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最終章 勇者として
一瞬の休息
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奴隷生活から解放された諒太。聖王国への拠点変更術式をミーナに施してもらってから、久しぶりにログアウトをしている。
「長かったようで短かったな……」
懐かしさすら感じるベッドに実感が湧いた。ロークアットの部屋にあったソファと比べれば完全に煎餅布団だ。身体が沈み込むことなく真っ直ぐであるのは庶民のマットレスであるからこそ。
「ま、俺にはこれがお似合いだな」
身体を起こしては、ふと思い出す。朧気に伝えていたけれど、奴隷から解放された事実を夏美に連絡すべきかと。
「ナツはどれだけレベルアップしてるかな?」
そんなことを考えながら、スマホから通話している。スナイパーメッセージの登録番号にかけたので程なく応答があるはずだ。
『もしもし?』
「おうナツか? 俺はやっと奴隷から解放されたぞ!」
ワンコールで応答するところはゲーム中に違いない。朝からレベリングしているのだと思われる。
『おう、早かったじゃん! てかリョウちん知ってる? 実は続編がでるんだよ?』
まるで意味不明な話が返ってきた。奴隷からの脱却を共に喜び合おうとしていたというのに。
不服そうな表情を浮かべる諒太だが、続けられた説明に唖然と表情を失っていた。
『運命のアルカナⅡがでんのよ!』
諒太は夏美の話が理解できない。迷子イベントをしたばかりである。唐突なその話には小首を傾げる他はなかった。
「どういうことだよ? まさかサ終なのか?」
『いやいや、現状のサーバーも維持するらしいよ。大型アップデートになる予定だったのを続編として発売するみたい。引き継ぎ項目が多くてさ、みんな躍起になってるよ。続編は三百年後で勇者たちの子孫っていう設定だね』
諒太は声を失っていた。三百年後といえば諒太がいる世界。偶然なのか必然なのか、続編は未来へと繋がっているらしい。
「マジかよ。しかし、何でまたそんなことに?」
『敷嶋ちゃんが謝罪動画をアップしてたよ。アップデートでは矛盾が多すぎるから、続編にしたんだって。リョウちんも見てみるといいよ』
敷嶋といえば聖域で会った女神の姿をしていた女性に違いない。プロデューサーである彼女が謝罪する理由はそれとなく察知できていた。
「ひょっとしてアルカナの人気が下がってるのか?」
『そうみたいだね。現状はどのサーバーも勇者が現れているし、選定されてから一度も勇者が交代していないサーバーが殆どなの。その仕様が間違っていたと話してたよ』
聞けば原因は推し量れた。やはりプレイヤーは勇者になりたい。けれど、新参者が勇者になれる可能性は殆ど存在しないのだ。古参ならば自分に合ったプレイを考えられるのだが、新規に始めようというプレイヤーは出遅れという懸念が付きまとう。
「他に変更点はあるのか?」
諒太は聞いておかねばならない。奴隷生活中に大ニュースが発表されたのだ。恐らくは続編の発表だけに留まらないだろう。
『リョウちんにとって良いニュースかどうか分からないけど、5月14日からルイナー封印イベントが始まる。あたしたちは一番乗りでクリアするつもりだよ』
やはり予想した通りだ。続編の発売は同時に前作の終わりを意味する。アルカナであれば、ルイナーの封印がそれになった。
『あとはイベントの追加かな。悪魔王アスモデウスの討伐と超ハピル祭り。仕様変更を行うって書いてあったけど、不利益はないらしいよ。あ、そうそう! NPCのレベルが上げられるようになったの! 何とレベルも150まで上げられる!』
続けられた話は諒太の興味を惹く。どうにも一定の未来へと過去が導かれているような気がする。
「NPC? 俺はロークアットのレベルを上げられるのか?」
『たぶんね。こっちでローアちゃんを連れて歩ける人はいないから分かんないけど……』
諒太は考え込んでいた。女神が話していたこと。ルイナーの討伐にお供する仲間の存在について。
「世界が繋がってくな……。それでナツ、エンジェルをアークエンジェルに進化させるにはどうしたらいい?」
諒太は運命に抗えないと思う。女神が見たという未来から逃れられる術はないのだと。
勇者ナツだけでなくセリスやロークアット、更にはミーナを討伐要員にするのは確定的である。しかし、最後のメンバーであるソラがアークエンジェルであったことは現状における最大の問題であった。
『アークエンジェル? 聖王国にあるダンジョンボスだよね? あれってエンジェルが進化したやつなんだ?』
どうやら夏美は少しの情報も持っていない感じだ。かといって諒太はその原因について理解している。なぜなら三百年後においてテイマースキルは農業従事者くらいしか活用していないのだ。アルカナの世界でプレイヤーが重視していないスキルであったからだろう。
「俺はエンジェルをテイムしたんだが、ルイナーとの決戦にアークエンジェルを連れていかなきゃならなくなった。セイクリッド神の未来視によって……」
