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第三章 希望を抱いて
アクラスフィア王国にて
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授業にて睡眠時間を確保した諒太。学生の本分をわきまえない暴挙であったけれど、同時に勇者でもある諒太にとって勉強の優先度は低い。特に今は事情が事情であるのだから。
今日はもうガナンデル皇国へと行くつもりはない。下手をすれば、再びドラゴンゾンビを引きかねないのだ。ポーションを買い足す余裕はないし、ドラゴンゾンビの相手をする時間すら残っていない。ならば諒太はアクラスフィア王国にてクエストを受注すべきである。
「おいしい依頼があればいいけどな……」
アクラスフィア王国はプレイヤーが最初に戦う場所である。よって高難度クエストなど存在しない。金策ならば数をこなしていくしかなかった。
騎士団本部のある大広場を抜け、諒太は城下センフィスへと到着している。
目的地は冒険者ギルドだ。寄り道をする時間など諒太にはない。
「あ、リョウ君!?」
ギルドに入るやアーシェが叫ぶようにいう。
そういえばアーシェは職場復帰を果たしていたのだ。借金を背負ってまで動かした世界線。愛らしい笑みは苦労が報われたのだと実感させている。
「アーシェ、何か報酬のいい依頼はある?」
「え? リョウ君、珍しく依頼をこなしてくれるの?」
彼女が疑問を持つのは当たり前だろう。何しろ主戦場は既にアクラスフィア王国内ではない。かといって諒太は他国のギルドでも依頼なんて受けていないのだが……。
「もちろん。てか、少々入り用でな……」
「そうなんだ! ちょっと待ってね?」
言ってアーシェはどうしてかカウンターを離れ、奥の部屋へと行ってしまう。掲示板に貼り付けていない依頼でも回してくれるのかもしれない。
しばらく待っていると、アーシェがギルド長であるダッドを連れて戻ってきた。
「リョウ、依頼だなんて随分と久しぶりじゃねぇか? ウチは買い取り専門店じゃなかったのか?」
現れるやダッドは嫌味をいう。これには流石に苦笑いを返すしかない。なぜなら諒太は魔石の売却くらいしかギルドを使っていなかったからだ。
「じゃあ、いいです。他のギルドに行きますよ……」
「ああ待て! 俺が悪かった! 依頼がたまって仕方ねぇんだよ。お前が消化してくれるなら本当に助かる!」
諒太が不満げに返すと、先にダッドが折れた。嫌味を言いたくなるほどに困っていたのは明らかだ。
ダッドの反応に諒太はニヤリと笑みを零す。少しばかり仕返しができただけでなく、依頼が山ほどあると知れたのだ。諒太はその全てを消化するつもりである。
「どんなのがありますか?」
「色々とあるにはあるんだが、確かお前はランクアップの試験を受けていなかったよな?」
ここでダッドの表情が曇る。どうやら彼は諒太がまだDランク冒険者であると考えているらしい。
「試験は受けましたよ? ガナンデル皇国のギルドで……」
諒太としては冒険者ランクを上げるつもりもなかったのだが、それは行きがかり上のこと。試験を受けねば入国できなかったのだから仕方がなかった。
「はぁ? ガナンデル皇国だと? あそこの試験は滅茶苦茶厳しいんだぞ?」
「いや、合格しましたけど……」
「本当か!? ガナンデル皇国のCランク試験に合格しちまったのか!?」
話が噛み合わないのは諒太にも理解できた。何しろガナンデル皇国はCランク試験にAランク冒険者と戦わせてきたのだ。厳しいレベルキャップがある人族に合格できるはずもない。
「えっとBランクです……」
「Bランクだと!?」
ダッドの大きな声にギルドにいた冒険者がざわつき始める。それもそのはず、アクラスフィア王国にて上級冒険者は一握りしかいないのだ。しかもガナンデル皇国の冒険者ギルドでそれを成したのだから、驚かれない理由などなかった。
