幼馴染み(♀)がプレイするMMORPGはどうしてか異世界に影響を与えている

坂森大我

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第四章 穏やかな生活の先に

制約違反

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 利子を払えなかった諒太。奴隷オークションを経て、ロークアットの奴隷となっていた。
 都市国家アルカナからポータルにてエクシアーノへと戻り、聖王城へと連れられている。

「お母様、只今戻りました……」
 警護兵をつけていなかったから、ロークアットの独断かもしれないと考えていたけれど、諒太を待っていたようなセシリィ女王を見る限りは彼女も同意していたのだろう。

「うむ、よくぞ落札した。リョウは庇護せねばならん存在だ……」
 連れられたのは謁見の間であったけれど、セシリィ女王陛下と側近らしきエルフが一人いるだけであった。
 どうやら人払いがされたあとのよう。流石に一千万ナールという大金を奴隷に使ったなど公にできるはずもない。

「陛下、彼が勇者ということでしょうか?」
 側近らしき男が問う。ステータスを覗くと、彼は聖王国の国務大臣であるらしい。
「ウルナット、私の話を疑う気か?」
「ああいえ、そんなつもりはございません。ただ一千万ナールという価格に相応しいのかどうかと……」
「ウルナット国務大臣、お言葉ですが皇国の姫君と競り合った結果です。皇国も価値を見出していたからこその落札金額であります。最初から高額であったわけではございません」
 大臣はウルナットというらしい。彼は側近中の側近とのことで同席を許可されている。今後の対応について協議するため話し合いに加わっていた。

 諒太とソラをそっちのけで三者の会話が続く。それは言うまでもなく一千万ナールという奴隷の使い道について。

「オークションの公表では魔法が使えぬとあります。ならば魔法兵団に組み込むのは難しいですね……」
 ウルナットが資料を手に言うと、クックというセシリィ女王の笑い声が響く。

「ウルナットよ、その資料は能力のない人間が作った偽物だ。該当適性が対象者から遥かに劣ると、誤った鑑定結果が出てしまうのだ。リョウはどちらかといえば魔道士。剣術にて不死王を屠る腕前はあるが、歴とした大魔道士だよ。倒壊した魔道塔については知っているだろう? あれはリョウの魔法によるものだ」
 即座にウルナットの視線が諒太に向けられる。鎧を着込む諒太をマジマジと見つめ、何度も首を傾げていた。

「まあそう疑うな。リョウはどのような仕事もこなすだろう。だが、給金は百万だからな。それなりの地位を与えねばならん。まずは魔法兵団の兵団長に任命してみるか……」
 魔法兵団は聖王騎士団に組み込まれる軍勢である。
 現状の聖王騎士団長は世界線の影響がなければ、ソレル・ネオニートであるはず。また聖王騎士団を取り纏める総大将がロークアットであり、女王が話す役割であれば、諒太はソレルの部下ということになった。

「しかし、人族の団長を魔道士たちが納得するかどうか……」
「それは問題ございませんわ。リョウ様であれば直ぐに実力を認められるかと。わたくしは直に伝説級の魔法を拝見しましたが、あれを受けて無事である者が存在するとは思えません」
「ローアのいう通りだ。皇国との和平交渉に同席しなかった貴様が文句を並べるべきではない。勇者リョウという存在は皇国も認めていることであり、リョウの後ろ盾はリナンシー様なのだからな」
 ウルナットは急すぎた和平交渉に参加していない。事前に送られた親書を改めただけであり、即座に使者が来るなど考えていなかったのだ。
「申し訳ございません。西部の視察中でしたし、使者も皇家の者ではないようでしたので……」
「まあいい。とにかく我々は他国に落札させるわけにはならなかった。リナンシー様の加護を受けるリョウは今や皇国をも恐れさせる存在。従って一千万ナールは和平交渉を優位に進めるための投資にすぎない」
 セシリィ女王の話にウルナットは頭を下げていた。妖精女王の名前まで出てきては、もう否定などできない。皇国と競り合った結果の一千万ナールは諒太にその価値があったからこそである。

 どうやら諒太の所属は魔法兵団となる模様だ。諒太としてはどのような仕事でも請け負うつもりであるが、不安がないわけではなかった。
「すみません。俺はSランク魔法を二つ持っていますが、Aランク魔法を持っていないのです。魔法兵団では正直に舐められるんじゃないかと……」
 口を挟んだ諒太に反応したのはまたもウルナットである。リョウの話が真実であれば看過できないといった風に。

「リョウと言ったな? 伝説級の魔法を二つも持っているというのに、Aランク魔法が使えないだと?」
 Aランク魔法の使い手は少なかったけれど、それでも高位の大魔道士であれば少なからず操れた。それを大魔道士を名乗る者が持っていないだなんてウルナットには理解できない。

「リョウ、それは本当のことか? 詠唱不可というわけではないのだろう?」
「スクロールを持っていないだけです。スクロールさえあれば問題ありません」
 諒太の話にセシリィ女王は眉根を寄せた。それはそのはず、Aランクスクロールは存在自体が稀なのだ。唱えられる者は生まれつきAランク魔法を覚えている。それがセイクリッド世界の常識であった。

「Aランクスクロールは神の祝福以外で手に入れるのは困難だからな。ドロップアイテムとして見つかる可能性があるとはいえ……」
「えっと、その神の祝福って何でしょうか?」
 イマイチ判然としない話に諒太が問いを投げる。神の祝福がスクロールとどういった関係を持つのかと。

