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第二章 悪夢の果てに
レアドロップ
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ぶつくさと文句を並べる夏美を放置し、諒太はポーションにより魔力を回復。直ぐさまディバインパニッシャーの詠唱へと入った。
「天に満ちし闇は神の怒り。茫漠たる雷雲を呼び寄せるものなり……」
ハメ技感は否めないが、諒太はもう夏美を危険に晒したくなかった。仮に精霊石がなかったとしたら、諒太はどれだけ悔やんだことだろう。口には出さなかったけれど、夏美だけは絶対に失いたくないと思う。
「調子に乗るなよ黒ミミズ……」
詠唱を終えた諒太は倉庫の扉を蹴り開ける。更には天高く杖を掲げ、怒りのままに叫んでいた。
「借りは返してやんよっ! ディバインパニッシャァアアァ!!」
瞬時にグレートサンドワームが突進してくる。だが、逃げるつもりはない。絶対に強大な一撃を叩き込むのだと、諒太は持てる魔力を全力で振り絞っていた。
一拍おいて雷鳴が轟く。先ほど見た神の裁きが暗雲からグレートサンドワームへと降り注いでいた。網膜に焼き付く強烈な光を放ちながら……。
神雷はグレートサンドワームの脳天から大地までを容赦なく突き刺す。まるで光の槍によって貫かれたかのようだ。如何なる耐性も許さぬ神の一撃は目撃したままのダメージを与え、グレートサンドワームの生命力を奪い取ってしまう……。
「リョウちん!」
「ナツ、早く離れろ!」
時が止まったように動きを止めたグレートサンドワーム亜種。二人は即座に距離を取る。亜種も同じであれば爆発するはずと。
「スキル、金剛の盾っ!」
早速と夏美は覚えたばかりのスキルを実行。距離を置きスキルを使用したならば何とか防げるのではないかと思って。
しかし、幾ら待てども爆発しない。それどころかグレートサンドワームは雷に撃たれた体勢のまま動かなくなっている。
「リョウちん、麻痺してるよ! 状態異常になってる!」
「マジか!? どうせなら一撃目で麻痺しとけよ!」
どうやら大爆発は免れたらしい。ディバインパニッシャーによる付加効果を受けたようだ。あとは麻痺が解けるまでに叩き殺すだけである。
諒太と夏美はグレートサンドワームの状態を確認しながら執拗な攻撃を加えた。追加ダメージを与えきったならば爆発しないのは判明していることだ。
二人して二十回ばかり斬り掛かったところで、ようやくとグレートサンドワーム亜種はその巨体を横たえた。
その刹那、脳裏に告知音が響く。玄関のチャイムを連打したような音。不快でありながら、それは強敵を倒したのだと諒太に実感させていた。
『リョウはレベル101になりました』
何と諒太は八つもレベルアップしていた。やはりグレートサンドワーム亜種は並の魔物ではなかったらしい。
麻痺状態であったからか、今回は討伐完了後のレベルアップである。
ログアウトを選ばずに討伐したのは結果的に正解であった。何しろ諒太はレベル100の大台を突破できたのだから。
「やっぱ剥ぎ取りはできないのか……」
レベルアップに歓喜した諒太であるが、剥ぎ取り不可との表示に溜め息を吐く。確かノーマルのグレートサンドワームも剥ぎ取り不可であった。よって過度な期待はしていないけれど、やはりドロップに期待できない彼は素材の一つでも手に入れたかったらしい。
「リョウちん、ドロップきたー!」
落胆した諒太に夏美が指さす。まだグレートサンドワームは完全に消失していなかったけれど、巨体の真ん中付近に宝箱が現れていた。
「うお! 流石はナツ!」
やはり幸運値200超えは伊達ではない。出張データである夏美は戦利品を持ち帰ることなどできなかったけれど、その豪運を遺憾なく発揮したようだ。
「何が入ってた!?」
「えっと、ちょっと待って……」
恐らくは一つだけだ。ロークアットのドロップと変わらず、夏美が引き当てただけ。諒太がそれに関与しているはずもない。
夏美が静かに宝箱を開くと、
「リョウちん、二個入ってる!」
諒太は予想すらしない話を聞かされてしまう。
