上 下
193 / 226
最終章 勇者として

同質化した世界

しおりを挟む
 休憩中に夏美と連絡を取った諒太。思わぬところで懸念であった問題を解消している。

「やはり俺は時空をねじ曲げているのか?」
 セイクリッド神に聞いたままであった。セイクリッド神は転移時に時空を歪めし者という加護を授けただけのようで、今までの奇跡は全て諒太自身が起こしてきたことらしい。

『貴方が真に願ったのならば、それは成されるでしょう――――』
 大賢者として戦えるかどうかという質問にセイクリッド神はそう答えていた。否定されることなく、寧ろ彼女の話は肯定であり、諒太が願うことで叶うという話であった。

「世界を動かす力か……」
 望めば叶うだなんて神にでもなったかのようだ。しかし、これまで諒太が変えられたのは自身の周辺のみ。名も知らぬ誰かを救うような力は持ち合わせていない。大いなる世界の流れに逆行するような真似はできず、少しばかり流れに抗える程度。つまるところ、諒太は神などではなく、今も矮小なる存在のままだ。

「リョウ様、魔力も回復しましたし、休憩も十分です」
 諒太が考え込んでいると、ロークアットが話しかけてきた。どうやら念話が終わるときを待っていたらしい。

「ああ、すまない。用事はもう済んだ。超ハピルの狩りを続けようか……」
 悩んだとして前に進むことはない。悩むよりも諒太は動くべきだ。今は仲間の成長に期待をし、来たるべき日に備えるだけである。それこそ世界の平穏を願うしかできなかった。

 このあと諒太たちはレベリングを再開している。
 約二時間。やきとりに仲間を呼んでもらっては討伐を繰り返す。だが、レベル130を超えてからは上がりづらくなっていた。レベルが低かったロークアットとミーナたちのレベル差も少なくなっていたことから、やはり効率が落ちているのだと思う。

「リョウ様、また宝箱ですよ!?」
 諒太が悩んでいると、ロークアットが喜々として声をかけた。確かに今日は異常なほど宝箱が出現していた。中身はポーションであったり、必要のないものばかりであったが、ほぼ毎回のように宝箱が出現していた。

「嘘だろ? こんな頻繁に宝箱って出るものなのか?」
 諒太を放置して四人が宝箱の中身を改めている。ハズレであっても彼女たちは楽しそうにしていた。

「ロークアット、幸運値はどれくらいだ?」
 確認しておかねばならない。彼女はレベル80の頃から既に150を超えていたのだ。現状のレベルは115となっていたので、大幅に強化されている可能性が高い。

「今は386ですね……」
「嘘だろ!?」
 諒太もまたレベルが135にまで上がっていたけれど、幸運値は一つも上がっていない。今も諒太の幸運値は一桁であり、ずっと9のままだ。

「ひょっとして閣下の指輪を?」
 考えられる理由は全ステータス二倍という謎の指輪だった。夏美を遥かに上回る幸運値なんて、素であるとは思えない。

「ええまあ。戦闘訓練だと聞きましたし……」
 やはり二倍になっていたらしい。しかしながら、幸運値300超え。続けざまに宝箱が出現するのは全てはロークアットが引き当てているからだろう。

「今は六人パーティーだし、抽選回数もソロと比べて六倍だ。加えて幸運値……」
 ゲーム内の設定がセイクリッド世界の理である。従って諒太は今までにない体験をすることに。

「もしかしてロークアットを連れていけば、レアドロップが期待できる?」
 諒太は思案している。パーティーを組めばこんなにも宝箱が出現するのだ。今までやる価値がなかったドロップマラソンを始めても良いような気になっていた。

「確かロークアットの創作本にある大賢者は今よりも豪華な鎧を身に纏っていた。だとしたら、俺はどこかで新しい鎧を手に入れるはず……」
 創作本にある大賢者の鎧は色味こそ灼熱王オルフェウスの鎧と似ていたが、明らかにそれではないと思う。なぜなら、創作本の鎧には夏美のサインが入っていない。仮にルイナー封印時に灼熱王オルフェウスの鎧を大賢者が装備していたとすれば、恐らく象徴的な勇者ナツの紋章が肩のところに描かれていただろう。

