幼馴染み(♀)がプレイするMMORPGはどうしてか異世界に影響を与えている

坂森大我

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最終章 勇者として

同質化した世界

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 休憩中に夏美と連絡を取った諒太。思わぬところで懸念であった問題を解消している。

「やはり俺は時空をねじ曲げているのか?」
 セイクリッド神に聞いたままであった。セイクリッド神は転移時に時空を歪めし者という加護を授けただけのようで、今までの奇跡は全て諒太自身が起こしてきたことらしい。

『貴方が真に願ったのならば、それは成されるでしょう――――』
 大賢者として戦えるかどうかという質問にセイクリッド神はそう答えていた。否定されることなく、寧ろ彼女の話は肯定であり、諒太が願うことで叶うという話であった。

「世界を動かす力か……」
 望めば叶うだなんて神にでもなったかのようだ。しかし、これまで諒太が変えられたのは自身の周辺のみ。名も知らぬ誰かを救うような力は持ち合わせていない。大いなる世界の流れに逆行するような真似はできず、少しばかり流れに抗える程度。つまるところ、諒太は神などではなく、今も矮小なる存在のままだ。

「リョウ様、魔力も回復しましたし、休憩も十分です」
 諒太が考え込んでいると、ロークアットが話しかけてきた。どうやら念話が終わるときを待っていたらしい。

「ああ、すまない。用事はもう済んだ。超ハピルの狩りを続けようか……」
 悩んだとして前に進むことはない。悩むよりも諒太は動くべきだ。今は仲間の成長に期待をし、来たるべき日に備えるだけである。それこそ世界の平穏を願うしかできなかった。

 このあと諒太たちはレベリングを再開している。
 約二時間。やきとりに仲間を呼んでもらっては討伐を繰り返す。だが、レベル130を超えてからは上がりづらくなっていた。レベルが低かったロークアットとミーナたちのレベル差も少なくなっていたことから、やはり効率が落ちているのだと思う。

「リョウ様、また宝箱ですよ!?」
 諒太が悩んでいると、ロークアットが喜々として声をかけた。確かに今日は異常なほど宝箱が出現していた。中身はポーションであったり、必要のないものばかりであったが、ほぼ毎回のように宝箱が出現していた。

「嘘だろ? こんな頻繁に宝箱って出るものなのか?」
 諒太を放置して四人が宝箱の中身を改めている。ハズレであっても彼女たちは楽しそうにしていた。

「ロークアット、幸運値はどれくらいだ?」
 確認しておかねばならない。彼女はレベル80の頃から既に150を超えていたのだ。現状のレベルは115となっていたので、大幅に強化されている可能性が高い。

「今は386ですね……」
「嘘だろ!?」
 諒太もまたレベルが135にまで上がっていたけれど、幸運値は一つも上がっていない。今も諒太の幸運値は一桁であり、ずっと9のままだ。

「ひょっとして閣下の指輪を?」
 考えられる理由は全ステータス二倍という謎の指輪だった。夏美を遥かに上回る幸運値なんて、素であるとは思えない。

「ええまあ。戦闘訓練だと聞きましたし……」
 やはり二倍になっていたらしい。しかしながら、幸運値300超え。続けざまに宝箱が出現するのは全てはロークアットが引き当てているからだろう。

「今は六人パーティーだし、抽選回数もソロと比べて六倍だ。加えて幸運値……」
 ゲーム内の設定がセイクリッド世界の理である。従って諒太は今までにない体験をすることに。

「もしかしてロークアットを連れていけば、レアドロップが期待できる?」
 諒太は思案している。パーティーを組めばこんなにも宝箱が出現するのだ。今までやる価値がなかったドロップマラソンを始めても良いような気になっていた。

「確かロークアットの創作本にある大賢者は今よりも豪華な鎧を身に纏っていた。だとしたら、俺はどこかで新しい鎧を手に入れるはず……」
 創作本にある大賢者の鎧は色味こそ灼熱王オルフェウスの鎧と似ていたが、明らかにそれではないと思う。なぜなら、創作本の鎧には夏美のサインが入っていない。仮にルイナー封印時に灼熱王オルフェウスの鎧を大賢者が装備していたとすれば、恐らく象徴的な勇者ナツの紋章が肩のところに描かれていただろう。

「みんな、今日はこれまでにしよう。続きは明日の夜にするからな」
 あまり長い時間を拘束するのは憚られている。いずれもVIPなのだ。各々に仕事があるだろうし、彼女たちの私生活は優先すべきであった。

 全員の同意を得た諒太は直ぐさまリバレーションにてミーナとセリスを送り届け、最後にロークアットを聖王城へと連れて行く。

「俺は天界に帰ってくる。恐らく明日は夜になると思う」
「承知致しました……」
 もう奴隷ではない。従って諒太はログアウトをする。少しばかり残念そうなロークアットの表情を眺めつつも、現実世界へと戻っていった。

 ベッドから抜け出した諒太は直ぐさまスマホを手に取る。恐らく夏美は今もレベリング中であろう。まあしかし、対象が超ハピルであるのなら問題はないと、躊躇することなく電話している。