「リョウ、ギルドカードを見せてみろ!」
言われて諒太はギルドカードを差し出す。またダッドは奪うように手に取っていた。心なし彼の身体は震えているようにも見える。
「おい、お前のギルドカードにアアアア公爵家の庇護印が入ってるぞ!?」
ダッドが大声で続けた。肝心の冒険者ランクについてではなく、秘密裏に押された庇護印が気になってしまったらしい。
それは諒太も知ったばかりだ。前の世界線にてセリスが勝手に押したものである。
「庇護印とか大したことないですよ……」
「お前は馬鹿か!? アアアア公爵家の庇護印があるってことは、お前は公爵家のお抱え冒険者ってことだぞ! 優先的に公爵家の依頼を受ける義務が生じるんだが、お前がどこで何をやらかそうと公爵家が責任を持ってくれるんだよ!」
今になって諒太はやられたと思う。
あの世界線のセリスに……。ギルドカードには見慣れぬ家紋のようなものが入っていたけれど、諒太はガナンデル皇国の審査に通ったという証しくらいにしか考えていなかったのだ。
「だからセリスはあんなにも驚いて俺を拘束したのか……」
公爵家の庇護印について、よく分かっていなかったことを理解できた。偽装により拘束されてしまうほどの力がそれにはあったらしい。
しかし、ふと考える。面倒なことになったと思うも、ある意味においては助かるかもしれない。どのような後始末も上位貴族がしてくれるのであれば、諒太の借金だって肩代わりしてくれるのではないだろうかと。
「借金の返済もしてもらえるでしょうか?」
ここは恥を忍んで聞いておくしかない。仮に利子だけでも払ってもらえるのなら何とかなるような気がする。本当に切羽詰まっている状況なのだから、頼れるものなら頼るべきだろう。
「お前は馬鹿か? 別に借金は罪じゃねぇんだ。だから如何なる場合も肩代わりしてもらえん。それは神が定めた理だからな……」
「じゃあ、利子が払えない場合は?」
確か期日に利子が払えなければ、強制的に借金奴隷となるはず。他の手段は衛兵を倒すしかなく、そうすれば必然的に罪人になってしまう。
「借金奴隷も罪人じゃねぇよ。てかお前は借金してんのか? いつも魔石を買い取ってやってるだろう?」
「そうなんですけど、入り用があって……。今週末までに十万ナールの利子を払わなきゃなりません……」
諒太の話にダッドは絶句している。借金の総額ではなく利子なのだ。必然的に諒太の借金がどこまで膨らんでいるのか推し量れていた。
「しかしお前、どこの誰がそれだけの額を貸してくれんだよ? やはり債権者はアアアア公爵家か?」
「違いますよ。アアアア公爵家が何とかしてくれないかと聞いたばかりじゃないですか?」
「いやそうなんだが、金貸しに借りる金額じゃねぇだろ?」
「まあ有力者であるのは間違いありませんけど……」
言葉を濁すしかない。流石に債権者がエルフの姫君であるとはいえなかった。公爵家など目じゃない。ロークアットは紛れもなく王族であるのだから。
「借金関係じゃ、どうしようもねぇよ。公爵家が責任を持つといっても、奴隷オークションに参加するくらいだ……」
「え? 庇護印にそんな義務があるのですか?」
「義務じゃねぇが、公爵家にもメンツがある。庇護下に置いた冒険者が奴隷になるのなら、引き取るだけってことだ……」
なるほどと諒太。貴族にはやはり立場的なものがあるようだ。ただし、諒太は気にしない。監視するために勝手に庇護印を押したのだ。同意もないそれについて諒太が責任を感じることなどなかった。
「それでリョウ君、借金の返済はできそうなの……?」
か細い声でアーシェが聞く。彼女は諒太の身を案じている。愛らしい笑みは失われて、雨に濡れる子猫のような表情をしていた。
