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第四章 穏やかな生活の先に
難航する捜索
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諒太への聞き込みを終えた夏美。四人が待つ場所へと戻っていた。
「ナッちゃん、何か分かったのか?」
アアアアが尋ねた。夏美は他のサーバーにいる友人に進捗を聞いてみると話しただけだ。けれども、アアアアは期待している。夏美の友人であるのなら廃プレイヤーである可能性が高く、それなりの情報を得ているのではないかと。
「次の目的地はエデルジナスだって!」
迂闊にも夏美は聞いたままを答えてしまう。ディストピアでは何の情報も得られなかったというのに。
「エデルジナス? その情報はどこで聞けるんだ?」
「えっ!?」
夏美は言い淀む。流石に本人から聞いたとは言えなかった。更には適当な嘘が口を衝くはずもない。ディストピアとエデルジナスに共通点はなく、夏美はそれを結びつけられないのだから。
「アアアアさん、ナツのリアフレは割と危ないことをしてんだよね。んで、なかなか凄腕なんだよ。まあご内密に……」
彩葉が助け船を出した。どうにも信じられない話であったけれど、彩葉は夏美の話を受け入れている。諒太が異世界において勇者をしているという馬鹿げた話を。
「マジか。大福みてぇな奴が他にもいるなんてな……」
「まあ入り込むくらいは可能だ。見つからずに済ませるのが難しい。我と同程度の技量があれば、情報を閲覧するくらいはできるだろう」
タルトが頷いている。実際に事を成した彼はその程度を推し量っているらしい。
「あ、でもワイバーン! あの家にワイバーンがいたのは間違いないよ! それに乗ってエデルジナスに向かったんだって! きっとあの家の周りに何か残ってるはず!」
ふと思い出した話を口にする。それは推理していたことであるが、ロークアットに聞いた実話なのだ。ならば、建物の周辺を捜査すべきだと。
早速と五人はロークアットが連れてこられたという建物に戻っている。調べてみると家の裏手にワイバーンを繋ぐ竜舎的な場所があった。
「ここからワイバーンに乗ってエデルジナスへと向かったってのか?」
藁が敷かれた竜舎。ワイバーンが残っているわけでもなく、特別な雰囲気を感じることはない。
「何も残ってないんよ。目的地なんか分かるはずないわ。運営ってアホなん?」
チカが文句を口にする。確かに竜舎があるだけであり、情報は少しも残されていない。ロークアットが飛び去ったと考えるまではできても、彼女の目的地など推理できるはずもなかった。
「看破!!」
唐突に彩葉が声を張った。行き詰まったこの状況。誰しもが運営のやらかしだと考えていたというのに。
一瞬、敷き詰められた藁が輝く。何もなかったはずの場所が看破によって煌めいていた。
即座に彩葉は藁を掻き分け、探し始める。恐らくは行き先を記すアイテムが隠されているのだろうと。
「何か見つけた!」
「イロハ、でかした! 何があった!?」
しゃがみ込んだ彩葉の背中をポンと叩き、アアアアもまたその場にかがみ込む。
「何だこれ? チラシか?」
藁の中から見つかったのは紙切れである。しかもボロボロになっており、内容は一部しか読み取れない。
「シュトレン?」
パンらしき絵の上にシュトレンと書いてあった。しかし、彩葉にはその意味合いが分からない。
「駄犬イロハよ、シュトレンとは平たく言えば菓子パンである。クリスマス時期に食されるドイツでは定番のスイーツだ……」
「さっすがタルトさん! この下手くそな絵じゃまるで分からんかった!」
「しかし、菓子パンでエデルジナスが目的地だと分かるのか?」
菓子パンの名前だけで行き先を予想できるはずもない。運営のやらかしが現実味を帯びただけである。
「いや、ある意味においてはエデルジナスと繋がる……」
彩葉もアアアアも運営への文句を脳裏に並べていたのだが、タルトはこのチラシに隠された意図を見抜いたらしい。
