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第四章 穏やかな生活の先に
四日が過ぎて
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四日が過ぎていた。初日こそ八万ナールを売り上げた諒太だが、二日目以降は落ち込んでおり、これまでの六日間で十五万ナールしか稼いでいなかった。
「リョウ様、今日は母の誕生パーティーです。高額商品を販売し、何とか百万ナールを達成いたしましょう」
ロークアットが話すように、本日はセシリィ女王陛下の誕生パーティーが催される。
これまで上位変換に否定的であったロークアットも、流石に危ないと感じたのか在庫品の上位変換に了承していた。許可を得た諒太は店舗にあった高級品だけでなく、新たに大量の高級品を錬成している。語るまでもなく、回復の兆しを見せていたリナンシーの魔力は再び底を突いていた。
「正直にヤバいよな……」
「きっと沢山購入いただけるかと。聖王国の貴族だけでなく、皇国や王国の貴族様もいらっしゃいますし」
本当に頼みの綱となってしまった。初日は借金完済に自信を深めていたけれど、今やその自信も風前の灯火である。
「リョウ様も出席いただきますので、お店の方はお休みしてください。色々と準備もございますし」
六日目の営業は中止するようにと言われてしまう。開店さえできたのであれば、一万ナールくらいにはなったというのに。
「マスター、それでしたら私がお手伝いしましょうか?」
ここでソラが店番を買って出た。しかし、彼女は聖王城のメイドとして働いており、給金も与えられている。よって職務を投げ出すような話には同意できない。
「ソラ、気持ちは嬉しいけど、流石にメイドの仕事をしなきゃいけないよ。パーティーの準備とかいつも以上に仕事があるだろ?」
「それでしたら、ソラさんには夕方までお店番をしていただき、早めにお店を閉めて会場の方を手伝っていただきましょうか」
諒太的には駄目だと考えていたというのに、ロークアットがソラに許可を出した。
ロークアットが問題ないというのなら、諒太はお願いするべきだろう。ソラの給金は一日当たり五千ナールであるし、アトリエの売り上げは恐らくそれ以上になるはずだ。
「じゃあ、頼むよ。値段は陳列ごとに書いてあるから分かるな?」
「もちろんでございます! 身も心も商品も売って参ります!」
「商品だけにしろ。寧ろ前二つは売るな……」
一抹の不安を覚えつつも、諒太はソラに店番を任せることに。
あと75万ナール。高級品はロークアットの提案で一個あたり二万ナールに設定している。従って用意した四十個を完売すれば諒太は借金完済ができた。
「ロークアット、高級品は裸で売るものじゃないよな?」
ここで気になることがあった。一般市民用のアクセサリーは商品を袋に入れるだけ。しかし、二万ナールという高級アクセサリーを箱にも入れずに販売するのはどうかと思う。
「そうですねぇ。見本品以外は箱に入っていた方がよろしいかと存じます。一万ナールでも相場より高めですから……」
相場の倍額にしたのは王家御用達としての格だとロークアットは話していた。だからこそ気になる。包装や入れ物にも付加価値が必要ではないかと。
「しょうがない。作るか……」
「それでしたら、わたくしの部屋で錬成しましょう。木材や布があればよろしいですか?」
「頼む。古い紙でもボロ雑巾でも構わん。上位変換するから……」
『や、やめるのじゃ……』
いつものように反応があり、諒太はホッとしている。上位変換を追加で行っていたから、少しばかり気になっていたのだ。
「よし、商品の数だけ上位変換するぞ!」
『婿殿はど畜生なのじゃ……』
これより諒太は大一番に向け準備に入る。王家御用達に相応しいパッケージを製作してやろうと思った。
正直に女王陛下の誕生パーティーだなんて気が引けるイベントであったけれど、ここまで来てしまってはやるしかない。何としてでもゴールデンウイーク中に借金を完済すべく、諒太は動き始めていた……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
連日に亘って迷子イベントを消化しつつも、レベリングに精を出したマヌカハニー戦闘狂旗団。予定通りに彩葉のレベルは90を超え、今や95という立派な大魔道士となっていた。
「やっぱ90からは上がりにくいね……」
「でもさ、ナッちゃんがいてくれたから、90までは超高速だっただろ? あんなにハピルが湧くなんてビビったぞ……」
レベル90から110は今のところ適切なダンジョンがない。よって三日を費やしても彩葉のレベルは5しか上がっていなかった。
