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第二章 悪夢の果てに

予想外の査定

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 諒太はアクラスフィア王国へと戻ってきた。全ての準備を今日中に終わらせるつもりである。
 まずはギルドへと駆け込む。兎にも角にも宝石の査定が百万に達していなければ始まらないのだ。

 受付カウンターに見慣れた顔はない。癒やしのオーラに包まれていた受付嬢の代わりに厳つい男性が受付に立っている。
「ダッドギルド長!?」
「ああ、リョウか。久しぶりだな……」
 驚きの光景である。どうやらアーシェが亡くなったことで彼女の担当であった時間をダッドギルド長が受け持っているらしい。

「受付の募集は出しているのだが、なかなか決まらんのだ。それでどうした? 依頼でもこなしてくれるのか?」
「ああいやそれが……」
 掲示板にはところ狭しと依頼書が貼り付けられている。最近はずっとスバウメシアで戦っていたから、諒太は期待の目で見られてしまう。

「申し訳ないのですが、宝石の買い取りをお願いしたくて……」
 言って諒太はロークアットより借り受けた宝石を取り出し、コトンとカウンターに置いた。
「これはフェアリーティアじゃないか!? こんなものどこで手に入れたんだ!?」
 迂闊だったかもしれない。どうもダッドは鑑定眼スキルを持っているようだ。
「先日、運良く入手できしまして……。少し入り用ができたので売却しようと考えたのです。この大きさであれば100万ナールはするかと思うのですが?」
 足元を見られないよう先に金額を提示する。一国のお姫様が貸してくれたものだ。絶対にそれ以上の価値があると疑わない。

「まあ確かに。大きさはともかく、この透明度ならかなりの純度だろうな。そもそもフェアリーティアは市場に出回ることがない」
 どうやらフェアリーティアの価値は大きさじゃなく透明度のようだ。しくじった感はあったけれど、ダッドもその価値を認めてくれたらしい。

「少し待て。鑑定士に確認を取ってくる。お前も防衛戦に参加するのだろう? このような宝を売る理由は時期的にも戦いの準備だろうしな。ギルドは目一杯の査定をさせてもらう。最高の装備を揃えて欲しい」
 どうやら騎士団はギルドにも傭兵の募集をかけていたようだ。上手く勘違いしてくれたおかげで余計な弁明をしなくて済みそうである。

 しばらくしてダッドは鑑定士と共に戻ってきた。その笑顔を見る限りは諒太の期待通りになったことだろう。
「リョウ、最大限の査定をさせてもらったぞ。ギルドカードを出せ……」
「いや、幾らなのですか? 先に金額を聞かないと……」
 諒太の質問をダッドは豪快に笑い飛ばしている。諒太としては切実な問題であったというのに。
 ところが、諒太は聞き流された理由を知る。告げられた金額は想像を遥かに超えていたのだ。
「150万ナールだ!」
 確かに100万ナール以上になるとロークアットは話していた。けれど、まさか50万も高くなるだなんて想像もしていない。

 諒太は直ぐさまギルドカードを取り出しカウンターへと置く。既に交渉する必要はないのだと。
「リョウ、君の活躍を期待している。エルフなど根絶やしにしてやれ。ウォーロックは必ず死守しよう……」
 聞けばダッドも参戦するらしい。もう既に国民全員で戦うしかない感じだ。相次ぐ交戦に騎士団は疲弊しており、冒険者にまで協力を要請しなければならない窮状のようである。

「ぶっちゃけるとギルドも借り入れをしてお前に支払うことになる。まあでも気にするな。直ぐには売れなくても、オークションに出せば元は取れるだろう」
 諒太は頷くだけで返事とした。ダッドの希望通りウォーロックは守るつもりだが、和平を求めている諒太には彼が望む返事などできない。

 ダッドと別れ、諒太は人通りのない路地に。ここでリバレーションを唱える。
 諒太が知るアクラスフィア王国の最も西側。夏美の倉庫前へと彼は転移していく……。
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