二個入っているということは二人共が何かしらを引き当てたということ。不運縛りであった諒太だが、最強のレアモンスターという千載一遇のチャンスに何かしらのアイテムドロップを引き当てていた。
いてもたってもいられず諒太は走り出している。石ころのときとは期待感がまるで違う。何しろ豪運に導かれし勇者が仲間である。一桁という頼りない諒太の幸運値は彼女の運気により引き上げられているのかもしれない。
「んん?」
諒太が近付くや宝箱が消失。立ち所にドロップアイテムが露わとなった。
「砂海王の堅皮+100……」
二つあるうちの一つが砂海王の堅皮である。真っ黒なそれは間違いなくグレートサンドワーム亜種の皮であろう。また堅皮は一個であったけれど+100と表示されていた。
「もう一つは消化不良品+100……」
宝箱に入っていたのは砂海王の堅皮+100と消化不良品+100。
期待して近付いた諒太だが溜め息を漏らす。自身の幸運値を考えるなら諒太がドロップさせた方は明らかだ。最高の素材だと思われる砂海王の堅皮ではなく、明確に消火不良品であると思う。それはミミズの食べ残しに他ならない。
「うわぁ! どっちが誰のドロップなんだろうね?」
「うるせぇ……。泣くぞ?」
解答が明らかな質問を向けられ諒太は夏美を睨んでいる。そもそも幸運値に200以上の差があるのだ。夏美の豪運が取り違えるはずはない。如何にも有能そうなレア素材とゴミのような排泄物を間違って引くなんてことは……。
「うんちはリョウちんのだろうね……」
「うんち言うなぁぁっ!」
夏美も分かっていたらしい。細長く黒っぽい小判型の物体。叩けば金属のような音がしたけれど、諒太のドロップアイテムは明確にうんちなのだと。
「しかし、プラス100って何だろうな。素材だけど単純にプラス効果なんだろうか?」
「確か付加効果だね。亜種のドロップは通常個体とのレベル差がプラスされるって見たよ」
諒太は眉根を寄せた。夏美が語ったことが真実であるのなら、グレートサンドワーム亜種のレベルは200ということになる。二割増しだと話すから挑んだというのに、二人は最大値の二倍を引き当てていた。
「リョウちんどっちが欲しい?」
夏美は意外にも諒太に選ばせてくれるらしい。やはり排泄物より砂海王とかいう中二心を刺激するアイテムに諒太は魅力を感じてしまう。
「そりゃあ、もちろん……」
口にしかけたところで諒太は言い淀んだ。よくよく考えると砂海王とはグレートサンドワームのことである。全耐性を持ち滅茶苦茶堅かった魔物。ドロップした皮の色は黒色であり、戦った亜種と同じであった。
「おいナツ。ひょっとしてひょっとすると砂海王の堅皮で作った盾や鎧であれば、お前はイベントを完走できるかもしれないぞ?」
一時間という勇者狩りイベント。夏美は相手を傷つけることなく乗り切らねばならない。まだ憶測の域をでなかったものの、グレートサンドワーム亜種の耐性を得られるのならば、それは最強の装備となる。
「えっ? それってあたしがゲームに持っていけるの?」
問題はその一点だ。しかし、諒太は問題ないと考えている。なぜならミノタウロスの石ころを既に手渡していたから。不正として扱われそうな出所不明のアイテムを夏美は所持したままだ。今もまだ警告すらない現状はある推測をするのに十分である。
「恐らく運命のアルカナはキャラクター【リョウ】の影響を受けている。整合性を図るために、ゲーム内情報は既に書き換えられたはず」
矛盾の解消は最初のアクションによって引き起こされる。夏美が移籍した事実からリッチ討伐の事実が消去されたように、起点となる行動が優先されていく。
そこから導き出した答え。サーバーにいないはずの諒太が石ころを夏美に渡した矛盾。アルカナがどうやって解消したのかを諒太は推察していた。
「今なら【リョウ】はプレイヤー検索に引っかかるはず――――」
かつて夏美は一緒にプレイしようとリョウを検索したらしい。しかし、検索にリョウは引っかからなかった。だが、矛盾を解消した今であればリョウという名が表示されるはず。諒太の介入を受けたアルカナは矛盾の解消にリョウという架空のプレイヤーを生み出したに違いない。
「ホントに? だったらリョウちんと一緒にプレイできるの?」