『ええ、本当に!? てか今はその話ができない。戦闘中だし……』
普通に話していたものの、どうやら夏美は戦闘をしながら通話していたらしい。先に言ってくれたら、長話などしないというのに。
『超ハピル、めっちゃ堅いな!?』
どうやら先ほど聞いた超ハピルなる魔物と戦っているようだ。通話を切ろうかと考えた諒太だが、流石に気になってしまう。
「超ハピル? 楽勝じゃないのか?」
『いやいや、レベル100以上推奨だから! しかも、ドラゴンスレイヤーを越後屋さんに預けちゃってんだよね。ハピルが竜種だなんて思わなかったよ!』
諒太が想像するハピルとは異なるようだ。通常は出会うだけで大量の経験値が手に入ったのだが、超が付くハピルは倒すのも一苦労らしい。
「超ハピルはどこにいる? 俺もレベリングしたい……」
竜種であれば諒太も戦えると思う。ならば出現エリアを聞いておきたい。ロークアットたちのレベリングが可能となるのなら、戦っておきたい魔物である。
『あたしたちはエクシアーノの北西にある森だね。割と直ぐにエンカウントしたよ』
夏美の直ぐは参考程度として、エクシアーノの近辺というのは有り難い話だ。問題は全員を招集することであるけれど、とりあえずは集まれるだけでも構わない。
「特殊な攻撃とかあるのか? 俺はロークアットたちを連れて行こうと考えている。遠距離攻撃があるとマズいんだが……」
『それは大丈夫じゃないかな? 今んとこ堅いだけだよ!』
戦闘中に通話しているくらいだから、予測不能な攻撃は持っていないと思われる。上位プレイヤーから不満が噴出しないように、低レベルプレイヤーを排除しただけであろう。
「分かった。ナツも全力でレベリングしとけ。俺は最終決戦にお前を呼び出すことにしたから……」
『おお、やった! 任せといてよ! レベルマの150まで上げとくし!』
レベルマとはレベル上限のこと。どこまでもレベルが上がるのかと思いきや、どうも運命のアルカナは上限が150に設定されているようだ。
「頼む。それじゃあ、超ハピルを倒しまくってくれ……」
言って諒太は通話を切る。正直に今日くらいは休もうかと考えていたけれど、超ハピル祭りなるイベントに諒太はやる気を出していた。アルカナの世界で出現確率がアップしているのなら、セイクリッド世界もまた同じようになっているだろうと。
「さてと、パンでも囓ってから勇者業に戻るか……」
借金返済が休日を残す日程で終えられたのは幸運であった。諒太は新たなミッションであるロークアットたちのレベリングができるのだ。
討伐メンバーである彼女たちの底上げは急務。この機会を逃す手などあるはずもない。明確な終わりが見えていたのだから……。
「長かったようで短かったな……」
懐かしさすら感じるベッドに実感が湧いた。ロークアットの部屋にあったソファと比べれば完全に煎餅布団だ。身体が沈み込むことなく真っ直ぐであるのは庶民のマットレスであるからこそ。
「ま、俺にはこれがお似合いだな」
身体を起こしては、ふと思い出す。朧気に伝えていたけれど、奴隷から解放された事実を夏美に連絡すべきかと。
「ナツはどれだけレベルアップしてるかな?」
そんなことを考えながら、スマホから通話している。スナイパーメッセージの登録番号にかけたので程なく応答があるはずだ。
『もしもし?』
「おうナツか? 俺はやっと奴隷から解放されたぞ!」
ワンコールで応答するところはゲーム中に違いない。朝からレベリングしているのだと思われる。
『おう、早かったじゃん! てかリョウちん知ってる? 実は続編がでるんだよ?』
まるで意味不明な話が返ってきた。奴隷からの脱却を共に喜び合おうとしていたというのに。
不服そうな表情を浮かべる諒太だが、続けられた説明に唖然と表情を失っていた。
『運命のアルカナⅡがでんのよ!』
諒太は夏美の話が理解できない。迷子イベントをしたばかりである。唐突なその話には小首を傾げる他はなかった。
「どういうことだよ? まさかサ終なのか?」
『いやいや、現状のサーバーも維持するらしいよ。大型アップデートになる予定だったのを続編として発売するみたい。引き継ぎ項目が多くてさ、みんな躍起になってるよ。続編は三百年後で勇者たちの子孫っていう設定だね』
諒太は声を失っていた。三百年後といえば諒太がいる世界。偶然なのか必然なのか、続編は未来へと繋がっているらしい。
「マジかよ。しかし、何でまたそんなことに?」
『敷嶋ちゃんが謝罪動画をアップしてたよ。アップデートでは矛盾が多すぎるから、続編にしたんだって。リョウちんも見てみるといいよ』
敷嶋といえば聖域で会った女神の姿をしていた女性に違いない。プロデューサーである彼女が謝罪する理由はそれとなく察知できていた。
「ひょっとしてアルカナの人気が下がってるのか?」
『そうみたいだね。現状はどのサーバーも勇者が現れているし、選定されてから一度も勇者が交代していないサーバーが殆どなの。その仕様が間違っていたと話してたよ』
