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第三章 希望を抱いて

攻勢に出る諒太

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 諒太は再び弱点を狙い始めていた。首元にある逆鱗。そこに渾身の一撃を叩き込めば、必然と勝利に近付いていくのだと。

「くらぇぇえええっ!」
 ジャンプをして斬り付けていた。突き上げよりも力強く。全力で無双の長剣を叩き付けている。

「どうだ!?」
 着地をし、直ぐさまバックステップにて距離を取った。
 この度の攻撃は流石に効いたようだ。ドラゴンゾンビは明確に苦しむ素振りを見せている。
 単純計算で三倍。所要時間が格段に短縮されるのだ。確実に諒太のモチベーションは回復していた。

「!?」
 大きく咆吼したかと思えば、ドラゴンゾンビが何かを吐き出す。距離を取っていた諒太は難なく回避し、液体のようなそれは程なく地面へと飛散している。加えてその液体は地面に落ちるや、怪しげな煙を発していた。

「猛毒……?」
 恐らくはドラゴンゾンビの体力が半分を切ったのだと思う。嬉しく感じる反面、距離を取ると猛毒を吐くだなんて油断ならない。適度に距離を詰めたまま戦う方が良いだろう。
「んな攻撃が効くかよ!」
 再び接近する諒太。その足取りは軽い。遂にゴールが見えてきたのだ。折り返しともいえる攻撃は精神的に諒太を随分と楽にさせた。

 徹底的に弱点を狙い続ける。もう三時間近く戦っているのだ。攻撃パターンは概ね頭に入っている。稀に繰り出されるコンボでさえも諒太は適切に対処できていた。
「ソニックスラッシュ!」
 MP回復ポーションはなくなったけれど、体力回復のポーションにはまだ余裕がある。パターンを掴んだ諒太は届く範囲を見計らって、攻撃にスキルを織り交ぜていく。

 傍目からすれば圧倒していたに違いない。踊るような動作で攻撃を続ける諒太が強大な敵を弄んでいるかのようだと。
「くらえぇぇっ!!」
 再びソニックスラッシュを浴びせる。するとドラゴンゾンビは巨大な頭を天へと向け、更には地鳴りのような咆吼を上げた。

「デカいのがくる……」
 それはゲーマーの勘であった。見慣れぬモーションが差し込まれるものは得てして最終的な攻撃である。
 であれば、ここは盾を構えて万全の体勢で待ち構えるのみ。王者の盾にあるロックブラスターを撃ち放つという手もあるのだが、それは最終的な手段として温存することに。ポーションを多めに飲んでさえおれば、金剛の盾で持ち堪えられるはずだと。

 刹那にドラゴンゾンビと目が合う。緊張感が高まっていたけれど、元よりここを凌ぎきれば、諒太の勝利が現実味を帯びる。最大級の攻撃を撃ち放つ魔物はもう体力を残していないのだから……。
 再び叫ぶように咆吼したあと、ドラゴンゾンビは首を何度も左右に振る。加えて大きく口を開き、あろう事か猛毒の連弾を吐き出していた。

「クソッ、金剛の盾!」
 あとは体力任せである。スキルを信頼し、王者の盾を信じるのみ。下手に回避することなく、諒太は防御に徹していた。
 まるで嵐のように撃ち込まれる猛毒。身を屈めて過ぎ去る時を待つ。如何に強大な魔物と言えども、必ず消耗し遂には吐き出せなくなるはずだと。

 諒太はその隙を見計らっている。出遅れてはならない。猛攻撃を防御するのはこれが最後だ。次を撃ち放つ前に仕留めるのだと決めた。
「いけぇぇぇぇっ!!」
 瞬時に駆け出す。無双の長剣を大きく振りかぶりながら、諒太はドラゴンゾンビに特攻していく。セイクリッドサーバーに残る伝説の後始末。この一撃にて、その幻影に終止符を打つのだと。
「ソニックスラァァァァッシュ!!」
 飛び込みながらの剣技は狙い通りに首元を斬った。
 これまではどれだけ斬り付けようが腐肉に遮られていたはず。しかし、この度は切っ先を変え、諒太の長剣は空中に真円を描いている。

 着地をし、諒太は即座にドラゴンゾンビを振り返った。手応えを根拠にして、彼は結果を見届けている。
 胴体から零れ墜ちるようにして地面へと落ちたドラゴンゾンビの頭部を……。

「やった……」
 その一言に集約されていた。長い戦いがようやく決着を迎えたこと。幾らゾンビであろうとも首と胴体を切り離した諒太は勝利を確信していた。
 一拍おいて知らされる。激戦の終わりを告げる調べによって。諒太はレベルアップの通知を受け取っていた。

『リョウはLv114になりました』

 やや控え目に鳴り響いた通知音は四回。諒太はドラゴンゾンビの討伐によりレベルが4つ上がっている。

 今までで一番の達成感を覚えていた。けれども、余韻に浸ることはない。
 剥ぎ取り部位を探さねばならないのだ。消失するまでに確認する必要があった。
 少なからず期待していた諒太。しかしながら、横たわる巨体のどこにも剥ぎ取り可能な部位は見つからない。

「ま、腐ってんだもんな……」
 諦めた諒太が突っ立っていると、程なくドラゴンゾンビが消失し始める。その代わりとして露わになるのは宝箱だ。どうやら巨体の影になっており、先ほどは見つけられなかったらしい。

「マジかよ……」
 一つもミスリルを掘り当てられなかった諒太。その揺り戻しだろうか。苦戦した戦いに潤いを与える宝箱は勝利した事実を実感に変えている。
 直ぐさま宝箱に触れると、例によって宝箱が開き、何の余韻もないままに消えていく。
「また……石ころ?」

【石ころ???】

 石ころを拾うのは三度目だ。しかし、落胆はしていない。これまでいずれの石ころも有能アイテムであった。だからこそ期待しても構わないはずだ。
「とりあえず学校には間に合ったな。死も覚悟してたんだけど……」
 長い息を吐く。まさかネクロマンサーがドラゴンゾンビを召喚するだなんて考えもしないことだ。結果として今までにない苦戦を強いられている。

 ふと右手の甲を確認。するとそこには小さな妖精の痣が残っていた。
 これには安堵するしかない。彼女は恐らく魔力切れのために顕現できなくなっただけであろう。この世界から失われたわけではなかった。

 ググッと背伸びをし、深呼吸。金策という大問題が残されていたけれど、諒太はやりきった表情をしていた……。
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