「それは分からん。だが、その可能性は高いと思う。試すのはリスクがあるけどな……」
出張データであれば問題ないかもしれない。けれど、実体として存在するリョウが果たしてゲーム内に存在できるのかどうか。またゲーム内は三百年前である。リョウがゲーム内で問題を起こしてしまえば、恐らくセイクリッド世界に影響を与えてしまうだろう。
「とにかく俺はナツにアイテムを渡しても問題ないはずだ。防具は倉庫の前に埋めといてやる。ナツはそれを掘り起こすだけでいい。以前の石ころもそうやって送った」
「おお! それなら最強じゃん!」
手を叩いて喜ぶ夏美だが、実をいうと問題はまだ残されている。
夏美でさえ知らなかったグレートサンドワーム亜種。ゲームではまだ実装されていない可能性があった。そうなると加工できなかったり、不正アイテムとなることまで考えられた。リョウが送ることにより改変される可能性は高かったが、不正と見做されるような行動は避けるべきだ。
「グレートサンドワーム亜種の報告はまだないんだよな?」
「聞いたことない。でも元々レアモンスターだから、グレートサンドワームの亜種は実装されていたとしても、エンカウントした人がいないんじゃないかと思う」
聞けば亜種は先日の大型アップデートで追加されたばかりらしい。よって夏美であってもまだ雑魚モンスターの亜種しか見たことがないようだ。
「とりあえずはセイクリッド世界で加工した方が無難だな。追加的な問題はこれを扱える職人がいるのかどうかだ……」
「それならガナンデル皇国だよ! 逸品装備の殆どがガナンデル皇国産だからね! ガナンデル皇国に所属すれば器用さ補正が加わるらしくて、上級生産者は殆どがガナンデル皇国の所属だもの。生産職ギルドが最も活発な国だし」
簡単に返答する夏美。諒太は通行証を持っていないことを知っていたにもかかわらず。
とはいえ有益な情報でもあった。過去に上級生産職であったプレイヤーたちが所属していたのなら、きっとその血は残っているだろう。
一つ頷く諒太。目指すべき場所が決定している。夏美がこの後もゲームを楽しめるように。望む世界線への移行が成されるようにと。
いざガナンデル皇国へ。諒太は新たなフィールドへと向かおうと決めた……。
「天に満ちし闇は神の怒り。茫漠たる雷雲を呼び寄せるものなり……」
ハメ技感は否めないが、諒太はもう夏美を危険に晒したくなかった。仮に精霊石がなかったとしたら、諒太はどれだけ悔やんだことだろう。口には出さなかったけれど、夏美だけは絶対に失いたくないと思う。
「調子に乗るなよ黒ミミズ……」
詠唱を終えた諒太は倉庫の扉を蹴り開ける。更には天高く杖を掲げ、怒りのままに叫んでいた。
「借りは返してやんよっ! ディバインパニッシャァアアァ!!」
瞬時にグレートサンドワームが突進してくる。だが、逃げるつもりはない。絶対に強大な一撃を叩き込むのだと、諒太は持てる魔力を全力で振り絞っていた。
一拍おいて雷鳴が轟く。先ほど見た神の裁きが暗雲からグレートサンドワームへと降り注いでいた。網膜に焼き付く強烈な光を放ちながら……。
神雷はグレートサンドワームの脳天から大地までを容赦なく突き刺す。まるで光の槍によって貫かれたかのようだ。如何なる耐性も許さぬ神の一撃は目撃したままのダメージを与え、グレートサンドワームの生命力を奪い取ってしまう……。
「リョウちん!」
「ナツ、早く離れろ!」
時が止まったように動きを止めたグレートサンドワーム亜種。二人は即座に距離を取る。亜種も同じであれば爆発するはずと。
「スキル、金剛の盾っ!」
早速と夏美は覚えたばかりのスキルを実行。距離を置きスキルを使用したならば何とか防げるのではないかと思って。
しかし、幾ら待てども爆発しない。それどころかグレートサンドワームは雷に撃たれた体勢のまま動かなくなっている。
「リョウちん、麻痺してるよ! 状態異常になってる!」
「マジか!? どうせなら一撃目で麻痺しとけよ!」
どうやら大爆発は免れたらしい。ディバインパニッシャーによる付加効果を受けたようだ。あとは麻痺が解けるまでに叩き殺すだけである。
