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第三章 希望を抱いて
協力要請
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セリスの追求を逃れたものの、諒太は既に疲れ果てていた。残念妖精の相手をするのは過度に精神力を消耗してしまう。
「それでリョウ、どこへ向かっているのです? お詫びとして馬車にて送って差し上げましょう……」
リナンシーとの会話が終わるや、セリスが聞く。
馬車はクラフタットのメインストリートを走っている。彼女は諒太の目的地について尋ねていた。
セリスの質問に諒太は言い淀む。それはそのはず目的地など決まっていないのだ。ガナンデル皇国には、ただ金策に来ただけ。最後に解放されたエリアという理由だけで、諒太は皇国まで足を運んでいる。当然のこと、セリスと出会うなんて予定していない。
「それが少々、軍資金に困ってるんだ。だから実入りの多いダンジョンかエリアを探している……」
闇雲に探すよりは地元の人間に聞くべきだ。有力者であるセリスであれば、良い情報を持っているかもしれない。
「それはお幾らほど? 差し出がましいことでしょうけれど、私は皇国の上位貴族です。リョウが勇者であるのなら、助力すべきかと考えますし、力になれるかと思います」
思わぬ話だが、生憎と諒太はその申し出を受けられない。なぜなら借金は借金で返済できないというゲーム内の縛りがある。セリスから受けた援助をロークアットに支払うなんてできなかった。
「えっと、その……有り難い話なんだが……」
どう説明すべきか。今し方、どの勢力にも属したくないと話していた諒太はスバウメシア聖王国のお姫様に借金をしているなど口が裂けても言い出せない。
「セリスや、婿殿はのロークアットに借金をしておる! 貴様からの施しを受けたくても受けられんのじゃ! 察せよ!」
「おい、リナンシー!?」
誤魔化す暇もなくリナンシーにより事情が伝えられてしまう。
これには流石にセリスの眉間に大量のしわが寄る。聞いた話と異なるだけでなく、債権者は聖王国の姫君。言わずもがな、エルフはドワーフにとっての宿敵であった。
「耳長族の姫君とどういうご関係で?」
突き刺さるような視線が向けられている。人族である諒太ならばまだしも、スバウメシア聖王国は今も戦争を続けている間柄。間者と疑われても仕方がない。
「オツの洞窟というダンジョンで偶然に出会ったんだ。その頃、俺はどうしても強くならなきゃいけなくて、彼女の助力を仰いだ。ロークアットは人族の血を引いているし、思慮深い姫君だと思う。ドワーフたちが毛嫌いしているだけだ。話し合えば両国は分かり合えると俺は考えている」
諒太は伝えていく。自身の考えを。あるべき世界の構成をセリスへと告げる。
「皇国の国民感情は理解するけれど、現状の対立を作りだしているのは明確にガナンデル皇国だろう? どちらの肩を持つかと聞かれたら、俺はスバウメシア聖王国につく……」
「リョウ、言って良いことと悪いことがあるのですよ!?」
「いいや、言わせてくれ。この三百年に亘って、常にガナンデル皇国からスバウメシア聖王国へと攻め込んでいた。セシリィ女王から攻め込んだことがあるか? ルイナーが完全復活しようかという状況なのに、皇国は隙あらば攻め込んでいただろう?」
ドワーフを咎めるように。歴史的な悪がガナンデル皇国であると諒太は明言している。
「でも、それじゃ駄目だ。世界はルイナーの封印に一致団結すべき。俺はセイクリッド世界を一つに纏めたい。だからこそ君にも要求する……」
ルイナーと戦うに際して世界が一つになる。諒太が戦う土壌はそれなくしてあり得なかった。
一つ息を吸ったあと、諒太は睨むようにして告げる。
「セリス、俺に協力しろ――――」
堂々と勇者らしく。諒太はガナンデル皇国に対し強気な態度で迫る。それは決して協力要請などではない。あわよくば彼らを従えるつもりで、これまでの罪を償えといった風に。
「協力ですか……?」
困惑するセリスだが、諒太は尚も続ける。彼が選択したその言葉は、受ける印象とは異なり、寛容さなど含まれていないのだと。
「皇国に選択権はない。俺には全面的に争う覚悟があるからだ。手を取り合えないのであれば邪魔なだけ。その場合はガナンデル皇国を滅ぼし、俺はアクラスフィア王国とスバウメシア聖王国だけでルイナーと戦う……」
絶句するセリス。先ほどまで腰の低い感じであった冒険者リョウ。しかし、この今は明確に脅迫している。勇者であるとバレただけであるというのに。
「幾ら勇者といえども、一国を相手に戦えるとでも?」
「何なら試してみるか? 俺は別に構わねぇぞ。その場合に皇国が壊滅したとして俺は知ったこっちゃねぇけどな……」
Aランク冒険者を素手で再起不能に追い込んだリョウ。セリスはそれを直に見ていたけれど、それは別の世界線の話。勇者と聞いたところで、国を相手に戦えるはずがないと思う。
「残念ですが、我が国は勇者リョウと分かり合えないようです……」
期待した返答はもらえなかった。残念ながら諒太の脅迫にも似た要請は却下されてしまう。
