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第三章 希望を抱いて
七不思議
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両親への顔見せを済ませた諒太。直ぐさまログインをし、リバレーションにて直接ジャスミス大鉱山の四階層に転移している。
「何階層まであんのかね……」
鉄鉱石ばかりであった先ほどの採掘場を通り過ぎ、諒太は再びマッピングを始めている。
これまでの階層は思ったよりも小さい。あとになって実装されたオツの洞窟のように広くはなかった。基本が鉱山という設定だからなのか、下り階段は直ぐに見つかっている。
「五階層か……」
概ねダンジョンは五階層おきに敵が強くなった。魔物の種類が一新されることもあれば、強敵が加わるだけの場合もある。できれば同じ魔物に強敵が増えるだけが望ましい。
「ちっ……」
階層を下りて間もなく、前方に魔物のポップアップウインドウが見えた。
【ヴァンパイア】
【Lv90】
【物理】強
【火】強
【水】強
【風】強
【土】強
これまでとは異なる魔物であった。雑魚にしては強い。耐性はかなりあったものの、Lv110である諒太の敵ではないはずだ。
魔力を温存し、純粋な剣技のみで戦う。長時間籠もるはずで、ポーションを節約するためだ。金策に来ているというのに、ポーション代を無駄にするなんてできなかった。
ところが、簡単には終わりそうもない。幾ら斬り付けようとも、ヴァンパイアは怯むモーションすら見せなかった。
「どうなってんだ!?」
かれこれ二十分は戦っている。だが、正直にダメージを与えているような気配は感じない。
堪らず諒太はスナイパーメッセージを起動。こうなれば経験しているだろう夏美に聞くしかないだろうと。
「おいナツ、ヴァンパイアって無敵なのかよ!?」
通話が繋がるや怒鳴るように聞く。こんな今もヴァンパイアの攻撃を避けながら、攻撃を加えているのだ。決して怒っていたわけではないのだが、自然と声を張ってしまう。
『リョウちん、ひょっとしてジャスミス大鉱山の五階層にいんの?』
「話が早いな! 今、そこでヴァンパイアと戦ってんだが、手応えがまるでねぇんだ!」
どうやらエリア限定の魔物だったのかもしれない。即座に言い当てた夏美にそんなことを思う。
『ヴァンパイアはレアモンスターで銀装備か聖水しか効かないんだよ。特効装備以外で殴り倒すとしたら一時間はかかった記憶……』
「マジかよ!? それっていつの話だ!?」
金魚並みの記憶力である夏美のことだ。覚えているとすれば割と最近であろう。だが、最近であればあるほど、倒すまでに要する時間が一時間に近づいてしまうはず。
『レベル75くらいかな? ソロだったら倍以上かかんじゃない?』
オツの洞窟に籠もる前だと夏美。パーティーを組んでいた彼女は割と低レベル時にジャスミス大鉱山へ挑んでいたらしい。
「嘘だろ? 俺は金策に来てんだぞ!?」
『そういわれてもなぁ。ボス部屋に逃げ込むか、ダンジョンの入り口まで逃げ切るしかないよ』
「アクティブ状態でもボス部屋に入れるのか!?」
正直に時間が惜しい。確認事項はその一点のみ。不毛な時間を使うくらいなら、ボスと戦っていた方がマシだ。
『ボス部屋はエリア外設定だから入れるけど、リョウちんはまた引いちゃいそうだからなぁ……』
ここで気になる話が続く。得てして夏美は肝心なことを教えそびれる。だからこそ、諒太は聞いておかねばならない。
「何が現れる? ソロで倒せるやつか!?」
『通常はLv90のネクロマンサーなんだけど、ジャスミス大鉱山では超レアエネミーの噂があんのよ。スクショも掲示板の書き込みもないんだけど、人づてに広まった噂話がね……』
どうにも要領を得ない話である。どうしてか夏美は七不思議的な話を始めた。諒太としてはヴァンパイアさえどうにかできれば良かったというのに。
『でも、ただの噂話じゃないよ。二ヶ月ほど前かな? ガナンデル皇国の要職に就いたトッププレイヤーの一人がLv85でネクロマンサーにソロで挑んだの。かなり強かったみたいで全員が楽勝だと思ってたらしいんだけど、その日以来ログインしなくなっちゃってさ。フレンドだった人がメールで確認を取ったらしいのよ』
胡散臭い話が更に怪しくなる。半分は怪奇現象のように語る夏美のせいであるが、呆れる諒太に構うことなく彼女は続けた。
『そしたら引退したってメールが来たらしいの。長々とした運営批判が綴られた最後に、魔物の名前が書いてあったみたい……』
何だか諒太は話に引き込まれている。やはり引退と聞くのは他人事ではない。要職にまで上り詰めたプレイヤーが引退するなんて、よほど理不尽な目に遭ったのだと思われる。
『Lv140ドラゴンゾンビがいた――――って』