「みんな、今日はこれまでにしよう。続きは明日の夜にするからな」
 あまり長い時間を拘束するのは憚られている。いずれもVIPなのだ。各々に仕事があるだろうし、彼女たちの私生活は優先すべきであった。

 全員の同意を得た諒太は直ぐさまリバレーションにてミーナとセリスを送り届け、最後にロークアットを聖王城へと連れて行く。

「俺は天界に帰ってくる。恐らく明日は夜になると思う」
「承知致しました……」
 もう奴隷ではない。従って諒太はログアウトをする。少しばかり残念そうなロークアットの表情を眺めつつも、現実世界へと戻っていった。

 ベッドから抜け出した諒太は直ぐさまスマホを手に取る。恐らく夏美は今もレベリング中であろう。まあしかし、対象が超ハピルであるのなら問題はないと、躊躇することなく電話している。

『もしもし?』
「ああ、すまんな。今大丈夫か?」
『今は食事休憩中だからね。ログアウトしてるよ』
 どうやら廃人たちも食事休憩であるようだ。聞かれてはマズい話もある諒太にとって、一人であるのはタイミング的に最良だといえる。

「実は新しい鎧が欲しいんだが、どこでドロップさせたらいい? 火属性の耐性に優れたやつ……」
 調べるよりも早いと考えた諒太。前衛職である夏美であれば知っているだろうと。

『ああ、ルイナー用? あたしはセシリィ女王陛下からもらったしなぁ……』
 そういえば夏美の鎧はイベント産であった。勇者になる切っ掛けとなった戦いの報酬である。

『リョウちんはまだオルフェウスの鎧なの?』
「当たり前だろう? ドロップマラソンとかしたことねぇし……」
『縛りプレイだもんね。んで、正直に炎耐性が手に入るのはオルフェウスの鎧くらいだよ』
 どうやら火属性系のダンジョンはあまりないようだ。オルフェウスの鎧こそ、その最たるものであるらしい。

『まあでも、可能性はあるかな……』
 よく分からない話が続く。今し方、オルフェウスの鎧しか選択肢がないと聞いたばかりだ。小魚脳であることは諒太も熟知していたけれど、流石に切り替えが早すぎる。

「どういうことだ?」
『新ダンジョンだよ』
 諒太の問いには端的な返答があった。諒太はアップデートはできても、お知らせすら確認できないのだ。新ダンジョンといわれても理解できるはずはない。
 しかしながら、続けられた内容は諒太も知るものであった。

『悪魔王アスモデウスのダンジョン――――』

 ゴクリと唾を飲み込む。やはり三百年後と諒太のいる世界は同質化を果たしていた。
 悪魔王アスモデウスはロークアットの英雄譚にも描かれていたのだ。悪魔公爵クロケルの討伐を成したマヌカハニー戦闘狂旗団。アスモデウスまで現れるのは時間の問題であった。

「ナツたちは倒したのか?」
『うんにゃ、まだだよ。でも全員が130を超えたし、そろそろかも。推奨パーティー平均は120以上だからね』
 推奨パーティー平均がレベル120であれば、諒太たちも達成している。本日のレベリングにより諒太とやきとりがレベル135であるし、一番低いロークアットとソラもレベル120なのだ。

「それなら俺たちでも倒せそうだな……」
『俺たち? リョウちんってパーティー組んでんの?』
 そういえば夏美にはまだ話していなかった。セイクリッド神の未来視。諒太が世界を救う場面にロークアットたちが含まれていることを。

 諒太は全てを伝えている。女神の容姿から自身の力、夏美までもが討伐に参加していたことを。

『はぇー、敷嶋ちゃんって女神だったんだ……?』
「ちゃんと話を聞いていたか? 聖域はサポートセンターなんだ。セイクリッド神はゲーム世界の影響を受けただけ……」
 要らぬことまで話してしまったと諒太は後悔している。敷嶋奈緒子プロデューサーにソックリだったという話が衝撃だったようで、夏美は他の内容を理解していない。

「んで、未来視では俺とナツだけでなく、プレイヤーの血を引く者が一緒に戦ってたんだよ。結末までは分からないらしいが……」
『それでレベル130とかになってたんだね?』
「今は135まで上げた。超ハピルさまさまだよ。おかげでロークアットたちを危険な目に遭わせなくてもレベリングができた」