『もしもし?』
「ああ、すまんな。今大丈夫か?」
『今は食事休憩中だからね。ログアウトしてるよ』
 どうやら廃人たちも食事休憩であるようだ。聞かれてはマズい話もある諒太にとって、一人であるのはタイミング的に最良だといえる。

「実は新しい鎧が欲しいんだが、どこでドロップさせたらいい? 火属性の耐性に優れたやつ……」
 調べるよりも早いと考えた諒太。前衛職である夏美であれば知っているだろうと。

『ああ、ルイナー用? あたしはセシリィ女王陛下からもらったしなぁ……』
 そういえば夏美の鎧はイベント産であった。勇者になる切っ掛けとなった戦いの報酬である。

『リョウちんはまだオルフェウスの鎧なの?』
「当たり前だろう? ドロップマラソンとかしたことねぇし……」
『縛りプレイだもんね。んで、正直に炎耐性が手に入るのはオルフェウスの鎧くらいだよ』
 どうやら火属性系のダンジョンはあまりないようだ。オルフェウスの鎧こそ、その最たるものであるらしい。

『まあでも、可能性はあるかな……』
 よく分からない話が続く。今し方、オルフェウスの鎧しか選択肢がないと聞いたばかりだ。小魚脳であることは諒太も熟知していたけれど、流石に切り替えが早すぎる。

「どういうことだ?」
『新ダンジョンだよ』
 諒太の問いには端的な返答があった。諒太はアップデートはできても、お知らせすら確認できないのだ。新ダンジョンといわれても理解できるはずはない。
 しかしながら、続けられた内容は諒太も知るものであった。

『悪魔王アスモデウスのダンジョン――――』

 ゴクリと唾を飲み込む。やはり三百年後と諒太のいる世界は同質化を果たしていた。
 悪魔王アスモデウスはロークアットの英雄譚にも描かれていたのだ。悪魔公爵クロケルの討伐を成したマヌカハニー戦闘狂旗団。アスモデウスまで現れるのは時間の問題であった。

「ナツたちは倒したのか?」
『うんにゃ、まだだよ。でも全員が130を超えたし、そろそろかも。推奨パーティー平均は120以上だからね』
 推奨パーティー平均がレベル120であれば、諒太たちも達成している。本日のレベリングにより諒太とやきとりがレベル135であるし、一番低いロークアットとソラもレベル120なのだ。

「それなら俺たちでも倒せそうだな……」
『俺たち? リョウちんってパーティー組んでんの?』
 そういえば夏美にはまだ話していなかった。セイクリッド神の未来視。諒太が世界を救う場面にロークアットたちが含まれていることを。

 諒太は全てを伝えている。女神の容姿から自身の力、夏美までもが討伐に参加していたことを。

『はぇー、敷嶋ちゃんって女神だったんだ……?』
「ちゃんと話を聞いていたか? 聖域はサポートセンターなんだ。セイクリッド神はゲーム世界の影響を受けただけ……」
 要らぬことまで話してしまったと諒太は後悔している。敷嶋奈緒子プロデューサーにソックリだったという話が衝撃だったようで、夏美は他の内容を理解していない。

「んで、未来視では俺とナツだけでなく、プレイヤーの血を引く者が一緒に戦ってたんだよ。結末までは分からないらしいが……」
『それでレベル130とかになってたんだね?』
「今は135まで上げた。超ハピルさまさまだよ。おかげでロークアットたちを危険な目に遭わせなくてもレベリングができた」

『ま、運営はどうしてもアルカナⅡを成功させたいみたいだよ。だからレベリングを簡単にしたんだろうってタルトさんが話してた』
 聞けば納得である。いち早くアルカナⅡに移行させたい運営が難易度を下げた。廃人だけが移行したとして意味はないのだと。

「なるほどな。それで話を戻すけど、悪魔王アスモデウスを倒せば火属性のアイテムが手に入るってか?」
『可能性だよ。クロケルのダンジョンは氷だったし、何しろアスモデウスのダンジョンは焔の祠って名前だしね』
 いつかは諒太も向かわねばならない。ロークアットの創作本によると悪魔王アスモデウスは赤き精霊王の力を奪っている。それは恐らくイフリートのことであり、イフリートを解放することによって焔のリングに付与された召喚が実行できるようになるはずだ。

「ちいっとばかし調べてみる。ロークアットたちが危険なら連れて行けないし」
『お姫様だもんね。一人じゃ駄目なの?』
「それがな、ロークアットは幸運値が386もあんだよ。いちご大福の指輪で二倍になってる」
『おお、それは連れて行きたいところだね? もう少しレベル上げてみたら?』

 確かに夏美の話す通りかもしれない。急ぐ用事ではないのだ。諒太は14日までに装備を用意するだけで構わないのだから。

「ま、そうだな。夜は一人でレベリングしてみるよ」
 言って電話を切る。ボス戦があったとして、諒太一人で戦うつもりなのだ。ならば一人でもレベリングすべき。諒太が強くさえあれば、彼女たちを守り切れるのだと。

 夕飯を食べたあと、諒太は138までレベルを上げている。上がりにくくなっていたものの、命の危険はないし、狩り場も近い。

 近い内にレベル150まで上げきるのだと諒太は考えていた……。
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