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第三章 希望を抱いて

ドロップマラソン

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 夏美と彩葉はAランクスクロールのドロップマラソンをするため、ジャスミス大鉱山へと転移していた。

「あたしは最下層でミスリル掘りたい!」
「採掘も必要かぁ。何せ外に出る度に千五百ナールも徴収されるもんね……」
 時間的効率は悪くなるけれど、ダンジョンボスであるネクロマンサーを狩るにはダンジョンから出る必要があった。何度もトライするため、入山料の支払いが必須。道中の採掘をしないことには瞬く間に金欠となってしまう。

「ログアウトしたら買い取り金額が半分になるのはホント酷い仕様だね……」
「まったくだよ。一々歩いて戻らなきゃならないなんて。まあ五階層までしかないのは救いだよ。これが十階層ならマラソンなんてやってられない!」
 どうやらログアウト対策として、買い取り金の減額があるらしい。ここでも簡単にクリアさせまいという運営の悪しき思惑が感じられる仕様となっていた。

 二人は瞬く間に最下層である五階層に到着。ネクロマンサーのボス部屋前でマトックを取り出し、採掘を始めている。
「ミスリル、ウマ! 昔と違ってざくざくだよ!」
「ナツはいいなぁ。私は鉄鉱石ばかりだよ……」
 トホホと彩葉。それはそのはず勇者ナツの幸運値は当時訪れたときよりもかなり強化されている。また死に戻った彩葉は現在のレベルが74であり、当時と変わらぬ採掘しか期待できなかった。

「まあハズレを引くと当たり確率上がってくし、そのうちミスリルも出るでしょ? 上手くいけばボスドロップに当たるかもよ?」
「うおっと! ナツ、魔物だよ!」
 採掘に精を出す二人であったが、水を差すように魔物が現れている。
 人型をした魔物。現れたそれは明確に二人を狙っていた。

「おお、ヴァンパイアじゃん! 滅茶苦茶に苦労したのを思い出したよ!」
 ヴァンパイアはレアエネミーだ。レアドロップが期待できる魔物であったけれど、攻略法が確立するまでかなりの強敵として扱われていた。

「シルバーアックスしかないけど……」
「私はライトを撃ちまくるよ!」
 ヴァンパイアは適切な攻撃をしないことにはダメージが殆ど入らない。物理攻撃なら銀系の装備であり、魔法攻撃は無属性扱いのライトくらいしか効果がなかった。もっともライトは暗い場所を照らすだけの補助魔法であるが、ヴァンパイア相手に使用すると防御力を下げる効果が見込める。

「いくよ、ライト!」
「おけ! さぁぁっせぇぇいっ!!」
 早速と夏美が斬り付ける。斧の熟練度は高くないけれど、手持ちの銀装備はそれしかない。かといって夏美はそれだけで十分だと考えていた。

 初撃でヴァンパイアは苦しそうなモーションを見せる。流石にデバフ効果と銀装備の相乗効果であるのだろう。またLv120という夏美の攻撃は当時と比べものにならず、想定よりもダメージを与えている様子。
 結局、三度斬り掛かっただけでヴァンパイアは討伐されてしまう。過去のイメージとは裏腹に……。

「よわっ! こんなに雑魚だった?」
「未だに銀装備の補正が間違っていると思うんだよね……」
 二人は笑っている。残念ながらドロップはなしであったけれど、通常の魔物程度に弱かったのだから問題なしだ。

 再び二人は採掘に精を出す。せめて入山料くらいは稼いでおかないと、残金が底をつく。だからこそ、目一杯に鉱石を採取するしかない。
「ナツ、もうそろそろボス部屋入っていい?」
「いいよ! 毎回掘るんだし!」
 彩葉は金策よりもドロップマラソンがメイン。よって彼女は入山料さえ賄えたらそれでいいらしい。

 徐に大扉を開く。これより現れるのはネクロマンサー。魔法攻撃が効きづらいボスであるが、召喚する死霊たちには魔法が有効というソロプレイヤー殺しの相手である。
「なっつかしぃ!」
 ネクロマンサーも例によって例のごとく登場モーションがあった。薄暗い渦の中から現れる姿は何だか数ヶ月前を思い出してしまう。

【ネクロマンサー】
【Lv90】
【物理】弱
【火】微強
【水】強
【風】強
【土】強

「イロハちゃんは死霊の相手をして! あたしがネクロマンサーを殴り倒すよ!」
「あいよ! そういや最初に来たときは苦労したね? アアアアさんがいないときは雑魚が鬱陶しくてさ……」
 今となってはであるが、大魔道士であったアアアアの不在時にはネクロマンサーが召喚する死霊の相手が困難であった。けれど、今は聖王騎士団員である彩葉が炎と土の魔法を習得している。死霊には火属性が有効であったから、当時ほど苦労はしないはずだ。

「いっくよ!」
 早速と斬り掛かる夏美。体力をセーブするつもりか、スキルもないただの斬り付けである。
「ファイアーストーム!」
 一方で彩葉はBランクの火属性魔法を放つ。無詠唱まで上げきったばかりだが、彼女のファイアーストームによりネクロマンサーが召喚した死霊は一網打尽となっていた。

「斬りまくる!」
 夏美は何も考えずに攻撃を繰り出している。Lv120超えの彼女は間違っても死ぬはずがないと考えているようだ。
 彩葉は何も口出ししない。彼女もまたネクロマンサー如きに勇者ナツが倒されるだなんて考えもしていない感じだ。

 僅か五分ばかり。ネクロマンサーは何もできないまま、再び現れた黒い渦に飲み込まれていく。
「ナツ、強くなったねぇ? 何にもしてないのにレベルアップだ……」
 ほぼ何もしていない彩葉。ネクロマンサーは数ヶ月前に強敵だった相手だ。しかし、今は雑魚をあしらうように撃退している。しかも姿を消したあとには宝箱と魔石が残っていた。

「ナツ、さまさまだよ……」
 早速と彩葉が宝箱に手を伸ばす。それは彼女の目的である。一度目で目当てが手に入るとは考えていなかったが、宝箱すら現れないことが多いのだ。ドキドキする瞬間が味わえるのも勇者ナツのおかげといえた。

「あちゃー、ハズレ!」
「何が入ってたの?」
 別に興味なさげな夏美。スクロールを必要としない彼女はこのダンジョンでのドロップなど不要である。

「シルバーマトック! 昔は有り難かったけどさ!」
 アハハと笑う彩葉は取り出したマトックを見せた。
 それはレンタルするマトックよりも幸運値が10だけ上がるアイテムであった。ミスリルの採掘をしていたときには必須アイテムであったけれど、レンタルマトックとは異なり、常に壊れる可能性がある。加えてドロップもネクロマンサーのみであって、狙って集めるといったアイテムではない。

「マラソンだからね。諦めて戻ろう!」
「だね。ネクロマンサーが雑魚なら割と周回できそうだし」
 二人は気落ちすることなく来た道を戻っていく。数ヶ月前の記憶であったが、道筋はよく覚えている。早くダンジョンを出て、リポップさせるしかない。今日中に二つのAランクスクロールをゲットするのだと意気込んでいた……。
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