「だから割の良い依頼を探してる。俺だって奴隷になるつもりはないからね?」
「それなら良いのだけど……。いざとなればギルド長のお給料から上乗せしてお支払しますね」
「おいおい、アーシェ。俺の給料なんざ雀の涙だろうが?」
切実な話であったというのに、どうしてか笑い話となる。それは諒太が気にしていない素振りを見せたからに違いないが、実をいうと雑談をしている時間も惜しかった。
「まあそれで依頼だけどな。Bランク冒険者なら幾らでも依頼があるぞ。まず俺が受けて欲しいのはカンデナ湖に棲みついたセイレーンの駆除だ……」
諒太の様子を感じ取ったのか、ダッドが依頼について語り出す。何でもCランク相当の依頼らしいが、一般に公開するのを控えていたらしい。
「セイレーンってハーピー的な魔物でしたっけ?」
「ハーピーならば問題なかったんだがな。ハーピーよりも危険種であるセイレーンの群れが湖に棲みついたんだ。だから漁師が困ってる。耐性のない男は直ぐに魅了されちまうんだ……」
セイレーンは美しい女性の姿をしているが、大きな羽を持つ歴とした魔物である。漁師を惑わす彼女たちは基本的には海辺が住み処だ。しかし、この度は湖の畔に棲みついてしまったらしい。
見た目とは異なり、かなり獰猛な性格。魅了された男は何の抵抗もできなくなり、生きたまま食べられてしまうようだ。
「女性冒険者向けってことですかね?」
「まあそうなんだが、Cランクを受けられる女性冒険者なんてウチにはいねぇんだ。だから依頼書は隠していた」
聞けば既にCランクの冒険者パーティーが依頼を受けたのだという。しかし、彼らは音信不通のよう。センフィスに程近い湖であったというのに、もう五日間も連絡が途切れたままであるらしい。
「じゃあ、それを受けます。でも報酬は弾んでくださいよ?」
「リョウ君、大丈夫なの!?」
思わぬ依頼にアーシェは益々表情を曇らせる。ひとたび魅了されてしまえば、男性にはどうすることもできないのだと。
「平気さ。とにかく稼ぎの良い依頼をクリアしていかないことには奴隷となってしまうのだから……」
「アーシェよ、旦那の心配なら無用。リョウは皇国でBランク認定された冒険者なんだ。Bランク冒険者なら問題はない。それに度重なる失敗で報酬は三千ナールにまで引き上げられている。これは今一番高い報酬の依頼だからな!」
いつまで経っても漁に出られない漁業組合は報酬を倍額にしたらしい。上級冒険者が依頼を受けてくれるようにと。
「じゃあ、早速行ってきます。次の依頼を用意しといてください」
「ああ、リョウ君!?」
最後まで心配するアーシェに手を振って、諒太は目的地へと向かう。
三千ナールならば、断る理由がない。昨夜稼いだ採掘額の半分以上もあり、近場でもある依頼を断れるはずもなかった。
依頼を受けた諒太はセンフィスをあとにし、湖がある東へと歩いて行く。草原を突き抜けていくような細い一本道をただひたすらに。
問題が発生するなど、諒太は少しも考えていなかった……。
今日はもうガナンデル皇国へと行くつもりはない。下手をすれば、再びドラゴンゾンビを引きかねないのだ。ポーションを買い足す余裕はないし、ドラゴンゾンビの相手をする時間すら残っていない。ならば諒太はアクラスフィア王国にてクエストを受注すべきである。
「おいしい依頼があればいいけどな……」
アクラスフィア王国はプレイヤーが最初に戦う場所である。よって高難度クエストなど存在しない。金策ならば数をこなしていくしかなかった。
騎士団本部のある大広場を抜け、諒太は城下センフィスへと到着している。
目的地は冒険者ギルドだ。寄り道をする時間など諒太にはない。
「あ、リョウ君!?」
ギルドに入るやアーシェが叫ぶようにいう。
そういえばアーシェは職場復帰を果たしていたのだ。借金を背負ってまで動かした世界線。愛らしい笑みは苦労が報われたのだと実感させている。
