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第三章 死力を尽くして
通行止め
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前方の対処をジュリアに託したミハルは集中していた。正確さが求められる場面。AIに頼ることを止め、より精度を高めようとマニュアルモードを選択していた。
「絶対に撃ち抜く……」
メインモニターに照準を表示し、睨むように見つめている。目標はズームアップされ、真っ直ぐに突っ込んで来るマッシュルームの光を映していた。
「射程に入った瞬間に狙撃しないと次が間に合わない……」
並のスピードであれば問題ない距離である。しかし、元が輸送艦だという敵機の速度は超高速航行とまではいかないものの、それに準ずるスピードがあった。
照準を揺らめく小さな光がマッシュルームだ。照準中央にあるクロスポイントへ、その光を収めなくてはならない。まだ距離があるために少しのブレでさえ大きく的が動いてしまう。
「あと少し……」
ミハルの集中力は極限にまで達している。もう宙域に蠢く敵機は少しも気にならない。ジュリアに全てを任せて、自身はこの一射に集中していた。
一点だけを見据える。照準が指し示す遙か彼方にある地点。激しく動き回る光がクロスポイントへと重なる瞬間をただひたすら待つ。
もう何も聞こえない。瞳に映るは拡がる闇。そして小さな輝き――――。
「――――っ!」
ミハルは逃さない。射程に入ったその瞬間を。敵機がクロスポイントへと重なるその一瞬を。寸分の遅れもなくミハルは反射的にトリガーを引く。
「当たれぇぇええええっ!!」
黄白色の光が闇を貫いていく。真っ直ぐ歪みなく銀河の果てへと突き刺さるように。
僅かな静寂がコックピットに満ちた。ミハルは息を呑んで見つめている。
一瞬のあと、眼前に光が溢れた――――。
その光は眩しいほどに輝いたかと思えば呆気なく失われ、視界はまたも闇に染まる。
ミハルは狙撃に成功していた。だが、息つく暇もなく二機目が接近している。今度は照準を合わせる時間すらない。照射ラグが回復した頃にはすれ違うはずであり、撃てたとして角度は少しも残っていないだろう。
「絶対に通さないっ! ここは……」
無理矢理に機首を動かし、ミハルは躊躇うことなく二射目を撃ち放つ。
「通行止めなのよっ!!」
本能のままにトリガーを引いた。やはり角度がない。最高速度で突っ切ろうとするマッシュルームに対し、彼女はほぼ直角に撃ち放っていた……。
「ミハル!?」
咄嗟にジュリアは声をかけた。一機目を仕留めたのは確認している。けれど、想定よりも早く接近した二機目の機体は、とても撃ち落とせたようには思えない。
ところが、後方で爆発が起きた。先ほどと変わらぬ大きな爆発痕。事実確認は伝えられるよりも目視によって知らされている。
「ジュリア! 前を代わる!」
ミハルの通信により確信を持つ。二機目もミハルが撃墜したのだと。俄には信じられなかったけれど、事実としてマッシュルームはレーダーから消失していた。
「お前はホント凄いやつだよ……」
素直に前衛を交代する。正直にまだ続けたい気持ちもあったのだが、交代要員がミハルであるのなら彼が拒否する理由はない。
「とりあえず補給を願おう。もう私の機体は限界だわ……」
「それは俺もだ。基地まで戻れるかどうかも分からん……」
小さく笑い合う。これ以上、飛べと言われても不可能だ。残量は共に2%。戦闘を続けられる状態ではない。他の宙域にはマッシュルームと思われる反応がまだ残っていたけれど、それは二人の仕事ではなかった。
「ミハル、あとは仲間を信じよう……」
「うん……。そうだね……」
時を移さず二人に補給許可が下りた。若干の未練を覚えながら、ミハルは戦線を離れていく。時間にして四時間。十分すぎる戦果を残し、二人はイプシロン基地へと帰還するのだった……。
「絶対に撃ち抜く……」
メインモニターに照準を表示し、睨むように見つめている。目標はズームアップされ、真っ直ぐに突っ込んで来るマッシュルームの光を映していた。
「射程に入った瞬間に狙撃しないと次が間に合わない……」
並のスピードであれば問題ない距離である。しかし、元が輸送艦だという敵機の速度は超高速航行とまではいかないものの、それに準ずるスピードがあった。
照準を揺らめく小さな光がマッシュルームだ。照準中央にあるクロスポイントへ、その光を収めなくてはならない。まだ距離があるために少しのブレでさえ大きく的が動いてしまう。
「あと少し……」
ミハルの集中力は極限にまで達している。もう宙域に蠢く敵機は少しも気にならない。ジュリアに全てを任せて、自身はこの一射に集中していた。
一点だけを見据える。照準が指し示す遙か彼方にある地点。激しく動き回る光がクロスポイントへと重なる瞬間をただひたすら待つ。
もう何も聞こえない。瞳に映るは拡がる闇。そして小さな輝き――――。
「――――っ!」
ミハルは逃さない。射程に入ったその瞬間を。敵機がクロスポイントへと重なるその一瞬を。寸分の遅れもなくミハルは反射的にトリガーを引く。
「当たれぇぇええええっ!!」
黄白色の光が闇を貫いていく。真っ直ぐ歪みなく銀河の果てへと突き刺さるように。
僅かな静寂がコックピットに満ちた。ミハルは息を呑んで見つめている。
一瞬のあと、眼前に光が溢れた――――。
その光は眩しいほどに輝いたかと思えば呆気なく失われ、視界はまたも闇に染まる。
ミハルは狙撃に成功していた。だが、息つく暇もなく二機目が接近している。今度は照準を合わせる時間すらない。照射ラグが回復した頃にはすれ違うはずであり、撃てたとして角度は少しも残っていないだろう。
「絶対に通さないっ! ここは……」
無理矢理に機首を動かし、ミハルは躊躇うことなく二射目を撃ち放つ。
「通行止めなのよっ!!」
本能のままにトリガーを引いた。やはり角度がない。最高速度で突っ切ろうとするマッシュルームに対し、彼女はほぼ直角に撃ち放っていた……。
「ミハル!?」
咄嗟にジュリアは声をかけた。一機目を仕留めたのは確認している。けれど、想定よりも早く接近した二機目の機体は、とても撃ち落とせたようには思えない。
ところが、後方で爆発が起きた。先ほどと変わらぬ大きな爆発痕。事実確認は伝えられるよりも目視によって知らされている。
「ジュリア! 前を代わる!」
ミハルの通信により確信を持つ。二機目もミハルが撃墜したのだと。俄には信じられなかったけれど、事実としてマッシュルームはレーダーから消失していた。
「お前はホント凄いやつだよ……」
素直に前衛を交代する。正直にまだ続けたい気持ちもあったのだが、交代要員がミハルであるのなら彼が拒否する理由はない。
「とりあえず補給を願おう。もう私の機体は限界だわ……」
「それは俺もだ。基地まで戻れるかどうかも分からん……」
小さく笑い合う。これ以上、飛べと言われても不可能だ。残量は共に2%。戦闘を続けられる状態ではない。他の宙域にはマッシュルームと思われる反応がまだ残っていたけれど、それは二人の仕事ではなかった。
「ミハル、あとは仲間を信じよう……」
「うん……。そうだね……」
時を移さず二人に補給許可が下りた。若干の未練を覚えながら、ミハルは戦線を離れていく。時間にして四時間。十分すぎる戦果を残し、二人はイプシロン基地へと帰還するのだった……。
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