幼馴染み(♀)がプレイするMMORPGはどうしてか異世界に影響を与えている

坂森大我

文字の大きさ
上 下
70 / 226
第二章 悪夢の果てに

新たなミッション

しおりを挟む
 諒太はアクラスフィア王国に戻っていた。冒険者ギルドへと飛び込み、受付にいるダッドギルド長の前へと走っていく。

「おう、リョウじゃないか。また買い取りか?」
「いえ、先ほど売却したフェアリーティアを買い戻したいのです!」
 買い取りしてもらってから四時間ばかり。諒太は何の問題もないと考えていた。ところが、ダッドは苦い顔をする。まるで買い戻しが不可能であるかのように。

「すまない。実はもう買い手がついてしまった。イバーニ先兵隊長がつい先ほど買って行かれた……」
 イバーニ先兵隊長とは先ほど諒太が気絶させた近衛兵である。
 フェアリーティアは買取額でも150万ナール。販売額ならば、それ以上の大金となったはずだ。イバーニは一体どこから資金を工面したというのだろうか。

「買い戻せないのですか? 彼は何に使うつもりなんです?」
「こちらの一存で買い戻せるはずがない。彼はレイブン子爵家の跡取りだからな。ギルドの信用問題にもなる。迷惑料を含め倍額でなら買い戻せるかもしれないが……」
 最低でも300万ナールだなんて諒太には用意できない。ロークアットは200万ナールまでなら融通できると話していたけれど、残りを借りたとしても所持金は250万である。何より制作費に50万ナールが必要となるのだ。よって買い戻しに使えるのは200万までだ。

「200万ナールじゃ無理でしょうか?」
「無理だろう。何しろ彼はウォーロック防衛戦に参加すると話していた。きっと愛剣にフェアリーティアを錬成するつもりだろう」
 イバーニは近衛兵団であるはず。王の私兵である彼の仕事は王様を守ることだ。その彼が前線まで出向く理由。諒太には心当たりがあった。

「彼は俺について話していませんでしたか?」
 間違いなく諒太への当てつけだろう。こうなってくると買い戻せる可能性はない。返り討ちにしたことが彼のプライドを傷つけてしまったようだ。

「まあ……その通りだ。子爵家は騎士団を嫌っている。歴史的に騎士団と因縁があるらしくてな。騎士団と関わるリョウをよく思っていないのだろう。彼はリョウの手柄を奪うと話していた……」
 国家の危機であるというのにイバーニは私怨を優先していた。このようなことになるのなら、再起不能なまでに痛めつけてやれば良かったとさえ思う。

「分かりました。有り難うございます……」
 ここで防具製作は暗礁に乗り上げてしまう。残された方法は自らフェアリーティアを入手するしかない。確か妖精が住む泉で稀に入手できるとかどうとか。諒太の幸運値は最低と呼ぶに相応しい貧弱なものであるけれど、それを理由に諦めるわけにはならなかった。

「幸運値……?」
 ふと思いつく。豪運の夏美であれば持っているのではないかと。既に夜中の一時であるけれど、諒太は飛び起きてもらうべく、スナイパーメッセージを起動し夏美にコールした。

『もしもし?』
 意外にも数コールで応答があった。どうやら夏美も来る戦いに向け準備に余念がないらしい。
「ああ、頑張ってるところ悪いな。ナツはフェアリーティアという宝石を持っていないか?」
 未実装であれば仕方がない。けれど、妖精が住む泉に生み出されると判明しているのだ。それは如何にもゲーム的であるし、諒太はアルカナにもフェアリーティアが存在すると疑わない。

『フェアリーティアは持ってたけど使っちゃったよ……』
 非常に残念な報告がある。ここぞというとき役に立たないのは夏美らしい。まあでもゲーム内に存在するのは明らかとなった。ならば諒太は入手方法を聞き出すだけだ。

「どこで手に入る? あの堅皮を加工にするのに必要なんだけど……」
『妖精の国に行けば女王からもらえるよ。リョウちんでも一個はもらえる。ただし純度はランダムだけどね。あと二個目からは泉に入るしか入手できない。でも未だに泉で見つけたプレイヤーはいない感じだね』
 そういえば妖精の国については聞いた。確かガナンデル皇国に妖精の国へと繋がる入り口があるとかいう話を。
『妖精女王と上手く会話しなきゃ駄目だよ。女王の好感度を上げないといけない』
 一個はもらえるといいながら条件付きである。とはいえ夏美の様子から余程悪い選択をしない限りはもらえそうな感じだ。

「それでどこに行きゃいいんだよ?」
『クラフタットから街道を西へ行って、そのまま森を突き進んだ先だよ。大きな木が目印。森の中だけど、めっちゃ大木だからへーき!』
 夏美でさえ迷わないのであれば問題ないのかもしれない。一秒でも惜しい諒太だが、疑問は全て聞いておくべきだ。

「時間はどれくらいかかる? 馬車で行けるか?」
『馬車は無理。徒歩で一時間くらいかな……』
 割と近いのは助かった。あとは睡眠時間が失われないことを願うだけだ。
「サンキュー。何とか今日中に依頼してみる!」
『頑張って! あたしも何とか金剛の盾を習得するから!』
 二人は互いの目標を口にし通話を切る。夏美に連れて行ってもらえたなら一瞬なのだが、夏美には夏美の問題があるし諒太は歩いて行くだけである。

 直ぐさまリバレーションを唱え、クラフタットへと飛ぶ。ウルムの工房に顔を出すことはせず、諒太はそのまま街の外へと向かう。

 フェアリーティアを手に入れないことには何も始まらないのだ……。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...