『ま、運営はどうしてもアルカナⅡを成功させたいみたいだよ。だからレベリングを簡単にしたんだろうってタルトさんが話してた』
 聞けば納得である。いち早くアルカナⅡに移行させたい運営が難易度を下げた。廃人だけが移行したとして意味はないのだと。

「なるほどな。それで話を戻すけど、悪魔王アスモデウスを倒せば火属性のアイテムが手に入るってか?」
『可能性だよ。クロケルのダンジョンは氷だったし、何しろアスモデウスのダンジョンは焔の祠って名前だしね』
 いつかは諒太も向かわねばならない。ロークアットの創作本によると悪魔王アスモデウスは赤き精霊王の力を奪っている。それは恐らくイフリートのことであり、イフリートを解放することによって焔のリングに付与された召喚が実行できるようになるはずだ。

「ちいっとばかし調べてみる。ロークアットたちが危険なら連れて行けないし」
『お姫様だもんね。一人じゃ駄目なの?』
「それがな、ロークアットは幸運値が386もあんだよ。いちご大福の指輪で二倍になってる」
『おお、それは連れて行きたいところだね? もう少しレベル上げてみたら?』

 確かに夏美の話す通りかもしれない。急ぐ用事ではないのだ。諒太は14日までに装備を用意するだけで構わないのだから。

「ま、そうだな。夜は一人でレベリングしてみるよ」
 言って電話を切る。ボス戦があったとして、諒太一人で戦うつもりなのだ。ならば一人でもレベリングすべき。諒太が強くさえあれば、彼女たちを守り切れるのだと。

 夕飯を食べたあと、諒太は138までレベルを上げている。上がりにくくなっていたものの、命の危険はないし、狩り場も近い。

 近い内にレベル150まで上げきるのだと諒太は考えていた……。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈
ファンタジー
味噌蔵の跡継ぎで修行中の相葉壱。 息抜きに動物園に行った時、仔カピバラに噛まれ、気付けば見知らぬ場所にいた。 壱を連れて来た仔カピバラに付いて行くと、着いた先は食堂で、そこには10年前に行方不明になった祖父、茂造がいた。 茂造は言う。「ここはいわゆる異世界なのじゃ」と。 そして、「この食堂を継いで欲しいんじゃ」と。 明かされる村の成り立ち。そして村人たちの公然の秘め事。 しかし壱は徐々にそれに慣れ親しんで行く。 仔カピバラのサユリのチート魔法に助けられながら、味噌などの和食などを作る壱。 そして一癖も二癖もある食堂の従業員やコンシャリド村の人たちが繰り広げる、騒がしくもスローな日々のお話です。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆

八神 凪
ファンタジー
   日野 玖虎(ひの ひさとら)は長距離トラック運転手で生計を立てる26歳。    そんな彼の学生時代は荒れており、父の居ない家庭でテンプレのように母親に苦労ばかりかけていたことがあった。  しかし母親が心労と働きづめで倒れてからは真面目になり、高校に通いながらバイトをして家計を助けると誓う。  高校を卒業後は母に償いをするため、自分に出来ることと言えば族時代にならした運転くらいだと長距離トラック運転手として仕事に励む。    確実かつ時間通りに荷物を届け、ミスをしない奇跡の配達員として異名を馳せるようになり、かつての荒れていた玖虎はもうどこにも居なかった。  だがある日、彼が夜の町を走っていると若者が飛び出してきたのだ。  まずいと思いブレーキを踏むが間に合わず、トラックは若者を跳ね飛ばす。  ――はずだったが、気づけば見知らぬ森に囲まれた場所に、居た。  先ほどまで住宅街を走っていたはずなのにと困惑する中、備え付けのカーナビが光り出して画面にはとてつもない美人が映し出される。    そして女性は信じられないことを口にする。  ここはあなたの居た世界ではない、と――  かくして、異世界への扉を叩く羽目になった玖虎は気を取り直して異世界で生きていくことを決意。  そして今日も彼はトラックのアクセルを踏むのだった。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...