「アーシェ、何か報酬のいい依頼はある?」
「え? リョウ君、珍しく依頼をこなしてくれるの?」
彼女が疑問を持つのは当たり前だろう。何しろ主戦場は既にアクラスフィア王国内ではない。かといって諒太は他国のギルドでも依頼なんて受けていないのだが……。
「もちろん。てか、少々入り用でな……」
「そうなんだ! ちょっと待ってね?」
言ってアーシェはどうしてかカウンターを離れ、奥の部屋へと行ってしまう。掲示板に貼り付けていない依頼でも回してくれるのかもしれない。
しばらく待っていると、アーシェがギルド長であるダッドを連れて戻ってきた。
「リョウ、依頼だなんて随分と久しぶりじゃねぇか? ウチは買い取り専門店じゃなかったのか?」
現れるやダッドは嫌味をいう。これには流石に苦笑いを返すしかない。なぜなら諒太は魔石の売却くらいしかギルドを使っていなかったからだ。
「じゃあ、いいです。他のギルドに行きますよ……」
「ああ待て! 俺が悪かった! 依頼がたまって仕方ねぇんだよ。お前が消化してくれるなら本当に助かる!」
諒太が不満げに返すと、先にダッドが折れた。嫌味を言いたくなるほどに困っていたのは明らかだ。
ダッドの反応に諒太はニヤリと笑みを零す。少しばかり仕返しができただけでなく、依頼が山ほどあると知れたのだ。諒太はその全てを消化するつもりである。
「どんなのがありますか?」
「色々とあるにはあるんだが、確かお前はランクアップの試験を受けていなかったよな?」
ここでダッドの表情が曇る。どうやら彼は諒太がまだDランク冒険者であると考えているらしい。
「試験は受けましたよ? ガナンデル皇国のギルドで……」
諒太としては冒険者ランクを上げるつもりもなかったのだが、それは行きがかり上のこと。試験を受けねば入国できなかったのだから仕方がなかった。
「はぁ? ガナンデル皇国だと? あそこの試験は滅茶苦茶厳しいんだぞ?」
「いや、合格しましたけど……」
「本当か!? ガナンデル皇国のCランク試験に合格しちまったのか!?」
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「リョウ、ギルドカードを見せてみろ!」
言われて諒太はギルドカードを差し出す。またダッドは奪うように手に取っていた。心なし彼の身体は震えているようにも見える。
「おい、お前のギルドカードにアアアア公爵家の庇護印が入ってるぞ!?」
ダッドが大声で続けた。肝心の冒険者ランクについてではなく、秘密裏に押された庇護印が気になってしまったらしい。
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「じゃあ、利子が払えない場合は?」
確か期日に利子が払えなければ、強制的に借金奴隷となるはず。他の手段は衛兵を倒すしかなく、そうすれば必然的に罪人になってしまう。
「借金奴隷も罪人じゃねぇよ。てかお前は借金してんのか? いつも魔石を買い取ってやってるだろう?」
「そうなんですけど、入り用があって……。今週末までに十万ナールの利子を払わなきゃなりません……」
諒太の話にダッドは絶句している。借金の総額ではなく利子なのだ。必然的に諒太の借金がどこまで膨らんでいるのか推し量れていた。
「しかしお前、どこの誰がそれだけの額を貸してくれんだよ? やはり債権者はアアアア公爵家か?」
「違いますよ。アアアア公爵家が何とかしてくれないかと聞いたばかりじゃないですか?」
「いやそうなんだが、金貸しに借りる金額じゃねぇだろ?」
「まあ有力者であるのは間違いありませんけど……」
言葉を濁すしかない。流石に債権者がエルフの姫君であるとはいえなかった。公爵家など目じゃない。ロークアットは紛れもなく王族であるのだから。
