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第三章 希望を抱いて

オークション概要

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 ログアウトをする前に、諒太は参加するオークションを選ばなければならない。グインからもらった用紙を片手にベッドへと腰掛けている。

「さてと、夜の開催は……」
 ずらりとオークション開催予定が羅列してあった。本日より一週間以内に諒太はどこかのオークションで落札されることになるのだ。

「基本は一日三回なのか……」
 開催は昼の十二時と夕方四時、それに夜の九時と三回しかない。恐らくゲーム中の開催時間と同じであり、プレイヤーが参加しやすい時間帯となっているのだろう。

「ま、明日の夜でいいか……」
 賑わうのは夜とのことで、諒太は参加するオークションを明日の夜九時に決めた。ゲームであれば明日は祭日であって、昼でも参加者はいただろうけれど。

「すみません! 希望を伝えたいのですが!」
 諒太が大きな声を出すと、カツンカツンと廊下を歩く音が近付いて来た。先ほど収監されたばかりだが、諒太の牢獄は再び開かれている。

「早いな。じっくり考えても良かったのだぞ?」
 扉を開けたのはグインであった。彼は笑みを浮かべながら諒太を諭すようにいう。
「いえ、どうせ一緒ですし、明日の夜九時でお願いします」
「ふむ。了解した。君の情報を読み取るので、この水晶に手をかざしてくれ」
 オークションとは入札者が競い合うもの。奴隷に興味をもってもらうために、情報の公開は必須であろう。

 言われた通りに諒太は手をかざす。すると水晶が輝きを放った。諒太は何もしていないので、恐らくはグインが何かしらしたのだと思われる。

「よし問題ない。この情報を世界各国の主要機関に流す。興味を持つ富豪が現れるといいな?」
 グインは笑顔のままだ。きっとその笑みは借金奴隷を落ち着かせるためのもの。奴隷としては泣きたくなるような状況なのだから。

「あ、そういえば俺には従魔がいたのですけど……」
 有無を言わせず連行された諒太。ソラがどうなってしまったのか気になっている。
「ソラ君だね? 彼女は念のために従魔契約を確認させてもらっている。もちろん、君の従魔としてオークションにはセットで出品されるよ」
 分かっていたことであるが、奴隷はやはり商品であり、人格を持つ者ではないのかもしれない。出品との言葉には苦い顔をするしかなかった。

「私としてはかなりの額になるんじゃないかと考えている……」
 ふとグインが続けた。Aランクの魔物がセットだからだろうか。経験から彼は高額が期待できると言った。

「どうしてです? 従魔はやはり人気なのでしょうか?」
「それも要素の一つだが、君の抱える借金がその理由だ……」
 グインの話はまるで理解できない。借金が多ければ高額になる理由が諒太には分からなかった。

 小首を傾げる諒太にグインが続ける。
「もちろん君の能力があってこそだが、借金が二百万ナールだなんて途方もない金額だろう? 借金が高額だと長く雇える。借金奴隷の落札者は例外なく大富豪だからね。彼らは高額の給金を払い続けることが可能なんだ。しかし、せっかく落札したとして数ヶ月で解放となっては流石に面倒だろう? 再びオークションで競り合わなきゃいけなくなる」
 借金が巨額であることが、落札者の安心感に繋がるらしい。長期的な雇用が確定している諒太は手を挙げやすい商品に他ならないのだと。更には従魔まで使えるのだから割安感すらあるという。

「俺は早々に解放されたいですけどね?」
「ふはは! 流石にそれは無理だ。前例から考えて、恐らく君には八十万ナールくらいの入札があるだろう。であれば月の給金は八万ナール。雇用者は二年以上も君たちを利用できることになる。費用としては決して高くない」
 諒太には手が届かない金額だが、出せる人には出せるのだろう。
 確かに越後屋は装備品の加工に五十万ナールを受け取っていたし、上位の生産職であれば何の問題もないのかもしれない。

