幼馴染み(♀)がプレイするMMORPGはどうしてか異世界に影響を与えている

坂森大我

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第三章 希望を抱いて

エンジェル・ローズ・ヒップ

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 土竜一頭分の報酬を失ったけれど、ソラのレベルアップにより諒太は気持ちを切り替えている。
 だが、気を取り直して進もうかといった矢先、
「なっ!?」
 突如として足下が崩れた。どうやらファイアーボールの衝撃によって地盤が崩落してしまったらしい。

 為す術なく落ちていく諒太。流石に想定外の事態である。ただし、落ち着いてもいた。落下する諒太を直ぐさまソラが捕まえてくれたからだ。

「マスター、どうします?」
「一度、下に降りてみよう。どうせ降りていくつもりだったし……」
 諒太の指示でソラはゆっくりと足がつくまで降下していく。

 どうやら大きな空洞となってしまったようだ。網の目のように掘られていた穴が全て繋がったようにも感じられている。
 ただし、光魔石の灯りが底や端まで届いていない。その事実だけで、ここが相当に深く広い空間なのだと分かった。

「ま、迷路を進むよりは楽だな……」
 諒太は楽観的に考えることにした。一人であれば帰路を考える必要もあったが、今は空を飛ぶ仲間がいる。よって考えるべきは土竜退治だけであった。

「マスター、かなりの数が底にいますよ?」
「マジか。目が良いんだな……?」
 諒太にはまだ何も見えない。けれど、ソラが嘘をいうはずもなく、全ての土竜が最下層に落ちたのだと思われる。

「ワタシは夜行性ですから。ある特別な意味合いにおいて……」
「本当にエンジェルなんだろうな!?」
 どうにも進化に疑いを持ってしまう。進化先はエンジェルじゃなく、サキュバスの間違いではないかと。

 ソラに抱えられ、ゆっくりと降下していた諒太。まだ視界はないに等しかったけれど、諒太にもソラ語った内容が真実なのだと分かる。

【土竜 Lv10】
【土竜(大) Lv20】
【土竜 Lv10】

 暗がりにターゲットマークが見えたのだ。ざっと見た感じは10程度。しかし、特大という土竜のマーカーは見つからない。

「ソラ、降ろしてくれ。殲滅する……」
「ええ!? マスター本気ですか!? まだ距離がありますし、地面には隙間なく土竜がいるじゃないですか!」
「良いから手を離せ。俺の心配は無用だ……」
 高さはあるけれど、レベルは100以上もあるのだ。少々のことでは死なないだろうと諒太は考えている。

「ゾクゾクします……。マスターがドMだったなんて最高です!」
「誰がドMだって!?」
 言ってソラは手を離した。ウフフと耳に届いた笑い声が気になったけれど、今は集中すべきだ。立ち所に斬り裂いてやると諒太は剣を構えて落下していく。

「おらぁぁあああっ!」
 ターゲットマークだけを頼りに諒太は斬り掛かった。真下にいたのは土竜(大)だ。落下の勢いと合わせて諒太は真っ二つにしている。

 流石に着地は痛みを伴ったけれど、別に問題はない。諒太は直ぐさま近くにいた土竜を叩き斬る。
「うぜぇな!」
 夜行性だけあって土竜は暗闇にも適応している。的確に諒太を攻撃してきた。
 だがしかし、諒太も負けていない。近付いてくれば光魔石の光源内だし、倒すのに必要な攻撃は剣を一度振るだけなのだ。

 速度は諒太が圧倒している。群れる土竜であったけれど、瞬く間にそれは死体の山となっていく。僅か五分ばかりの間に周囲の土竜を殲滅していた。

「マスター、流石です! てっきり土竜に弄ばれてしまうのかと考えておりましたが……」
「お前はその認識を改めろ。進化したのは本当にエンジェルなんだろうな?」
「もちろんエンジェルです。進化前はよくバラに喩えられました。しかし、生まれ変わった今のワタシは薔薇の実のようなものです。薔薇の実は言い換えればローズヒップ。つまりはエンジェル・ローズ・ヒップとでも言いましょうか……」
 ソラは饒舌に語る。確かにセイレーンであった頃から美人ではあったけれど、バラに喩えられるだなんて、調子に乗りすぎている気がしないでもない。

「ワタシはエンジェル・ローズ・ヒップ……」
 どうにも自己陶酔している感じだ。諒太は生温い視線を送っている。
「略してエ・ロ・尻とお呼びください!」
「尻だけ和訳すんな!!」
 戦闘よりも疲れてしまう。明らかにセイレーンから進化させたのは間違いである。通常のエンジェルではあり得ない性格にソラはなってしまった。

「ったく……」
 諒太は急いで剥ぎ取りを始めた。時間が経つと魔物は消えてしまうのだ。歩合給である今回の依頼では一頭も無駄にできない。
 土竜の剥ぎ取り部位は右前足の親指にあたる爪だ。大きさによって種別を判別できるらしく、報酬をもらうには必ず持ち帰らねばならない。

 数えてみると中が7本で大が3本。金額にして2200ナールになる。採掘と比べれば、明確に幸先の良いスタートとなっている。
「でも特大がいるはずなんだ……」
 諒太は空洞となった部屋から繋がる通路へと入っていく。特に太いその穴ならば、聞いていた特大土竜がいるのではないかと。

 一頭千ナールという報酬を求めて、諒太はダンジョンを彷徨い始める……。
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