諒太にも理解できた。当時はまだLv100に到達したプレイヤーなどいなかったはず。だというのに、ダンジョンボスのレベルを遥かに超えるモンスターが現れたとあっては激怒するのも頷ける話だ。エンカウントするだけで、それまでの労力が無駄となってしまうのだから。
「でも、そのメールだけなんだろ?」
問題はメールの内容が真実かどうかだ。他に証言がないのであれば、負けた腹いせに嘘を書いたとも考えられる。
『証言はメールだけだけど、腑に落ちないことがあんのよ。どうしてかジャスミス大鉱山だけはミノタウロスの出現報告がないの……』
そういえばアップデート前のミノタウロスはレアボスだと聞いていた。石ころを落とすという、各ダンジョン共通のレアモンスターであったはず。
「ミノタウロスは弱いだろ? 他のレアボスがでるんじゃねぇのか?」
『それはない。アップデートでミノタウロスが常設のモンスターになるまで、難易度に関係なくレアボスはミノタウロスと決まってた。だけど、今の今までジャスミス大鉱山はネクロマンサー以外のボスが報告されていない……』
夏美曰く、全てのダンジョンはレアボスの可能性があるという。だが、全てのサーバーでジャスミス大鉱山だけはレアボスの報告がないらしい。
「それでナツはジャスミス大鉱山にドラゴンゾンビがいるというのか? 俺が引き当てるんじゃないかって?」
ヴァンパイアの攻撃を避けつつも、諒太は薄い目をしている。どうして都市伝説染みた魔物を自身が引き当てるというのかと。
『いやぁ、リョウちんならやってくれそうだからね。あたしは期待してるよ!』
「るせぇ! 妙な期待すんな……」
どうもフラグを立てられた気がしないでもない。けれど、諒太には時間がないことも事実である。
『ま、基本的にネクロマンサーしかでないよ。体力はめっちゃあるけど、リョウちんなら余裕で倒せる。召喚する死霊も火属性魔法が凄く効くし。なんたって平均レベル70の三人パーティーでも余裕で狩れるくらいだもん! ジャスミス大鉱山は五階層までだから、ヴァンパイアが鬱陶しければボス部屋に逃げ込んじゃいなよ?』
最後に気休めを言ってくれた。
こうなると諒太は夏美を信じるしかない。不毛なヴァンパイアとの戦いを止めて、ボスを倒し採掘に戻るべきだと。
諒太は勢いよく駆け出す。もう決断している。ヴァンパイアをスルーし、諒太は階層を走り回っていた。
数分間に亘り全力で走った結果、諒太の眼前にはボス部屋の大扉が現れている。
特に何の作戦も立てていない。諒太はただヴァンパイアとの戦いを避けたかっただけなのだ……。
「何階層まであんのかね……」
鉄鉱石ばかりであった先ほどの採掘場を通り過ぎ、諒太は再びマッピングを始めている。
これまでの階層は思ったよりも小さい。あとになって実装されたオツの洞窟のように広くはなかった。基本が鉱山という設定だからなのか、下り階段は直ぐに見つかっている。
「五階層か……」
概ねダンジョンは五階層おきに敵が強くなった。魔物の種類が一新されることもあれば、強敵が加わるだけの場合もある。できれば同じ魔物に強敵が増えるだけが望ましい。
「ちっ……」
階層を下りて間もなく、前方に魔物のポップアップウインドウが見えた。
【ヴァンパイア】
【Lv90】
【物理】強
【火】強
【水】強
【風】強
【土】強
これまでとは異なる魔物であった。雑魚にしては強い。耐性はかなりあったものの、Lv110である諒太の敵ではないはずだ。
魔力を温存し、純粋な剣技のみで戦う。長時間籠もるはずで、ポーションを節約するためだ。金策に来ているというのに、ポーション代を無駄にするなんてできなかった。
ところが、簡単には終わりそうもない。幾ら斬り付けようとも、ヴァンパイアは怯むモーションすら見せなかった。
「どうなってんだ!?」
かれこれ二十分は戦っている。だが、正直にダメージを与えているような気配は感じない。
堪らず諒太はスナイパーメッセージを起動。こうなれば経験しているだろう夏美に聞くしかないだろうと。
「おいナツ、ヴァンパイアって無敵なのかよ!?」
通話が繋がるや怒鳴るように聞く。こんな今もヴァンパイアの攻撃を避けながら、攻撃を加えているのだ。決して怒っていたわけではないのだが、自然と声を張ってしまう。
『リョウちん、ひょっとしてジャスミス大鉱山の五階層にいんの?』
「話が早いな! 今、そこでヴァンパイアと戦ってんだが、手応えがまるでねぇんだ!」
どうやらエリア限定の魔物だったのかもしれない。即座に言い当てた夏美にそんなことを思う。
『ヴァンパイアはレアモンスターで銀装備か聖水しか効かないんだよ。特効装備以外で殴り倒すとしたら一時間はかかった記憶……』
「マジかよ!? それっていつの話だ!?」