実力の程を少しも見ていないのだ。仮にセリスが間違った判断をしていたとして、彼女は責められるべきではなかった……。
「それでリョウ、どこへ向かっているのです? お詫びとして馬車にて送って差し上げましょう……」
リナンシーとの会話が終わるや、セリスが聞く。
馬車はクラフタットのメインストリートを走っている。彼女は諒太の目的地について尋ねていた。
セリスの質問に諒太は言い淀む。それはそのはず目的地など決まっていないのだ。ガナンデル皇国には、ただ金策に来ただけ。最後に解放されたエリアという理由だけで、諒太は皇国まで足を運んでいる。当然のこと、セリスと出会うなんて予定していない。
「それが少々、軍資金に困ってるんだ。だから実入りの多いダンジョンかエリアを探している……」
闇雲に探すよりは地元の人間に聞くべきだ。有力者であるセリスであれば、良い情報を持っているかもしれない。
「それはお幾らほど? 差し出がましいことでしょうけれど、私は皇国の上位貴族です。リョウが勇者であるのなら、助力すべきかと考えますし、力になれるかと思います」
思わぬ話だが、生憎と諒太はその申し出を受けられない。なぜなら借金は借金で返済できないというゲーム内の縛りがある。セリスから受けた援助をロークアットに支払うなんてできなかった。
「えっと、その……有り難い話なんだが……」
どう説明すべきか。今し方、どの勢力にも属したくないと話していた諒太はスバウメシア聖王国のお姫様に借金をしているなど口が裂けても言い出せない。
「セリスや、婿殿はのロークアットに借金をしておる! 貴様からの施しを受けたくても受けられんのじゃ! 察せよ!」
「おい、リナンシー!?」
誤魔化す暇もなくリナンシーにより事情が伝えられてしまう。
これには流石にセリスの眉間に大量のしわが寄る。聞いた話と異なるだけでなく、債権者は聖王国の姫君。言わずもがな、エルフはドワーフにとっての宿敵であった。
「耳長族の姫君とどういうご関係で?」
突き刺さるような視線が向けられている。人族である諒太ならばまだしも、スバウメシア聖王国は今も戦争を続けている間柄。間者と疑われても仕方がない。
「オツの洞窟というダンジョンで偶然に出会ったんだ。その頃、俺はどうしても強くならなきゃいけなくて、彼女の助力を仰いだ。ロークアットは人族の血を引いているし、思慮深い姫君だと思う。ドワーフたちが毛嫌いしているだけだ。話し合えば両国は分かり合えると俺は考えている」
諒太は伝えていく。自身の考えを。あるべき世界の構成をセリスへと告げる。
「皇国の国民感情は理解するけれど、現状の対立を作りだしているのは明確にガナンデル皇国だろう? どちらの肩を持つかと聞かれたら、俺はスバウメシア聖王国につく……」
「リョウ、言って良いことと悪いことがあるのですよ!?」
「いいや、言わせてくれ。この三百年に亘って、常にガナンデル皇国からスバウメシア聖王国へと攻め込んでいた。セシリィ女王から攻め込んだことがあるか? ルイナーが完全復活しようかという状況なのに、皇国は隙あらば攻め込んでいただろう?」
ドワーフを咎めるように。歴史的な悪がガナンデル皇国であると諒太は明言している。
「でも、それじゃ駄目だ。世界はルイナーの封印に一致団結すべき。俺はセイクリッド世界を一つに纏めたい。だからこそ君にも要求する……」
ルイナーと戦うに際して世界が一つになる。諒太が戦う土壌はそれなくしてあり得なかった。
一つ息を吸ったあと、諒太は睨むようにして告げる。
「セリス、俺に協力しろ――――」
堂々と勇者らしく。諒太はガナンデル皇国に対し強気な態度で迫る。それは決して協力要請などではない。あわよくば彼らを従えるつもりで、これまでの罪を償えといった風に。
「協力ですか……?」
困惑するセリスだが、諒太は尚も続ける。彼が選択したその言葉は、受ける印象とは異なり、寛容さなど含まれていないのだと。
「皇国に選択権はない。俺には全面的に争う覚悟があるからだ。手を取り合えないのであれば邪魔なだけ。その場合はガナンデル皇国を滅ぼし、俺はアクラスフィア王国とスバウメシア聖王国だけでルイナーと戦う……」
絶句するセリス。先ほどまで腰の低い感じであった冒険者リョウ。しかし、この今は明確に脅迫している。勇者であるとバレただけであるというのに。
「幾ら勇者といえども、一国を相手に戦えるとでも?」
「何なら試してみるか? 俺は別に構わねぇぞ。その場合に皇国が壊滅したとして俺は知ったこっちゃねぇけどな……」
Aランク冒険者を素手で再起不能に追い込んだリョウ。セリスはそれを直に見ていたけれど、それは別の世界線の話。勇者と聞いたところで、国を相手に戦えるはずがないと思う。
「残念ですが、我が国は勇者リョウと分かり合えないようです……」
期待した返答はもらえなかった。残念ながら諒太の脅迫にも似た要請は却下されてしまう。
実力の程を少しも見ていないのだ。仮にセリスが間違った判断をしていたとして、彼女は責められるべきではなかった……。
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