「ここからはレベリングメインじゃ無理だ。戦闘貢献度は下がるが、寄生レベリングしかあるまい?」
タルトが意見する。戦闘貢献度が下がると取得経験値は下がってしまう。けれど、適切な狩り場がない以上はメリットがある戦いをすべきだと。
「ならドロップも狙うってこと?」
「勇者ナツよ、珍しく察しがいいな! 聖王騎士イロハに合わせても得られるものは少ない。ならば我々にも利のある方が効率的といえよう。此度の寄生プレイは仕方がないことだ!」
概ね廃プレイヤーは寄生プレイを嫌がる。戦闘に参加してこそ醍醐味であるのだと。
「まあ、タルトの言う通りかもな。寄生したとして、今よりもレベルは上がるはず。俺らに合わせた方が手っ取り早い」
「うーん、仕方ないかぁ。四日も付き合わせてきたし……」
彩葉としても早く三桁に乗りたかった。日々有名になっていくマヌカハニー戦闘狂旗団にあって、自分のレベルだけが二桁であるのは割と精神的にきつかったのだ。
「じゃあ、どこにするん? イロハちゃんは希望とかある? 超高難度ダンジョンはわたしも行ったことないねんけど……」
基本的に僧兵使いのチカは最新の超高難度ダンジョンを攻略できなかった。レベルキャップが100である僧兵を幾ら連れていようが戦えないのだ。
「できたらSランクスクロールが欲しいんだよね。この前、アアアアさんが自慢げにSランク魔法を唱えててムカついたからさ!」
「ムカついたはねぇだろ? んじゃ、お前の得意属性は何だよ?」
「私に得意も不得意もない! 前回も今回も平均的な冒険者なんだわ!」
彩葉の初期ステータスはほぼ全て3である。基本的に何でもこなせる器用貧乏であり、彼女が得意とするものもない。強いて言えば初期値が4に上がった賢さくらいである。
「ならば聖王騎士イロハ、悪魔公爵クロケルはどうだ? クロケルならスクロールをドロップするかもしれない。それに新ダンジョン『サンセットヒル』はまだ誰も攻略していないのだ。我らマヌカハニー戦闘狂旗団が先陣を切るべきだろう?」
タルトが話す悪魔公爵クロケルは実装された新ダンジョンのボスであると発表されている。また新ダンジョン『サンセットヒル』は以前の大型アップデートに含まれていたものの、未解放のままであった。
未解放であったのは先日まで残り二つ。その内の一つがサンセットヒルであって、ゴールデンウイークイベントの目玉として昨日解放されたばかりだ。
スバウメシア聖王国にできたという新ダンジョン。サンセットヒルは超高難度となっており、激レアアイテムが手に入るらしい。
「タルトさん、サンセットヒルに氷スクロールあると思う? まだ氷属性はどのダンジョンでもドロップしてないんでしょ?」
「恐らくは新ダンジョンにあるからだろう。サンセットヒルは実装されたばかり。ボスであるクロケルは水を操る悪魔だ。ならば水の派生属性である氷属性がドロップしてもおかしくはない。またスクロールがドロップする確率は高いと踏んでおる。なぜなら現状は物理攻撃が魔法攻撃よりも有利。雷属性と同じようにスクロールから実装されるのが筋だ」
タルトの予想に彩葉はなるほどと返す。前衛ジョブは種別ごとに熟練度が設定されている。従って剣士が剣を替えたとして剣術の熟練度に変化はない。対してスクロールは単体での熟練度が設定されているため、魔道士は剣士よりも育成が困難となった。
「仮に物理武器がドロップアイテムに含まれていたとしても、そのドロップ確率は最低だろう。スクロールのドロップ確率より低く設定してあるはずだ。魔道士にはそれくらいの優遇があると考えている」
「よっしゃ、ならサンセットヒルに決定だな! 氷属性スクロールゲットだぜ!」
「アアアアさん、言っとくけど、私もサイコロ振るからね? 冷血の悪役令嬢には氷属性が必須なのよ!」
「じゃあ、後腐れはなしな? 俺が勝っても文句言うなよ?」
「はん! こちとらナツ以外に負けるとは考えてない!」
ドロップアイテムの争奪戦。割と彩葉は自信があった。平均的なステータスを持つ彼女。一般的にラックは上がりにくいというのに、幸運値は他のステータス並に上がっているのだ。
「ふはは! 皆の者、盛り上がってきたな! では向かうとしよう。目的地はサンセットヒルだっ!」
これにて目的地が決定した。全員が意気込んでいたけれど、どうしてか申し訳なさそうに夏美が手を挙げる。
「どこにあんの? サンセットヒル……」
言われて初めて気付く。そういえば誰も行ったことがない。夏美の疑問を受けて、四人共がお知らせを開くけれど、そこに明確な情報はなかった。
『新ダンジョン実装のお知らせ』
五月三日より新ダンジョン【サンセットヒル】を解放いたします。スバウメシア聖王国にある新ダンジョンでは新属性のアイテムが手に入るかも!?
