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第二章 悪夢の果てに
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「リョウちん君、お昼ぶり! その鎧ってナツに貸してもらったんだ?」
「お前はゲームだとチャットと変わらないのな? このゲームはかなりリアルだけど……」
「ゲームはリアルと違うからね! てかリョウちん君、つよっ!」
やはりステータスを確認されてしまう。恐らくレベルだけでなくステータスも見られてしまったはずだ。
「えっ? 勇者……?」
恐れていた展開となる。勇者は他のサーバーにも現れているが、各サーバーに一人だけだ。それぞれが有名人であり、諒太はその中に名を連ねていない。
「イロハ、俺は少々悪いプレイヤーなんだ。内密にしてくれ……」
「はぁぁ、マジっすか? リョウちん君、見た目と違って大胆だね? まあそのステなら納得だけどさ。でも幸運値を削って合計値を下げても、やっぱ目立つよ? もう少し落とした方がいいんじゃない?」
「不幸は元からだ……。それにステは操作していない」
失礼なやつだと思う。ステ盛りした分を幸運値で調整してるみたいに諒太は言われてしまった。
「まあいいや、それでどこよ? ミミズ亜種は……」
「窓から外を見てみろ。というかイロハは盾を使えないか? 正直に殴り殺すのはリスクが高い。最後にある猛突進は前衛職殺しだからな……」
彩葉にグレートサンドワーム亜種の攻略法を伝えていく。
夏美とは違って彼女は物わかりが良い。後半は前衛から離れるという約束をして諒太は参戦を許可している。
「リョウちん君は倒したことあるんだ。てかナツの盾はミミズ君の素材?」
「これはリョウちんに借りたの! すっごい強いよこれ。おかげで金剛の盾を習得できたよ!」
「いいなぁ……。リョウちん君、私には貢いでくれんのかい?」
チラリと諒太を見る彩葉。既にミノタウロスの石ころはないし、諒太はドロップ運が最低値である。廃人プレイヤーであるイロハが喜ぶものなんて諒太は持っていない。
「あ、石ころ……」
そういえばまだ石ころがあった。エンシェントドラゴンから剥ぎ取った石ころ。未鑑定アイテムだが、彩葉なら使い道を知っているかもしれない。
「おお、ミノタウロスの石ころとはリョウちん君は気前が良い! ……ってコレはミノころと違うね? ちょっと鑑定してみっか!」
言って彩葉は【石ころ???】を鑑定し始めた。脳筋戦士であるはずなのに、鑑定スキルを持っているなんて意外である。
「すげぇな……。鑑定眼持ちかよ?」
「イロハちゃんは罠を外したりもできるの。隠しステの器用さが高いみたい!」
謎の石ころがどういったものかは不明だ。しかし、エンシェントドラゴンから剥ぎ取ったのだから低レアではないと思う。
「ねぇナツ、エンシェントドラゴンって剥ぎ取りできたっけ……?」
なぜかイロハは眉根を寄せながら夏美の方を向く。鑑定の結果から石ころがエンシェントドラゴンからの剥ぎ取り素材であると分かったはずなのに。
「あたしはなかったけど……」
眉根を寄せる展開である。剥ぎ取り可能な魔物である場合は誰であっても剥ぎ取りできるものと諒太は考えていたのだが。
「いや、普通にできたぞ? 裂けたところから取り出したんだ。それでその石ころは何だったんだ?」
「それは竜魂というアイテムみたい。ほらスライムの粘魂とかあるじゃん? 恐らく抽選に当選したから、剥ぎ取りできたんだろうね」
あるじゃんといわれても諒太は粘魂なんて知らない。定番のアイテムだとしても、この他に魂がつくアイテムなど剥ぎ取ったことはなかった。
「まあ合成アイテムだよ。粘魂だとスライム系に強くなったり耐性ができたり。だからこれは竜種に影響を与えるのだろうね」
「おお、じゃあルイナーに有効じゃん! あれも一応は竜種でしょ?」
ひょっとすると諒太はゲームクリアに有効なアイテムを手に入れてしまったのかもしれない。ノリで渡してしまったのは流石に失敗だったような気がしてしまう。