「シュトレンは日持ちさせるため、ラム酒に付け込んだドライフルーツを混ぜ込むのだ。エデルジナスは酒造の街。よって結びつけられないことはない」
「しかし、行き先を知ってからでないと分からんぞ?」
行き先から考えたこじつけであるように思う。そもそもタルトが知っていなければ、シュトレンの意味すら分からなかったのだ。製法まで知るプレイヤーが何人もいるはずがなかった。
「まあでもエデルジナスで間違いないっしょ? お酒を使ったお菓子なら!」
「そうやね。恐らく運営はここで行き詰まって欲しかったんとちゃう?」
夏美とチカはチェックポイントをクリアしたと疑わない。看破にてチラシを手に入れないことにはエデルジナスに向かっても無駄だろうと。キーとなるアイテムを手に入れたのだから、もうディストピアには用事などないはずだ。
「恐らく今日はここまでだ。難易度的にリナンシーと変わらん。明日になるまで答え合わせなどできないはず」
アアアアがこの先を予想した。大半のプレイヤーがリナンシーに捕まったように、このチェックポイントも難易度が高い。看破が必要なだけでなく、そこに至るまでのヒントが少なすぎた。
「うむ、恐らくこのイベントは全員がクリアできるようになっているはず。従って報酬は糖分カットケーキほどに価値はないだろう。ログインボーナス程度と考えておくべきだな」
タルトもアアアアと同じ意見であるようだ。全員が楽しめる内容に他ならないのだと。一部の廃プレイヤーによってネタバレされない仕様であると思う。
「ではでは、レベリングと参りましょうか! 私は今日中にレベル90になりたく存じまっす!」
彩葉が手を挙げる。イベントに区切りがついたのだから、このあとはレベリングであると。クラン員で一番弱い彼女は少しでも早く追いつきたかった。
「うむ。早く聖王騎士イロハには我が軍勢に相応しい強者になってもらわねば困る。皆の者、異論はないな?」
「なら、ハピル狩り行くか!」
「幸運のお守りがおるし、レベル90くらいはいけるんちゃう?」
「ハピル引きまくるよ! 超絶ラッキーエンジェルこと勇者ナツにお任せあれ!」
五人の目的地はどうやらオツの洞窟となったようだ。レベル120超えが三人というパーティーであれば、リトルドラゴンが何匹現れようが何の問題もない。加えて幸運に愛される夏美が一緒なのだ。早々にオツの洞窟を卒業できると思われる。
マヌカハニー戦闘狂旗団は今日一日を彩葉のために使うと決めたらしい……。
「ナッちゃん、何か分かったのか?」
アアアアが尋ねた。夏美は他のサーバーにいる友人に進捗を聞いてみると話しただけだ。けれども、アアアアは期待している。夏美の友人であるのなら廃プレイヤーである可能性が高く、それなりの情報を得ているのではないかと。
「次の目的地はエデルジナスだって!」
迂闊にも夏美は聞いたままを答えてしまう。ディストピアでは何の情報も得られなかったというのに。
「エデルジナス? その情報はどこで聞けるんだ?」
「えっ!?」
夏美は言い淀む。流石に本人から聞いたとは言えなかった。更には適当な嘘が口を衝くはずもない。ディストピアとエデルジナスに共通点はなく、夏美はそれを結びつけられないのだから。
「アアアアさん、ナツのリアフレは割と危ないことをしてんだよね。んで、なかなか凄腕なんだよ。まあご内密に……」
彩葉が助け船を出した。どうにも信じられない話であったけれど、彩葉は夏美の話を受け入れている。諒太が異世界において勇者をしているという馬鹿げた話を。
「マジか。大福みてぇな奴が他にもいるなんてな……」
「まあ入り込むくらいは可能だ。見つからずに済ませるのが難しい。我と同程度の技量があれば、情報を閲覧するくらいはできるだろう」
タルトが頷いている。実際に事を成した彼はその程度を推し量っているらしい。
「あ、でもワイバーン! あの家にワイバーンがいたのは間違いないよ! それに乗ってエデルジナスに向かったんだって! きっとあの家の周りに何か残ってるはず!」
ふと思い出した話を口にする。それは推理していたことであるが、ロークアットに聞いた実話なのだ。ならば、建物の周辺を捜査すべきだと。