「通常の借金奴隷はどれくらい借金を抱えているものなんですか?」
「まあ普通は四十万ナールまでだ。流石に百万を超える借金は見たことがない。何しろ、それだけ借りられるという信用がないと借金は成りたたないからな」
「じゃあ、普通の落札金額はどうなんです?」
 ここで質問を変えてみる。完全に興味本位であったのだが、グインは面倒がることなく諒太の質問に答えていた。

「実をいうと基本的に開始価格は三十万からなんだ。それは保証預かり金でもある。借金奴隷には一応人権があるからね。万が一、雇用者が死亡させてしまったりすれば、この保証金は返還されない。酷い怪我を負わせてしまった場合は減額となる。まあつまりどのような奴隷でも、最低三万の給金が保証されているんだ。借金が三十万なら十ヶ月で返済できるんだよ」
 三十万の保証金が返ってくるという話であれば、確かにそれほど高くないような気もする。無論のこと奴隷の能力次第であるけれど。

「てことは俺自身に対して五十万ナール以上の投資をしたいと思う富豪が現れると?」
「まあ現れるよ。君は生産職の適性が高いと出ているし、錬金術の経験もあるようだ。即戦力が期待できる人材であれば、皇国の生産者組合が無視するはずがない。必ず入札してくると思うよ」
 自信満々にグインが言った。夏美も話していたが、往々にして生産職が落札する感じらしい。

 頷く諒太だが、疑問がないわけではなかった。彼がどこまで能力を見たのか、どうしても知りたくなっている。
「グインさん、俺の能力についてどれくらい分かるのでしょう? よければ教えてもらいたいのですけれど……」
「ふはは、抜け目ないね? まあ確かに適性を調べるには金がいるからな。まあ良いだろう。明日は面白いものが見られそうだし、特別サービスだ」
 意外にも断られることなく、諒太の要望は受け入れられていた。彼は水晶にて見た結果を教えてくれるという。

「まず前衛戦闘員適性。君は借金奴隷だから別に必要のない項目なんだけど、いざというとき戦えるかどうかは必要な情報なんだ。これはS判定がでている。Aランクモンスターを使役していることも、二百万ナールという大金を借りられたことも、全ては君が強者である証明だね」
 どうやら数値として分かっているわけではなさそうだ。ランク分けされた一覧が公開されると考えて差し支えないだろう。

「次に戦闘魔法適性。残念だが、これは適性外だろうね」
「え!? 俺に魔法適性がないのですか!?」
 あり得ない話である。どちらかと言えば魔法使いであるというのに、グインは諒太に適性がないという。

「残念だけど、私の判定魔法には何も表示されなかった。戦闘魔法の素質は皆無といえるだろう……」
「判定魔法ですか?」
 知らないことばかりだ。思わず諒太は質問攻めをしている。詳細を聞く機会はそうそうないはずで、彼はグインが許す限り聞きたいと思う。

「判定魔法は無属性魔法だからね。錬金術もこの無属性魔法の括りだ。無属性魔法は魔法というよりスキルに近いものだよ」
 なるほどと返すだけ。そういえば商店に無属性魔法のスクロールは売ってないし、ドロップしたこともない。グインが話す通りにスキルに近い魔法なのだと分かる。

「君の付加価値としてテイマースキルがある。現にAランクのエンジェルを使役しているのだから、気に入る落札者もいるはずだ。だからこそ、つり上がると考えている。保証金の三十万以上が我が国の収益となるんだ。明日はしっかり稼がせてくれよ?」
 ハッハと乾いた声で笑うグインは職務であるというのに、本当に楽しそうである。競い合い価格が上がっていく様子を彼は望んでいるはず。恐らくは担当として落札金額が高騰すれば彼の評価となるのだろう。

 嘆息するしかない現実。しかし、諒太は切り替えていた。今さらどうにもならないのだと……。
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