「これは受け取れないや。って君は出張だったね? 始めから私は持ち帰れないし、これは返しとくよ。竜種自体があんまりいないけど、今後は色々と出てくるんじゃないかな。きっとこれはあとで価値が上がるやつ!」
そういえば諒太は出張データとしてプレイしている体で彩葉の前にいるのだ。実際のところは出張データをダウンロードしていないし、そもそもダウンロードできるのかも分からない。
「何も渡せずに悪いな。鑑定までしてもらって……」
「いいのいいの! リョウちん君、メインイベントはこれからだよ! とっておきの魔物を引いてくれてあんがとね!」
言って彩葉が指さす。彼女は謝礼よりも窓の外に見える巨大な黒ミミズと早く戯れたいようだ。
「じゃあ、そろそろ再開する? リョウちん、早くパーティー承認して!」
「ナツ、もう一度確認だが、金剛の盾は使用タイミングによって効果が異なるんだぞ? 真っ白になる瞬間に攻撃を受けなければ効果は薄いと考えろ。輝きが黄色に近ければタイミングが早い。逆に輝きが赤ければタイミングが遅いということ。効果時間は変わらないけれど、初撃の防御タイミングによって防御率が変わってしまう。スキルの効果を最大限に活かせないんだ」
「もう分かったって! ちゃんと見て発動するから!」
どうにも信用ならないが、タイミングは全ての動作で重要な要素である。剣撃や魔法攻撃にもカウンター判定があるのだ。適切に行動すれば通常以上の効果が得られることは夏美も知っていることだろう。
「じゃあ、俺はここにある盾を借りるぞ?」
「いいけど、大した盾じゃないよ? 盾は集めたことないし」
ないよりはマシだろうと乱雑に置かれた盾を手にした。確かに防御力は低いし、何の効果もない。かといって騎士団支給の盾よりは防御力があった。金剛の盾を習得したのだし、諒太は危機に備えておくべきだ。
「絶対に倒そう! 皆の衆、突撃ぃぃ!」
夏美の号令で三人は倉庫を飛び出す。待ち構えるグレートサンドワーム亜種に向かって走り出している。
「でっか! 先制いただき!」
聖騎士イロハが先手を取った。彼女の装備は素早さと器用さを生かす細剣であるのだが、片手で扱えるはずなのに盾は装備していない。夏美同様、盾のマイナス効果を嫌っているようだ。
「あたしも行くよ!」
続いて夏美の攻撃。ソニックスラッシュを華麗に繰り出している。残るは諒太となるのだが、Sランク魔法は使えないし、Bランク魔法を撃つしかない。
「ファイヤーストーム!」
一応は撃てるだけを放つ。しかし、Aランクスキルを繰り出した二人と比べれば派手さがなく、どうしても見劣りしてしまう。
「リョウちん君はAランク魔法を持ってないの?」
「持ってねぇんだよ。どこで取れんだ?」
「基本的にイベントかドロップだね。頑張りたまえ!」
どちらも期待できない方法であった。セイクリッド世界にイベントなど存在しないし、ドロップは諒太が最も不得手とすることだ。夏美やロークアットを連れ出して、おこぼれに預かるくらいしか手がない。
「めちゃ硬いな! 黒ミミズ君!」
突進を警戒しつつ前衛の二人はグレートサンドワーム亜種をタコ殴りにしている。しかし、まるで手応えがない。Sランク魔法を封印したこの度の戦いは純粋な力比べとなっていた。
かれこれ一時間は戦っていただろう。だが、今もまだ砂塵と突進を繰り出すだけであり、中盤以降となる石つぶてすら使ってこない。
「何なのこれ!?」
流石に彩葉も疲れたらしい。ディバインパニッシャーを二回必要としたグレートサンドワーム亜種。底知れぬ体力が設定されている模様だ。また実装前であったからか、グレートサンドワーム亜種には雷耐性が設定されていない。今思えばディバインパニッシャーは一撃でかなりのダメージを叩きだしていたのだろう。
「お前らSランク剣技とか使えよ! メテオバスターとか超強力なんだろ!?」
「あるけど撃てないよ! めっちゃ体力を消耗するから! 使用後の硬直も長いし!」
基本的に魔道士である諒太。延々と続く持久戦の意味をようやく理解した。Aランク剣技しか繰り出さないのはそういう理由だ。魔法が魔力を消費するのに対し、剣技は体力を消費する。加えて威力に比例した長い硬直時間があるらしい。