早速と五人はロークアットが連れてこられたという建物に戻っている。調べてみると家の裏手にワイバーンを繋ぐ竜舎的な場所があった。
「ここからワイバーンに乗ってエデルジナスへと向かったってのか?」
藁が敷かれた竜舎。ワイバーンが残っているわけでもなく、特別な雰囲気を感じることはない。
「何も残ってないんよ。目的地なんか分かるはずないわ。運営ってアホなん?」
チカが文句を口にする。確かに竜舎があるだけであり、情報は少しも残されていない。ロークアットが飛び去ったと考えるまではできても、彼女の目的地など推理できるはずもなかった。
「看破!!」
唐突に彩葉が声を張った。行き詰まったこの状況。誰しもが運営のやらかしだと考えていたというのに。
一瞬、敷き詰められた藁が輝く。何もなかったはずの場所が看破によって煌めいていた。
即座に彩葉は藁を掻き分け、探し始める。恐らくは行き先を記すアイテムが隠されているのだろうと。
「何か見つけた!」
「イロハ、でかした! 何があった!?」
しゃがみ込んだ彩葉の背中をポンと叩き、アアアアもまたその場にかがみ込む。
「何だこれ? チラシか?」
藁の中から見つかったのは紙切れである。しかもボロボロになっており、内容は一部しか読み取れない。
「シュトレン?」
パンらしき絵の上にシュトレンと書いてあった。しかし、彩葉にはその意味合いが分からない。
「駄犬イロハよ、シュトレンとは平たく言えば菓子パンである。クリスマス時期に食されるドイツでは定番のスイーツだ……」
「さっすがタルトさん! この下手くそな絵じゃまるで分からんかった!」
「しかし、菓子パンでエデルジナスが目的地だと分かるのか?」
菓子パンの名前だけで行き先を予想できるはずもない。運営のやらかしが現実味を帯びただけである。
「いや、ある意味においてはエデルジナスと繋がる……」
彩葉もアアアアも運営への文句を脳裏に並べていたのだが、タルトはこのチラシに隠された意図を見抜いたらしい。
「シュトレンは日持ちさせるため、ラム酒に付け込んだドライフルーツを混ぜ込むのだ。エデルジナスは酒造の街。よって結びつけられないことはない」
「しかし、行き先を知ってからでないと分からんぞ?」
行き先から考えたこじつけであるように思う。そもそもタルトが知っていなければ、シュトレンの意味すら分からなかったのだ。製法まで知るプレイヤーが何人もいるはずがなかった。
「まあでもエデルジナスで間違いないっしょ? お酒を使ったお菓子なら!」
「そうやね。恐らく運営はここで行き詰まって欲しかったんとちゃう?」
夏美とチカはチェックポイントをクリアしたと疑わない。看破にてチラシを手に入れないことにはエデルジナスに向かっても無駄だろうと。キーとなるアイテムを手に入れたのだから、もうディストピアには用事などないはずだ。
「恐らく今日はここまでだ。難易度的にリナンシーと変わらん。明日になるまで答え合わせなどできないはず」
アアアアがこの先を予想した。大半のプレイヤーがリナンシーに捕まったように、このチェックポイントも難易度が高い。看破が必要なだけでなく、そこに至るまでのヒントが少なすぎた。
「うむ、恐らくこのイベントは全員がクリアできるようになっているはず。従って報酬は糖分カットケーキほどに価値はないだろう。ログインボーナス程度と考えておくべきだな」
タルトもアアアアと同じ意見であるようだ。全員が楽しめる内容に他ならないのだと。一部の廃プレイヤーによってネタバレされない仕様であると思う。
「ではでは、レベリングと参りましょうか! 私は今日中にレベル90になりたく存じまっす!」
彩葉が手を挙げる。イベントに区切りがついたのだから、このあとはレベリングであると。クラン員で一番弱い彼女は少しでも早く追いつきたかった。
「うむ。早く聖王騎士イロハには我が軍勢に相応しい強者になってもらわねば困る。皆の者、異論はないな?」
「なら、ハピル狩り行くか!」
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