幼馴染み(♀)がプレイするMMORPGはどうしてか異世界に影響を与えている

坂森大我

文字の大きさ
上 下
186 / 226
第四章 穏やかな生活の先に

未来視

しおりを挟む
 流石に愕然としてしまう。諒太は一人でルイナーに立ち向かうつもりだった。だが、セイクリッド神に見える未来には仲間がいるという。

「一人は大盾を構えるエルフ。二人目は青髪の大魔道士。三人目は強大な魔力を持つ治癒士。四人目はアークエンジェル……」
 すらすらと羅列していくセイクリッド神。また彼女が話す内容には思い当たる節があった。

「最後は勇者ナツ――――」
 まるで言葉がない。一人で戦うどころか、五人も引き連れているだなんて。既に全員と知り合っていたけれど、彼女たちは勇者などではない。ルイナーとの一戦に連れて行けるはずもなかった。

「いや、レベルが80しかないロークアットを連れて行けない! 俺は絶対に拒否するはずだ!」
 否定すべきはロークアットだけではなかった。夏美を除けば全員がレベル100未満である彼女たちはルイナーの攻撃に耐えられるはずもない。

「現時点で見える未来です。恐らくは世界の意志。彼女たちも世界を守ろうと考えているのでしょう」
 ここで再び登場する世界の意志。ずっと諒太の願いを叶えてきたという世界だが、その未来だけは諒太の望みを反映させていないようだ。

「勇者リョウ、貴方が全てを背負う必要などありません。仲間を危険に晒したくないという気持ちは素晴らしいですが、セイクリッド世界に住む者たちも戦おうと考えているのです。もしかすると貴方以上に世界を救おうとしているはず……」
 仮に確定した未来であれば、避けられないのかもしれない。最後まで抗いたくなる未来であったけれど、仲間が欲しかったのも事実であった。

「なら俺がルイナーを倒すと願えば叶うのか? 誰も傷つかず討伐できるのか?」
 諒太は問いを重ねている。現時点の未来が仲間との共闘であるのなら、その先を願えば望む未来が手に入るのではないかと。

「ルイナーは晦冥神が使わせた暗黒竜です。神の使徒ともいうべき彼女を世界がどうこうできるはずはありません。対抗すべきは同じ使徒である貴方。若しくはダライアスと同質化した勇者ナツであるかと。愛すべき二人の使徒は必ずや世界を救ってくれると信じております」
 神によって与えられた罰であるルイナーは世界がどうこうできる相手ではないらしい。だからこそ勇者リョウを選定し、世界は彼の望みを叶えてきたのだろう。

「そうか。まあよく分かった……」
 最終局面は迎えてみないことには分からない。誰が仲間になり、仲間ではないなんてこと。神による未来視でも討伐できるかどうか不明なのだ。だとすれば諒太は切り替えて行くだけである。自分自身にできることをやってやるのだと。

「俺が世界を救ってやんよ――――」
 力強いメッセージにセイクリッド神は笑みを浮かべた。彼女が選んだ彼女の使徒は希望通りの返答を告げている。

「ありがとう、勇者リョウ。たとえこの先に世界が滅びようとも、貴方を誇りに思います。私に後悔など少しもありません」
 大規模な改変を生んでしまった召喚であったものの、セイクリッド神はそう答えた。ずっと望んでいた未来を放棄することになったとしても満足していると。

「なぁ、一つ頼んでいいか?」
 話がついたのかと思えば、諒太にはまだ要件が残っていたようだ。少しばかり重たい口調にて彼は言葉を投げている。

「最後の話だ。もし仮に俺がルイナーを討伐したあとのこと……」
 頷くセイクリッド神。少しも顔色を変えないところを見ると、彼女には続く言葉が分かっているのかもしれない。

「召喚陣を消して欲しい――――」
 諒太の願いは世界間を行き来する道を閉ざすことであった。もしもそれが消滅したのなら、諒太はもうセイクリッド世界に戻れないというのに。

「良いのですか? セイクリッド世界は貴方を歓迎するでしょうし、強者たる貴方なら楽園にも等しい世界です。かつての勇者であるダライアスも彼の地に残ったのですよ?」
 説得ではなかったけれど、セイクリッド神はそういった。やはり予想していたのか、顔色は少しも変わっていない。

「モテモテなのは未練が残るけどな。俺は異世界人なんだ。それにゲーム機から召喚陣を消してくれないと俺はゲームを楽しめない」
 諒太は笑って返答している。現状のクレセントムーンは召喚陣が見えるだけで、ゲームができる状態ではない。冗談ではあったけれど、割と切実な話でもあった。

「そうですか……。ならば約束しましょう。貴方がルイナーを討伐した翌日。考え直す猶予はその一日です。気持ちが変わりましたら零時までに聖域へと来てください。貴方が現れなければ、望み通りに世界間の道を消去します」
 強い説得はなかった。彼女としてはどちらでも良かったのだろう。本人の意志を尊重し、したいようにしてあげるだけなのだと。

「それでは勇者リョウ、またお会いしましょう」
 言ってセイクリッド神が輝き出す。不似合いなスーツ姿の女性が淡く消えていく。

 諒太にとって決意を固める邂逅が終わった。笑みを浮かべるセイクリッド神は最後にエールらしき言葉をかけてくれる。
 よく耳にする例のフレーズかと思うも、なぜか彼女が口にした台詞は諒太の予想と違っていた。

 燦然と輝く未来を手にしてください――――と。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-

すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン] 何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?… たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。 ※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける 縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は…… ゆっくりしていってね!!! ※ 現在書き直し慣行中!!!

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。

処理中です...