上 下
127 / 226
第三章 希望を抱いて

切り替え

しおりを挟む
 眠い目を擦りながら、諒太は学校へと向かう。
 徹夜をして鉱石を掘ったものの、売却額は五千ナールにしかならなかった。
 冴えない表情をしているのは借金問題が解決するどころか深みに嵌まっていたからである。

「リョウちん!」
 このところは本町1丁目の交差点でよく出会う。向かい側からやって来たのは残念な幼馴染みこと夏美である。

「すごく眠そう! あのあと幾ら稼げたの?」
 夏美は諒太の不幸を過小評価していた。正直に効率が悪いなんてレベルではない。入山しなかった方が良かったとまで思えるほどだ。

「聞いて驚け? 徹夜して何と5000ナールだ!」
「ええ!? あたしは三時までで四万近く稼いだけど!?」
 流石に夏美は驚いている。幸運値に関しては対称的な二人。恐らく二人の金額が最大値であり、最小値であることだろう。

「もう採掘はやめだ。徹夜して五個とかあり得ん……」
「さっすが幸運値一桁は格が違うね? 十個も掘れないなんて聞いたことないよ!」
「うるせぇ! 俺はもうクエストで稼ぐと決めたんだ……」
 諒太は自分自身に腹が立っていた。百回に一個という時点で諦めるべきだったのだ。確率の収束を願っていた彼であるが、素が超低確率状態であることを考慮していないせいで余計な時間を使う羽目になっている。

「しっかし、大丈夫なの? 確か利子が払えないと中立国の衛兵が直ぐに飛んでくるって聞いたよ? そうなると衛兵を倒すか、奴隷オークションにかけられるしかなくなるはず……」
 中立国とは都市国家アルカナ。ゲーム名がそのまま国名になったそこは三国共通の施設が建てられている。ゲームマスターが駐留するサポートセンターから正教会の本部、果てには奴隷オークション会場まで。

「ん? 衛兵って倒しても良いのか?」
「イビルワーカーになるのならね。衛兵殺しは死に戻りしか罪を償えない。普通の罪よりもずっと重いから……」
 諒太に死に戻りという選択はない。だとすれば、やはり奴隷オークションとなる。そういえばロークアットが不穏な話をしていた。必ずや落札しますからと……。

「それはマズいな……。ナツ、利子の支払日まであと四日なんだが、クエストで十万を稼げると思うか?」
 リナンシーが顕現できなくなってから、どうしてかMP回復ポーションが機能するようになった。恐らくは彼女が魔力の供給を切っているからだと思うが、手の甲にある妖精の痣は相変わらず残ったままだ。

 兎にも角にも、魔力回復ができるということで、諒太は金策を採掘ではなくクエストに切り替えていた。その内にリナンシーも回復するだろうし、やはり鉱石を掘るよりも魔物を倒して稼ぐ方が楽しいはず。ポーション代になけなしの残金を使う羽目になるけれど、恐らくは幸運値に左右される採掘よりも効率的であるだろう。
「かなり大変だろうね。クエストは移動があるし……。てかリョウちん、借金する日をミスったね?」
 ここでおかしな話になる。諒太は借金する期日がいつであっても同じだと考えていたのだ。

「どういうことだよ?」
「利子の返済日は毎月14日と28日って決まってんのよ。大金を借りるなら、返す当てがあるか、返済日の翌日に借りるのが多い。特に29日は借金デーだよ。返済日が少しお得になるから!」
 なるほどと諒太。2月のカレンダーに合わせて14日おきとなっているのかもしれない。
 しかし、今となってはだ。あの日は必ずお金が必要だったし、ロークアットに借りるしかなかった。さりとて、つまらぬ見栄を張ったのは後悔している。ロークアットは差し上げてもよいと話していたのだから。

「ギルドの依頼はガナンデル皇国がやっぱ一番報酬が良いのかよ?」
「まあそうだけど、難易度がね。それに難易度の割に美味しくないのよ。サクサクと報酬をもらうのなら、やっぱしアクラスフィア城下だろうね」
 やはり一長一短であるらしい。ポーションの消費が付きまとう高難度クエストは結果的に実入りが少なくなってしまうようだ。ならばアクラスフィア城下センフィスにて依頼を受けるべきだろう。

「了解。授業は寝て過ごすよ……」
「リョウちんは学校じゃなくて眠校だね?」
「何だそれは……?」
 確かに学びを放棄している気がしないでもない。けれど、諒太は寝て過ごすつもり。割くべき時間がそこしかないのだから、授業は睡眠時間で決定している。

 まだ火曜日であったものの、諒太は週末を見越して戦う必要があった……。
しおりを挟む

処理中です...