幼馴染み(♀)がプレイするMMORPGはどうしてか異世界に影響を与えている

坂森大我

文字の大きさ
上 下
155 / 226
第四章 穏やかな生活の先に

ステータス強化

しおりを挟む
 諒太は店じまいをし、再び素材の買い付けをしている。ロークアットが聖王城に戻ったあとも、彼はアトリエに残っていた。

 明日に備えて十分な在庫を作ろうとしている。だが、数時間が過ぎていたから、リナンシーの回復具合を不安に思う。

「また店舗を改装してみっか……」
『や、やめるのじゃ、婿殿!』
 即座に反応してくるところをみると、やはり回復しているのだろう。

「なら何とかしろ。俺はお前のせいで普通の錬成ができないんだぞ?」
『そう言われてものぉ。そこは慣れの問題じゃろ? 熟練度を上げていくしかないの』
 他人事のように話すリナンシーに諒太は決断する。再び彼女が昏倒しようと知ったことではないと。

「じゃあ、目一杯に錬成してやんよ。錬成は俺の自然回復MPより、どうしてかお前の魔力が優先されるみたいだしな。千個から作る予定だし、高級品を錬成し直していたら、五千回は錬成することになるだろう……」
『鬼畜じゃ! ど畜生がここにおる!』
 邪魔くさくなった諒太は返答しなかった。素材をテーブルへと並べ、一度に錬成していく。

 脳裏に届く悲痛な声を無視し、出来上がった高級品を錬成し直す。これを何度も繰り返していけば、熟練度は上がるだろうし、いずれはリナンシーの魔力も尽きるはずだ。

 しかし、何度錬成しようと高級品が出来上がってしまう。鉄はシルバーやゴールドとなり、ガラス玉は宝石と化した。

『リョウは【鑑定眼Lv1】を習得しました』

「えっ……?」
 ここで通知があった。そういえばアイテムを見るだけで詳細が分かっている。先ほどまでロークアットに聞くまで分からなかったというのに。

「ロークアットの鑑定眼を見ていたからか……?」
 パーティーを組んだわけではなかったが、彼女の奴隷であったこと。それが影響しているとしか思えない。

「まあ、ないよりはあった方が捗るな……」
 このあとも錬成を繰り返している。その度に確認しているけれど、出来上がる商品は全て上位変換されたものだった。

「やっぱリングを作るだけじゃ、残念妖精の魔力を削ぎ落とせんか……」
『ふはは! ざま見ろなのじゃ! そのようなゴミ錬成屁でもないわ! ステータス強化が付加されない安物ではの!』
 腹の立つ念話が送られている。しかし、それは足がかりでもあった。
 即座に諒太は問いを返している。

「ステータス強化って何だよ?」
『ギクゥッ!!』
 そういえば諒太が製作したアイテムには何の効果もない。DEF+1くらい付与されていてもいいはずなのに。

「ステータス強化付与について教えろ……」
『い、嫌じゃ! また昏倒させられては堪ったものではない!』
 やはり抵抗を見せるリナンシー。けれど、彼女は残念妖精である。思わずヒントまで口にしてしまう。

『装備品と念じて作ることは秘密じゃ!!』
 脅しをかけようかというところで自爆。諒太は労せずしてやり方を聞いてしまう。

「ほう、なら鎧や盾も作れるってことか?」
『し、し、し、しまったぁぁっ!』
 手始めに諒太は鎧を製作することに。インゴットは大量に仕入れているのだ。夏美の鎧をイメージし、諒太はそれを錬成していく。

 目映い光が満ちたあと、例によって例のごとくインゴットはイメージ通りの形へと変化していた。

【銀の鎧】
【レアリティ】★
【DEF】+5

 しかし、完成した鎧は使い道がないほどに弱かった。材質は銀であったけれど、考えていたような鎧は出来上がっていない。

「おいリナンシー、こんなゴミしか作れんのか?」
『ぜぇ、はぁ……。馬鹿言うな、婿殿……。錬金術で製作できる装備などせいぜいアクセサリーくらいじゃ……』
「でもナツの鎧はエルフが錬成して作ったって説明書きがあったぞ?」
『あれは失われた技術じゃ……。古代エルフの錬成技法はもう失われておる。ないものは作れん。それが世界の理じゃからな……』
 確かに古代エルフの秘術だと見たような気がする。ジョブではない錬金術で最高の鎧が製作できるのなら、越後屋やココといった生産職は必要ない。ゲーム内設定が反映されているのだから、恐らく錬金術では+5程度までしか付加できないのだろう。

「じゃあ、やっぱ錬金術はアクセサリー専門ってことか……」
『婿殿、もう止めてくれ! もう限界じゃて!』
 リナンシーに構うことなく諒太は錬成を始める。今度はリングに挑戦するつもり。微々たるものとはいえ、少しでも強くなれるように。諒太自身が使う指輪を錬成していく。

「属性効果とかいけるか? 火をイメージして……」
 あわよくば火属性効果まで付与してやろうと、諒太はイメージを明確にする。燃えたぎる炎とそこから生み出される赤いリング。それを装備し戦っている場面を想像していた。

『や、やめ……ろ……』
 リングに反映されるかどうかは分からなかったけれど、リナンシーがダメージを受けているようなのでやり方は間違っていないはずだ。
 ならばと諒太はありったけの魔力を注いでいく。

「錬成!!」
『ぎゃああああっっ!!』
 既視感を覚えるような絶叫が轟き、周囲はソラを錬成したときのような輝きに包まれた。
 この反応だけでやってしまった感がある。
 生み出されるそれは間違いなくロークアットを怒らせてしまうだろうと。とはいえ自分で使用するつもりなのだからと、諒太は言い訳を呟いている。

『リョウは錬金術がLv22となりました』

「えっ……?」
 驚いたのは熟練度アップの通知ではなく、輝きの中から現れたリングが理由だ。
 黒い下地に上部が赤く煌めくリング。それはまさにイメージ通りであったけれど、リングの性能は諒太の予想とまるで異なっていた。

【焔のリング】
【レアリティ】★★★★★
【効果】
・DEF+10
・火属性攻撃+30%
【付与スキル】
『精霊王の加護』イフリート召喚(使用不可)

 息を呑むしかない。想像以上の性能に諒太は首を何度も振るだけだ。
「イフリートの召喚って……」
 付与スキルにある『精霊王の加護』。それは明らかにイフリートを召喚するスキルであるが、どうしてか使用不可となっている。

「どういうことだ? 今はまだ俺のステータスが足りない?」
 使用不可について考えられることはステータス不足が主な原因だろう。アルカナの世界を引き継ぐセイクリッド世界はゲームの理に縛られているけれど、仮に実装前であろうと使用には問題がない。考えられる原因が多くあるとは思えなかった。

 リナンシーは沈黙している。恐らくは、この錬成で尽き果てたのだろう。聞きたいこともあったのだが、とりあえず諒太はアトリエに並べる商品を作っていく。

 もうすぐ日が沈む。黄昏時の空は鮮やかなグラデーションを映し出していた。赤から闇へと。
 それはまるで諒太が錬成したリングのようであった……。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...