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第四章 穏やかな生活の先に
未来視
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流石に愕然としてしまう。諒太は一人でルイナーに立ち向かうつもりだった。だが、セイクリッド神に見える未来には仲間がいるという。
「一人は大盾を構えるエルフ。二人目は青髪の大魔道士。三人目は強大な魔力を持つ治癒士。四人目はアークエンジェル……」
すらすらと羅列していくセイクリッド神。また彼女が話す内容には思い当たる節があった。
「最後は勇者ナツ――――」
まるで言葉がない。一人で戦うどころか、五人も引き連れているだなんて。既に全員と知り合っていたけれど、彼女たちは勇者などではない。ルイナーとの一戦に連れて行けるはずもなかった。
「いや、レベルが80しかないロークアットを連れて行けない! 俺は絶対に拒否するはずだ!」
否定すべきはロークアットだけではなかった。夏美を除けば全員がレベル100未満である彼女たちはルイナーの攻撃に耐えられるはずもない。
「現時点で見える未来です。恐らくは世界の意志。彼女たちも世界を守ろうと考えているのでしょう」
ここで再び登場する世界の意志。ずっと諒太の願いを叶えてきたという世界だが、その未来だけは諒太の望みを反映させていないようだ。
「勇者リョウ、貴方が全てを背負う必要などありません。仲間を危険に晒したくないという気持ちは素晴らしいですが、セイクリッド世界に住む者たちも戦おうと考えているのです。もしかすると貴方以上に世界を救おうとしているはず……」
仮に確定した未来であれば、避けられないのかもしれない。最後まで抗いたくなる未来であったけれど、仲間が欲しかったのも事実であった。
「なら俺がルイナーを倒すと願えば叶うのか? 誰も傷つかず討伐できるのか?」
諒太は問いを重ねている。現時点の未来が仲間との共闘であるのなら、その先を願えば望む未来が手に入るのではないかと。
「ルイナーは晦冥神が使わせた暗黒竜です。神の使徒ともいうべき彼女を世界がどうこうできるはずはありません。対抗すべきは同じ使徒である貴方。若しくはダライアスと同質化した勇者ナツであるかと。愛すべき二人の使徒は必ずや世界を救ってくれると信じております」
神によって与えられた罰であるルイナーは世界がどうこうできる相手ではないらしい。だからこそ勇者リョウを選定し、世界は彼の望みを叶えてきたのだろう。
「そうか。まあよく分かった……」
最終局面は迎えてみないことには分からない。誰が仲間になり、仲間ではないなんてこと。神による未来視でも討伐できるかどうか不明なのだ。だとすれば諒太は切り替えて行くだけである。自分自身にできることをやってやるのだと。
「俺が世界を救ってやんよ――――」
力強いメッセージにセイクリッド神は笑みを浮かべた。彼女が選んだ彼女の使徒は希望通りの返答を告げている。
「ありがとう、勇者リョウ。たとえこの先に世界が滅びようとも、貴方を誇りに思います。私に後悔など少しもありません」
大規模な改変を生んでしまった召喚であったものの、セイクリッド神はそう答えた。ずっと望んでいた未来を放棄することになったとしても満足していると。
「なぁ、一つ頼んでいいか?」
話がついたのかと思えば、諒太にはまだ要件が残っていたようだ。少しばかり重たい口調にて彼は言葉を投げている。
「最後の話だ。もし仮に俺がルイナーを討伐したあとのこと……」
頷くセイクリッド神。少しも顔色を変えないところを見ると、彼女には続く言葉が分かっているのかもしれない。
「召喚陣を消して欲しい――――」
諒太の願いは世界間を行き来する道を閉ざすことであった。もしもそれが消滅したのなら、諒太はもうセイクリッド世界に戻れないというのに。
「良いのですか? セイクリッド世界は貴方を歓迎するでしょうし、強者たる貴方なら楽園にも等しい世界です。かつての勇者であるダライアスも彼の地に残ったのですよ?」
説得ではなかったけれど、セイクリッド神はそういった。やはり予想していたのか、顔色は少しも変わっていない。
「モテモテなのは未練が残るけどな。俺は異世界人なんだ。それにゲーム機から召喚陣を消してくれないと俺はゲームを楽しめない」
諒太は笑って返答している。現状のクレセントムーンは召喚陣が見えるだけで、ゲームができる状態ではない。冗談ではあったけれど、割と切実な話でもあった。
「そうですか……。ならば約束しましょう。貴方がルイナーを討伐した翌日。考え直す猶予はその一日です。気持ちが変わりましたら零時までに聖域へと来てください。貴方が現れなければ、望み通りに世界間の道を消去します」
強い説得はなかった。彼女としてはどちらでも良かったのだろう。本人の意志を尊重し、したいようにしてあげるだけなのだと。
「それでは勇者リョウ、またお会いしましょう」
言ってセイクリッド神が輝き出す。不似合いなスーツ姿の女性が淡く消えていく。
