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第三章 希望を抱いて

過去もまた……

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 諒太からの通話は夏美に笑顔を与えていた。
 今も時間がない状況であり、苦戦を強いられていたけれど、竜種特効の武器とロックブラスターならば負ける方が難しいと思う。

 ドラゴンゾンビを横目で確認しつつ、大扉の前を掘り返す。彩葉が引き付けてくれている隙に諒太からの届け物を見つけていた。
「リョウちん……」
 掘り返したそこには確かに無双の長剣と王者の盾。更にはメッセージが添えられていた。

『この装備をナツに貸してやる。必ず返せよ? だから必ず勝て!』

 一応は通話で確認済みであるが、念のため添えられた手紙。悪落ちをして勇者補正がなくなることを危惧しての配慮だが、夏美が受け取ったのはそれ以上の意味を持つ。
 どうしてか力が溢れ出していた。必ず勝てとのエールは何よりも心の支えとなる。

「よっしゃ! 夏美ちゃんの華麗なプレイを報告するからね!」
 直ぐさま無双の長剣と王者の盾を装備。彩葉は過度に驚いていたけれど、今は説明している場合ではない。
 この状況における全ての原因となったドラゴンゾンビを討伐するだけだ。

「やっつける!」
 彩葉のポーションがなくなる前に倒さねばならない。既にドラゴンゾンビの体力は半分を切っているはず。無双の長剣は元々の効果が物理攻撃1.5倍である。それに竜種特効が二倍も乗るのだ。弱点である火属性攻撃は付与されていないが、物理だけでも十分な威力であった。

 最初の一撃は見事に逆鱗の位置を捕らえている。斬った感触は悪くない。またこれまでとは異なり、大袈裟に反応しているところも効果を実感させていた。
「パワースティング!」
 ドラゴンゾンビが怯んだ瞬間を見逃さない。夏美は威力のあるスキルを繰り出している。狙い通りに首元を突き刺していた。

「カウンター入った!」
 その攻撃はカウンター判定となり、ドラゴンゾンビは更なる怯みを見せた。こうなると怒涛の攻めが始まる。スキルの硬化が治まるや、夏美は再びパワースティングを浴びせている。
「いける!!」
 この一瞬でコツを掴んだ。カウンター狙いはシビアなタイミングであったけれど、このあと夏実は三度連続でヒットさせている。

「イロハちゃん、まだ大丈夫!?」
 こうなると彩葉のポーションが気になる。あとどれくらい持ちそうなのかと。
「あと十個! それよりナツ、その装備……」
 考えていたよりも消費は激しかった。だが、彩葉は自身の危機よりも、夏美が掘り出した剣と盾が気になっている。

「それはあとで! 今はさっさと倒すだけだよ! 残りが二つになったら声をかけてね!」
 帰路はリバレーションがあったけれど、念のためポーションは残しておくべきだ。夏美はその時までできるだけドラゴンゾンビにダメージを与え続けるだけ。

 夏美の猛攻が続く。最初のカウンター判定さえ入れば、彼女はそれを繋げられた。パターンも頭に入っていたし、時間さえ許されるのなら夏美の勝利は確定的である。
「早く! もっと強い攻撃を!」
 メテオバスターの使用も考えていた夏美だが、今は平静を取り戻している。自暴自棄となる場面ではなくなったのだ。諒太からのプレゼントによって精神面までもを強化できていた。

「パワースティング!!」
 ドラゴンゾンビの喉元に長剣が突き刺さる。それはいつもより確実に深く刺さっていた。
 素早く引き抜き、夏美は着地。するとドラゴンゾンビは怯むよりも激しく頭を振るのだった。
「あっ……?」
 刹那に察知する。このあと咆哮に繋がるはず。ならばドラゴンゾンビは最後の猛攻撃を繰り出すはずだと。

 即座に後退した夏美は盾を構える。それは諒太に聞いたまま。猛攻撃よりも前に決着をつける場面に他ならない。
「ロックブラスタァァァァッ!!」
 激しく地面が揺れ、果てには亀裂が走った。無数の岩石が舞い上がっては一つに固まっていく。
 このエフェクトには不安を覚えてしまうけれど、地面のひび割れは演出である。きっと技の発動後には消えているはずだ。

 眼前ではドラゴンゾンビが大きく咆哮していた。だが、夏美は先んじてスキルを実行しているのだ。従って発動が遅れるなんて少しも考えていない。
 程なく夏美の眼前には巨大な岩の塊が生み出されていた。あとはその巨岩を解き放つだけ。ドラゴンゾンビへと命中させるだけだ。

「撃ち抜けぇぇえええっ!!」
 夏美は高揚していた。再び見る威圧的な巨岩に。グレートサンドワーム亜種をも撃ち抜いた巨岩が撃ち出されていく様子に……。

 巨岩は一瞬にして着弾し、単体攻撃とは思えぬ大爆発を起こした。
 それは記憶にあるままだ。ならば結果は明らか。残り僅かな体力のドラゴンゾンビが生き残るはずもない。
 勝利を確信する夏美。粉塵が収まるのを静かに見守るだけだ。薄っすらと浮かび上がる巨大な影を見つめるだけである。

「倒した……」
 横たわる影は二つ。なぜならドラゴンゾンビは頭部と胴体が完全に分断されていたからだ。ロックブラスターによって、胸の一部分が粉砕されてしまったらしい。

 刹那にレベルアップの通知が届く。それは目視以上に勝利を確信させるものだ。
「イロハちゃん!?」
「ナツ、今のって……」
 彩葉はレベルアップよりも、先ほど見た全てが気になった。彼女は一度に13もレベルが上がったというのに。

「とりあえず治療しよう。話はそれからだよ」
「うん。全部教えて欲しい。リョウちん君の話を……」
 どうやら彩葉も気付いたらしい。明らかにおかしなことになっていること。諒太の装備をどうして夏美が手にしているのかと。

「それはそうと宝箱きたよ。流石に拾う時間くらいあるっしょ?」
「それは十分だけど……」
 困惑する彩葉を余所に夏美が宝箱を改めている。何が飛び出すのかと考えるよりも、彩葉は先ほどの光景を何度も頭の中に思い浮かべていた。

【ドラゴンスレイヤー】
【長剣】
【ATK+99】
【レアリティ】★★★★★
【竜種特効100%】

 何とハイレアリティの長剣であった。皮肉なことにドラゴンを倒してからの報酬である。
「イロハちゃん、これ……?」
「あーはいはい。ナツのでいいよ。私は何もしてないしさ」
 呆れたような顔をして彩葉がいう。そもそもドロップは一つだけだ。ドラゴンスレイヤーは夏美がドロップさせたに違いない。

 歓喜したあと、夏美は大扉の前に剣と盾を埋めている。明らかにおかしい行動であるけれど、彩葉はそれを眺めているだけだ。
 彩葉には聞きたいことが山ほどあったけれど、今は治療を急ぐとき。随分と迷惑をかけたのは明らかであったし、今もポーションが手放せない状態なのだから。

 二人は共に考え事をしながら、シャスミス大鉱山を後にしていく……。
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