幼馴染み(♀)がプレイするMMORPGはどうしてか異世界に影響を与えている

坂森大我

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第一章 導かれし者

緊急クエスト

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 夏美は唐突に始まった緊急クエストに参戦していた。
 クエストはダリヤ山脈に程近いアクラスフィア王国北部の街ノースベンドが舞台である。ルイナーは休眠中であったけれど、心ない冒険者が攻撃を仕掛けて彼女を起こしてしまったようだ。怒り狂ったルイナーは山脈に程近いノースベンドを襲い始めたという設定らしい。

「ナツ、ゴリさんがやられたみたい!」
「ええ!? レベルの低いプレイヤーは撤退させた方が良くない!?」
 騎士団に所属する夏美と彩葉はワイバーンに乗り、ルイナーを追い払うべく最前線にいた。しかし、決定打は与えられず仲間を次々と失っている。

「幾らポーションがあっても足りない!」
 クエスト完遂はルイナーを追い払うだけでいい。ただし、それには勇者による攻撃が必要だとしている。その他、クエストの終了条件は勇者が失われること。つまりは夏美がルイナーによって虐殺されると自動的にクエスト失敗となるらしい。

@ラリアット『ナツさん、悪プリさんが解析した情報をお知らせます!』

 不意にメッセージが届く。ラリアットというプレイヤーもまた騎士団員であり、聖騎士の職を得ている廃プレイヤーだった。

「何!? 役に立つなら早く教えて!」
@ラリアット『弱点は頭部みたいです。狙えますか?』

 騎士団員は攻撃班と支援班に分かれていた。支援班はポーションの供給から、魔物の解析までを行う。クエスト開始から三十分が過ぎて上級神官たちが導いた答えは頭部への攻撃。他の部位を狙うよりも被弾モーションが大きいと突き止めている。

「冗談でしょ!? ルイナーはめっちゃおっきな火球を吐くんだよ!?」
 勇者が戦士系であったこと。攻撃魔法がない夏美は接近するしか手がない。しかし、ルイナーは暴れ回っており、また近付けば巨大な火球を吐く。ラスボスに相応しくまるで隙がなかった。

@ラリアット『ではエアロブラスターを使ってみてください。それならまだ距離が取れるはずです!』
 なるほどと夏美は返す。エアロブラスターは剣技の一つであるが、かまいたち的な風属性遠距離攻撃を生み出す。ラリアットはそのスキルを使用するように言った。

「いくよ! エアロブラスタァァ!」
 ワイバーンを翻し、夏美はエアロブラスターを撃ち込む。一度目は命中しなかったけれど、二回目で彼女はルイナーの頭部へと着弾させていた。
 少しばかり怯んだようなルイナー。このあと夏美は執拗にスキルを撃ち込むけれど、一度目以降はまるで効いた感じがない。

「イロハちゃん、これって効いてると思う?」
「どうだろ。運営の目的が勇者交代なら、ナツが倒れるまでクエストは終わらないかも」
「そこまで陰湿かなぁ!?」
 笑い合う二人だが、割と手詰まり感を覚えていた。こうしている間にもルイナーによって多くが失われている。長引くほどに仲間たちが死に戻ってしまうはずだ。
 一つ頷いた夏美。何かを決意したような目で彩葉を見た。

「あたし、ルイナーに特攻する!」
 自分が攻撃できないという理由で仲間を失いたくなかった。彼女は勇者であって、その地位を守りたいと願ってもいるけれど、ここは攻めるときだと思う。勇者であるならば隠れてなんかいられないのだと。

「ナツ、本気!?」
「イロハちゃん、あたしは勇者なの。みんなを守らなくちゃ……。それに死ぬ時は前のめりだよ。逃げ回った挙げ句に死ぬなんて超カッコ悪いし!」
 夏美の決意を感じ取ったのか、彩葉もまた頷きを返す。と同時にエリアチャットにて上空に集結していた攻撃班へと声をかけた。

『これからナツが特攻を仕掛けるから、みんなはルイナーの気を引いて! 魔法班は南側から撃ち続けること。物理班は火球を避けられる程度に近付いて牽制して欲しい。勇者と共にノースベンドを守り抜こうよ!』
 五人しかいない聖騎士の一人イロハの呼びかけ。即座に全員が威勢のいい返事をした。

 このクエストはアクラスフィア王国内での内政イベントに括られている。よって全員がアクラスフィア勢力であり、志を同じくする者だ。騎士団員や冒険者だけでなく戦える者は全員がクエストを受注し団結している。

 クエストの真意なんて誰も気にしていない。元より善良なるアクラスフィア王国プレイヤーたちは夏美が勇者であることに好意的だった。βテストからの有名プレイヤーでありながら、時間があれば夏美は低レベルプレイヤーのレベリングにまで付き合ってくれる。

 勇者ナツの強さは当然のこと、彼女が比類なき強運の持ち主であることも全員が知るところだ。彼女であれば本当に特攻を成功させてしまうのではないかと全員が感じていた。
 早速と作戦が始まる。夏美だけがルイナーの上方へと向かい、攻撃班は全員がルイナーと同じ高度を維持。執拗な攻撃が開始されていた。

「ありがとう、みんな!」
 夏美は意気に感じていた。同志たちの姿に鼓舞されている。
 ルイナーの頭部に一撃を入れ、必ずや緊急クエストを終わらせようと思う。全員が報酬を受け取れるように。今以上の被害を出さないようにと。

 魔法班による猛攻撃は南側から行われている。威嚇班は東と西に分かれ、北のダリヤ山脈へルイナーが帰って行くようにと誘導していく。
 手に汗握る展開だった。夏美は眼下の巨竜を見ては一つ息を吸う。

「一気に急降下して叩き斬る。あたしならできる!」
 長剣を片手に夏美はワイバーンを操る。根拠のない自信を頼りに彼女は作戦を実行。単純な計画でしかなかったけれど、夏美は成功を信じていた。

「ルイナァァァッ!」
 雷光一閃。急降下していく夏美だが狙いは外さない。頭部の直ぐ脇を滑空し、加えて長剣を叩き付けていた。

 刹那に咆吼するルイナー。この度の反応は明らかに異なっている。また誰しもが瞬時に理解した。もうこの緊急クエストが終局を迎えたことを……。

 悶絶したあと、ルイナーが北へと進路を取る。バッサバッサと翼をはためかせながら、ダリヤ山脈へと消えていく。

『緊急クエスト【ルイナー襲撃】が達成されました――――』

 時を移さずクエストの完遂が知らされる。これには大歓声が巻き起こり、強襲役を担った夏美に万雷の拍手が贈られていた。

「みんな、やったよ!」
 勢い余って地上すれすれまで落ちた夏美だが、手を振って応えている。高難度クエストをクリアした彼女はいつも通りに満面の笑みだ。

 結果として被害は最小限で済んだ。全ては勇者の活躍である。運営の思惑は外れたかもしれないけれど、プレイヤーたちが笑顔であれば何も問題ないはずだ。
 ゲームの本質は楽しむことが前提としてあるのだから……。
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