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第三章 希望を抱いて
残念妖精の見解
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セリスと別れて一時間。諒太は何もない山道をひたすら北上している。道中にエンカウントする魔物は問題なく倒せるレベルであり、疲労感は少しも覚えなかった。
「もうセリスは皇様に会えた頃かな?」
ずっと顕現したままのリナンシーに聞く。本当に残念な妖精であったけれど、孤独な移動を強いられるこの状況では有り難い。暇つぶしになるというメリットを諒太は見つけている。
「どうじゃろうな。セリスめは一応、若ボンの婚約者じゃからの。謁見は割と容易じゃないかと思うが……」
思わぬ話となる。セリスは今し方、諒太に攻略されたかのような表情であった。その彼女はどうやら皇子様の婚約者であるらしい。
「おい、まさか不敬罪にならんだろうな?」
「カッカ! 聖王国でも不敬罪じゃし、今さらじゃろう?」
「笑いごっちゃねぇよ! ロークアットはまだしも、セリスはヤバい気がする」
リナンシーは尚も笑い声を上げた。
もしも皇子様の婚約者に手を出したとすれば……。正直に三国が争うよりも酷い結末になってしまいそうだ。
「よく覚えておらんが、確か若ボンはかなり年下じゃぞ。年頃の娘がセリスしかおらんなんだと記憶しておる」
「お前は頻繁に各国を回ってんのか? 事情に詳しすぎる……」
「別に直接は出向いておらん。妾は三国と共存の契約を結んでおるからの。何か起こる度に祈りを捧げられるのじゃ。出向くのは王が変わったときくらいじゃの」
やはりリナンシーはかなり高位な存在であるようだ。セイクリッド神に次ぐ存在であるのに、もう疑いはない。
「じゃあ、お前はアクラスフィア王とも面識があるってわけか? 俺は未だに一度も会っていないんだけど……」
ここで諒太は兼ねてからの疑問を口にする。一体アクラスフィア王とはどういった人物なのかと。一度も王城に呼ばれたことのない諒太にとって、彼は謎の存在であった。
「あの爺は何を考えておるのか分からん。存在が不安定なんじゃ。前の世界線と今の世界線ではまるで中身が違う」
「え?」
意外な話であった。全てを知っているようなリナンシーでさえ、アクラスフィア王について掴みかねているだなんて。
「どういうことだよ? 前の世界線ってアクラスフィア王国が滅びる寸前だったやつか?」
世界線を越えたリナンシーは同じ時間を共有している。このような話は彼女にしかできない。
リナンシーはヒラヒラと舞って、思案している感じだ。だが、諒太の耳元にとまるや、
「あの爺は中身がない――――」
とんでもないことを言い放っていた。
確実に存在する人間に対していう言葉ではない。どうしてか全てを見てきたリナンシーは王様が空っぽであると口にした。
「中身って人形ってことじゃないんだろ?」
「うむ。どうにもその時々でまるで違うのじゃ。前世界線では非道な好戦的性格じゃったのに、現世界線では棘の一つもなくなった。どうしてじゃろうなぁ……」
中身がないとの話は、どうやら一貫していないという内容であったらしい。豹変する性格がそう感じさせる原因であろう。
まるで意味不明な内容であるが、諒太には思い当たる節があった。もしかすると、という思考が諒太の脳裏によぎっている。
「アクラスフィア王は運営の影響を受けているんじゃ……」
予想の範疇を出なかったけれど、アクラスフィア王の思考は運営とリンクしているような気がしてならない。
前の世界線はどうしても三国戦争を起こしたい運営が王国と聖王国とを争わせた。アクラスフィア王が決めたという進軍によって。
「運営とはあれか? 三百年前の不穏な存在……」
お馬鹿な妖精らしくなく、リナンシーは推し量っている。ゲーム世界の記憶も持つ彼女は悪しき力の存在に気付いているようだ。
「ああ、その通りだ。三百年前の世界では邪神にも似た存在なんだよ。その意志がアクラスフィア王の有り様を決定しているように思えてならない」
プレイヤーが最初に所属するアクラスフィア王国。勇者召喚の舞台であり、勇者召喚を推し進めた初代アクラスフィア王は、運営の思惑通りに話を進めるだけの存在だ。初代の血を引く現アクラスフィア王もまた運営の意向を反映してしまう可能性があった。
「なるほどの。歴史によって影響を受けているのか。まあ今は悪い状態ではないじゃろ? 世界線を動かした勇者ナツ様々じゃな?」
