幼馴染み(♀)がプレイするMMORPGはどうしてか異世界に影響を与えている

坂森大我

文字の大きさ
上 下
116 / 226
第三章 希望を抱いて

噂が現実に

しおりを挟む
 諒太は愕然としていた。夏美が話していた噂話。どうしてか現実になっている。明確な出現報告のない魔物が眼前に現れていた。

「俺ってやつは……」
 少しも信憑性を感じなかった魔物。死に戻ったプレイヤーの嘘だと思っていた魔物がネクロマンサーの召喚によって現れていた。

【ドラゴンゾンビ】
【Lv140】
【物理】強
【火】微弱
【水】強
【風】強
【土】強

 噂であって欲しかったが、生憎と現実らしい。聞いたままの強さや姿には覚悟を決めるしかない。
「婿殿、あれはヤバいぞ!」
「わぁってる! 先にネクロマンサーを倒す!」
 流石にリナンシーも驚いている。世界中で畏怖される彼女だが、戦闘力を持ち合わせていないのは明らかであった。

「いくぞ!」
 早速と斬りつけている。幾らネクロマンサーが弱いといっても、それは単体での場合だ。Lv140の新手が現れたとあってはその限りではない。
 二度目のソニックスラッシュを当てた直後、ようやくとネクロマンサーの動きが止まる。
 程なく崩れ落ちるようにして、ネクロマンサーは消失していった。

「クソッ……」
 僅かに期待した展開とはならない。召喚主を倒したというのに、ドラゴンゾンビは今も存在しているままだ。

「こいつが裏ボスってわけか……」
 召喚に時間がかかったのは諒太にとって好都合であった。多勢に無勢となる前にネクロマンサーを葬れたのだから。

 徐々に浮き出ていたドラゴンゾンビの姿は今や存在として確立している。全体が完全に顕現するや、ドラゴンゾンビは雄叫びのような咆吼を上げていた。
「行くっきゃねぇなっ!!」
 果敢にも諒太は斬り掛かっていく。強大な相手であり、未知なる魔物であったというのに。
 初斬の感覚は最低の一言。腐った柔らかい肉にめり込むような感触が残った。決して切ったとは言い難いそれがダメージを与えているとは思えない。

「やっぱ物理耐性か……」
 こうなると魔法頼みとなる。しかしながら、諒太が唱えられるのは中級に区分されるBランクの魔法しかない。
「ファイアーストーム!!」
 唯一の弱点である火属性。諒太はそれを撃ち続けるしかないようだ。
 視界一杯に炎の竜巻が生み出されている。熟練度の数が上限であり、諒太は上限一杯の43個を撃ち放っていた。

「ちょちょ、婿殿! 妾は魔力が尽きておるんじゃぞ!?」
 流石にリナンシーが諒太を制止する。そういえば先ほど目一杯の魔力を注ぎ込んでいた。諒太を見下したようなセリスを屈服させるという馬鹿らしい目的で……。

「るせぇ! 構うもんか!」
「死んでしまうぅぅっ!」
 どうやらリナンシーの加護は強制力があるらしい。諒太が魔力を使えば彼女には供給する義務があるのだと思われる。
 ファイアーストームは全てがドラゴンゾンビへと着弾。もの凄い粉塵を巻き上げていたけれど、ドラゴンゾンビは無傷であるかのよう。怯むことなく諒太に突撃してくる。

「金剛の盾!」
 骨と腐肉だけであるというのに、巨体を活かした突進は想像よりも威力があった。吹き飛ばされるような事態にはならなかったものの、諒太は何メートルも押し込まれてしまう。

「盾とスキルがあって良かった……」
 今となっては戦争イベントも糧となっている。もしも、あの戦いがなかったとしたら、防御手段のない諒太は虐殺されるだけであったことだろう。

「ファイアーストーム!」
 透かさず魔法攻撃を繰り出す。この度も撃てるだけの数を生み出している。絶対的強者に対して、出し惜しみはしない。

 ところが、
「っ…………」
 諒太は目眩を覚えていた。初めてインフェルノを撃ち放ったときと同じもの。それはつまり魔力切れの兆候である。

「婿殿! 妾はもうスッカラカンじゃぞ!? もう魔法は撃つな!」
「黙ってろ! ファイアーストーム!!」
 合計43個の竜巻が再びドラゴンゾンビへと着弾する。魔力が尽きようとしていたとしても、諒太は倒さなければならないのだ。

「ちくしょう、回復しないと……」
 距離を取り、諒太はMP回復ポーションを飲む。しかし、目眩は収まらない。どうしてか少しも聞いていない気がする。

「どうしてだ……?」
「婿殿! 妾はスッカラカンじゃと言っただろ!? ある程度まで妾が回復しない限り、婿殿は回復せん!」
「マジで言ってんのか!?」
 自動供給するだけと考えていたリナンシーの加護。けれど、その実は依存関係にあるらしい。リナンシーの魔力がある程度回復しないことには諒太の回復など成されないという。

「50本でどこまで回復できる?」
「分からん!」
 言い合っている間に再びドラゴンゾンビが突っ込んで来る。骨が剥き出しの口を開き、まるで諒太を飲み込むかのように。

「クソ、金剛のた……」
 スキルを発動させようとするも、意識が途切れそうになってしまう。それは完全に魔力切れの症状だ。結果として諒太はスキルを使いそびれていた。

「ぐあぁぁああぁぁっ!!」
 突進に耐えられなかった諒太は弾き飛ばされ、後方の壁へと激突してしまう。何とか意識は繋ぎ止めたものの、再び立ち上がれるのかどうか自信がない。

 直ぐさま回復ポーションを使用。とりあえず動けるだけの体力を回復していた。
「こっちは効くな……」
 体力が回復できたのは救いである。かといって魔力がなければ、諒太は剣で戦うしかない。

「逃げられねぇんだ。斬っていくっきゃねぇ……」
 どうやら目眩という症状は身体機能に影響を与えている。一応は今も剣を振れるけれど、思うように身体が動かないのだ。スキルが発動できなかったのは、恐らく魔力切れによる能力制限に違いない。

 けれども、諒太は剣を振る。立ち止まってなどいられないと。攻撃を避け、少しずつダメージを与えるだけ。物理耐性のある魔物であったけれど、もうそれしか手段はないのだ。

 スキルさえ使わなければ何とか動ける。モーションによってドラゴンゾンビの攻撃を予測しつつ、諒太は懸命に戦っていた。
「マズいな……」
 時間が気になってしまう。今はまだ深夜零時を過ぎたところ。だが、この分だと長期戦は避けられない。この戦いは完全な持久戦となっていたのだから。

「明日も学校があるし……」
 通常の斬り付け攻撃しか使えない縛りプレイ。それでも諒太は登校までにドラゴンゾンビを討伐しなければならなかった。

 エンシェントドラゴンとの戦いはスキルや魔法が使用できた。しかし、エンシェントドラゴンよりも強いドラゴンゾンビを相手に斬り付けるしかできないだなんて何時間かかるか分からない。

 可能な限り早期の決着を目指して、諒太は戦い続けていた……。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

処理中です...