廃人プレイヤーである二人は始めから適切なプレイをしていたのだ。無理矢理にSランク剣技を繰り出して、死に戻るといった下手な真似はしない。
「石つぶてきたよ! 確実にダメージを与えてる!」
夏美が彩葉を鼓舞する。とはいえまだ折り返しだ。あと一時間も殴り続けるとか苦行でしかない。
それでも三人は攻撃を続けた。今のところ範囲攻撃以外は問題ない。夏美が最前線に陣取っているため、彩葉への攻撃は範囲攻撃のみ。加えて彩葉はモーションを見切った上で上手く回避していた。
「エアブラスト!!」
何度魔法を撃ち、何回ポーションを飲んだことだろう。終わりの見えぬ戦いに諒太も割と疲れていた。
石つぶてを使い出してから三十分あまり。そろそろ彩葉には戦線離脱してもらわねばならない。
「おいイロハ、もう後ろへ行け!」
「ええ!? もうちょっといいじゃん!?」
廃人プレイヤーらしい返答に諒太は呆れている。かといって彩葉の本番は明日だ。こんなところで死に戻りさせるわけにはならなかった。
「ダメだ! タゲられたら終わりだぞ!? それに……」
彩葉を説得しようとしたその瞬間、グレートサンドワーム亜種が咆吼する。突如として猛烈な砂塵を巻き上げ始めた。
「マズい!!」
それは記憶にあるパターンであった。ディバインパニッシャーで葬ったかと思えば確かにグレートサンドワーム亜種は咆吼していた。また強烈な砂塵を巻き上げていたのも覚えている。
三人はダメージを与えすぎていた。グレートサンドワーム亜種が最後の大技【猛突進】を使うまでに体力を削りすぎていたのだ。
即座に猛突進が始まる。気が触れたかのように激しく頭部を振りながら、グレートサンドワーム亜種は巨体をうねらせ突っ込んできた。
「ふんぬぅぅ!」
最前線にいた夏美は金剛の盾により何とか耐えている。しかし、イロハは盾もなければ防御スキルも持っていない。
完全に失態であった。本番を前にして聖騎士イロハが失われるなどあってはならぬこと。
かといって勇者である夏美でさえ一撃で削り取られる攻撃を、聖騎士のイロハが持ち堪えられるはずもなかった……。
「お前はゲームだとチャットと変わらないのな? このゲームはかなりリアルだけど……」
「ゲームはリアルと違うからね! てかリョウちん君、つよっ!」
やはりステータスを確認されてしまう。恐らくレベルだけでなくステータスも見られてしまったはずだ。
「えっ? 勇者……?」
恐れていた展開となる。勇者は他のサーバーにも現れているが、各サーバーに一人だけだ。それぞれが有名人であり、諒太はその中に名を連ねていない。
「イロハ、俺は少々悪いプレイヤーなんだ。内密にしてくれ……」
「はぁぁ、マジっすか? リョウちん君、見た目と違って大胆だね? まあそのステなら納得だけどさ。でも幸運値を削って合計値を下げても、やっぱ目立つよ? もう少し落とした方がいいんじゃない?」
「不幸は元からだ……。それにステは操作していない」
失礼なやつだと思う。ステ盛りした分を幸運値で調整してるみたいに諒太は言われてしまった。
「まあいいや、それでどこよ? ミミズ亜種は……」
「窓から外を見てみろ。というかイロハは盾を使えないか? 正直に殴り殺すのはリスクが高い。最後にある猛突進は前衛職殺しだからな……」
彩葉にグレートサンドワーム亜種の攻略法を伝えていく。
夏美とは違って彼女は物わかりが良い。後半は前衛から離れるという約束をして諒太は参戦を許可している。
「リョウちん君は倒したことあるんだ。てかナツの盾はミミズ君の素材?」
「これはリョウちんに借りたの! すっごい強いよこれ。おかげで金剛の盾を習得できたよ!」
「いいなぁ……。リョウちん君、私には貢いでくれんのかい?」
チラリと諒太を見る彩葉。既にミノタウロスの石ころはないし、諒太はドロップ運が最低値である。廃人プレイヤーであるイロハが喜ぶものなんて諒太は持っていない。
「あ、石ころ……」
そういえばまだ石ころがあった。エンシェントドラゴンから剥ぎ取った石ころ。未鑑定アイテムだが、彩葉なら使い道を知っているかもしれない。
