幼馴染み(♀)がプレイするMMORPGはどうしてか異世界に影響を与えている

坂森大我

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第三章 希望を抱いて

タイムリミット

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 ジャスミス大鉱山に戻ってきた諒太。まさかここで再び採掘をする日が来ようとは考えもしていないことであった。

 現金がないために諒太はギルドカードを提示し、入山料の1500ナールを支払う。
「土竜叩きの採掘効果(大)だけが頼りだ……」
 マトックはレンタルせず、諒太は土竜叩きを担いで鉱山へと入っていく。入山料1500ナールを支払ったため、残りはちょうど三万ナールだ。それは利子を支払う意味合いしかなかったけれど、奴隷落ちを避けるには零時までにギルドカードへと入金しておかねばならない。

「親はもう出かけたんだ。夕飯は露店で買ったパンだけですまそう」
 採掘途中にログアウトしたり、転移したりすると買い取りが半額になってしまう。だからこそギリギリまでダンジョンに籠もるつもりだ。両親は空港へと向かったことだし、ログアウトする必要はなかった。

「これで貯めなきゃいけないのは三万ナール。ソラの報酬を当てにしすぎるのは良くない。俺自身が最大の運を発揮するっきゃねぇ……」
 諒太は最下層へと進む。道中の雑魚はまるで相手にならなかった。熟練度の低い打撃であったけれど、何の問題もない。

 ボス部屋の大扉前。夏美が話していたポイントである。アダマンタイトの確率はともかくとして、ミスリルの採掘に適しているらしい。

「よっしゃ! いくぞ!」
 諒太は採掘と心に念じる。するとスキル的に身体が反応。嫌がらせかと思うほど、ゆっくりとしたモーションにて土竜叩きが振り下ろされている。

 諒太は言葉を失っていた。なぜなら飛び散った岩の中に白銀の鉱石が転がっていたからだ。それは期待したミスリル鉱石に他ならない。

「マジか!? 採掘効果(大)いけるんじゃね!?」
 幸先の良いスタートに諒太は張り切っていた。けれど、そのあとは鉄鉱石ばかりが手に入る。持ちきれなくなった鉄鉱石を捨て、ミスリルとアダマンタイトのみを掘り当てようとしていた。

 四時間が経過している。ダンジョンを徒歩にて戻ることを考えれば、そろそろ限界であった。
 現状、ミスリルは合計五個。鉄鉱石はアイテムボックスに入るだけを入手していたけれど、鉄鉱石の買い取り価格は鉱山価格でも10ナールにしかならないのだ。金策にて鉄鉱石はゴミ同然といえた。

「今、戻っても意味はない。だったら掘り続けるしかねぇ……」
 戻ったとして足りないのは明白。ならば掘り続けるしかない。半値になったとしてアダマンタイトは二万五千の買い取りである。一時間を採掘に費やし、リバレーションにて冒険者ギルドへ飛び込むことこそが正解だと思う。

「半値の一般買い取り価格だとして、アダマンタイトを一つ掘り当てたら、現状でも27500ナールになる。一時間あればミスリルも一つは出るだろうし」
 捕らぬタヌキのとはいうけれど、諒太のはまさにそれであった。アダマンタイトは夏美ですら三個しか手に入れた経験がないものだ。それを一時間で掘り当て、尚且つミスリルまで採掘しようだなんて虫のいい話である。

 だが、諒太は本気だった。既にアダマンタイトを手に入れるしか奴隷回避の方法はない。アダマンタイトさえ手に入れば、諒太にはまだ望みがあるはずだ。

 このあとも諒太は懸命に採掘を続けた。零時まであと五分。もう幾ばくも時間がない。零時までに査定をしてもらって、ギルドカードにプールしなくてはならないというのに。
 この一時間でミスリルは一個手に入れていたけれど、諒太が望むアダマンタイトはまだ一つもなかった。

「採掘!」
 最後まで足掻いてやろうと思う。諒太は勇者であり、諦めても良い立場ではない。最後の一分になろうとも採掘を続けなければならなかった。

「頼む!」
 次の瞬間、振り下ろされた土竜叩きがキーンと甲高い音を上げた。
 これは今までにない反応である。通常であれば鈍い音が響くだけだが、この度は硬い何かを叩いたかのような手応えがあった。