諒太と夏美はグレートサンドワームの状態を確認しながら執拗な攻撃を加えた。追加ダメージを与えきったならば爆発しないのは判明していることだ。
二人して二十回ばかり斬り掛かったところで、ようやくとグレートサンドワーム亜種はその巨体を横たえた。
その刹那、脳裏に告知音が響く。玄関のチャイムを連打したような音。不快でありながら、それは強敵を倒したのだと諒太に実感させていた。
『リョウはレベル101になりました』
何と諒太は八つもレベルアップしていた。やはりグレートサンドワーム亜種は並の魔物ではなかったらしい。
麻痺状態であったからか、今回は討伐完了後のレベルアップである。
ログアウトを選ばずに討伐したのは結果的に正解であった。何しろ諒太はレベル100の大台を突破できたのだから。
「やっぱ剥ぎ取りはできないのか……」
レベルアップに歓喜した諒太であるが、剥ぎ取り不可との表示に溜め息を吐く。確かノーマルのグレートサンドワームも剥ぎ取り不可であった。よって過度な期待はしていないけれど、やはりドロップに期待できない彼は素材の一つでも手に入れたかったらしい。
「リョウちん、ドロップきたー!」
落胆した諒太に夏美が指さす。まだグレートサンドワームは完全に消失していなかったけれど、巨体の真ん中付近に宝箱が現れていた。
「うお! 流石はナツ!」
やはり幸運値200超えは伊達ではない。出張データである夏美は戦利品を持ち帰ることなどできなかったけれど、その豪運を遺憾なく発揮したようだ。
「何が入ってた!?」
「えっと、ちょっと待って……」
恐らくは一つだけだ。ロークアットのドロップと変わらず、夏美が引き当てただけ。諒太がそれに関与しているはずもない。
夏美が静かに宝箱を開くと、
「リョウちん、二個入ってる!」
諒太は予想すらしない話を聞かされてしまう。
二個入っているということは二人共が何かしらを引き当てたということ。不運縛りであった諒太だが、最強のレアモンスターという千載一遇のチャンスに何かしらのアイテムドロップを引き当てていた。
いてもたってもいられず諒太は走り出している。石ころのときとは期待感がまるで違う。何しろ豪運に導かれし勇者が仲間である。一桁という頼りない諒太の幸運値は彼女の運気により引き上げられているのかもしれない。
「んん?」
諒太が近付くや宝箱が消失。立ち所にドロップアイテムが露わとなった。
「砂海王の堅皮+100……」
二つあるうちの一つが砂海王の堅皮である。真っ黒なそれは間違いなくグレートサンドワーム亜種の皮であろう。また堅皮は一個であったけれど+100と表示されていた。
「もう一つは消化不良品+100……」
宝箱に入っていたのは砂海王の堅皮+100と消化不良品+100。
期待して近付いた諒太だが溜め息を漏らす。自身の幸運値を考えるなら諒太がドロップさせた方は明らかだ。最高の素材だと思われる砂海王の堅皮ではなく、明確に消火不良品であると思う。それはミミズの食べ残しに他ならない。
「うわぁ! どっちが誰のドロップなんだろうね?」
「うるせぇ……。泣くぞ?」
解答が明らかな質問を向けられ諒太は夏美を睨んでいる。そもそも幸運値に200以上の差があるのだ。夏美の豪運が取り違えるはずはない。如何にも有能そうなレア素材とゴミのような排泄物を間違って引くなんてことは……。
「うんちはリョウちんのだろうね……」
「うんち言うなぁぁっ!」
夏美も分かっていたらしい。細長く黒っぽい小判型の物体。叩けば金属のような音がしたけれど、諒太のドロップアイテムは明確にうんちなのだと。
「しかし、プラス100って何だろうな。素材だけど単純にプラス効果なんだろうか?」
「確か付加効果だね。亜種のドロップは通常個体とのレベル差がプラスされるって見たよ」
諒太は眉根を寄せた。夏美が語ったことが真実であるのなら、グレートサンドワーム亜種のレベルは200ということになる。二割増しだと話すから挑んだというのに、二人は最大値の二倍を引き当てていた。
「リョウちんどっちが欲しい?」
夏美は意外にも諒太に選ばせてくれるらしい。やはり排泄物より砂海王とかいう中二心を刺激するアイテムに諒太は魅力を感じてしまう。
「そりゃあ、もちろん……」