【超高難度ダンジョン】推奨レベル120(パーティー平均110必須)
「ええ? 嘘だろ? 運営馬鹿すぎねぇ?」
アアアアが溜め息と共に言った。皆が属性アイテムしか気にしていなかったのだ。スバウメシア聖王国にあるのだけは分かったけれど、明確な位置は記されていない。
「聖王国って広すぎんだろ? どこにあんだよ?」
アルカナのゲーム世界は一つの大陸を三つのエリアに分けていたのだが、大陸の南東にアクラスフィア王国があり、大陸の西に細長く伸びるのがガナンデル皇国であった。ダリヤ山脈を隔てた北側は概ねスバウメシア聖王国である。
「あ、掲示板立ってるわ! えーっと……」
チカが掲示板をチェックするとサンセットヒルに関するスレッドが立っていた。昨日実装されたのだから、もう場所くらいは判明しているのかもしれない。
「あっ、あかんわ! スレッド伸びてないし、愚痴ばっかしなんよ!」
「本当!? チカちゃん、よく見てよ!」
夏美がチカに情報を求めるも、顔を振るだけだ。掲示板には運営の悪口があるだけで、一つとして情報はなかった。
「ふはは! それでこそ冒険じゃないか! よし、ならば我らマヌカハニー戦闘狂旗団の仕事だ! 一番乗りを果たすぞ!」
諦めるのかと思いきや、そこは廃プレイヤークラン。誰も見つけていないというのなら、探し出すだけである。余計にやる気を出していたのは間違いなかった。
「よっしゃ、ワイバーンを借りて上空から探そう! チカちゃんのお金で!」
「いいな! チカのお金でワイバーンを借りるぞ!」
「まあええけど、感謝しいよ?」
笑い合う五人。まるで新しいフィールドが開放されたかのように昂ぶっていた。前人未踏の大地へと真っ先に降り立つのだと。
マヌカハニー戦闘狂旗団は一番手であることを疑わない……。
「リョウ様、今日は母の誕生パーティーです。高額商品を販売し、何とか百万ナールを達成いたしましょう」
ロークアットが話すように、本日はセシリィ女王陛下の誕生パーティーが催される。
これまで上位変換に否定的であったロークアットも、流石に危ないと感じたのか在庫品の上位変換に了承していた。許可を得た諒太は店舗にあった高級品だけでなく、新たに大量の高級品を錬成している。語るまでもなく、回復の兆しを見せていたリナンシーの魔力は再び底を突いていた。
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「リョウ様も出席いただきますので、お店の方はお休みしてください。色々と準備もございますし」
六日目の営業は中止するようにと言われてしまう。開店さえできたのであれば、一万ナールくらいにはなったというのに。
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ここでソラが店番を買って出た。しかし、彼女は聖王城のメイドとして働いており、給金も与えられている。よって職務を投げ出すような話には同意できない。
「ソラ、気持ちは嬉しいけど、流石にメイドの仕事をしなきゃいけないよ。パーティーの準備とかいつも以上に仕事があるだろ?」
「それでしたら、ソラさんには夕方までお店番をしていただき、早めにお店を閉めて会場の方を手伝っていただきましょうか」
諒太的には駄目だと考えていたというのに、ロークアットがソラに許可を出した。
ロークアットが問題ないというのなら、諒太はお願いするべきだろう。ソラの給金は一日当たり五千ナールであるし、アトリエの売り上げは恐らくそれ以上になるはずだ。
「じゃあ、頼むよ。値段は陳列ごとに書いてあるから分かるな?」
「もちろんでございます! 身も心も商品も売って参ります!」
「商品だけにしろ。寧ろ前二つは売るな……」
一抹の不安を覚えつつも、諒太はソラに店番を任せることに。
あと75万ナール。高級品はロークアットの提案で一個あたり二万ナールに設定している。従って用意した四十個を完売すれば諒太は借金完済ができた。
「ロークアット、高級品は裸で売るものじゃないよな?」
ここで気になることがあった。一般市民用のアクセサリーは商品を袋に入れるだけ。しかし、二万ナールという高級アクセサリーを箱にも入れずに販売するのはどうかと思う。
「そうですねぇ。見本品以外は箱に入っていた方がよろしいかと存じます。一万ナールでも相場より高めですから……」
相場の倍額にしたのは王家御用達としての格だとロークアットは話していた。だからこそ気になる。包装や入れ物にも付加価値が必要ではないかと。
「しょうがない。作るか……」
「それでしたら、わたくしの部屋で錬成しましょう。木材や布があればよろしいですか?」
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『や、やめるのじゃ……』
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「よし、商品の数だけ上位変換するぞ!」
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正直に女王陛下の誕生パーティーだなんて気が引けるイベントであったけれど、ここまで来てしまってはやるしかない。何としてでもゴールデンウイーク中に借金を完済すべく、諒太は動き始めていた……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
