上 下
134 / 226
第三章 希望を抱いて

予期せぬ展開

しおりを挟む
 土竜が作り出したというダンジョン。ファイアーボールにて崩壊したかのように考えていたけれど、それはほんの一部分でしかないようだ。

 諒太は10頭を狩ったあと、ダンジョンの奥地を当てもなく彷徨っている。
「割と広いな……」
「ワタシはダンジョンに初めて入ったのですが、どうにも恐ろしく感じております。真っ暗ですし、助けを求めようと誰にも声が届かないだなんて……」
 諒太の独り言にソラが返した。彼女は先ほどの土竜殲滅のおかげでレベルが14にまで上がっていたけれど、慣れぬダンジョンに恐怖を覚えているらしい。

「ソラ、大丈夫だよ。俺がいるから……」
「そうだと良いのですが……」
 どうやらソラはまだ諒太の実力に懐疑的な様子。諒太としては安心して欲しいところなのだが、彼女は不安に苛まれている。

「暗がりや人の気配がないこと。もしも襲われたとして、誰も助けに来ませんよ? 良いのですか? マスターはそれでも構わないと仰るのですか?」
 どうも混乱している感じだ。恐怖により精神値が低下すると起きる症状なのかもしれない。

「とても正気ではいられないのです! ワタシは恐ろしいのです!」
 急にソラは声を荒らげた。大袈裟に頭を振る彼女は平静ではないのだと思われる。

「マスターの純潔を奪ってしまいそうな自分がっ!!」
「俺が危ねぇの!?」
 やはり進化元を間違ったとしか思えない。完全なる堕天使を生み出してしまったらしい。
 嘆息する諒太。彼女はエンジェルではあるが、純粋なエンジェルではないと改めて思い知らされている。

「やっぱキューピッドから進化させねぇと駄目だな……」
「お仕置きなら大歓迎です! さあ、この卑しいワタシをぶってくださいまし!」
 空を飛ぶ以外に役に立ちそうもない。凡そ天使とは思えぬ言動には呆れ果ててしまう。

 ソラが騒いでいると、何やら前方から邪悪な気配を感じる。
「向こうからお出ましか……」
 恐らくは餌が迷い込んだと考えているのだろう。家畜をも食べると聞いているし、騒ぐソラの声に惹き付けられたのだと思われる。

【土竜(特大)】
【Lv60】

 現れたのは待ちに待った特大土竜だった。さりとてレベルは60である。今となっては楽勝であるのだが、アクラスフィア王国内としては強敵に違いない。

「マスター!?」
「問題ねぇ。一撃だよ……」
 言って諒太が斬り掛かる。スキルも何も必要ないのだと。かつて苦戦したリトルドラゴンよりも弱い魔物に諒太が負けるはずもない。

 ところが、諒太はすっかり忘れていた。

『稀に毒を吐くのが厄介なところじゃ――――』

 デネブが言っていたこと。視界の悪さから気付けなかった。まさか土竜が口を開いているだなんて。
「うおっ!?」
 諒太は顔面に毒を浴びてしまう。だが、剣をそのまま振り下ろす。毒を浴びたくらいで怯んではいられないと。

 結果として、土竜(特大)は一刀両断にされている。毒を受けてしまったものの、諒太は討伐に成功していた。
「マスター、大丈夫ですか?」
「ただの毒だろ。問題ねぇ……」
 言って解毒薬を取り出そうとした瞬間、諒太は気付いてしまう。

【リョウ】**猛毒**

「嘘だろ……?」
 それはドラゴンゾンビが吐いたものと同じであった。猛毒は回復方法が限られているため、ゲーム内において使用する魔物は殆どいない。けれども、土竜(特大)は希有な猛毒スキルを持っていたらしい。

「ステータス確認を怠ったせいだな……」
 とりあえずポーションは買いだめしていたから問題はない。ただ治療にはセンフィスへと戻らねばならなかった。

 司教以上にしか治療できぬ猛毒が僻地にある農村で治せるはずもない。
 デネブが言っていたのだ。使役する従魔が毒にやられたのだと。仮に治癒士がいたのなら、そんなことにはなっていないはずである。

 素早く爪を剥ぎ取る諒太。土竜を殲滅する予定であったが、早速と方針転換を迫られている。何しろポーションは10個しかないのだ。猛毒で死ぬなんてあり得ない。諒太はこの依頼を中断してでも治療に向かうべきである。

「仕方ねぇな……」
「マスター、キュアなら四回ほどかけられますので!」
 ソラが心配している。緊急的にはキュアをお願いするかもしれないが、キュアは下位の回復魔法であり、回復量はポーションの半分ほどしかない。

「ソラは魔法の残数が分かるのか?」
「ええまあ、感覚的なので大凡ですけれど……」
 ソラ曰く四回という詠唱回数。足しにはなるだろうが、それは十分といえるものではない。息切れ状態から全快まで諒太が回復するには、現状でポーションが二つか三つ必要である。つまりキュア4回では全快に近いところまで一度回復できるだけだ。

「一旦、センフィスへと戻ろう……」
 幸いにも諒太は勇者である。転移魔法があるのだから、何の問題もなかった。

 何事もなければ――――――。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈
ファンタジー
味噌蔵の跡継ぎで修行中の相葉壱。 息抜きに動物園に行った時、仔カピバラに噛まれ、気付けば見知らぬ場所にいた。 壱を連れて来た仔カピバラに付いて行くと、着いた先は食堂で、そこには10年前に行方不明になった祖父、茂造がいた。 茂造は言う。「ここはいわゆる異世界なのじゃ」と。 そして、「この食堂を継いで欲しいんじゃ」と。 明かされる村の成り立ち。そして村人たちの公然の秘め事。 しかし壱は徐々にそれに慣れ親しんで行く。 仔カピバラのサユリのチート魔法に助けられながら、味噌などの和食などを作る壱。 そして一癖も二癖もある食堂の従業員やコンシャリド村の人たちが繰り広げる、騒がしくもスローな日々のお話です。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆

八神 凪
ファンタジー
   日野 玖虎(ひの ひさとら)は長距離トラック運転手で生計を立てる26歳。    そんな彼の学生時代は荒れており、父の居ない家庭でテンプレのように母親に苦労ばかりかけていたことがあった。  しかし母親が心労と働きづめで倒れてからは真面目になり、高校に通いながらバイトをして家計を助けると誓う。  高校を卒業後は母に償いをするため、自分に出来ることと言えば族時代にならした運転くらいだと長距離トラック運転手として仕事に励む。    確実かつ時間通りに荷物を届け、ミスをしない奇跡の配達員として異名を馳せるようになり、かつての荒れていた玖虎はもうどこにも居なかった。  だがある日、彼が夜の町を走っていると若者が飛び出してきたのだ。  まずいと思いブレーキを踏むが間に合わず、トラックは若者を跳ね飛ばす。  ――はずだったが、気づけば見知らぬ森に囲まれた場所に、居た。  先ほどまで住宅街を走っていたはずなのにと困惑する中、備え付けのカーナビが光り出して画面にはとてつもない美人が映し出される。    そして女性は信じられないことを口にする。  ここはあなたの居た世界ではない、と――  かくして、異世界への扉を叩く羽目になった玖虎は気を取り直して異世界で生きていくことを決意。  そして今日も彼はトラックのアクセルを踏むのだった。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...