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第三章 希望を抱いて
疑問
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ダンジョンを出るや、入山料を払い直した夏美たち。最短ルートを通って、再び最下層を目指していた。
「そいや、リョウちん君もジャスミス大鉱山に籠もってんの?」
道すがら彩葉が聞く。
阿藤の一件以降、夏美は着信通知をオフにしていたので、通話相手が誰なのか分からなかったはず。けれど、夏美が口にした内容から、相手が誰であり何をしているのか推し量れている。
「そうみたい。んで、ヴァンパイアに捕まったって……」
「アハハ! 通話してくるってことは銀装備持ってなかったんだ!」
人の不幸は蜜の味と言わんばかりに、彩葉は諒太の不幸を大笑いしている。
「得意のチートでヴァンパイア特効を付加したらいいのにね?」
どうやら彩葉は諒太のチート疑惑を信じているらしい。あり得ないステータス値を見てしまっただけでなく、存在しない勇者であったこと。疑念だらけである事実はそう思い込んでも仕方なかった。
「いやぁ、そこまではできないんじゃ……」
夏美は動揺している。彩葉はあの世界について知らないのだ。チートではないと否定したいところであるけれど、生憎と各サーバーの勇者は全員のキャラクター名が公になっている。
「まあそうか……。ステ値だけでも疑われそうだもんね。じゃあ、リョウちん君もAランクスクロール狙いかな?」
「そ、そうだね……」
夏美が明らかにおかしいのは彩葉にも分かった。かといって問い質すつもりはない。チートは自己責任であるし、彼ならば周囲に迷惑をかけないことも知っていたから。
「でも、リョウちん君はあのレベルでAランクスクロールすら持ってないのおかしくない? 逆に怪しまれそうだけど?」
彩葉が質問を重ねる。ステータスを誤魔化すためだとして、流石に不自然であると。
対する夏美は思わず問いに答えてしまう。十分な思考をすることなく。
「Sランク魔法は持ってんだけどねぇ……」
言ったそばから、しまったと口を押さえる。しかし、時既に遅し。眉間にしわを寄せた彩葉が夏美の顔を覗き込んでいた。
「どゆこと? Aランクスクロールすらもってないのに、Sランクスクロール?」
もう誤魔化しようがない。夏美は思案している。誤解している彩葉であれば、話しても問題ないかもしれないと。
「インフェルノだよ。あたしがドロップさせたやつ……」
説明はチートというしかないけれど、夏美はそのままを伝えている。信じようと信じまいと彩葉に任せることにした。
「リョウちん君はあれを唱えられんの? 確かまだ誰も発動させられていないんじゃなかった? それに彼はセイクリッドサーバーじゃないっしょ?」
Sランク魔法は各属性で実装済みであったけれど、真っ先に実装されたインフェルノはまだ誰にも唱えられていない。そもそもドロップ確率が極悪であったそのスクロールの所持者は僅かばかりしかいなかった。
「リョウちんは唱えられるよ。得意のチートでスクロールを持って帰ったの。でも発動条件は謎のままだね……」
「少し前はINT値100超えだとか言われてたもんね……」
INT値は魔法威力に乗算ともいえる補正がかかるため、他のステータスに比べて上がりにくい。
彩葉が話すように、インフェルノの発動条件は賢さの値が100超えだと言われていた。けれど、現在ではINT値100を超える所有者が現れ、その予想は残念ながら否定されている。
「私はずっとインフェルノに欠陥があるから使用できないようにされてるのかと考えてたよ。全サーバーで十人くらいしか所有者がいないんだし、運営なら有耶無耶にしそうじゃん? でもリョウちん君が唱えられるのなら、それは違うみたいだね? 彼がチートしていないのなら……」
彩葉はインフェルノに欠陥があると予想していたらしいが、諒太が詠唱できるという話によって間違いが証明されている。諒太がズルをしていないという条件付きであったけれど。
「しっかし、他のサーバーでもリョウちん君の話題は少しも聞かない。一体どこのサーバーにいんのさ?」
彼女自身も諒太とプレイした経験がある。だからこそ疑っていないのだが、彼ほどのプレイヤーが無名であるのには疑問しかない。少なからず話題になるはずなのにと。
「わかんない……」
夏美は誤魔化すしかなかった。間違ってもセイクリッド世界については話せない。たとえ親友であったとしても、彼女を巻き込みたくなかったから。
彩葉は彩葉で夏美の異変に気付いていた。だが、自ら問うことはない。諒太に関しては思うところがあったけれど、夏美が自ら口にしない限りは聞かないでおこうと思う。
「さあナツ、採掘を再開しようか!」
彩葉はこの話を打ち切り、ゲームに戻ろうと切り替えていく。
