上位種であったのだ。

「む? アークエンジェルじゃと? Sランクの魔物ではないか?」
「ん? レアリティと関係あるってのか?」
 ソラのレベルを上げていけば自然と進化すると考えていた。しかし、リナンシーの話はそれを肯定しているようには思えない。

「当たり前じゃろう? アークエンジェルに進化すれば相応のステータスが必要となる。進化できぬというのなら、恐らく婿殿のステータス不足じゃ」
「いや、俺はもうレベル147だぞ?」
「そういわれてもの。婿殿で無理ならば、Sランクの従魔など存在しないといえる。たとえ神が見た未来であろうとも……」

 諒太の上がり目は殆どない。ソラもまた一緒にレベリングしたので145となっている。もしかすると、ソラのレベルを上げすぎたこともステータス不足の一因かもしれない。

「セイクリッド神の未来視は俺自身によって外れることになんのか……?」
「テイムに必要なステータスは魅力値と威圧値と信仰値じゃ。最も重要な魅力値は恐らく足りておるじゃろう。妾では鑑定できぬ二つのどちらか、或いは両方が足りていないのじゃろう……」

「じゃあ、どうすることもできんのか?」
「既にAランクをテイムしておるのじゃから、まるで足りぬというわけではない。あと少し足りぬだけじゃと思うがな……」
 なるほどと諒太。セイクリッド神が見た未来に進むこと。諒太はそれこそが大団円を迎える方法だと考えていた。だからこそ、形だけでも同じような格好にしたいと思う。

「マスター、ワタシは身も心も貴方様の奴隷です! 進化したとしてそれは変わりません!」
「そう言われてもな。進化させられないんじゃどうしようもない……」
 言って諒太は閃く。一つだけ可能性が残っていることを。

「謎の指輪……」
 いちご大福が残した謎の指輪。全パラメーター2倍というチートリングならば進化させられるのではないかと。
 ただし、それには問題がある。諒太はその指輪を装備し続けるわけにはならないのだ。ロークアットが装備すべきもので、彼女のステータスを半減させるような真似はできない。

 しばらくすると、目的地であった焔の祠が見えてきた。ダリア山脈の麓。洞窟のようにも見えるその穴が焔の祠らしい。
 降下して、諒太は大地に立つ。二騎のワイバーンに戻って行けと指示してから、何やら考え込んでいる。彼は何かを思いついたようで、しばらく動かなかった。

「リョウ様……?」
 堪らずロークアットが声をかける。すると、諒太は小さく頷いて彼女に言葉を返した。

「ロークアット、閣下の指輪を少しだけ貸してくれ……」
 どうやら腹積りは済んだらしい。諒太は結論に従いロークアットに指輪の貸与を求めた。

「婿殿、一時的に使役したとして、どうなるかわからんぞ? 使役が外れると間違いなく逃げていくはずじゃ」
「それならそれで構わない。神が見た未来と同じじゃないのなら、意味はないんだ……」
 言って諒太はロークアットから指輪を預かり、人差し指にそれを装備する。

「ソラ、今からお前を進化させる。そのあと俺は指輪を外し、恐らくテイムが切れるんじゃないかと思う。そのあとは好きにしろ。お前は自由だ……」
 どうやら諒太はテイムが切れると考えているらしい。また更なるテイムを施すつもりもないようだ。

「マスター、ワタシは貴方様の忠実なる下僕です。如何なるときも……」
「ま、ソラの忠心はそのときに確認する。じゃあ、進化を始める……」
 謎の指輪を装備しただけで、ソラのステータスに進化項目が現れていた。やはりリナンシーの推測通り、諒太のステータス不足が原因であったらしい。

「進化しろ、ソラ!!」
 手をかざし、進化と叫ぶ。やり方など分からなかったけれど、テイムも叫ぶだけなのだ。恐らくは、それだけで発動するだろう。

 瞬時に輝きを帯びるソラ。例によって魔力消費を感じているけれど、何も問題はない。リナンシーもいるこの場で諒太が魔力切れを起こすはずもなかった。

 程なく輝きが失せていく。目も眩む煌めきの中から現れていくのは神々しい白銀の羽を持つ美しい天使である。

『ソラが【エンジェル】から【アークエンジェル】に進化しました』

 通知により知らされる。ソラが上位種に進化したこと。Sランクの魔物へ昇華したことを。

「ソラ、気分はどうだ?」
「レベル1になりましたが、新たな力を得られそうです!」
 やはりレベルは1になってしまうらしい。しかし、初期ステータスにしては十分な強さだ。レベル50のフレアと同程度である。

「それじゃあ、指輪を外す。お前が襲ってこないことを祈るのみだよ……」
「ワタシがマスターを襲うなどあり得ません! 深夜、マスターが熟睡されているとき、ほんの少し純潔を奪う程度ですから!」
 今となっては変態天使も悪くないと考えてしまう。ソラがいなければ、諒太は失われていたのだ。彼女には世話になっていたと思う。

「ソラ、これからは意志を持って生きろ……」
 言って諒太は謎の指輪を外す。願わくばテイムが維持されて欲しかったけれど、それほど甘くないことは承知している。

『テイムエラー。ステータスが不足。ソラのテイムを一時的に解除します』

 通知が流れた直後、ソラの首から従属の輪っかが消えた。やはり諒太のステータスでは彼女を使役できないらしい。

「フハハ! やっと自由になれましたわ! よくも今までコキ使ってくれましたね!」
 危惧していた展開となる。
 ソラは豹変していた。善属性とはいえ、彼女は魔物なのだ。それは本来あるべき姿であるのだろう。

「婿殿!?」
「ロークアットとリナンシーは下がってろ。俺が対処する……」
 戦うしかないような気がする。ソラは諒太の使役を恨んでいるようだし、逃げていく感じでもない。

「ソラ、お前じゃ俺には勝てない……」
「その名で呼ぶなっ! う、うあぁああっ!」
 諒太の呼び声にソラは動揺している。気が触れたように頭を振る彼女と冷静に話し合うことが可能だとは思えない。

 一応は記憶を残しているようだが、現状の彼女はエンジェルであったソラではなかった。明確に上位種のアークエンジェルに他ならない。

「婿殿、あやつ人格が二つあるぞ……」
 リナンシーが言った。かつてアクラスフィア王の中身がないと口にした彼女は、この度もソラの本質を見抜いたかのようだ。

「マジか? それってソラの人格とアークエンジェルの人格ってことか?」
「アークエンジェルの人格がテイムの障害となっておるようじゃの。だとすれば殺さずとも、まだ手がある。Sランクという魂の格が邪魔しておるのじゃ……」
 手があると言ったリナンシー。けれど、諒太には分からなかった。人格が二つあるとして、その一方をどうにかするなんて、諒太にはできないのだ。

「殺さずに済ますにはどうすりゃいい? 魂なんて関与できんのか?」
 原因が判明したとして、対処法が不明だ。討伐ならまだしも、人格の一つだけを破壊するなんてできそうにもない。

「婿殿は既にその方法を知っておる。先日、実行したじゃろう? 竜魂を取り出そうとして……」
 言われて気付く。確かに諒太は無双の長剣に溶け込んだはずの竜魂を錬金術にて取り出そうとしていた。

「分離錬成?――――」
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