幼馴染み(♀)がプレイするMMORPGはどうしてか異世界に影響を与えている

坂森大我

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第三章 希望を抱いて

今後の見通し

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 大の字になって寝転がった諒太。しかし、幾ばくもせぬうちにソラが話しかけてくる。

「マスター、剥ぎ取りはしないので?」
 そういえば休んでいる暇はない。間違っても諒太はレベリングに来たわけではなかった。
 ソラの声に飛び起きて、超大土竜へと歩み寄る。

「やべー、早くしないと……」
 剥ぎ取り部位は分かっている。よって諒太は真っ直ぐに右前足の爪にナイフを入れた。
 かなり皮膚が固いけれど、急がねば超大土竜が消失してしまう。力任せに諒太は親指の爪を剥ぎ取っていく。

「何とか間に合った……」
 息切れしたままであったが、何とか消失に間に合っていた。諒太が剥ぎ取りするや否に、消えていく様を見ては安堵の息を漏らす。
 流石にへたり込む。もう急ぐ用事もないだろうと。しかし、座り込んだ諒太に、ソラが再び声をかけている。

「マスター、宝箱は?」
 妙な話に眉根を寄せた。かといって聞き捨てならない内容だ。諒太に限ってあり得ないことであるのだが、振り返らずにはいられない。

「えっ……?」
 そこにはソラが話すように宝箱があった。しかも金色に輝いている。そのエフェクトは生涯見るはずがないと考えていたものだ。諒太には縁がないはずの演出である。

「レア確定じゃないか……?」
 宝箱が輝く演出はSランクかAランクのドロップが決定している演出であった。宝箱自体は赤地に金枠という同じ見た目であったのだが、明らかに発光している。

「雑魚のハズレでかなりの補正が入ったのか……」
 かなりの土竜を倒したけれど、宝箱は一つもない。どうやら最後の最後に補正が働いたようだ。
 これならばド外れを引く可能性はない。何らかのレアアイテムが手に入るはずだ。
 過度に期待をしながら、諒太は宝箱に触れる。
 いつもより激しい光を放ちながら、宝箱が開いていく。視界が回復していくごとに諒太の鼓動は高鳴っていた。一体何が飛び出してくるのやらと。

「あ……?」
 宝箱が消失したあと、残ったのは鎚であった。打撃武器なのだろうか。黒っぽい柄と頭を持ち、頭の両端には棘のようなものがある。

【土竜叩き】
【重鎚・打撃】
【ATK+90(補正+100)】
【AGI-20】
【レアリティ】★★★★★
【甲殻特効】50%
【竜種特効】30%
【備考】採掘効果(大)

 ネーミングは兎も角として、その性能は抜群だと思えた。補正から考えるに、やはり超大土竜はLv200。最強クラスの亜種を引いてしまったらしい。

「モグラ叩きって……」
 ふと思い出す。そういえば諒太は打撃スキルを獲得していたこと。プレイし始めた初日にホーンラットを杖で倒したときだ。確かに諒太は打撃スキルを習得していた。

「勇者に相応しい見た目とは思えんが、性能はピカイチだな。こうなると無双の長剣に竜魂を錬成したのは勿体ない気がする。更なる特効効果が見込めたのに……」
 かといってドラゴンゾンビとの一戦は錬成なくして勝利などなかった。使いそびれて死ぬことを考えると、絶対に間違いではない。

 早速と装備してみる。重そうな見た目ではあるが、軽く振り回せていた。素早さが-20であるのは仕方ないけれど、十分に扱えそうな感じだ。

「これはナツに自慢するっきゃねぇな……」
 久しぶりにマウントが取れるような気がしている。さりとて夏美もまたドラゴンスレイヤーなる素敵装備を手に入れたところだ。カッコ良さでは確実に劣ってしまうだろう。
 とはいえ戦利品まで手に入ったのだ。諒太は重く感じる身体を無理矢理に動かし、立ち上がっている。

「ソラ、街に戻るぞ。頼む……」
「マスター、了解しました」
 ソラがいて本当に良かったと思う。変態天使であったけれど、彼女がいなければ確実に死んでいたのだ。テイムの特性も理解できたし、この度のクエストは収穫ありすぎだと感じてしまう。

 ソラに運んでもらい諒太は地上へと舞い戻る。大きく陥没した畑を見ると申し訳ない気持ちになってしまうが、元より崩落は避けられなかったのだ。ただし、それと引き換えにほぼ全ての土竜を退治できたはず。

「デネブさん!」
 大穴を眺めていたデネブに諒太が声をかける。流石に彼は驚いていた。まさか諒太が生きているなんてと。

「おお! 生きておったのか!? 畑の地下はとんでもないことになっていたんだな?」
 デネブは大穴について咎めなかった。それよりも彼は頭を下げている。

「大発生の規模を伝え間違えていたようじゃ。すまんのぉ……」
「いやホントに! 千匹はいましたよ?」
 諒太は内部の様子を伝えた。ほぼ全てを倒したけれど、何匹かはまだ残っていること。更には超大土竜という強敵がいたことについて。

「むぅ、本当か? よく無事に戻ったな? 君が失われていたら賠償請求をギルドから受けるところじゃったわい!」
「普通の冒険者なら不可能かもしれません。また異常繁殖したのならお知らせください。俺が責任を持って駆除しますので!」
「そういってくれると有り難いの。お前さんが来てくれて本当に助かったわい。まさか底が見えんくらいのコロニーになっているなんて……」
 今も大穴を見つめては何度も頭を振っている。大規模なコロニーなのは分かっていたとして、千匹という災害レベルだとは今でも考えられないようだ。