「マジか……」
 足下には黒光りする鉱石が転がっている。色は似ていたけれど、仄かに煌めく鉱石が鉄鉱石であるはずがない。

 恐る恐る拾い上げてみると、それは諒太が待ち望んだものであった……。

【アダマンタイト鉱石】

 ゴクリと息を呑むも、諒太は透かさずリバレーションを唱える。あと四分で入金してもらわねば意味はないのだと。

 ギルドの裏手へと転移し、直ぐさま駆け込んでいく。
 即座にカウンターへと鉱石を並べ、怒鳴るように諒太は言った。
「これを買い取って、早く入金してくれ! もう時間がない!」
「は、はい!」
 アーシェが奥の部屋へと入っていく。あとまだ二分ある。鉱石の査定は価格が決まっているのだ。従って諒太は間に合うと考えていた。

「マ、マスター?」
 気付けば隣にソラがいた。彼女は依頼をこなしたあと諒太を待っていたらしい。
「ソラはどれだけプールしてくれたんだ!?」
 彼女の肩を掴み、諒太が聞く。ソラが十分な金額を貯めてくれていたのなら、恐らくは大丈夫だろうと。

「1800ナールです……」
 諒太は眉根を寄せる。確かそれくらいあれば利子には足りるはず。
「えっと、アダマンタイトが25000。ミスリルが六個で3000。残りが30000ナールだから……」
 諒太は指を折りながら数えている。利子として支払う金額に届いているのかどうかと。

「あと二百ナール足りない……」
 こうなると鉄鉱石の買い取りにかけるしかない。鉄鉱石は半額で5ナール。しかし、四十個あれば利子を払い終えることができる。

 あと一分というところで、アーシェが戻ってきた。
 諒太は割と緊張していたけれど、アーシェは笑顔である。その表情から利子の返済分に届いていたのだと分かった。

「リョウ君、お疲れさま! わたしは本当に心配してたんだよ?」
 今となっては笑い話だ。安堵するアーシェに諒太はようやく第一関門を突破したのだと実感が湧いていた。

「本当にヤバかった……。明日からは元本も返すつもりで頑張るよ」
「余裕を持って返済してよね? とりあえずご褒美として、素敵なレストランでの食事を……。ご、ご馳走しちゃおうかな……って?」
 割と勇気を要したのだろう。アーシェの目は泳いでいる。またフレアに釘を刺されていた諒太は二つ返事で答えるべきかどうかを考え込んでしまう。

 諒太が返答に困っていると、不意にギルドの扉が勢いよく開かれた。
 何事かと振り返る諒太。すると物々しい鎧を身を纏った衛兵らしき男たちが入り口から入ってくる。だが、兵にしては種族がバラバラで、彼らのパーティーは人族にドワーフ、エルフという変わったものだ。また彼らは真っ直ぐに受付カウンターへと向かっていた。

 あまりの勢いに諒太は道を空けるようにカウンター脇へと移動。しかし、彼らは真似たかのように諒太の方へと向かう。

 明らかに目が合った。どうやら彼らは諒太に用事があるらしい。
「えっと……、何かご用ですか?」
 恐る恐る尋ねてみる。面識などなかったから、小首を傾げながら。

「君がリョウだな?」
 頷く諒太に先頭に立つ男が手を差し出す。何だかよく分からないが、諒太は握手かと思い、その手を取ろうとする。
 このあと思いもしない話を聞かされてしまう。諒太は想定外の話を聞かされていた。

「君を借金奴隷として拘束する――――」

 思わず目が点になってしまう。諒太は間に合ったはず。だから困惑するだけで、何の返答もできないままだ。

 必要な残高はあと三万ナールだった。鉄鉱石を含めなければ、残りはあと200ナールであったはず。また鉄鉱石の買い取りを含めた金額はアーシェが入金してくれており、その彼女が笑顔なのだ。だから、間違いなく利子分には足りていただろうし、諒太の入金額は三万ナール以上あったはずだ。

「リョウ君は利子分をプールしています! 残金は十万ナールあるはずです! ちゃんと調べてください!」
 声を荒らげたのはアーシェである。彼女自身が入金手続きをしたのだ。だからこそ拘束される筋合いがないことを理解していた。
 ところが、諒太は知らされてしまう。アーシェの勘違いを。自らの説明不足について。

「リョウ君は先ほど29990ナールも入金したのですよ!?」

 アーシェの声に唖然とする諒太。確かにギルドを出る前は28500ナールが足りない金額であった。けれど、入山料に1500ナールをギルドカードで支払ったのだ。故に残りは三万となり、諒太は三万ナールを入金しなければ、プールされた金額が十万に届かない。

 アーシェに説明していなかった諒太。彼女の話に奴隷落ちの理由を知る。
 諒太は鉄鉱石二つ分という、たった10ナールに泣かされることになった……。
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