口にしかけたところで諒太は言い淀んだ。よくよく考えると砂海王とはグレートサンドワームのことである。全耐性を持ち滅茶苦茶堅かった魔物。ドロップした皮の色は黒色であり、戦った亜種と同じであった。
「おいナツ。ひょっとしてひょっとすると砂海王の堅皮で作った盾や鎧であれば、お前はイベントを完走できるかもしれないぞ?」
一時間という勇者狩りイベント。夏美は相手を傷つけることなく乗り切らねばならない。まだ憶測の域をでなかったものの、グレートサンドワーム亜種の耐性を得られるのならば、それは最強の装備となる。
「えっ? それってあたしがゲームに持っていけるの?」
問題はその一点だ。しかし、諒太は問題ないと考えている。なぜならミノタウロスの石ころを既に手渡していたから。不正として扱われそうな出所不明のアイテムを夏美は所持したままだ。今もまだ警告すらない現状はある推測をするのに十分である。
「恐らく運命のアルカナはキャラクター【リョウ】の影響を受けている。整合性を図るために、ゲーム内情報は既に書き換えられたはず」
矛盾の解消は最初のアクションによって引き起こされる。夏美が移籍した事実からリッチ討伐の事実が消去されたように、起点となる行動が優先されていく。
そこから導き出した答え。サーバーにいないはずの諒太が石ころを夏美に渡した矛盾。アルカナがどうやって解消したのかを諒太は推察していた。
「今なら【リョウ】はプレイヤー検索に引っかかるはず――――」
かつて夏美は一緒にプレイしようとリョウを検索したらしい。しかし、検索にリョウは引っかからなかった。だが、矛盾を解消した今であればリョウという名が表示されるはず。諒太の介入を受けたアルカナは矛盾の解消にリョウという架空のプレイヤーを生み出したに違いない。
「ホントに? だったらリョウちんと一緒にプレイできるの?」
「それは分からん。だが、その可能性は高いと思う。試すのはリスクがあるけどな……」
出張データであれば問題ないかもしれない。けれど、実体として存在するリョウが果たしてゲーム内に存在できるのかどうか。またゲーム内は三百年前である。リョウがゲーム内で問題を起こしてしまえば、恐らくセイクリッド世界に影響を与えてしまうだろう。
「とにかく俺はナツにアイテムを渡しても問題ないはずだ。防具は倉庫の前に埋めといてやる。ナツはそれを掘り起こすだけでいい。以前の石ころもそうやって送った」
「おお! それなら最強じゃん!」
手を叩いて喜ぶ夏美だが、実をいうと問題はまだ残されている。
夏美でさえ知らなかったグレートサンドワーム亜種。ゲームではまだ実装されていない可能性があった。そうなると加工できなかったり、不正アイテムとなることまで考えられた。リョウが送ることにより改変される可能性は高かったが、不正と見做されるような行動は避けるべきだ。
「グレートサンドワーム亜種の報告はまだないんだよな?」
「聞いたことない。でも元々レアモンスターだから、グレートサンドワームの亜種は実装されていたとしても、エンカウントした人がいないんじゃないかと思う」
聞けば亜種は先日の大型アップデートで追加されたばかりらしい。よって夏美であってもまだ雑魚モンスターの亜種しか見たことがないようだ。
「とりあえずはセイクリッド世界で加工した方が無難だな。追加的な問題はこれを扱える職人がいるのかどうかだ……」
「それならガナンデル皇国だよ! 逸品装備の殆どがガナンデル皇国産だからね! ガナンデル皇国に所属すれば器用さ補正が加わるらしくて、上級生産者は殆どがガナンデル皇国の所属だもの。生産職ギルドが最も活発な国だし」
簡単に返答する夏美。諒太は通行証を持っていないことを知っていたにもかかわらず。
とはいえ有益な情報でもあった。過去に上級生産職であったプレイヤーたちが所属していたのなら、きっとその血は残っているだろう。
一つ頷く諒太。目指すべき場所が決定している。夏美がこの後もゲームを楽しめるように。望む世界線への移行が成されるようにと。
いざガナンデル皇国へ。諒太は新たなフィールドへと向かおうと決めた……。
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