幼馴染み(♀)がプレイするMMORPGはどうしてか異世界に影響を与えている

坂森大我

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第一章 導かれし者

クエストクリア

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 夏美の指示通りに諒太はワイバーンに上昇を命じる。またも落下攻撃を仕掛けるつもりなのは聞くまでもなかった。それしか二人がルイナーに近付く術はない。

「ナツ、俺は必ずルイナーの隙を作る。お前はやつの頭部に渾身の一撃を叩き込め!」
 夏美にしかできない。過去のプレイを考えると信用できそうにもなかったが、暗黒竜を撃退できるのは神聖力を持つ者だけだ。幸いにも夏美はこのクエストをクリアしたというし、撃退を託せるのは夏美しかいない。

「隙を作るってどうやんの? プレイヤーも騎士団員もいないんだよ?」
「いいから黙って見てろ。必ずその隙に反応しろ……」
 どうやら諒太には策があるらしい。ここは一発勝負である。二度目になると効果がなくなってしまう可能性が高かったからだ。

「奈落に燻る不浄なる炎よ……幾重にも重なり烈火となれ……」
 諒太にできること。ルイナーの度肝を抜くには並大抵の呪文では不可能である。ならば彼は持てる最大級の魔法をお見舞いするだけだ。

「可否は問わず……ただ要求に応えよ……」
 ダメージを与えられるとは考えていない。最終ボスであるルイナーは神聖力でしか対抗できないのだ。ここは隙を作るだけ。神聖力を持つ夏美が最大限の力を発揮できるように。

「獄炎よ……大地を溶かし天を焦がせ……天地万物一片も残すことなく灰燼と化すのみ……」
「リョウちん!?」
 夏美の不安そうな声は耳に届いている。けれど、諒太には自信があった。一度だけならばルイナーも怯むだろうと。必ずや隙を生み出せるはずだと。

「ナツ、よく見とけ! ルイナーだけでなく、フレアさん共々絶句させてやんよ!」
 諒太は右腕をかざし、ルイナーに向けて掲げる。浮かべる不敵な笑みは自信の表れだろう。まるで幼馴染みに見せつけるかの如く、諒太は声高に詠唱を終えた。

「盛大に爆ぜろっ! インフェルノォォオオオオッ!!」
 本日二回目となるインフェルノを撃ち放つ。ポーションにて回復はしていたけれど、発動の瞬間に覚える気持ち悪さは相変わらずだ。

 一瞬のあと、眼前に巨大な炎柱が立ち上る。ルイナーを中心にして空と大地を結ぶように。瞳に焼き付く真紅の炎がノースベンドの夜を彩っていた……。

「ナツ! 行けぇぇえええっ!」
 諒太は炎に突進していく。上空から急降下し、ルイナーへと接近。すれ違い様に夏美が必ず斬ってくれると諒太は信じていた。

「あいな! 任せて!」
 この機会を逃してはならない。神聖力以外の攻撃はどのような威力を発揮しようと無駄なのだ。慣れてしまえばインフェルノであっても隙を作れなくなってしまう。

「リョウちん、ちゃんと拾ってよね!」
 何を考えたのか夏美は作戦を無視するような行動に出る。どうしてか、すれ違う瞬間を待つことなく彼女はワイバーンから飛び降りてしまった。
 愕然とするのは諒太だ。この大一番でやらかすだなんて。残念だとは思っていたけれど、この行動は流石に看過できない。

「ナァァァツツ!」

 叫べど意味はない。既に夏美はルイナーに向かって落下していたのだから……。
 一方で夏美は上段に剣を構えたまま、ルイナーの頭上目掛けて落下していた。
 まだインフェルノの火柱が残っていたけれど、諒太が生み出したこの隙を逃すつもりはない。属性攻撃半減だけを頼りに夏美は斬りかかっている。

「ルイナァァッ、覚悟っ!!」

 真っ二つに切り裂くかの如く、夏美の長剣が振り下ろされる。深夜のノースベンドに甲高い彼女の声だけが木霊していく。
 刹那に火柱が失われ、時を移さず夏美の一撃がルイナーの頭部を捕らえた。
 タイミングはその一瞬を逃せば他にはないほど完璧なもの。切り裂くことはなかったけれど、強烈なその一撃はルイナーの頭ごと振り抜かれている。

「おい、ナツ……?」
 惚れ惚れするほど勇ましい攻撃だが、諒太は気付いていた。

『ちゃんと拾ってよね――――』

 一連の攻撃には後始末が必要であることを。落下する夏美を回収するまで、この作戦は成功したと言えないのだ。

「くっそ、ナァァツッ!!」
 地上が迫ってくる。ワイバーンを急降下させつつも、諒太は夏美へと懸命に腕を伸ばした。

「リョウちん、やったよ!」
「うるせぇ! 早く手を取れぇ!」
 一瞬のあと諒太の手が握られる。勇者とは思えぬ小さな手。絶対にこの手は離さない。かつて失ったときとは明確に異なる。今の諒太は環境を強制される子供じゃない。自身の確固たる意志で以て、彼はこの手を取っているのだ……。

「ワイバーン、上昇しろぉっ!」
 夏美の手を握ったまま、諒太はワイバーンを駆る。本当に地上すれすれ。全員が墜落死という惨状を辛くも回避していた。

「まったく何も変わってねぇじゃんかよ!? 思いつきで行動すんな! 馬鹿か!?」
「ごめん! でも、やったじゃん!」
 嘆息しつつも、諒太は現状を把握する。確かに夏美の言う通りだ。脳天に強烈な一撃をくらったルイナーは街から離れていこうとしていた。
 神聖力によるダメージを負ったルイナーはまたも休眠するつもりなのか、巣であるダリヤ山脈へと帰っていく。

 はぁっと息を吐くのは諒太だ。何とか使命を全うできたと胸を撫で下ろしている。
 急な襲撃はもう勘弁して欲しいと願う。こんなことでは命が幾つあっても足りないとさえ思った。

「ナツ、無茶はするな。あと少しくらい考えてから行動しろ……」
 ひとまず危機は去った。一応は諒太もセイクリッド世界の勇者として責任を果たせたのではないだろうか。さりとて夏美には釘を刺しておかねばならない。今後を考えると反省を促しておかねばならなかった。

 兎にも角にも一件落着。被害は多く出ただろうが最小限で済んだはずだ。あのままルイナーが暴れ回ったとすれば、ノースベンドは壊滅していたはずなのだから……。
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