諒太にとって決意を固める邂逅が終わった。笑みを浮かべるセイクリッド神は最後にエールらしき言葉をかけてくれる。
よく耳にする例のフレーズかと思うも、なぜか彼女が口にした台詞は諒太の予想と違っていた。
燦然と輝く未来を手にしてください――――と。
「一人は大盾を構えるエルフ。二人目は青髪の大魔道士。三人目は強大な魔力を持つ治癒士。四人目はアークエンジェル……」
すらすらと羅列していくセイクリッド神。また彼女が話す内容には思い当たる節があった。
「最後は勇者ナツ――――」
まるで言葉がない。一人で戦うどころか、五人も引き連れているだなんて。既に全員と知り合っていたけれど、彼女たちは勇者などではない。ルイナーとの一戦に連れて行けるはずもなかった。
「いや、レベルが80しかないロークアットを連れて行けない! 俺は絶対に拒否するはずだ!」
否定すべきはロークアットだけではなかった。夏美を除けば全員がレベル100未満である彼女たちはルイナーの攻撃に耐えられるはずもない。
「現時点で見える未来です。恐らくは世界の意志。彼女たちも世界を守ろうと考えているのでしょう」
ここで再び登場する世界の意志。ずっと諒太の願いを叶えてきたという世界だが、その未来だけは諒太の望みを反映させていないようだ。
「勇者リョウ、貴方が全てを背負う必要などありません。仲間を危険に晒したくないという気持ちは素晴らしいですが、セイクリッド世界に住む者たちも戦おうと考えているのです。もしかすると貴方以上に世界を救おうとしているはず……」
仮に確定した未来であれば、避けられないのかもしれない。最後まで抗いたくなる未来であったけれど、仲間が欲しかったのも事実であった。
「なら俺がルイナーを倒すと願えば叶うのか? 誰も傷つかず討伐できるのか?」
諒太は問いを重ねている。現時点の未来が仲間との共闘であるのなら、その先を願えば望む未来が手に入るのではないかと。
「ルイナーは晦冥神が使わせた暗黒竜です。神の使徒ともいうべき彼女を世界がどうこうできるはずはありません。対抗すべきは同じ使徒である貴方。若しくはダライアスと同質化した勇者ナツであるかと。愛すべき二人の使徒は必ずや世界を救ってくれると信じております」
神によって与えられた罰であるルイナーは世界がどうこうできる相手ではないらしい。だからこそ勇者リョウを選定し、世界は彼の望みを叶えてきたのだろう。
「そうか。まあよく分かった……」
最終局面は迎えてみないことには分からない。誰が仲間になり、仲間ではないなんてこと。神による未来視でも討伐できるかどうか不明なのだ。だとすれば諒太は切り替えて行くだけである。自分自身にできることをやってやるのだと。
「俺が世界を救ってやんよ――――」
力強いメッセージにセイクリッド神は笑みを浮かべた。彼女が選んだ彼女の使徒は希望通りの返答を告げている。
「ありがとう、勇者リョウ。たとえこの先に世界が滅びようとも、貴方を誇りに思います。私に後悔など少しもありません」
大規模な改変を生んでしまった召喚であったものの、セイクリッド神はそう答えた。ずっと望んでいた未来を放棄することになったとしても満足していると。
「なぁ、一つ頼んでいいか?」
話がついたのかと思えば、諒太にはまだ要件が残っていたようだ。少しばかり重たい口調にて彼は言葉を投げている。
「最後の話だ。もし仮に俺がルイナーを討伐したあとのこと……」
頷くセイクリッド神。少しも顔色を変えないところを見ると、彼女には続く言葉が分かっているのかもしれない。
「召喚陣を消して欲しい――――」
諒太の願いは世界間を行き来する道を閉ざすことであった。もしもそれが消滅したのなら、諒太はもうセイクリッド世界に戻れないというのに。
「良いのですか? セイクリッド世界は貴方を歓迎するでしょうし、強者たる貴方なら楽園にも等しい世界です。かつての勇者であるダライアスも彼の地に残ったのですよ?」
説得ではなかったけれど、セイクリッド神はそういった。やはり予想していたのか、顔色は少しも変わっていない。
「モテモテなのは未練が残るけどな。俺は異世界人なんだ。それにゲーム機から召喚陣を消してくれないと俺はゲームを楽しめない」
諒太は笑って返答している。現状のクレセントムーンは召喚陣が見えるだけで、ゲームができる状態ではない。冗談ではあったけれど、割と切実な話でもあった。
「そうですか……。ならば約束しましょう。貴方がルイナーを討伐した翌日。考え直す猶予はその一日です。気持ちが変わりましたら零時までに聖域へと来てください。貴方が現れなければ、望み通りに世界間の道を消去します」
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諒太にとって決意を固める邂逅が終わった。笑みを浮かべるセイクリッド神は最後にエールらしき言葉をかけてくれる。
よく耳にする例のフレーズかと思うも、なぜか彼女が口にした台詞は諒太の予想と違っていた。
燦然と輝く未来を手にしてください――――と。
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