言いづらい話題をした償いとばかりに、彩葉は元気一杯に笑って見せた。夏美がまた笑顔を戻せるようにと……。
「そいや、リョウちん君もジャスミス大鉱山に籠もってんの?」
道すがら彩葉が聞く。
阿藤の一件以降、夏美は着信通知をオフにしていたので、通話相手が誰なのか分からなかったはず。けれど、夏美が口にした内容から、相手が誰であり何をしているのか推し量れている。
「そうみたい。んで、ヴァンパイアに捕まったって……」
「アハハ! 通話してくるってことは銀装備持ってなかったんだ!」
人の不幸は蜜の味と言わんばかりに、彩葉は諒太の不幸を大笑いしている。
「得意のチートでヴァンパイア特効を付加したらいいのにね?」
どうやら彩葉は諒太のチート疑惑を信じているらしい。あり得ないステータス値を見てしまっただけでなく、存在しない勇者であったこと。疑念だらけである事実はそう思い込んでも仕方なかった。
「いやぁ、そこまではできないんじゃ……」
夏美は動揺している。彩葉はあの世界について知らないのだ。チートではないと否定したいところであるけれど、生憎と各サーバーの勇者は全員のキャラクター名が公になっている。
「まあそうか……。ステ値だけでも疑われそうだもんね。じゃあ、リョウちん君もAランクスクロール狙いかな?」
「そ、そうだね……」
夏美が明らかにおかしいのは彩葉にも分かった。かといって問い質すつもりはない。チートは自己責任であるし、彼ならば周囲に迷惑をかけないことも知っていたから。
「でも、リョウちん君はあのレベルでAランクスクロールすら持ってないのおかしくない? 逆に怪しまれそうだけど?」
彩葉が質問を重ねる。ステータスを誤魔化すためだとして、流石に不自然であると。
対する夏美は思わず問いに答えてしまう。十分な思考をすることなく。
「Sランク魔法は持ってんだけどねぇ……」
言ったそばから、しまったと口を押さえる。しかし、時既に遅し。眉間にしわを寄せた彩葉が夏美の顔を覗き込んでいた。
「どゆこと? Aランクスクロールすらもってないのに、Sランクスクロール?」
もう誤魔化しようがない。夏美は思案している。誤解している彩葉であれば、話しても問題ないかもしれないと。
「インフェルノだよ。あたしがドロップさせたやつ……」
説明はチートというしかないけれど、夏美はそのままを伝えている。信じようと信じまいと彩葉に任せることにした。
「リョウちん君はあれを唱えられんの? 確かまだ誰も発動させられていないんじゃなかった? それに彼はセイクリッドサーバーじゃないっしょ?」
Sランク魔法は各属性で実装済みであったけれど、真っ先に実装されたインフェルノはまだ誰にも唱えられていない。そもそもドロップ確率が極悪であったそのスクロールの所持者は僅かばかりしかいなかった。
「リョウちんは唱えられるよ。得意のチートでスクロールを持って帰ったの。でも発動条件は謎のままだね……」
「少し前はINT値100超えだとか言われてたもんね……」
INT値は魔法威力に乗算ともいえる補正がかかるため、他のステータスに比べて上がりにくい。
彩葉が話すように、インフェルノの発動条件は賢さの値が100超えだと言われていた。けれど、現在ではINT値100を超える所有者が現れ、その予想は残念ながら否定されている。
「私はずっとインフェルノに欠陥があるから使用できないようにされてるのかと考えてたよ。全サーバーで十人くらいしか所有者がいないんだし、運営なら有耶無耶にしそうじゃん? でもリョウちん君が唱えられるのなら、それは違うみたいだね? 彼がチートしていないのなら……」
彩葉はインフェルノに欠陥があると予想していたらしいが、諒太が詠唱できるという話によって間違いが証明されている。諒太がズルをしていないという条件付きであったけれど。
「しっかし、他のサーバーでもリョウちん君の話題は少しも聞かない。一体どこのサーバーにいんのさ?」
彼女自身も諒太とプレイした経験がある。だからこそ疑っていないのだが、彼ほどのプレイヤーが無名であるのには疑問しかない。少なからず話題になるはずなのにと。
「わかんない……」
夏美は誤魔化すしかなかった。間違ってもセイクリッド世界については話せない。たとえ親友であったとしても、彼女を巻き込みたくなかったから。
彩葉は彩葉で夏美の異変に気付いていた。だが、自ら問うことはない。諒太に関しては思うところがあったけれど、夏美が自ら口にしない限りは聞かないでおこうと思う。
「さあナツ、採掘を再開しようか!」
彩葉はこの話を打ち切り、ゲームに戻ろうと切り替えていく。
言いづらい話題をした償いとばかりに、彩葉は元気一杯に笑って見せた。夏美がまた笑顔を戻せるようにと……。
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