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第二章 悪夢の果てに
新たなミッション
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諒太はアクラスフィア王国に戻っていた。冒険者ギルドへと飛び込み、受付にいるダッドギルド長の前へと走っていく。
「おう、リョウじゃないか。また買い取りか?」
「いえ、先ほど売却したフェアリーティアを買い戻したいのです!」
買い取りしてもらってから四時間ばかり。諒太は何の問題もないと考えていた。ところが、ダッドは苦い顔をする。まるで買い戻しが不可能であるかのように。
「すまない。実はもう買い手がついてしまった。イバーニ先兵隊長がつい先ほど買って行かれた……」
イバーニ先兵隊長とは先ほど諒太が気絶させた近衛兵である。
フェアリーティアは買取額でも150万ナール。販売額ならば、それ以上の大金となったはずだ。イバーニは一体どこから資金を工面したというのだろうか。
「買い戻せないのですか? 彼は何に使うつもりなんです?」
「こちらの一存で買い戻せるはずがない。彼はレイブン子爵家の跡取りだからな。ギルドの信用問題にもなる。迷惑料を含め倍額でなら買い戻せるかもしれないが……」
最低でも300万ナールだなんて諒太には用意できない。ロークアットは200万ナールまでなら融通できると話していたけれど、残りを借りたとしても所持金は250万である。何より制作費に50万ナールが必要となるのだ。よって買い戻しに使えるのは200万までだ。
「200万ナールじゃ無理でしょうか?」
「無理だろう。何しろ彼はウォーロック防衛戦に参加すると話していた。きっと愛剣にフェアリーティアを錬成するつもりだろう」
イバーニは近衛兵団であるはず。王の私兵である彼の仕事は王様を守ることだ。その彼が前線まで出向く理由。諒太には心当たりがあった。
「彼は俺について話していませんでしたか?」
間違いなく諒太への当てつけだろう。こうなってくると買い戻せる可能性はない。返り討ちにしたことが彼のプライドを傷つけてしまったようだ。
「まあ……その通りだ。子爵家は騎士団を嫌っている。歴史的に騎士団と因縁があるらしくてな。騎士団と関わるリョウをよく思っていないのだろう。彼はリョウの手柄を奪うと話していた……」
国家の危機であるというのにイバーニは私怨を優先していた。このようなことになるのなら、再起不能なまでに痛めつけてやれば良かったとさえ思う。
「分かりました。有り難うございます……」
ここで防具製作は暗礁に乗り上げてしまう。残された方法は自らフェアリーティアを入手するしかない。確か妖精が住む泉で稀に入手できるとかどうとか。諒太の幸運値は最低と呼ぶに相応しい貧弱なものであるけれど、それを理由に諦めるわけにはならなかった。
「幸運値……?」
ふと思いつく。豪運の夏美であれば持っているのではないかと。既に夜中の一時であるけれど、諒太は飛び起きてもらうべく、スナイパーメッセージを起動し夏美にコールした。
『もしもし?』
意外にも数コールで応答があった。どうやら夏美も来る戦いに向け準備に余念がないらしい。
「ああ、頑張ってるところ悪いな。ナツはフェアリーティアという宝石を持っていないか?」
未実装であれば仕方がない。けれど、妖精が住む泉に生み出されると判明しているのだ。それは如何にもゲーム的であるし、諒太はアルカナにもフェアリーティアが存在すると疑わない。
『フェアリーティアは持ってたけど使っちゃったよ……』
非常に残念な報告がある。ここぞというとき役に立たないのは夏美らしい。まあでもゲーム内に存在するのは明らかとなった。ならば諒太は入手方法を聞き出すだけだ。
「どこで手に入る? あの堅皮を加工にするのに必要なんだけど……」
『妖精の国に行けば女王からもらえるよ。リョウちんでも一個はもらえる。ただし純度はランダムだけどね。あと二個目からは泉に入るしか入手できない。でも未だに泉で見つけたプレイヤーはいない感じだね』
そういえば妖精の国については聞いた。確かガナンデル皇国に妖精の国へと繋がる入り口があるとかいう話を。
『妖精女王と上手く会話しなきゃ駄目だよ。女王の好感度を上げないといけない』
一個はもらえるといいながら条件付きである。とはいえ夏美の様子から余程悪い選択をしない限りはもらえそうな感じだ。
「それでどこに行きゃいいんだよ?」
『クラフタットから街道を西へ行って、そのまま森を突き進んだ先だよ。大きな木が目印。森の中だけど、めっちゃ大木だからへーき!』
夏美でさえ迷わないのであれば問題ないのかもしれない。一秒でも惜しい諒太だが、疑問は全て聞いておくべきだ。
「時間はどれくらいかかる? 馬車で行けるか?」
『馬車は無理。徒歩で一時間くらいかな……』
割と近いのは助かった。あとは睡眠時間が失われないことを願うだけだ。
「サンキュー。何とか今日中に依頼してみる!」
『頑張って! あたしも何とか金剛の盾を習得するから!』
二人は互いの目標を口にし通話を切る。夏美に連れて行ってもらえたなら一瞬なのだが、夏美には夏美の問題があるし諒太は歩いて行くだけである。
