幼馴染み(♀)がプレイするMMORPGはどうしてか異世界に影響を与えている

坂森大我

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第四章 穏やかな生活の先に

迷子の行き先

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 制限時間一杯の零時まで緊急クエストをこなしたマヌカハニー戦闘狂旗団。そのあとは午前三時までレベリングをし、廃人プレイヤーらしく翌朝の七時には再び全員がログインしていた。

「お前ら、少しくらい寝たらどうだ?」
「アアアアさんに言われたくないよ。連休なんだし三時間も寝たら十分!」
 本日もロークアットの捜索をしながら、レベリングをすることで話がついた。どうせ捜索イベントは一日の進捗が決まっている。手がかりがなくなれば、そこで終了なのだ。

「しっかし、マヌカハニー戦闘狂旗団の話題で持ちきりだね?」
「フハハ、聖王騎士イロハよ、これはまだ序章にすぎん! 伝説の幕は上がったのだ!」
 SNSや攻略掲示板では昨日のスクリーンショットや動画がアップされていた。
 もう既にタルトがいちご大福であることも拡散しており、デカ盛りいちごパフェ団が帰ってきたという話題でもちきりである。

「でもタルトさんがBANされんでよかったわ」
 笑顔のチカ。ネットでは再びアカウントを停止させられるのではないかと噂になっていたのだ。同一人物であることを公表したことによって。

「大司教チカよ、我は不死鳥。よって何度でも蘇るのだ。さりとて善良なプレイヤーである我は排除されぬ。叡智のリングすらない状態で我はここまで戦ってきたのだ。正当な停止理由がないのだから、我は自由である」
 昨日はヒヤヒヤさせられたものの、確かに新しい筐体を入手し、正規の手順でリスタートしたのなら、運営が口を挟む隙などない。監視はされたとして、正常なプレイをしている限りは文句など言われないだろう。

「報酬はゲロマズだったが、俺は久しぶりに熱くなれたぜ?」
 アアアアが言った。ログアウトしたあとも昂ぶって、彼は殆ど寝ていない。いつもであれば、昼くらいまで寝て過ごすのだが、誰かがログインしているかもと考えてしまい眠ってなどいられなかった。

「エリア限定の緊急クエストだから、報酬はしょうがないよ。あたし的にはエクストラポーション二十本は助かったし。ま、何にしても楽しかったね?」
「わたしは司祭の子らにめっちゃ羨ましがられたわぁ。みんな、わたしがデカ盛り団におったん知らんかってん!」
「デカ盛りいちごパフェ団な!?」
 タルトの素早いツッコミに全員が笑い声を上げる。また全員が昨日よりも今日に期待をしていた。昨日は合計して六時間のプレイに過ぎないのだが、あれだけ楽しめたのだ。朝からであれば目一杯に堪能できるはずと。

「とりま、ちゃっちゃと王国での情報収集を済ませっか。タルト、急がないと愛娘が泣き喚いてるかも知らんぞ?」
「今は別人だ。分かるはずもない……」
 二人の会話に夏美は唇を噛む。ロークアットがいちご大福に会いたがっていたことを彼女は思い出している。とはいえ、それを教えるなんてできない。繋がる時間軸にあったとしても、あの世界とアルカナの世界は似て非なるものなのだから。

「ささ、ベイスタックに移動するよ!」
 しんみりする前に夏美はリバレーションを唱えた。既に別人となったタルトでは彼女の希望は叶わないのだと。

 瞬く間に五人はベイスタックへと転移。朝も早い時間であったものの、大勢のプレイヤーたちの姿がある。これほどまでにベイスタックにプレイヤーがいるわけはイベントの中継地点であるからだろう。

「ほう、皆もリナンシーを攻略したんだな?」
「受付嬢キラーが他にもいたのね?」
「イロハ、そうとは限らんだろう? 魅力値アップの装備やらで出直したんじゃねぇか?」
 まず間違いなくベイスタックには何らかの情報があるはず。ロークアットが立ち寄っていないにしても、誘導するような情報が聞き出せるに違いない。

 五人は手分けをして情報を集める。エリアを分け片っ端からNPCに声をかけまくった。
 特に大きくもないベイスタックを五人で操作した結果、三十分とかからずに聞き込みが終了している。

