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第二章 悪夢の果てに
入国の条件
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夜のセイクリッド世界。賑やかなクラフタットをあとにすると一面の闇である。ダンジョンで使用する光魔石を腰に取り付け、諒太は街道を西へと進んだ。
五分ほど西へ向かうと街道が向かう先は北と南だけになり、森へと入っていくしかなくなった。ゲームであれば尻込みしないけれど、生憎とこの世界は現実である。
「魔物が出ても問題ないはず。突き進もう……」
夏美に聞いた通りに森へと踏み入る。薄暗く木々が生い茂っていたのだが、夏美曰くめっちゃ大木とやらを発見するまで西へと進むしかない。
幸いにもエンカウントする魔物は十分に戦えるものばかりだ。かといって平均レベルは70ほどあり、初心者の入国が禁じられている理由を暗に知らされている。
「んん? あれがそうか?」
視界の先に天まで届きそうな大木が見えてきた。月明かりに浮かぶ巨大な木の影。まだ四十分ほどしか歩いていないけれど、明確にめっちゃ大木であるそれは妖精の国へと通じる目印であろう。
諒太は意図せず走り出している。フェアリーティアを手に入れるという目的よりも、冒険心に火が着いてしまった。まだ見ぬ新しい世界に彼は期待している。
駆け足で五分弱。諒太は大木の根元まで到着していた。しかし、周囲は鬱蒼と茂る森であって妖精の国へと繋がっていそうな場所は見当たらない。
「夜だと分かりにくいのか?」
周辺を隈無く調査してみる。大木の周りをグルリと一周し、茂みなども確認した。だが、幾ら探そうとも入り口は見つからない。
かれこれ十分が経過していた。もう流石に見つかる気がしない。まだ夏美がプレイしているのか分からないけれど、諒太は再びスナイパーメッセージを起動して夏美に連絡を取る。
『もしもし、どしたの?』
まだ夏美は起きていたようだ。明日も学校があるというのに流石は廃人プレイヤーである。
「ああいや、入り口が見つからなくてな……」
夏美が話す大木は絶対にこの木であるはず。異様に目立つこの大木以外にあり得ない。
「だからお前に……」
諒太が入り口を聞き出そうとした瞬間、乾いた大きな音が響く。それは木々がなぎ倒されるような音。徐々に暗闇から迫っており、その物音は間違いなく諒太へと向かっていた。
「くそっ……」
間違いなく魔物である。それも雑魚ではない感じ。木々をなぎ倒すくらいの巨躯であるのは明らかだ。
しばらくすると物音だけでなく、月明かりに照らされた大きな影が視界へと入った。
唖然とした諒太が見たその影は……。
「ドラ……ゴン……?」
大きく育った木をへし折りながら近付くそれは紛れもなくドラゴンであった。迫り来る巨大な影に諒太は呆然と立ち尽くしている。
『何々!? リョウちんドラゴンを引いちゃったの!?』
脳裏に届く夏美の声。正直に諒太は焦っていたというのに、夏美は楽しんでいるかのよう。記憶から蘇るのはリトルドラゴンとの一戦である。何度斬り掛かって倒れないリトルドラゴンに竜種の強さを身を以て知らされたのだ。
『まあでも何てドラゴン? それにもよるなぁ……』
どうしてか夏美がドラゴンの種別を問う。人ごとだと思ってとても軽い感じで……。
即座に諒太はドラゴンのステータスを確認。必要な情報であれば無視できない。
【エンシェントドラゴン Lv120】
自然と身体が奮えてしまう。滅茶苦茶強そうに見えたが、実際も強い。夏美さえいれば戦えるだろうが、今はソロであり撤退も視野に入れる必要があった。
「エンシェント……ドラゴン」
レアモンスターなのか、或いは恒常的に森を彷徨く魔物なのか。恐らくは前者だ。不運な諒太がここぞというとき引き当てるのは得てして望まないものであるのだから。
『ほう、エンシェント引いちゃったか!? めっちゃレアだよ。それは大ハズレであり大当たりでもある!』
「ナツ、その引いちゃったとかいうのは何だよ!? 俺は逃げるべきなのか!?」
気になるのは先ほどから耳に届く引いちゃったとの話である。まるでイベントが発生したかのような台詞だった。
『逃げても良いけど、それならフェアリーティアはもらえない。森を荒らす魔物を討伐したお礼にもらえるんだよ。あとこのイベントは一回きりだから逃げたらそれまで。妖精の国には入れなくなっちゃう』