聞けば原因は推し量れた。やはりプレイヤーは勇者になりたい。けれど、新参者が勇者になれる可能性は殆ど存在しないのだ。古参ならば自分に合ったプレイを考えられるのだが、新規に始めようというプレイヤーは出遅れという懸念が付きまとう。
「他に変更点はあるのか?」
諒太は聞いておかねばならない。奴隷生活中に大ニュースが発表されたのだ。恐らくは続編の発表だけに留まらないだろう。
『リョウちんにとって良いニュースかどうか分からないけど、5月14日からルイナー封印イベントが始まる。あたしたちは一番乗りでクリアするつもりだよ』
やはり予想した通りだ。続編の発売は同時に前作の終わりを意味する。アルカナであれば、ルイナーの封印がそれになった。
『あとはイベントの追加かな。悪魔王アスモデウスの討伐と超ハピル祭り。仕様変更を行うって書いてあったけど、不利益はないらしいよ。あ、そうそう! NPCのレベルが上げられるようになったの! 何とレベルも150まで上げられる!』
続けられた話は諒太の興味を惹く。どうにも一定の未来へと過去が導かれているような気がする。
「NPC? 俺はロークアットのレベルを上げられるのか?」
『たぶんね。こっちでローアちゃんを連れて歩ける人はいないから分かんないけど……』
諒太は考え込んでいた。女神が話していたこと。ルイナーの討伐にお供する仲間の存在について。
「世界が繋がってくな……。それでナツ、エンジェルをアークエンジェルに進化させるにはどうしたらいい?」
諒太は運命に抗えないと思う。女神が見たという未来から逃れられる術はないのだと。
勇者ナツだけでなくセリスやロークアット、更にはミーナを討伐要員にするのは確定的である。しかし、最後のメンバーであるソラがアークエンジェルであったことは現状における最大の問題であった。
『アークエンジェル? 聖王国にあるダンジョンボスだよね? あれってエンジェルが進化したやつなんだ?』
どうやら夏美は少しの情報も持っていない感じだ。かといって諒太はその原因について理解している。なぜなら三百年後においてテイマースキルは農業従事者くらいしか活用していないのだ。アルカナの世界でプレイヤーが重視していないスキルであったからだろう。
「俺はエンジェルをテイムしたんだが、ルイナーとの決戦にアークエンジェルを連れていかなきゃならなくなった。セイクリッド神の未来視によって……」
『ええ、本当に!? てか今はその話ができない。戦闘中だし……』
普通に話していたものの、どうやら夏美は戦闘をしながら通話していたらしい。先に言ってくれたら、長話などしないというのに。
『超ハピル、めっちゃ堅いな!?』
どうやら先ほど聞いた超ハピルなる魔物と戦っているようだ。通話を切ろうかと考えた諒太だが、流石に気になってしまう。
「超ハピル? 楽勝じゃないのか?」
『いやいや、レベル100以上推奨だから! しかも、ドラゴンスレイヤーを越後屋さんに預けちゃってんだよね。ハピルが竜種だなんて思わなかったよ!』
諒太が想像するハピルとは異なるようだ。通常は出会うだけで大量の経験値が手に入ったのだが、超が付くハピルは倒すのも一苦労らしい。
「超ハピルはどこにいる? 俺もレベリングしたい……」
竜種であれば諒太も戦えると思う。ならば出現エリアを聞いておきたい。ロークアットたちのレベリングが可能となるのなら、戦っておきたい魔物である。
『あたしたちはエクシアーノの北西にある森だね。割と直ぐにエンカウントしたよ』
夏美の直ぐは参考程度として、エクシアーノの近辺というのは有り難い話だ。問題は全員を招集することであるけれど、とりあえずは集まれるだけでも構わない。
「特殊な攻撃とかあるのか? 俺はロークアットたちを連れて行こうと考えている。遠距離攻撃があるとマズいんだが……」
『それは大丈夫じゃないかな? 今んとこ堅いだけだよ!』
戦闘中に通話しているくらいだから、予測不能な攻撃は持っていないと思われる。上位プレイヤーから不満が噴出しないように、低レベルプレイヤーを排除しただけであろう。
「分かった。ナツも全力でレベリングしとけ。俺は最終決戦にお前を呼び出すことにしたから……」
『おお、やった! 任せといてよ! レベルマの150まで上げとくし!』
レベルマとはレベル上限のこと。どこまでもレベルが上がるのかと思いきや、どうも運命のアルカナは上限が150に設定されているようだ。
「頼む。それじゃあ、超ハピルを倒しまくってくれ……」
言って諒太は通話を切る。正直に今日くらいは休もうかと考えていたけれど、超ハピル祭りなるイベントに諒太はやる気を出していた。アルカナの世界で出現確率がアップしているのなら、セイクリッド世界もまた同じようになっているだろうと。
「さてと、パンでも囓ってから勇者業に戻るか……」
借金返済が休日を残す日程で終えられたのは幸運であった。諒太は新たなミッションであるロークアットたちのレベリングができるのだ。
討伐メンバーである彼女たちの底上げは急務。この機会を逃す手などあるはずもない。明確な終わりが見えていたのだから……。
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