「目撃情報は一件のみか。しかも中身がねぇ……。だが、ベイスタックには必ず情報があるはずだ。もしかしてチカとタルトはリナンシーを攻略していないんじゃないか?」
 聞き出せた情報は水色のワンピースを着たエルフを見たというものだけだ。次へと繋がらない情報に、アアアアは二人がまだチェックポイントをクリアしていないのではと考えた。

「わたしは初めてなんよ」
「我もだ! 先日、入国イベントをクリアしたところだからな!」
 イベントは段階を踏まねばならないはず。モブキャラの情報は兎も角として、リナンシーとの会話イベントは間違いなくチェックポイントであろう。従ってチカかタルトが情報を聞き漏らした可能性は高い。今後も手分けして捜索するのであれば、やはり二人もチェックポイントをクリアしておくべきであろう。

「しゃーねぇ、ナッちゃん悪いけど、妖精の国に転移してくれ」
「あいよ! まいどありぃ~!」
 既にクリアした三人と訪問をすれば、恐らくはそれだけでチェックポイントの問題はなくなる。五人での捜索ができるようになるはずだ。
 妖精の国ではもう一度、リナンシーにロークアットの情報を聞く。またリナンシーは昨日と変化なく、ロークアットの向かった先が王国にある大木だと答えている。

「よし、これで問題はなくなったはずだ。無料転移装置がなけりゃ危ないところだったな」
「装置じゃないって言ってんのに! もうアアアアさんからは一万ナールもらうからね!」
「やめろ! 俺は金欠なんだ!」
 手間がかかってしまったが、要した時間は短い。五人は先ほどチカとタルトが調べたエリアを手分けして聞き込みすることに……。

 再度の聞き込みでは有益な情報を得られている。やはりタルトとチカが聞き漏らしていたのだろう。
「次は馬車か……」
 どうやらロークアットは馬車に乗ったらしい。最初の目撃情報も乗り合い馬車の近くであったし、ポータルがないベイスタックからの移動であれば、馬車で間違いないだろう。

「馬車で移動したとすれば、選択肢は交易都市ウォーロックか北東の街ドナウ、或いは王都センフィスのどれかだ……」
 ここは悩みどころである。レベリングの時間を考えるのなら、一発で当てたいところだ。
 ベイスタックからは三カ所に馬車が通じており、一番近くにあるのがウォーロックである。その次に近い街がドナウであり、最も遠い目的地がアクラスフィア王国城下センフィスであった。

「運営ならポータルがない場所を選びそうじゃない?」
 彩葉が意見する。この三つの都市でポータルがないのはウォーロックだけだ。人気のある狩り場が近い街ではあったけれど、移動手段はワイバーンか馬車しかない。

「いやぁ、でもウォーロックだけポータルがないのは引っかけちゃうん?」
 チカも意見をする。彼女の話には意見した彩葉でさえもポンと手を叩く。
 陰湿な運営のことだ。三択の内、一カ所だけ明確に異なっている選択は罠である可能性が高いように思う。

「よし、じゃあドナウかセンフィスとなるが……」
 ここでアアアアはウォーロックを排除した。どうせ勘によるところが大きい。自分たちは瞬間的に移動できるのだし、大胆な予想に基づき行動するだけなのだと。

「センフィスだな……」
 アアアアの話に間髪入れず答えたのはタルトである。断言した彼は何らかの理由を持っているはずだ。

「して、その心は?」
「まあ消去法だ。ドナウであれば行き先が限られる。それこそ馬車はウォーロックへ戻るか、割と距離のあるノースベンドに向かうしかなくなるからな……」
 タルトはその次の行き先から予想したらしい。仮にドナウへ向かってしまうと一本道となってしまうからだと。

「でもポータルがあるじゃん?」
 直ぐさま夏美が疑問を返す。ポータルがあれば設置都市の全てに移動できるのだ。制限などないも同然である。

「勇者ナツ、それこそ引っかけだろう。それともまた司教が教えてくれるというのか? 探偵イベントでそこまでヌルい聞き込みなどあり得ぬ。また選択肢がありすぎるポータルの使用は序盤である現状に相応しくないな」

「あーなるほ! 確かにポータルを使ったりすると司教が知ってることになるもんね」
 ロークアットがポータルを使うと行き先は特定できる。ポータルの使用に司教の祝詞が必要という設定では目的地を隠すなんてできなかった。

「じゃあ、センフィスへ飛ぶよ!!」
 タルトの意見に全員が頷くと直ぐさま転移していく。
 始まりの街センフィス。五人全員がよく知るあの街に戻っていった……。
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