言ってリナンシーは笑う。彼女の言葉から、現状のアクラスフィア王が三国同盟に好意的であるのは明らか。ならば運営も割と堪えたのだと思える。勇者ナツがイベントに逆らったこと。プレイヤーたちがゲームの主旨とは異なる戦争を望まないのだと。
「ナツはよく頑張ってくれたよ。だから俺も早く借金を返済しないと……」
「ま、そういうことじゃの! 妾も婿殿が奴隷になるだなんて我慢ならん! ミスリルを掘りまくって返済するのじゃよ!」
方針は変わらない。ミスリルが採掘されるというジャスミス大鉱山。そこでいち早く借金を完済し、諒太は勇者業に戻らねばならない。
それこそ世界平和とルイナーの討伐を達成するためにも……。
「もうセリスは皇様に会えた頃かな?」
ずっと顕現したままのリナンシーに聞く。本当に残念な妖精であったけれど、孤独な移動を強いられるこの状況では有り難い。暇つぶしになるというメリットを諒太は見つけている。
「どうじゃろうな。セリスめは一応、若ボンの婚約者じゃからの。謁見は割と容易じゃないかと思うが……」
思わぬ話となる。セリスは今し方、諒太に攻略されたかのような表情であった。その彼女はどうやら皇子様の婚約者であるらしい。
「おい、まさか不敬罪にならんだろうな?」
「カッカ! 聖王国でも不敬罪じゃし、今さらじゃろう?」
「笑いごっちゃねぇよ! ロークアットはまだしも、セリスはヤバい気がする」
リナンシーは尚も笑い声を上げた。
もしも皇子様の婚約者に手を出したとすれば……。正直に三国が争うよりも酷い結末になってしまいそうだ。
「よく覚えておらんが、確か若ボンはかなり年下じゃぞ。年頃の娘がセリスしかおらんなんだと記憶しておる」
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「別に直接は出向いておらん。妾は三国と共存の契約を結んでおるからの。何か起こる度に祈りを捧げられるのじゃ。出向くのは王が変わったときくらいじゃの」
やはりリナンシーはかなり高位な存在であるようだ。セイクリッド神に次ぐ存在であるのに、もう疑いはない。
「じゃあ、お前はアクラスフィア王とも面識があるってわけか? 俺は未だに一度も会っていないんだけど……」
ここで諒太は兼ねてからの疑問を口にする。一体アクラスフィア王とはどういった人物なのかと。一度も王城に呼ばれたことのない諒太にとって、彼は謎の存在であった。
「あの爺は何を考えておるのか分からん。存在が不安定なんじゃ。前の世界線と今の世界線ではまるで中身が違う」
「え?」
意外な話であった。全てを知っているようなリナンシーでさえ、アクラスフィア王について掴みかねているだなんて。
「どういうことだよ? 前の世界線ってアクラスフィア王国が滅びる寸前だったやつか?」
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「あの爺は中身がない――――」
とんでもないことを言い放っていた。
確実に存在する人間に対していう言葉ではない。どうしてか全てを見てきたリナンシーは王様が空っぽであると口にした。
「中身って人形ってことじゃないんだろ?」
「うむ。どうにもその時々でまるで違うのじゃ。前世界線では非道な好戦的性格じゃったのに、現世界線では棘の一つもなくなった。どうしてじゃろうなぁ……」
中身がないとの話は、どうやら一貫していないという内容であったらしい。豹変する性格がそう感じさせる原因であろう。
まるで意味不明な内容であるが、諒太には思い当たる節があった。もしかすると、という思考が諒太の脳裏によぎっている。
「アクラスフィア王は運営の影響を受けているんじゃ……」
予想の範疇を出なかったけれど、アクラスフィア王の思考は運営とリンクしているような気がしてならない。
前の世界線はどうしても三国戦争を起こしたい運営が王国と聖王国とを争わせた。アクラスフィア王が決めたという進軍によって。
「運営とはあれか? 三百年前の不穏な存在……」
お馬鹿な妖精らしくなく、リナンシーは推し量っている。ゲーム世界の記憶も持つ彼女は悪しき力の存在に気付いているようだ。
「ああ、その通りだ。三百年前の世界では邪神にも似た存在なんだよ。その意志がアクラスフィア王の有り様を決定しているように思えてならない」
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