「借金関係じゃ、どうしようもねぇよ。公爵家が責任を持つといっても、奴隷オークションに参加するくらいだ……」
「え? 庇護印にそんな義務があるのですか?」
「義務じゃねぇが、公爵家にもメンツがある。庇護下に置いた冒険者が奴隷になるのなら、引き取るだけってことだ……」
なるほどと諒太。貴族にはやはり立場的なものがあるようだ。ただし、諒太は気にしない。監視するために勝手に庇護印を押したのだ。同意もないそれについて諒太が責任を感じることなどなかった。
「それでリョウ君、借金の返済はできそうなの……?」
か細い声でアーシェが聞く。彼女は諒太の身を案じている。愛らしい笑みは失われて、雨に濡れる子猫のような表情をしていた。
「だから割の良い依頼を探してる。俺だって奴隷になるつもりはないからね?」
「それなら良いのだけど……。いざとなればギルド長のお給料から上乗せしてお支払しますね」
「おいおい、アーシェ。俺の給料なんざ雀の涙だろうが?」
切実な話であったというのに、どうしてか笑い話となる。それは諒太が気にしていない素振りを見せたからに違いないが、実をいうと雑談をしている時間も惜しかった。
「まあそれで依頼だけどな。Bランク冒険者なら幾らでも依頼があるぞ。まず俺が受けて欲しいのはカンデナ湖に棲みついたセイレーンの駆除だ……」
諒太の様子を感じ取ったのか、ダッドが依頼について語り出す。何でもCランク相当の依頼らしいが、一般に公開するのを控えていたらしい。
「セイレーンってハーピー的な魔物でしたっけ?」
「ハーピーならば問題なかったんだがな。ハーピーよりも危険種であるセイレーンの群れが湖に棲みついたんだ。だから漁師が困ってる。耐性のない男は直ぐに魅了されちまうんだ……」
セイレーンは美しい女性の姿をしているが、大きな羽を持つ歴とした魔物である。漁師を惑わす彼女たちは基本的には海辺が住み処だ。しかし、この度は湖の畔に棲みついてしまったらしい。
見た目とは異なり、かなり獰猛な性格。魅了された男は何の抵抗もできなくなり、生きたまま食べられてしまうようだ。
「女性冒険者向けってことですかね?」
「まあそうなんだが、Cランクを受けられる女性冒険者なんてウチにはいねぇんだ。だから依頼書は隠していた」
聞けば既にCランクの冒険者パーティーが依頼を受けたのだという。しかし、彼らは音信不通のよう。センフィスに程近い湖であったというのに、もう五日間も連絡が途切れたままであるらしい。
「じゃあ、それを受けます。でも報酬は弾んでくださいよ?」
「リョウ君、大丈夫なの!?」
思わぬ依頼にアーシェは益々表情を曇らせる。ひとたび魅了されてしまえば、男性にはどうすることもできないのだと。
「平気さ。とにかく稼ぎの良い依頼をクリアしていかないことには奴隷となってしまうのだから……」
「アーシェよ、旦那の心配なら無用。リョウは皇国でBランク認定された冒険者なんだ。Bランク冒険者なら問題はない。それに度重なる失敗で報酬は三千ナールにまで引き上げられている。これは今一番高い報酬の依頼だからな!」
いつまで経っても漁に出られない漁業組合は報酬を倍額にしたらしい。上級冒険者が依頼を受けてくれるようにと。
「じゃあ、早速行ってきます。次の依頼を用意しといてください」
「ああ、リョウ君!?」
最後まで心配するアーシェに手を振って、諒太は目的地へと向かう。
三千ナールならば、断る理由がない。昨夜稼いだ採掘額の半分以上もあり、近場でもある依頼を断れるはずもなかった。
依頼を受けた諒太はセンフィスをあとにし、湖がある東へと歩いて行く。草原を突き抜けていくような細い一本道をただひたすらに。
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