「おお、ミノタウロスの石ころとはリョウちん君は気前が良い! ……ってコレはミノころと違うね? ちょっと鑑定してみっか!」
言って彩葉は【石ころ???】を鑑定し始めた。脳筋戦士であるはずなのに、鑑定スキルを持っているなんて意外である。
「すげぇな……。鑑定眼持ちかよ?」
「イロハちゃんは罠を外したりもできるの。隠しステの器用さが高いみたい!」
謎の石ころがどういったものかは不明だ。しかし、エンシェントドラゴンから剥ぎ取ったのだから低レアではないと思う。
「ねぇナツ、エンシェントドラゴンって剥ぎ取りできたっけ……?」
なぜかイロハは眉根を寄せながら夏美の方を向く。鑑定の結果から石ころがエンシェントドラゴンからの剥ぎ取り素材であると分かったはずなのに。
「あたしはなかったけど……」
眉根を寄せる展開である。剥ぎ取り可能な魔物である場合は誰であっても剥ぎ取りできるものと諒太は考えていたのだが。
「いや、普通にできたぞ? 裂けたところから取り出したんだ。それでその石ころは何だったんだ?」
「それは竜魂というアイテムみたい。ほらスライムの粘魂とかあるじゃん? 恐らく抽選に当選したから、剥ぎ取りできたんだろうね」
あるじゃんといわれても諒太は粘魂なんて知らない。定番のアイテムだとしても、この他に魂がつくアイテムなど剥ぎ取ったことはなかった。
「まあ合成アイテムだよ。粘魂だとスライム系に強くなったり耐性ができたり。だからこれは竜種に影響を与えるのだろうね」
「おお、じゃあルイナーに有効じゃん! あれも一応は竜種でしょ?」
ひょっとすると諒太はゲームクリアに有効なアイテムを手に入れてしまったのかもしれない。ノリで渡してしまったのは流石に失敗だったような気がしてしまう。
「これは受け取れないや。って君は出張だったね? 始めから私は持ち帰れないし、これは返しとくよ。竜種自体があんまりいないけど、今後は色々と出てくるんじゃないかな。きっとこれはあとで価値が上がるやつ!」
そういえば諒太は出張データとしてプレイしている体で彩葉の前にいるのだ。実際のところは出張データをダウンロードしていないし、そもそもダウンロードできるのかも分からない。
「何も渡せずに悪いな。鑑定までしてもらって……」
「いいのいいの! リョウちん君、メインイベントはこれからだよ! とっておきの魔物を引いてくれてあんがとね!」
言って彩葉が指さす。彼女は謝礼よりも窓の外に見える巨大な黒ミミズと早く戯れたいようだ。
「じゃあ、そろそろ再開する? リョウちん、早くパーティー承認して!」
「ナツ、もう一度確認だが、金剛の盾は使用タイミングによって効果が異なるんだぞ? 真っ白になる瞬間に攻撃を受けなければ効果は薄いと考えろ。輝きが黄色に近ければタイミングが早い。逆に輝きが赤ければタイミングが遅いということ。効果時間は変わらないけれど、初撃の防御タイミングによって防御率が変わってしまう。スキルの効果を最大限に活かせないんだ」
「もう分かったって! ちゃんと見て発動するから!」
どうにも信用ならないが、タイミングは全ての動作で重要な要素である。剣撃や魔法攻撃にもカウンター判定があるのだ。適切に行動すれば通常以上の効果が得られることは夏美も知っていることだろう。
「じゃあ、俺はここにある盾を借りるぞ?」
「いいけど、大した盾じゃないよ? 盾は集めたことないし」
ないよりはマシだろうと乱雑に置かれた盾を手にした。確かに防御力は低いし、何の効果もない。かといって騎士団支給の盾よりは防御力があった。金剛の盾を習得したのだし、諒太は危機に備えておくべきだ。
「絶対に倒そう! 皆の衆、突撃ぃぃ!」
夏美の号令で三人は倉庫を飛び出す。待ち構えるグレートサンドワーム亜種に向かって走り出している。
「でっか! 先制いただき!」
聖騎士イロハが先手を取った。彼女の装備は素早さと器用さを生かす細剣であるのだが、片手で扱えるはずなのに盾は装備していない。夏美同様、盾のマイナス効果を嫌っているようだ。
「あたしも行くよ!」