金魚並みの記憶力である夏美のことだ。覚えているとすれば割と最近であろう。だが、最近であればあるほど、倒すまでに要する時間が一時間に近づいてしまうはず。
『レベル75くらいかな? ソロだったら倍以上かかんじゃない?』
オツの洞窟に籠もる前だと夏美。パーティーを組んでいた彼女は割と低レベル時にジャスミス大鉱山へ挑んでいたらしい。
「嘘だろ? 俺は金策に来てんだぞ!?」
『そういわれてもなぁ。ボス部屋に逃げ込むか、ダンジョンの入り口まで逃げ切るしかないよ』
「アクティブ状態でもボス部屋に入れるのか!?」
正直に時間が惜しい。確認事項はその一点のみ。不毛な時間を使うくらいなら、ボスと戦っていた方がマシだ。
『ボス部屋はエリア外設定だから入れるけど、リョウちんはまた引いちゃいそうだからなぁ……』
ここで気になる話が続く。得てして夏美は肝心なことを教えそびれる。だからこそ、諒太は聞いておかねばならない。
「何が現れる? ソロで倒せるやつか!?」
『通常はLv90のネクロマンサーなんだけど、ジャスミス大鉱山では超レアエネミーの噂があんのよ。スクショも掲示板の書き込みもないんだけど、人づてに広まった噂話がね……』
どうにも要領を得ない話である。どうしてか夏美は七不思議的な話を始めた。諒太としてはヴァンパイアさえどうにかできれば良かったというのに。
『でも、ただの噂話じゃないよ。二ヶ月ほど前かな? ガナンデル皇国の要職に就いたトッププレイヤーの一人がLv85でネクロマンサーにソロで挑んだの。かなり強かったみたいで全員が楽勝だと思ってたらしいんだけど、その日以来ログインしなくなっちゃってさ。フレンドだった人がメールで確認を取ったらしいのよ』
胡散臭い話が更に怪しくなる。半分は怪奇現象のように語る夏美のせいであるが、呆れる諒太に構うことなく彼女は続けた。
『そしたら引退したってメールが来たらしいの。長々とした運営批判が綴られた最後に、魔物の名前が書いてあったみたい……』
何だか諒太は話に引き込まれている。やはり引退と聞くのは他人事ではない。要職にまで上り詰めたプレイヤーが引退するなんて、よほど理不尽な目に遭ったのだと思われる。
『Lv140ドラゴンゾンビがいた――――って』
諒太にも理解できた。当時はまだLv100に到達したプレイヤーなどいなかったはず。だというのに、ダンジョンボスのレベルを遥かに超えるモンスターが現れたとあっては激怒するのも頷ける話だ。エンカウントするだけで、それまでの労力が無駄となってしまうのだから。
「でも、そのメールだけなんだろ?」
問題はメールの内容が真実かどうかだ。他に証言がないのであれば、負けた腹いせに嘘を書いたとも考えられる。
『証言はメールだけだけど、腑に落ちないことがあんのよ。どうしてかジャスミス大鉱山だけはミノタウロスの出現報告がないの……』
そういえばアップデート前のミノタウロスはレアボスだと聞いていた。石ころを落とすという、各ダンジョン共通のレアモンスターであったはず。
「ミノタウロスは弱いだろ? 他のレアボスがでるんじゃねぇのか?」
『それはない。アップデートでミノタウロスが常設のモンスターになるまで、難易度に関係なくレアボスはミノタウロスと決まってた。だけど、今の今までジャスミス大鉱山はネクロマンサー以外のボスが報告されていない……』
夏美曰く、全てのダンジョンはレアボスの可能性があるという。だが、全てのサーバーでジャスミス大鉱山だけはレアボスの報告がないらしい。
「それでナツはジャスミス大鉱山にドラゴンゾンビがいるというのか? 俺が引き当てるんじゃないかって?」
ヴァンパイアの攻撃を避けつつも、諒太は薄い目をしている。どうして都市伝説染みた魔物を自身が引き当てるというのかと。
『いやぁ、リョウちんならやってくれそうだからね。あたしは期待してるよ!』
「るせぇ! 妙な期待すんな……」
どうもフラグを立てられた気がしないでもない。けれど、諒太には時間がないことも事実である。
『ま、基本的にネクロマンサーしかでないよ。体力はめっちゃあるけど、リョウちんなら余裕で倒せる。召喚する死霊も火属性魔法が凄く効くし。なんたって平均レベル70の三人パーティーでも余裕で狩れるくらいだもん! ジャスミス大鉱山は五階層までだから、ヴァンパイアが鬱陶しければボス部屋に逃げ込んじゃいなよ?』
最後に気休めを言ってくれた。
こうなると諒太は夏美を信じるしかない。不毛なヴァンパイアとの戦いを止めて、ボスを倒し採掘に戻るべきだと。
諒太は勢いよく駆け出す。もう決断している。ヴァンパイアをスルーし、諒太は階層を走り回っていた。
数分間に亘り全力で走った結果、諒太の眼前にはボス部屋の大扉が現れている。
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