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「ここからはレベリングメインじゃ無理だ。戦闘貢献度は下がるが、寄生レベリングしかあるまい?」
タルトが意見する。戦闘貢献度が下がると取得経験値は下がってしまう。けれど、適切な狩り場がない以上はメリットがある戦いをすべきだと。
「ならドロップも狙うってこと?」
「勇者ナツよ、珍しく察しがいいな! 聖王騎士イロハに合わせても得られるものは少ない。ならば我々にも利のある方が効率的といえよう。此度の寄生プレイは仕方がないことだ!」
概ね廃プレイヤーは寄生プレイを嫌がる。戦闘に参加してこそ醍醐味であるのだと。
「まあ、タルトの言う通りかもな。寄生したとして、今よりもレベルは上がるはず。俺らに合わせた方が手っ取り早い」
「うーん、仕方ないかぁ。四日も付き合わせてきたし……」
彩葉としても早く三桁に乗りたかった。日々有名になっていくマヌカハニー戦闘狂旗団にあって、自分のレベルだけが二桁であるのは割と精神的にきつかったのだ。
「じゃあ、どこにするん? イロハちゃんは希望とかある? 超高難度ダンジョンはわたしも行ったことないねんけど……」
基本的に僧兵使いのチカは最新の超高難度ダンジョンを攻略できなかった。レベルキャップが100である僧兵を幾ら連れていようが戦えないのだ。
「できたらSランクスクロールが欲しいんだよね。この前、アアアアさんが自慢げにSランク魔法を唱えててムカついたからさ!」
「ムカついたはねぇだろ? んじゃ、お前の得意属性は何だよ?」
「私に得意も不得意もない! 前回も今回も平均的な冒険者なんだわ!」
彩葉の初期ステータスはほぼ全て3である。基本的に何でもこなせる器用貧乏であり、彼女が得意とするものもない。強いて言えば初期値が4に上がった賢さくらいである。
「ならば聖王騎士イロハ、悪魔公爵クロケルはどうだ? クロケルならスクロールをドロップするかもしれない。それに新ダンジョン『サンセットヒル』はまだ誰も攻略していないのだ。我らマヌカハニー戦闘狂旗団が先陣を切るべきだろう?」
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未解放であったのは先日まで残り二つ。その内の一つがサンセットヒルであって、ゴールデンウイークイベントの目玉として昨日解放されたばかりだ。
スバウメシア聖王国にできたという新ダンジョン。サンセットヒルは超高難度となっており、激レアアイテムが手に入るらしい。
「タルトさん、サンセットヒルに氷スクロールあると思う? まだ氷属性はどのダンジョンでもドロップしてないんでしょ?」
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タルトの予想に彩葉はなるほどと返す。前衛ジョブは種別ごとに熟練度が設定されている。従って剣士が剣を替えたとして剣術の熟練度に変化はない。対してスクロールは単体での熟練度が設定されているため、魔道士は剣士よりも育成が困難となった。
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「よっしゃ、ならサンセットヒルに決定だな! 氷属性スクロールゲットだぜ!」
「アアアアさん、言っとくけど、私もサイコロ振るからね? 冷血の悪役令嬢には氷属性が必須なのよ!」
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「はん! こちとらナツ以外に負けるとは考えてない!」
ドロップアイテムの争奪戦。割と彩葉は自信があった。平均的なステータスを持つ彼女。一般的にラックは上がりにくいというのに、幸運値は他のステータス並に上がっているのだ。
「ふはは! 皆の者、盛り上がってきたな! では向かうとしよう。目的地はサンセットヒルだっ!」
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「あ、掲示板立ってるわ! えーっと……」
チカが掲示板をチェックするとサンセットヒルに関するスレッドが立っていた。昨日実装されたのだから、もう場所くらいは判明しているのかもしれない。
「あっ、あかんわ! スレッド伸びてないし、愚痴ばっかしなんよ!」
「本当!? チカちゃん、よく見てよ!」
夏美がチカに情報を求めるも、顔を振るだけだ。掲示板には運営の悪口があるだけで、一つとして情報はなかった。
「ふはは! それでこそ冒険じゃないか! よし、ならば我らマヌカハニー戦闘狂旗団の仕事だ! 一番乗りを果たすぞ!」
諦めるのかと思いきや、そこは廃プレイヤークラン。誰も見つけていないというのなら、探し出すだけである。余計にやる気を出していたのは間違いなかった。
「よっしゃ、ワイバーンを借りて上空から探そう! チカちゃんのお金で!」
「いいな! チカのお金でワイバーンを借りるぞ!」
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