幼馴染み(♀)がプレイするMMORPGはどうしてか異世界に影響を与えている

坂森大我

文字の大きさ
上 下
120 / 226
第三章 希望を抱いて

差し込む光明

しおりを挟む
 諒太は窮地に陥っていた。瀕死状態となった彼は何とかステータスメニューを開いていたけれど、酷い目眩によってポーションを取り出すまでには至らない。

「おいリナンシー……」
 だが、諒太はまだ諦めていない。身体は少しも動かなかったが、死ぬまでは抗い続けようと思う。

「ポーションを飲ませろ……」
 何を思ったか諒太はリナンシーに命令していた。メニューからアイテムボックスを操作してポーションを取り出せと。

「わ、妾にできるのか!?」
「早くしろ。魂を共有してんだ。できるだろ……」
 半信半疑であったものの、諒太が失われるなんて望むことではない。リナンシーは諒太の顔の前を飛びつつも、言われた通りに操作し始めている。
「おお! 反応するぞ! ポーションじゃな!?」
 彼女がメニューをタッチすると、リナンシーの眼前にポーションが現れた。直ぐさまそれに抱きつくようにし、気合いで栓を抜く。

「ほれ、婿殿! 元気になれ!」
 リナンシーは羽を目一杯にはばたかせながら、諒太の口へとポーションを流した。
 ゴクリゴクリと飲む込む度に回復しているのが分かる。途中から諒太はポーションを奪い取り、それを飲み干していた。

「助かったぜ、リナンシー……」
「よきよき! 妾も初体験ができて良かったわい!」
 勝ち誇っているのか、大きく咆吼するドラゴンゾンビを睨むように見た。
 諒太は再び剣を取る。やはり負けるわけにはならない。世界を救うと神に誓った彼は一度の負けも許されないのだ。

「待つのじゃ、婿殿!」
 ところが、駆け出そうとする諒太をリナンシーが呼び止めた。既に彼女の仕事は終わっている。一刻も早く倒そうとしていたというのに、何の話があるというのだろう。

「何だよ?」
「よく聞け。婿殿はあやつに勝てるかもしらん……」
 眉根を寄せるしかない。勝てるかもというより、諒太は勝つつもりなのだ。しかしながら、秘策があるというのなら、残念妖精とはいえ聞いておくべきである。

「どういうことだ?」
「先ほど見てしまったのじゃ! あいてむぼっくすの中に……」
 時間がないというのに勿体ぶるリナンシー。正直に面倒だと思うけれど、諒太は頷きを返している。

「竜魂を――――」

 たった一言であった。だが、諒太は推し量っている。それはエンシェントドラゴンから剥ぎ取ったものであり、彩葉に鑑定してもらったものだ。

「いや、竜魂は分かる……がっっって!?」
 突進攻撃を仕掛けて来たドラゴンゾンビを間一髪で躱す。流石に大人しくはしてくれない。話が終わるまで逃げ回るしかなかった。

「竜魂を剣に錬成するのじゃ! ドラゴンゾンビには抜群の効果があるじゃろう!」
 確か彩葉もそんな話をしていた。けれど、問題は他にある。根本的な解決策に、それはなり得ないのだ。

「俺は錬金術士じゃねぇぞ!?」
 生産職ですらない諒太に錬成などできるはずもなかった。特効装備となるのなら使うべき場面であるけれど、諒太は勇者であり魔法剣士でしかない。

「カッカ! 妾は隠しステータスを読めるのじゃ! 器用さと魅力を読むことができるのじゃよ!」
 そういえば夏美が話していた。
 ガナンデル皇国にて隠しステータスが調べられると。皇国には魅力値を調べてくれるNPCがいるのだと。

「アレって、お前かよ!?」
 思わず、ずっこけそうになってしまう。今もまだ執拗にドラゴンゾンビが追いかけてくるというのに。
「婿殿の魅力値は燦然と輝いておる! 無論のこと器用さもじゃ!」
「いやでも、俺は錬金術スキルを獲得してないんだけど!?」
「成功すれば獲得する。今は試すときじゃ! それに婿殿なら問題はない!」
 錬金術はジョブではなくスキルの一つである。諒太は獲得しようとしたことすらないけれど、リナンシーは今こそトライする場面だという。想定外の強敵に立ち向かうためにも。


「俺は錬成できんのか!?」
 問題はその一点だ。もしもドラゴンゾンビに有効な武器が手に入るのなら……。
 やってみる価値はあるように思う。

「くどい! 魔魂の錬成など婿殿のステータスなら余裕じゃて。特に小細工しないのであれば、まず失敗しない。錬成は無属性魔法と同じなのじゃ。婿殿の無属性魔法はかなりの数値じゃろ? 加えて妾は自然創造という特殊能力を持っておるでな。魂を共有する婿殿ならば魔魂の錬成など容易いじゃろうて!」
 どうやら錬成は無属性魔法に括られるスキルらしい。またリナンシーの加護は彼女が持つ自然創造という能力を引き出せるという。

「なら、どうやんだ!? 早く教えろ!」
「魔法と同じじゃといっただろう? やり方は剣と魔魂を重ねて魔力を注ぐだけじゃ……って、あああっ!?」
 リナンシーは肝心なことを忘れていたらしい。諒太が魔力切れを起こしていること。魔力を使い果たしていたことに……。

「剣と魔魂を重ねるんだな……?」
「婿殿、やるのか!? 妾は幾らも供給できんぞ!?」
「だぁってろ! 現状で半分も削れてねぇんだ。それに自然回復してるはず」
 目眩は少しばかり緩和していた。さりとて完調したわけではない。だが、諒太は錬成を試みることを決断している。

「しかし、失敗することもあるのじゃぞ!? 婿殿の幸運値は羽虫にも劣るのじゃからな!」
 ここで気になる話を聞く。けれど、決意は変わらない。エチゴヤが語っていたことだ。生産職には器用さの他に幸運値が必要だということを。

「どうせジリ貧なんだ。失敗しても構わない。MP切れで昏倒したとしても。覚悟だって既に決まってる……」
 言って諒太はアイテムボックスから竜魂を取り出し、夏美からもらい受けた無双の長剣に重ねた。走りながらであったけれど、魔魂は小さく問題はない。

「魔力の練り方は?」
 口を噤むリナンシー。元はといえば彼女が言い出したことであるが、それは魔力について忘れていたからだ。死に急ぐような諒太には教えたくなかった。

「リナンシー、なぜ黙る? 倒せる確率が上がるのに、それをしない手はない。お前は俺を誤解していないか? 俺はこの先にルイナーと戦う男だぞ? ドラゴンゾンビくらいで音を上げるようではどうせ死ぬだけだ……」
「しかし、婿殿!?」
 どうしても教えようとしないリナンシーに諒太は首を振る。ならば運命と呼ぶべき責務を口にして彼女を急かすだけだ。

「俺は勇者なんだ――――」

 戦う理由はそれだけだ。
 アーシェが助かったセイクリッド世界で今や諒太が戦う意味合いはない。勝手に召喚されただけであり、命を懸けるなんて馬鹿げた話だ。
 しかしながら、諒太は本気だった。自信と共に芽生えた自覚。彼は戦う理由を見出している。

 勇者であるからだ――――と。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

処理中です...