幼馴染み(♀)がプレイするMMORPGはどうしてか異世界に影響を与えている

坂森大我

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第一章 導かれし者

二徹明けの平穏

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 翌朝は良く晴れていた。春先は天候が崩れることも多いのだが、眠気を吹き飛ばすほどに太陽が燦々と照りつけている。

 出張から戻った両親に留守番は問題なかったと話し、そそくさと家を出て行く。
 そういえばスマホでプレイ状況を録画していた。諒太は学校に着くや、その映像を確認する。

「やっぱりか……」
 薄暗い映像ではあったけれど、諒太の身体は消えていた。つまりゲーム中は現実世界から消失し、諒太の身体はセイクリッド世界にある。それなりに覚悟していたものの、この検証から得られた事実はセイクリッド世界という現実を肯定するだけだ。

「おはよう、リョウちん!」
 今日も今日とて幼馴染みが登場する。諒太に悩む時間を与えないつもりか、彼女は見計らったように駐輪場へとやって来た。

「リョウちんはやめろと言っただろ?」
「良いじゃん! リョウちんなんだし!」
 この間抜けな笑みを見ていると幾分か落ち着いた。悩んでもしょうがない。既に諒太は戦うのだと決意している。現実であろうとなかろうと挑むだけあり、アーシェを救うだけだ。

「なあ、ナツ。少しいちご大福について聞きたいんだが……」
 気持ちを切り替え前へと進む。目下のところ気になるのは、いちご大福の遺品だという謎の指輪であった。

「何? 大福さんとはフレンドだけど、スバウメシアに移籍してからはあんまりパーティを組んでないよ?」
「いちご大福の装備で鑑定不可能な指輪はないか?」
「んんー、そんなのはなかったと思う。あの人の装備は基本的に壁役として有効なのしかない。攻撃力を失ってまで耐久力を重視してたよ」
 耐久力といえば防御力とHPだろう。よって彼は装備品の効果をDEFのバフ効果やHP特化で考えていたらしい。

「たとえばだけど、HPを含めた全パラメーターが倍化するようなアイテムってある?」
「ないない! そんな壊れアイテムが出ちゃうと他の装備は意味なくなっちゃう」
 夏美も同意見であるようだ。完全な壊れ装備の存在を否定している。セシリィ女王曰く、いちご大福が残したものであり、三百年後には間違いなく存在するというのに。

「それで彼のモチベーションはどうだ? ログイン時間が短いとか……」
「どうしてそんなこと気にするの? まあ誰もが憧れるトッププレイヤーの一人だけどさ、あたしの方が強いからね!」
「お前のことは良く分かってる。王配にまでなった人の目的意識が知りたいだけだ」
 少しばかり訝しむような夏美だが、小首を傾げただけで深く問い詰めてはこなかった。

「ふーん、まあいいや。大福さんにはこの前会ったけど楽しそうだったよ? 何でも子供が生まれたらしいの。つい先日、結婚したばかりなのに笑っちゃうよね?」
 幼馴染みと語らうのには躊躇う内容だが、諒太は突っ込んで行くしかない。恥ずかしいなんて言ってはいられないのだ。

「そういうものなのか? いやらしい意味じゃなく……」
「リョウちんが考えているようなことはないよ。結婚したらログインしなくても数日で子供が生まれる。妊娠中も戦闘能力の低下はないし、女性プレイヤーも問題なしよ」
 夏美の性格に助けられていた。もし夏美が恥ずかしがっていたとすれば、諒太まで赤面してしまうところである。

「それで、大福さんだけど子供も生まれたし、スバウメシア王家転覆イベントも始まったからね。やる気満々だよ」
 ここで妙な話題が飛び出す。その言葉通りであれば穏やかなイベントではないと思われる。

「何だよそれ? 転覆ってセシリィ女王を王座から降ろすって事か?」
「人族を王族に組み入れたことで公爵家のような貴族が反発するって設定だよ。クーデターイベントの続きみたいなものかな。でも、これは内政イベントだから、他国の所属では参加できないね。大福さんは国内を平定しなきゃ、ゲーム上は正式に権力者となれないの。ちなみに、あたしもイビルワーカーに付け狙われてるよ。全部返り討ちにしてるけど!」
 クリアの鍵を握る夏美が狙われるのは分からなくもないけれど、王配まで争いごとになってしまうとは驚きだ。簡単にはクリアさせまいとする運営の意志表示なのかもしれない。

「それはそうとリョウちん、昨日の夜にあったアップデートはしたかね? 何と有線で直結すれば異なるサーバーにいる友達でも一緒に冒険ができちゃうのです!」
 いちご大福の話に飽きたのか、夏美はまるで関係のない話を始めた。彼女が語るアップデートは諒太が知らないものだ。ずっとプレイ中だった彼は確認すらしていない。

「またアップデートって本当か? 有線って事は本体を持ち寄るってことだよな?」
「そういうこと。友達と一緒に遊べないプレイヤーの救済処置みたい。満員のサーバーに後発組のプレイヤーは入れないからね」
 朗報ではあったが、諒太には縁のない話である。時系列も違えば世界線すら異なる諒太と夏美は、どう足掻いても一緒にプレイできないのだ。

「あたしはレベル110になって、遂に神聖力Lv1を習得したのよ! そんな勇者ナツの力が必要ならば、いつでも呼んでくれたまえ!」
 夏美は相変わらず廃プレイをしているらしい。金曜の夜から7個もレベルアップを遂げたようである。

「ああ、そのうちにな……」
 ここは聞き流しておくしかない。夏美との協力プレイよりも不死王の霊薬を手に入れること。アーシェを救うことしか諒太は考えられない。

 二人が並んで歩いていると、ふと諒太に向かって小さくお辞儀をする女生徒が現れた。大人しそうな三つ編みの眼鏡っ子である。しかし、諒太に面識はない。自意識過剰と思われるかもしれないが、確実に目が合っていたはずだ。

「何だったんだ? 今の……」
 彼女が走り去った方向を不思議そうに眺めていると、

「ああ、イロハちゃんだよ――――」

 夏美の返答は諒太を一瞬にして固まらせてしまう。確か彩葉はリョウちん君呼ばわりする馴れ馴れしい女。伯母山高校に通う同級生であったはず。

「あの女が彩葉!?」
「声が大きいって。イロハちゃんはネット番長だから……」
「まじか。豹変しすぎだろ……」
 チャットしたイメージではギャル風である。キャラはメガネをしていなかったし、髪色も変更していた。とても同一人物だとは思えない。

 兎にも角にも授業はほぼ居眠りをして過ごす。どうも三日間の疲れが溜まっていたらしい。学生の本分をわきまえない暴挙にて諒太は徹夜する体力を再充填できた。
 例によって夏美と途中まで下校し、諒太は全力で自転車を漕ぐ。いち早くセイクリッド世界に戻るため。謎の指輪を手に入れた諒太はリッチに挑もうと考えていた。

 帰宅すると即座に母親が用意していた夕飯を掻き込む。軽くシャワーを浴びれば、徹夜の準備はOKだ。両親が共働きであるのは本当に助かっている。諒太は寝たふりをするだけで、この世界から存在を消すことができるのだ。

 さあ、いよいよ大一番である。過度な早送りで到来した最終決戦が始まろうとしていた。
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