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第二章 悪夢の果てに

開戦

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 学校が終わるや、諒太は全速力で自転車を漕いでいた。
 夏美には悪いと思うも、夕方までに諒太は準備をしなくてはならない。ウルムの工房で盾を受け取って、即座にウォーロックへと転移。両軍が衝突する前に諒太は到着しなければならなかった。

 家に帰ると直ぐさまログイン。時を移さずクラフタットに転移し、カモミールへと駆け込んでいく。
「リョウ、丁度良いところに……」
 カモミールに飛び込むやウルムが笑みを浮かべている。その理由は諒太が考える通りであろう。諒太の無茶な要求を彼はやり遂げてくれたはず。

「ウルムさん、盾が完成したのですか!?」
「そう焦るな。苦労したけれど、最高の盾が仕上がったぞ」
 言ってウルムが盾を持ってきてくれた。どうやら夜を徹して作業してくれたようだ。
 皮から作られたとは思えないほど美しい。一見すると黒光りをした金属のようにも見える。しかし、その軽さは金属製であることを完全に否定していた。

【王者の盾+100】
【DEF+80(補正+100)】
【レアリティ】★★★★★
【魔法耐性】火(強)・水(強)・風(強)・土(強)
【効果】
・受けたダメージを吸収し蓄積分を放射可能
・装備時ATK・AGI微減。
【固有スキル】
・ロックブラスター(視認阻害効果・威力は蓄積ダメージに依存)
【特殊錬成】★★★★★

 何も言葉がなかった。これは最高どころかチートすぎる。プラス値がそのまま防御力に乗っかるだなんて思いもしないことだ。
 夏美にもらった灼熱王オルフェウスの鎧でさえ防御力は+40だというのに、王者の盾は補正値を合わせると180もある。また魔法耐性も期待通りであり、固有スキルまでもが付与されていた。加えてフェアリーティアの錬成も最高評価だ。非の打ち所がない出来映えである。

「ウルムさん、ありがとうございます。期待以上です!」
 攻撃と素早さ微減というデメリットはあったけれど、元よりそれは想定内だ。微減で済んだことは寧ろ喜ぶべきことである。
「久しぶりに良い仕事をした。これからも珍しい素材があれば持ち込んでくれ。やはり職人としては最高の装備を作りたい」
「もちろんです! 少し急いでいますので、今日のところはこれで失礼します!」
 諒太は直ぐさまアクラスフィア王国へと戻り、フレアが用意してくれたワイバーンへと跨がる。いざリバレーションを唱えようとしたところで、

「あ、一応は装備を考えておくか……」
 王者の盾は装備するとして妖精女王のローブでは防御力が心許ない。特にINT値は必要ではないし、MP消費半減が付いたオルフェウスの鎧に変更するべきだ。

「確か呪術師がいるって言ってたな……」
 あまり気が進まないけれど、念には念を入れてあの装備を装着した方がいいのかもしれない。
「ドワーフの奇面……」
 多大な精神力を消費してしまいそうだが、性能は十分だ。問題発生の可能性は残るものの、顔バレが防げることもメリットである。

「急ごう! リバレーション!!」
 装備を変更し、立ち所に転移魔法を唱える。場所はウォーロックの上空。両軍が睨み合う真上に決めた。

「っ!?」
 転移した諒太は声を失っている。かといって戦争が始まったわけではない。
 諒太は上空から見えたスバウメシア聖王国の大軍に絶句していた。ロークアットはアクラスフィア兵の少なさに驚いていたけれど、そう思って当然である。スバウメシア軍は十倍以上の兵力で侵攻していたのだから。

『ロークアット、到着した! 兵を止めろ!』
『リョウ様!? 遅いですよ!』
 あと少し遅ければ、交戦が始まっていたに違いない。アクラスフィア兵を威圧的に取り囲む陣形はロークアットが時間稼ぎに指示したのだと思われる。恐らくもう限界だったことだろう。

「奈落に燻る不浄なる炎よ……幾重にも重なり烈火となれ……」
 ロークアットの頑張りに感謝を。これより諒太は極大魔法を撃ち込み、作戦を決行する。彼女の努力に報いるときだ。スバウメシア兵の戦意を根こそぎ削ぎ落とすことが、諒太に求められし戦果である……。

「可否は問わず……ただ要求に応えよ……」
 狙うは両軍が向かい合う中心。ロークアットが守ってくれたその地点は盛大な花火を打ち上げる場所に相応しい。

「獄炎よ……大地を溶かし天を焦がせ……天地万物一片も残すことなく灰燼と化すのみ」
 スバウメシア兵たちは全員が諒太に視線を合わせていた。
 上空に強大な魔力の発生を感じて。魔導兵である彼らは諒太が扱う魔力の巨大さに気付いたらしい。

「兵よ刮目しろ! この戦争は俺が預かる! お前たちはただ大人しくしていろ!」
 声を上げ、彼らの注目を浴びる。今こそ神に匹敵する力を見せつけるとき。戦闘意欲を根こそぎ奪い取るべきときだ。

「燃え上がれぇぇっ! インフェルノォォッ!!」
 相変わらず魔力消費は半端ない。ごっそりと身体から抜けていく感覚があった。
 次の瞬間には轟音を伴いながら、獄炎が立ち上る。それは傾きつつある太陽よりも深く、空と大地を真っ赤に染めていく。
 両軍を分かつ巨大な炎柱が荒野に出現していた……。

「両軍動くな! この場は俺が取り仕切る!」
 声の限りに叫んでいる。全員に聞こえるよう。兵たちの心へ届かせるために。
 諒太は確信していた。恐れおののく兵たちを見る限りは自身の話を聞く余地があるだろうと……。
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