「うむ、実をいうとAランク魔法を操る術者は生まれ持って習得している場合が殆どなのだ。全ては神が定めたまま。術者によって差はあるが、成長の過程で神よりスクロールを授かるのだ。つまり、所有者が確定していないスクロールなど基本は存在せぬ」
 セシリィ女王が言うには、上級スクロールは神が使用を許可した者にのみ現れるという。術者が成長し、資格者が唱えられるようになるとスクロールは自然と手に入るらしい。恐らくは詠唱可能になるレベルまで与えられないのだろう。

 その話は諒太にも経験があった。勇者専用魔法であるリバレーションを無理矢理に詠唱したとき、彼はアイテムボックスにスクロールを見つけていたのだから。

「暗黒竜の封印前には聖王城にも伝説級スクロールがあったのだが、もうそれはここにない。ローアが迷子になった折、発見した褒美として冒険者に下賜してしまった」
「お母様、わたくしは迷子になどなっておりません!」
 セシリィ女王の話にロークアットが怒気を含んだ口調で返す。
 ロークアットは否定しているが、迷子の話は以前にも聞いた。確か異なる世界線。リナンシーが王国と聖王国の戦争を仲裁したときだ。
 さりとて諒太は口を挟まずにいた。奴隷であるのだし、脱線話を続ける必要もなかったからだ。
 
「基本はドロップさせるのは分かっていますが、生憎と俺は幸運値が低くて……」
「なるほどな。ならばマヌカハニー衛士隊の隊長ならどうだ? リョウは剣術も超一流だろう?」
 ここで妙な単語が飛び出していた。明らかにゲーム世界から引き継がれたような部隊名。
 当然のことながら、諒太はマヌカハニー衛士隊なる組織について初めて聞く。そもそもスバウメシア聖王国軍の序列に関しては最高司令官である総大将ロークアットと聖王騎士団長しか知らない。
 聖王騎士団長は三百年前に勇者ナツが引き受けた役割であり、今現在はソレルが担っているものだ。

「マヌカハニー衛士隊とは何でしょう?」
「元は民間の組織であったのだがな。かつては勇者ナツ様も所属しておられた。ルイナー封印後に名を引き継ぎ、聖王国の騎士団に組み込まれたのだ。元のクラン名は……」
 ここで飛び出す夏美の名前。やはり世界観をぶち壊すのは彼女であるらしい。
 驚く諒太に構うことなく、セシリィ女王が続ける。その組織が何であるのかを。

「マヌカハニー戦闘狂旗団――――」

 諒太にはまるで分からなかった。数ヶ月前に夏美が所属していたクランはそのような名称ではなかったはずだし、それは攻略ページなどにも名前がない無名のクランであるように思う。

「マヌカハニー戦闘狂旗団を聖王国は囲い込んだ。解散させるには惜しいクランであったからな。ただ意味合いは大きく変わった。彼らは戦闘集団であったけれど、聖王国軍では大盾部隊を請け負ってもらったのだ。聖王国軍は遠距離攻撃部隊が主であるから、詠唱時の隙を突かれると脆い。よって大盾を持つ部隊が前線に立つようになった。特にドワーフが相手であれば大盾部隊は必須となっている……」
 そういえばアクラスフィア王国への進軍には見なかった部隊だ。ドワーフが相手でなくとも、進軍に加わるべきかと思う。

「どうしてドワーフ対策のみなのです?」
「大盾は攻撃に対して有効ではあるのだが、何しろ重すぎる装備であり、進軍には向かん。アイテムボックス持ちでもなければ、邪魔になるだけだ。従ってマヌカハニー衛士隊は防衛専門の部隊となっている」
 ようやく理解する。基本的にアイテムボックス持ちは強遺伝子と呼ばれるプレイヤーの子孫しかいないはず。従って持ち運びが困難な大盾部隊は防衛専門としているらしい。

「じゃあ、俺はそこで結構です。それでソラは何をすれば良いのでしょう?」
「ふむ、ソラとやら何ができる?」
 ここでソラに質問が向けられた。諒太が従魔を持っているなんて女王は知らなかったはず。ロークアットですら知らぬ話であって、無理もない質問である。

「ワタシは回復ができます。魅了も使えますね。何しろワタシはエンジェル・ローズ・ヒッ……」
「わぁぁっ! ソラはエンジェルなのでキュアと状態異常を回復できます!」
 女王の前でエロ尻と口にするのは絶対回避だ。その場で斬り捨てられてもおかしくない。間違いなく不敬罪となるだろう。

「あと冒険者ギルドで給仕の仕事や掃除なども請け負ったそうです。診療所の手伝いもしたと聞いています!」
「ならばメイドとして働いてくれ。給金はリョウに与えるが構わないか?」
「もちろんでございます! ワタシはマスターに尽くす愛の奴隷。奴隷となったマスターよりも、更に下にある存在です。従ってピンヒールで踏み付けられたり、緊縛されたりも辞さぬ考えです!」
「う、うむ……。期待している」
 不安しか覚えないが、ソラは一人でギルドの依頼をこなしていたのだ。セイレーンの特性に目を瞑れば、メイドくらいは務まるだろう。

 このあと諒太はロークアットの部屋に招かれていた。少しばかり雑談をしていたから、もう既に夜の十時を回っている。オークションから一時間以上が過ぎていた。

「リョウ様はこれからどうされます?」
「ああ、一応は帰るよ。明日また戻ってくる……」
 言って諒太はメニュー画面を開く。だが、思いも寄らぬことになった。
 ログアウトしようとしただけであるというのに、諒太はログアウトできずにいる。
 呆然とする諒太。彼は視界に流れるメッセージを眺めているだけだ……。

『制約違反です――――』
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