「俺はギルドに報告してきますので。殲滅したわけではないので、気を付けてください!」
「了解した。小さな個体であれば従魔でなんとかなる。リョウ、本当に助かったよ」
 言って諒太はデネブと別れた。ソラに抱えられたまま大空へと飛び立っていく。
 今もまだ息切れがする。早めにポーションを飲まないことにはまた危機的状況に陥ってしまうはず。さりとて、ここはアクラスフィア王国内。王都センフィスも近いこの地で強大な魔物に出くわす可能性は低い。

 センフィスに戻ると諒太は真っ先にギルドへと向かう。まずは換金しないことにはポーションすら買う余裕がないからだ。
「リョウ君!」
 リョウの姿を見るや、アーシェが声を上げた。本当に心配していたのだろう。両手を顔に当てて彼女は震えている。

「おおリョウ、早かったな。しかし、ボロボロじゃないか。大丈夫なのか……?」
「それより早く換金してください。大丈夫じゃなくて、死にそうなんです!」
 諒太は直ぐさま土竜の爪を取り出して並べた。特大が一本に大が三本、あと中を七本取り出してカウンターへと置く。
「んん? これだけか? 確か百匹はいると聞いていたのだが……」
 諒太は事情を説明した。本当は千匹からいたこと。強大な魔法で焼き尽くすしかなかったこと。果てには超大土竜が出たという話を。

「それでこれが超大土竜の爪なんですが……」
「おっきい! リョウ君、この魔物を倒しちゃったの!?」
 超大の爪は特大など目じゃない。爪だけで3メートルはあろうかという巨大さであった。
「これは何とも。流石はリョウだな。他の冒険者に勧めなくて良かったよ。報酬の上乗せが必要だろう」
 少し待てとダッド。どうやら彼は大臣と掛け合ってくれるつもりのよう。金欠である諒太としては有り難いところだ。

「リョウ君、これ飲む?」
 待っている間、どうしてかアーシェがポーションを出してくれる。息切れしている諒太を見かねたのかもしれない。

「エクストラポーションじゃないか? こんなに高級なのもらえないよ!」
 エクストラポーションは一つ五千ナールもする。体力を全回復させられる上に軽度な状態異常まで回復させられるという逸品だった。
「いいの。職員割引で買えるし、髪留めをもらったでしょ? そのお返しだから……」
 それは間違いなく嘘である。諒太が危険な依頼を一人で受けたことで用意してくれたはず。何しろ髪留めは五百ナールもしない安物なのだ。

「すまん。借金を払い終えたら、何かおかえしするよ」
「じゃあ、また飲みに行きましょ? 今度は酔い潰れないから!」
「本当かぁ? もうフレアさんに怒られるのは懲り懲りだぞ?」
 笑い合う二人。流石に疲れ果てていた諒太はアーシェの気遣いを素直に受けた。直ぐさまエクストラポーションを飲み干している。

「ああ! 回復した! ありがとうアーシェ!」
「頑張って! リョウ君が奴隷なったら大変だし。わたしじゃ落札できないもの……」
 再び二人は大きな声で笑う。それは本当に切実な問題であったけれど、命の危機と比べれば大した問題ではない。犯罪奴隷が何を命令されても断れないのに対して、借金奴隷は無茶な命令を拒否する権利が与えられているのだから。

「リョウ、大臣は増額に承諾してくれたぞ!」
「本当ですか!?」
 願ってもない展開となっている。これならば利子の支払いに希望が繋がるはず。

「ただ、現地調査をしてからだそうだ。本当にそれだけの土竜がいたのかを確認するらしい。超大土竜の爪に関しても確認してからになるようだ。現状で支払いできるのは3200ナールだけだな」
 これにはガクリと肩を落とす諒太。利子の支払日は28日である。今日を含めて三日しか残っていないのだ。数万単位の支払いを望んでいた彼は落胆の表情である。

「まあ農耕地は遠くない。確認にはそれほどかからんだろう。仮に千匹の半分でも認められてみろ? 最低の小だけと考えても5万ナールだぞ?」
 そう考えれば気が楽である。千匹という証明はできないけれど、コロニーの規模は間違いなく百匹レベルではない。現地を見てもらえれば、それ以上いたと直ぐに分かるはずだ。

「分かりました。それを当てにしますよ?」
「うむ、問題ないだろう。それで次の依頼だが……」
 ここまでは割と収入が得られた。しかし、ダッドが次に提示したクエストは800ナールの達成金しかない。しかも王都から割と距離があり、時間効率が悪そうだ。

「もっと良い依頼はないのですか?」
「悪いがそんなに報酬が良いものはないな。近場のものは報酬が400ナール程度のものばかりなんだ」
 諒太が勧められたのはDランクの依頼。800ナールであるけれど、Dランクの依頼にしては高い。ハイオークの殲滅依頼ですら600ナールしかなかったのだ。距離的なものもあって増額されているといえた。
「分かりました……」
 諒太は夕飯を食べたあと、四つの依頼を受けた。しかし、合計で2400ナール。採掘と比べれば少しばかり多くなったけれど、ポーションを全て失ったのだ。効率が上がったとは言い難い。

「マズいな……」
 あと二日である。日増しにノルマが増えていく。ノルマ以下の金額しか稼いでいないのだ。徐々に債務不履行が現実味を帯びている。

 奴隷落ちとなる期限が刻一刻と近付いていた……。
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