直ぐさまリバレーションを唱え、クラフタットへと飛ぶ。ウルムの工房に顔を出すことはせず、諒太はそのまま街の外へと向かう。
フェアリーティアを手に入れないことには何も始まらないのだ……。
「おう、リョウじゃないか。また買い取りか?」
「いえ、先ほど売却したフェアリーティアを買い戻したいのです!」
買い取りしてもらってから四時間ばかり。諒太は何の問題もないと考えていた。ところが、ダッドは苦い顔をする。まるで買い戻しが不可能であるかのように。
「すまない。実はもう買い手がついてしまった。イバーニ先兵隊長がつい先ほど買って行かれた……」
イバーニ先兵隊長とは先ほど諒太が気絶させた近衛兵である。
フェアリーティアは買取額でも150万ナール。販売額ならば、それ以上の大金となったはずだ。イバーニは一体どこから資金を工面したというのだろうか。
「買い戻せないのですか? 彼は何に使うつもりなんです?」
「こちらの一存で買い戻せるはずがない。彼はレイブン子爵家の跡取りだからな。ギルドの信用問題にもなる。迷惑料を含め倍額でなら買い戻せるかもしれないが……」
最低でも300万ナールだなんて諒太には用意できない。ロークアットは200万ナールまでなら融通できると話していたけれど、残りを借りたとしても所持金は250万である。何より制作費に50万ナールが必要となるのだ。よって買い戻しに使えるのは200万までだ。
「200万ナールじゃ無理でしょうか?」
「無理だろう。何しろ彼はウォーロック防衛戦に参加すると話していた。きっと愛剣にフェアリーティアを錬成するつもりだろう」
イバーニは近衛兵団であるはず。王の私兵である彼の仕事は王様を守ることだ。その彼が前線まで出向く理由。諒太には心当たりがあった。
「彼は俺について話していませんでしたか?」
間違いなく諒太への当てつけだろう。こうなってくると買い戻せる可能性はない。返り討ちにしたことが彼のプライドを傷つけてしまったようだ。
「まあ……その通りだ。子爵家は騎士団を嫌っている。歴史的に騎士団と因縁があるらしくてな。騎士団と関わるリョウをよく思っていないのだろう。彼はリョウの手柄を奪うと話していた……」
国家の危機であるというのにイバーニは私怨を優先していた。このようなことになるのなら、再起不能なまでに痛めつけてやれば良かったとさえ思う。
「分かりました。有り難うございます……」
ここで防具製作は暗礁に乗り上げてしまう。残された方法は自らフェアリーティアを入手するしかない。確か妖精が住む泉で稀に入手できるとかどうとか。諒太の幸運値は最低と呼ぶに相応しい貧弱なものであるけれど、それを理由に諦めるわけにはならなかった。
「幸運値……?」
ふと思いつく。豪運の夏美であれば持っているのではないかと。既に夜中の一時であるけれど、諒太は飛び起きてもらうべく、スナイパーメッセージを起動し夏美にコールした。
『もしもし?』
意外にも数コールで応答があった。どうやら夏美も来る戦いに向け準備に余念がないらしい。
「ああ、頑張ってるところ悪いな。ナツはフェアリーティアという宝石を持っていないか?」
未実装であれば仕方がない。けれど、妖精が住む泉に生み出されると判明しているのだ。それは如何にもゲーム的であるし、諒太はアルカナにもフェアリーティアが存在すると疑わない。
『フェアリーティアは持ってたけど使っちゃったよ……』
非常に残念な報告がある。ここぞというとき役に立たないのは夏美らしい。まあでもゲーム内に存在するのは明らかとなった。ならば諒太は入手方法を聞き出すだけだ。
「どこで手に入る? あの堅皮を加工にするのに必要なんだけど……」
『妖精の国に行けば女王からもらえるよ。リョウちんでも一個はもらえる。ただし純度はランダムだけどね。あと二個目からは泉に入るしか入手できない。でも未だに泉で見つけたプレイヤーはいない感じだね』
そういえば妖精の国については聞いた。確かガナンデル皇国に妖精の国へと繋がる入り口があるとかいう話を。
『妖精女王と上手く会話しなきゃ駄目だよ。女王の好感度を上げないといけない』
一個はもらえるといいながら条件付きである。とはいえ夏美の様子から余程悪い選択をしない限りはもらえそうな感じだ。
「それでどこに行きゃいいんだよ?」
『クラフタットから街道を西へ行って、そのまま森を突き進んだ先だよ。大きな木が目印。森の中だけど、めっちゃ大木だからへーき!』
夏美でさえ迷わないのであれば問題ないのかもしれない。一秒でも惜しい諒太だが、疑問は全て聞いておくべきだ。
「時間はどれくらいかかる? 馬車で行けるか?」
『馬車は無理。徒歩で一時間くらいかな……』
割と近いのは助かった。あとは睡眠時間が失われないことを願うだけだ。
「サンキュー。何とか今日中に依頼してみる!」
『頑張って! あたしも何とか金剛の盾を習得するから!』
二人は互いの目標を口にし通話を切る。夏美に連れて行ってもらえたなら一瞬なのだが、夏美には夏美の問題があるし諒太は歩いて行くだけである。
直ぐさまリバレーションを唱え、クラフタットへと飛ぶ。ウルムの工房に顔を出すことはせず、諒太はそのまま街の外へと向かう。
フェアリーティアを手に入れないことには何も始まらないのだ……。
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