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第三章 希望を抱いて
悪い予感
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新たな世界線。望む未来に到達した諒太は穏やかな月曜日を過ごしていた。
学校から帰るや、提出しなければならない課題に取りかかる。授業は寝て過ごしているのだから、せめて宿題くらいは片付けておくべきだと。
課題を終えてキッチンに向かうと珍しく両親がいた。二人してテーブルに座る姿なんて本当にレアだ。定時帰宅という概念が二人にはないのだと、諒太は考えていたというのに。
「諒ちゃん、お勉強お疲れさま……」
母親の鈴香が諒太に声をかけると、父親の雅志も彼女に続いた。
「夕飯は寿司を買ってきた。三人で食べよう……」
何だか諒太は嫌な予感を覚えてならない。このあと重大な家族会議でも開かれるのではないかと邪推してしまう。それだけ家族全員が揃う場面は限られていたのだ。
「なんか話でもあんの?」
ミネラルウォーターをグラスに注ぎながら諒太が聞く。
何の用事もなく、三人が勢揃いするなんてあり得ない。だからこそ悪い話は先に聞いておくべきだと。
テーブルに並んだ寿司をつまみながら、諒太が椅子に座ると、
「実はな……」
雅志が問いに答え始める。やはり予想した通りだった。
元旦ですら勢揃いすることが稀だというのに、何の記念日でもない四月の下旬に家族が一堂に会するなんて考えられない。
諒太は一定の覚悟をしている。話を聞く前から、どちらに着いて行こうかと考えてしまう。
「ゴールデンウイークに旅行することになった……」
ところが、告げられたのは離婚とかいう面倒な話ではなく、単に家族旅行を企画しているという内容。これには安堵するというより、正直に拍子抜けであった。
「何だそれ?」
「いや、勤続年数二十年を記念して会社から旅行券をいただいたんだ。年休を使って構わないというのでな。ゴールデンウイークは十連休になった。だからオーストラリアに旅行するんだ」
珍しい話もあるものだと諒太。両親が勤めているのは馬車馬のように労働を強いるブラック企業のはず。だから十連休を許可してくれるなんて予想外すぎた。
「俺は別に旅行なんていいよ……」
「そういうと思ったから、二人分しか予約していない。だからこそ今になっての報告だ」
それはそれで酷いと思うが、やはり親なのだろう。諒太の考えはお見通しであるらしい。
「諒ちゃん、悪いんだけど、お留守番お願いね?」
「別に構わねぇって。楽しんできなよ……」
諒太の休みは学校の創立記念日が間にあって七連休である。更にもう一日ズル休みをすると両親と同じ十連休になった。
「お土産を買ってくるから頼む。父さんは諒太を信じているからな?」
「ああ、問題ねぇよ……」
何気ない会話であった。このときの諒太には分からなかった。来週から始まるゴールデンウイーク。それがとんでもない事態になることを。
思えばこの朝にしか諒太の平穏はなかったのだ……。
学校から帰るや、提出しなければならない課題に取りかかる。授業は寝て過ごしているのだから、せめて宿題くらいは片付けておくべきだと。
課題を終えてキッチンに向かうと珍しく両親がいた。二人してテーブルに座る姿なんて本当にレアだ。定時帰宅という概念が二人にはないのだと、諒太は考えていたというのに。
「諒ちゃん、お勉強お疲れさま……」
母親の鈴香が諒太に声をかけると、父親の雅志も彼女に続いた。
「夕飯は寿司を買ってきた。三人で食べよう……」
何だか諒太は嫌な予感を覚えてならない。このあと重大な家族会議でも開かれるのではないかと邪推してしまう。それだけ家族全員が揃う場面は限られていたのだ。
「なんか話でもあんの?」
ミネラルウォーターをグラスに注ぎながら諒太が聞く。
何の用事もなく、三人が勢揃いするなんてあり得ない。だからこそ悪い話は先に聞いておくべきだと。
テーブルに並んだ寿司をつまみながら、諒太が椅子に座ると、
「実はな……」
雅志が問いに答え始める。やはり予想した通りだった。
元旦ですら勢揃いすることが稀だというのに、何の記念日でもない四月の下旬に家族が一堂に会するなんて考えられない。
諒太は一定の覚悟をしている。話を聞く前から、どちらに着いて行こうかと考えてしまう。
「ゴールデンウイークに旅行することになった……」
ところが、告げられたのは離婚とかいう面倒な話ではなく、単に家族旅行を企画しているという内容。これには安堵するというより、正直に拍子抜けであった。
「何だそれ?」
「いや、勤続年数二十年を記念して会社から旅行券をいただいたんだ。年休を使って構わないというのでな。ゴールデンウイークは十連休になった。だからオーストラリアに旅行するんだ」
珍しい話もあるものだと諒太。両親が勤めているのは馬車馬のように労働を強いるブラック企業のはず。だから十連休を許可してくれるなんて予想外すぎた。
「俺は別に旅行なんていいよ……」
「そういうと思ったから、二人分しか予約していない。だからこそ今になっての報告だ」
それはそれで酷いと思うが、やはり親なのだろう。諒太の考えはお見通しであるらしい。
「諒ちゃん、悪いんだけど、お留守番お願いね?」
「別に構わねぇって。楽しんできなよ……」
諒太の休みは学校の創立記念日が間にあって七連休である。更にもう一日ズル休みをすると両親と同じ十連休になった。
「お土産を買ってくるから頼む。父さんは諒太を信じているからな?」
「ああ、問題ねぇよ……」
何気ない会話であった。このときの諒太には分からなかった。来週から始まるゴールデンウイーク。それがとんでもない事態になることを。
思えばこの朝にしか諒太の平穏はなかったのだ……。
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