二択ですらなくなっていた。このエンカウントがイベントであり、このタイミングを逃せばフェアリーティアを入手できなくなるだなんて。徐々に近付く影に寒気さえ覚えていたけれど、諒太が逃げ帰るという選択はなくなっている。
『リョウちんがエンカウントしたのはイベントの最上位ボスだよ。極レアと呼ばれる幻のドラゴン。でも討伐したらフェアリーティアを複数個もらえる可能性がある。ただし、すっごく強いからね。Sランクの魔法や剣技を使用できないから……』
「何でだよ!? 大技を使わずに倒せるのか!?」
『大木こそが入り口だからだよ。範囲攻撃は初級スキル以外使用不可。Sランク攻撃に限っては範囲が単体であったとしても、大木は巻き込まれて消失する……』
マズいことになった。一応はファイヤーストームとエアブラストの中級魔法も習得したけれど、それは範囲攻撃だ。となると剣を使うか初級魔法を連打するしかなくなる。
「ナツ、どうやって倒せば良い? 絶対に俺は逃げられないんだ!」
『あたしは二時間近く斬り続けた。リョウちんは初級魔法と剣技の両方で。体力は滅茶苦茶あるけど、耐性はさっきのグレートサンドワームよりも低いから』
極レアといいながら、夏美はちゃっかりとエンカウントして討伐したらしい。だとしたら諒太も倒せるはず。魔法が使えるだけ夏美よりも有利であるのだから。
「サンキュー、ナツ。絶対に倒す!」
『ブレスに気を付けてたら、あとのモーションは問題ないよ。最後は全力で逃げたら大丈夫だし!』
「了解!」
気になる話が残っていたものの、もう雑談している時間はない。ドラゴンは諒太を標的と決めたのか、猛々しく咆吼していたのだ。
『あたしはもう寝るから! グッドラック!』
余計な事まで聞かされてしまう。夏美を以て二時間かかる相手。既に諒太の睡眠時間はなくなったも同然である。
杖を長剣に持ち替え、ローブも外して鎧を装備。ディバインパニッシャーが使えないのであれば、ローブも杖も意味はなかった。
一つ息を吸って気持ちを落ち着かせる。平常心で戦わなければ致命的なミスを犯してしまうだろうと。
諒太は声を張る。これより始まる一戦に気合いを入れるために。
「圧倒してやる! エンシェントドラゴン!――――」
五分ほど西へ向かうと街道が向かう先は北と南だけになり、森へと入っていくしかなくなった。ゲームであれば尻込みしないけれど、生憎とこの世界は現実である。
「魔物が出ても問題ないはず。突き進もう……」
夏美に聞いた通りに森へと踏み入る。薄暗く木々が生い茂っていたのだが、夏美曰くめっちゃ大木とやらを発見するまで西へと進むしかない。
幸いにもエンカウントする魔物は十分に戦えるものばかりだ。かといって平均レベルは70ほどあり、初心者の入国が禁じられている理由を暗に知らされている。
「んん? あれがそうか?」
視界の先に天まで届きそうな大木が見えてきた。月明かりに浮かぶ巨大な木の影。まだ四十分ほどしか歩いていないけれど、明確にめっちゃ大木であるそれは妖精の国へと通じる目印であろう。
諒太は意図せず走り出している。フェアリーティアを手に入れるという目的よりも、冒険心に火が着いてしまった。まだ見ぬ新しい世界に彼は期待している。
駆け足で五分弱。諒太は大木の根元まで到着していた。しかし、周囲は鬱蒼と茂る森であって妖精の国へと繋がっていそうな場所は見当たらない。
「夜だと分かりにくいのか?」
周辺を隈無く調査してみる。大木の周りをグルリと一周し、茂みなども確認した。だが、幾ら探そうとも入り口は見つからない。
かれこれ十分が経過していた。もう流石に見つかる気がしない。まだ夏美がプレイしているのか分からないけれど、諒太は再びスナイパーメッセージを起動して夏美に連絡を取る。
『もしもし、どしたの?』
まだ夏美は起きていたようだ。明日も学校があるというのに流石は廃人プレイヤーである。
「ああいや、入り口が見つからなくてな……」
夏美が話す大木は絶対にこの木であるはず。異様に目立つこの大木以外にあり得ない。
「だからお前に……」
諒太が入り口を聞き出そうとした瞬間、乾いた大きな音が響く。それは木々がなぎ倒されるような音。徐々に暗闇から迫っており、その物音は間違いなく諒太へと向かっていた。