続いて夏美の攻撃。ソニックスラッシュを華麗に繰り出している。残るは諒太となるのだが、Sランク魔法は使えないし、Bランク魔法を撃つしかない。
「ファイヤーストーム!」
一応は撃てるだけを放つ。しかし、Aランクスキルを繰り出した二人と比べれば派手さがなく、どうしても見劣りしてしまう。
「リョウちん君はAランク魔法を持ってないの?」
「持ってねぇんだよ。どこで取れんだ?」
「基本的にイベントかドロップだね。頑張りたまえ!」
どちらも期待できない方法であった。セイクリッド世界にイベントなど存在しないし、ドロップは諒太が最も不得手とすることだ。夏美やロークアットを連れ出して、おこぼれに預かるくらいしか手がない。
「めちゃ硬いな! 黒ミミズ君!」
突進を警戒しつつ前衛の二人はグレートサンドワーム亜種をタコ殴りにしている。しかし、まるで手応えがない。Sランク魔法を封印したこの度の戦いは純粋な力比べとなっていた。
かれこれ一時間は戦っていただろう。だが、今もまだ砂塵と突進を繰り出すだけであり、中盤以降となる石つぶてすら使ってこない。
「何なのこれ!?」
流石に彩葉も疲れたらしい。ディバインパニッシャーを二回必要としたグレートサンドワーム亜種。底知れぬ体力が設定されている模様だ。また実装前であったからか、グレートサンドワーム亜種には雷耐性が設定されていない。今思えばディバインパニッシャーは一撃でかなりのダメージを叩きだしていたのだろう。
「お前らSランク剣技とか使えよ! メテオバスターとか超強力なんだろ!?」
「あるけど撃てないよ! めっちゃ体力を消耗するから! 使用後の硬直も長いし!」
基本的に魔道士である諒太。延々と続く持久戦の意味をようやく理解した。Aランク剣技しか繰り出さないのはそういう理由だ。魔法が魔力を消費するのに対し、剣技は体力を消費する。加えて威力に比例した長い硬直時間があるらしい。
廃人プレイヤーである二人は始めから適切なプレイをしていたのだ。無理矢理にSランク剣技を繰り出して、死に戻るといった下手な真似はしない。
「石つぶてきたよ! 確実にダメージを与えてる!」
夏美が彩葉を鼓舞する。とはいえまだ折り返しだ。あと一時間も殴り続けるとか苦行でしかない。
それでも三人は攻撃を続けた。今のところ範囲攻撃以外は問題ない。夏美が最前線に陣取っているため、彩葉への攻撃は範囲攻撃のみ。加えて彩葉はモーションを見切った上で上手く回避していた。
「エアブラスト!!」
何度魔法を撃ち、何回ポーションを飲んだことだろう。終わりの見えぬ戦いに諒太も割と疲れていた。
石つぶてを使い出してから三十分あまり。そろそろ彩葉には戦線離脱してもらわねばならない。
「おいイロハ、もう後ろへ行け!」
「ええ!? もうちょっといいじゃん!?」
廃人プレイヤーらしい返答に諒太は呆れている。かといって彩葉の本番は明日だ。こんなところで死に戻りさせるわけにはならなかった。
「ダメだ! タゲられたら終わりだぞ!? それに……」
彩葉を説得しようとしたその瞬間、グレートサンドワーム亜種が咆吼する。突如として猛烈な砂塵を巻き上げ始めた。
「マズい!!」
それは記憶にあるパターンであった。ディバインパニッシャーで葬ったかと思えば確かにグレートサンドワーム亜種は咆吼していた。また強烈な砂塵を巻き上げていたのも覚えている。
三人はダメージを与えすぎていた。グレートサンドワーム亜種が最後の大技【猛突進】を使うまでに体力を削りすぎていたのだ。
即座に猛突進が始まる。気が触れたかのように激しく頭部を振りながら、グレートサンドワーム亜種は巨体をうねらせ突っ込んできた。
「ふんぬぅぅ!」
最前線にいた夏美は金剛の盾により何とか耐えている。しかし、イロハは盾もなければ防御スキルも持っていない。
完全に失態であった。本番を前にして聖騎士イロハが失われるなどあってはならぬこと。
かといって勇者である夏美でさえ一撃で削り取られる攻撃を、聖騎士のイロハが持ち堪えられるはずもなかった……。
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