幼馴染み(♀)がプレイするMMORPGはどうしてか異世界に影響を与えている

坂森大我

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第二章 悪夢の果てに

エンシェントドラゴン

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 諒太は早速と斬りかかった。しかし、ダメージが入っているのか分からない。軽く弾かれたその攻撃は与えていたとして微々たるものだろう。
「ソニックスラッシュ!」
 夏美が駄目だと話していたのは中級以上の範囲攻撃とSランク単体攻撃のみ。ならばと諒太はAランク剣技であるソニックスラッシュを繰り出す。

 今度はちゃんと手応えがあった。やはり剣技と魔法を駆使して戦わねばならないようだ。
「ファイアーボール!!」
 今度はファイアーボールを連発。耐性を見たところ全属性が中であった。だとすれば一番熟練度の高いファイアーボールを使い続けるだけ。装備による効果も火属性重視であったし、間違いではないはずだ。

「クソッ!」
 確かに攻撃モーションは大きかったけれど威力は半端ない。大木を次々とへし折るその攻撃は当たってしまえば一溜まりもないだろう。
「いけ、ファイアーボール!」
 魔法を撃ってはソニックスラッシュ。攻撃を避けた後に再び魔法を放つ。諒太はひたすら同じパターンを繰り返していた。

 剣技により体力が消耗し、魔法によって魔力を消費する。合間にポーションで回復しつつも、諒太は戦闘を続けた。
「なっ!?」
 ようやく異なる攻撃を繰り出してきた。噛みつきと前足による攻撃だけでなく、エンシェントドラゴンは長い尻尾を振り回すようになっていたのだ。

「木が倒されて空間が生まれたのは戦いやすいけど……」
 初撃は距離もあり何とか躱せた。けれど、接近戦を続けようものなら、いつか尻尾による攻撃を受けてしまうだろう。
 戦闘はジリ貧となっていく。尻尾を怖がるばかり、諒太は下がりながら魔法を撃つしかなくなっていた。

「やはり盾が必要か……」
 今までの敵には必要なかったけれど、今回ばかりは分が悪い。尻尾による範囲攻撃は恐らく極大ダメージであるはずだ。かといって攻めて押し返さないことには足場の悪い森の中へと後退していくしかない。

「どうしたらいい?」
 思考する一瞬の隙。ドラゴンは諒太に向かって突進を始めた。巨体に似つかわしくない俊敏さである。諒太は草むらへと飛び込むようにして回避するしかない。だが、ドラゴンの猛攻は続く。回避されるや連続攻撃とばかりに長い尻尾を勢いよく振り回した。

 この攻撃は流石に避けきれない。倒れ込んだ諒太には回避する時間的余裕がなかった。
「クソッタレがっ!!」
 咄嗟にメニューを開いてアイテムを取り出す。正しいかどうかは分からないけれど、直撃を防ぐだけでも効果があるだろうと。
「砂海王、なんとかしろっ!!」
 盾代わりに砂海王の堅皮を取り出したつもり。しかし、取り出されたのは消化不良品の方であった。慌てて選択したそれは夏美曰く小判型をしたうんちである。

「ちくしょう、耐えろォォッ!」
 こうなればうんちを信じるしかない。メニューを開き直している時間がないのであれば、諒太は小判型のうんちに身体を預け、襲い来る尻尾に対して防御するだけだ。

「だあぁあああっっ!!」
 眠れる全てを目覚めさせるような甲高い金属音が響き渡った。当たった瞬間の衝撃は経験したことのない威力だ。けれど、諒太は数メートル押されただけで何とか踏ん張りきれていた。弾き飛ばされることなくエンシェントドラゴンの攻撃を防いでいる。

『盾スキル【金剛の盾】を習得しました』

 刹那に通知がある。唐突に届いたその知らせに諒太は愕然としてしまう。何が起こったのかを理解できないままだ。
 即座に後退し、諒太は距離を取る。ステータスを確認してみると確かにスキル【金剛の盾】が追加されていた。

「まさかこのウンコは盾の素材なのか?」
 細長く小判型をした物体。まだ素材でしかなかったのだが、盾スキルを得た現状において、うんちは盾であるのだと判明する。
「こんなの持ち歩けないぞ!?」
 持ち手がないそれは盾として使えない。けれど、盾スキルを得られたのだから使用するしかないだろう。

「尻尾攻撃を繰り出した瞬間に取り出すんだ……」
 諒太は作戦を練る。常に出し入れをして使うべきだと。エンシェントドラゴンが範囲攻撃を使用した瞬間に取り出して防御する。アイテムボックスを常時開いておくのは視界が悪かったけれど、現状はそういった運用をするしかない。

「覚悟しやがれ、エンシェントドラゴン!」
 再び攻勢に転じる。防御する術を得たのだ。ならば一気呵成に攻め立てるのみ。エンシェントドラゴンが倒れるその瞬間までとことん相手になるつもりだ。

「ファイアーボール! ソニックスラッシュ!」
 剣技にて近付くと高確率でドラゴンは噛みついてきた。またそれを回避されると今度は尻尾を振り回す。
「ウンコ、頼む!」
 金剛の盾を併用した今回はガキンと鈍い金属音。後方へと引き摺られることもなく、ガッチリと止められた。即座にうんちを収納し、諒太はソニックスラッシュを返している。
「いける! これなら倒せる!」
 ポーションの消費は激しくなっていた。だが、気にする問題ではない。倒さねばならない相手に出し惜しみするつもりはなかった。

「流石に強えぇ……」
 もうかれこれ戦闘開始から二時間近くが経過していた。既に明け方の四時である。夏美とのレベル差なのか、それとも個体差であるのか。手数は諒太が圧倒しているはずなのにエンシェントドラゴンはまだ大地に立ったままだ。

「ファイアーボール! ソニックスラッシュ!」
 幾度もコンボを繰り出す。せめて登校時間までに決着をつけようと。もう既に睡眠は諦めた。あと二時間以内に倒せたならば何の問題もない。

「死ねぇぇっ! エンシェントドラゴン!」
 何度目かのソニックスラッシュをヒットさせた直後、突としてエンシェントドラゴンが立ち上がった。どうしてか天を仰ぐようにしてエンシェントドラゴンはそびえ立つ。
 あまりの巨大さに思わず息を呑んでしまう。見上げる諒太からすれば岩壁に立ち塞がれたかのような迫力があった。

『全力で逃げたら大丈夫――――』
 不意に夏美の言葉を思い出す。この状況は一定の未来を想像させている。ひょっとしてひょっとするとエンシェントドラゴンは……。

「ボディプレスかよっ!?」
 諒太は全力で駆け出していた。巨大なドラゴンが倒れてくるのだ。下敷きになってしまえば一溜まりもないだろう。

「ナツ、先に言えぇぇっ!!」
 夏美への文句を口にしながら、諒太は最後に大ジャンプ。倒壊する岩壁から逃れるようにして思いっきり頭から飛び込んでいた。

 次の瞬間、地面に伏す諒太の身体が激しく上下する。地鳴りにも似た轟音と共に……。
 これには安堵するしかない。まだ確認はしていなかったけれど、これだけ地面が揺れるのはエンシェントドラゴンが倒れ込んだに違いないと。

 ふぅっと息を吐く諒太。長い戦いを終えた彼はようやく一息つけている……。
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