「くそっ……」
間違いなく魔物である。それも雑魚ではない感じ。木々をなぎ倒すくらいの巨躯であるのは明らかだ。
しばらくすると物音だけでなく、月明かりに照らされた大きな影が視界へと入った。
唖然とした諒太が見たその影は……。
「ドラ……ゴン……?」
大きく育った木をへし折りながら近付くそれは紛れもなくドラゴンであった。迫り来る巨大な影に諒太は呆然と立ち尽くしている。
『何々!? リョウちんドラゴンを引いちゃったの!?』
脳裏に届く夏美の声。正直に諒太は焦っていたというのに、夏美は楽しんでいるかのよう。記憶から蘇るのはリトルドラゴンとの一戦である。何度斬り掛かって倒れないリトルドラゴンに竜種の強さを身を以て知らされたのだ。
『まあでも何てドラゴン? それにもよるなぁ……』
どうしてか夏美がドラゴンの種別を問う。人ごとだと思ってとても軽い感じで……。
即座に諒太はドラゴンのステータスを確認。必要な情報であれば無視できない。
【エンシェントドラゴン Lv120】
自然と身体が奮えてしまう。滅茶苦茶強そうに見えたが、実際も強い。夏美さえいれば戦えるだろうが、今はソロであり撤退も視野に入れる必要があった。
「エンシェント……ドラゴン」
レアモンスターなのか、或いは恒常的に森を彷徨く魔物なのか。恐らくは前者だ。不運な諒太がここぞというとき引き当てるのは得てして望まないものであるのだから。
『ほう、エンシェント引いちゃったか!? めっちゃレアだよ。それは大ハズレであり大当たりでもある!』
「ナツ、その引いちゃったとかいうのは何だよ!? 俺は逃げるべきなのか!?」
気になるのは先ほどから耳に届く引いちゃったとの話である。まるでイベントが発生したかのような台詞だった。
『逃げても良いけど、それならフェアリーティアはもらえない。森を荒らす魔物を討伐したお礼にもらえるんだよ。あとこのイベントは一回きりだから逃げたらそれまで。妖精の国には入れなくなっちゃう』
二択ですらなくなっていた。このエンカウントがイベントであり、このタイミングを逃せばフェアリーティアを入手できなくなるだなんて。徐々に近付く影に寒気さえ覚えていたけれど、諒太が逃げ帰るという選択はなくなっている。
『リョウちんがエンカウントしたのはイベントの最上位ボスだよ。極レアと呼ばれる幻のドラゴン。でも討伐したらフェアリーティアを複数個もらえる可能性がある。ただし、すっごく強いからね。Sランクの魔法や剣技を使用できないから……』
「何でだよ!? 大技を使わずに倒せるのか!?」
『大木こそが入り口だからだよ。範囲攻撃は初級スキル以外使用不可。Sランク攻撃に限っては範囲が単体であったとしても、大木は巻き込まれて消失する……』
マズいことになった。一応はファイヤーストームとエアブラストの中級魔法も習得したけれど、それは範囲攻撃だ。となると剣を使うか初級魔法を連打するしかなくなる。
「ナツ、どうやって倒せば良い? 絶対に俺は逃げられないんだ!」
『あたしは二時間近く斬り続けた。リョウちんは初級魔法と剣技の両方で。体力は滅茶苦茶あるけど、耐性はさっきのグレートサンドワームよりも低いから』
極レアといいながら、夏美はちゃっかりとエンカウントして討伐したらしい。だとしたら諒太も倒せるはず。魔法が使えるだけ夏美よりも有利であるのだから。
「サンキュー、ナツ。絶対に倒す!」
『ブレスに気を付けてたら、あとのモーションは問題ないよ。最後は全力で逃げたら大丈夫だし!』
「了解!」
気になる話が残っていたものの、もう雑談している時間はない。ドラゴンは諒太を標的と決めたのか、猛々しく咆吼していたのだ。
『あたしはもう寝るから! グッドラック!』
余計な事まで聞かされてしまう。夏美を以て二時間かかる相手。既に諒太の睡眠時間はなくなったも同然である。
杖を長剣に持ち替え、ローブも外して鎧を装備。ディバインパニッシャーが使えないのであれば、ローブも杖も意味はなかった。
一つ息を吸って気持ちを落ち着かせる。平常心で戦わなければ致命的なミスを犯してしまうだろうと。
諒太は声を張る。これより始まる一戦に気合いを入れるために。
「圧倒してやる! エンシェントドラゴン!――――」
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