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第三章 死力を尽くして
マッシュルーム
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クェンティン司令が中央ブロック各隊の交代を決めてから一時間近くが経過していた。しかしながら、まだそれは実行に移されていない。
「酷い有様だな……」
クェンティンが漏らす。勿論それは自軍の被害状況である。戦力ダウンを危惧しての交代先延ばしであったが、結果として多くの戦力を失うことにもなっていた。
「あの猛攻であればやむを得ないでしょう。寧ろ彼らであったからこその現状かと。予定通りの交代であったなら、現状はより酷いものとなっていたはずです」
データを眺めながらアーチボルトが返した。ただ想定よりも酷い惨状に彼も長い溜め息を吐いている。
「セラフィム隊は現状維持と考えるがどうだ? 彼らはあとどれくらい戦える?」
重い口ぶりで問うクェンティンにアートボルトは視線を外した。まだ戦線を維持し続ける彼らの実力はGUNS屈指であろう。エース不在の中で想像よりも機能している。本来なら休息を与えるべきなのだが、悩ましい問題は攻め手が一向に緩まぬことだった。
「あと三十分。それが限界でしょう。補充要員ではなく後方部隊の何機かを欠損機に宛がうべき。また彼ら以外の前衛部隊は既に限界です。いち早い交代指示を願います……」
交代を先送りにした結果、忙しなく実行することに。その中でもミハルたち301小隊は一番後になる模様だ。
「β線配備、全隊に告ぐ! これよりβ線を一時放棄する。速やかにγ線まで後退せよ! 以降のエリア割り当てはモニターにて通知。γ線だけは抜かれるな!」
遂にアートボルトの作戦が実行に移された。限界に達した部隊から補給へと回る。戦線は一時的に下げられて、ガンマ線が最前線となった。
「早く時間が経たないかと考えてしまいますね……?」
「ふん、貴様が立てた作戦だぞ? 堂々としておけ!」
懸念された混乱もなく、部隊の交代が進んでいる。戦線を下げた効果か自軍の活躍が目立つようになっていた。
腕を組み戦況を見つめる二人。このまま上手く運べと祈るしかなかった。しかしながら、想定外の事態は予想を遥かに超えて起こり得るもの。見守る二人を嘲笑うかのように、戦況は一転して暗雲に包まれていく。
爆音が響いたかと思えば、イプシロン基地が激しく揺れた――――。
立っていられないほどの衝撃である。超巨大構造物がこんなにも揺れるなんて異常事態に違いない。
「何事だっ!? 報告急げ!!」
クェンティンの大声が轟く。戦況が好転しかけたところに原因不明の揺れ。司令室に満ちる不穏な空気はまるで敗戦したかのようである。
「ば、爆発です! 独立型ドックの一つが消失! 接続先の区画もほぼ全壊です! カザインの攻撃であるとの判定が出ています!」
イプシロン基地は戦線から距離を設けている。またゲートから狙われないようにゲートの直線上を外した場所へと建造されたのだ。よって直接攻撃を受けるはずがない。誰もがそう考えていた。
「解析を急げ! 早く映像を回せ!」
クェンティンの怒号が飛ぶ。イプシロン基地に接続していたユニックの消失。もしもカザインの新兵器であれば早急な対応が求められるところだ。
「センターモニターに映像を回します! 続いて解析結果を報告致します!」
パイロットが強者揃いなら、司令室は秀才揃いである。指示に対する素早いレスポンスがあった。
「対消滅の痕跡を検出…………」
オペレーターの声が震えている。彼自身も解析結果に戸惑っているようだ。
「反物質爆弾である確率は99%――――」
誘導ミサイルへの対策は万全であったはず。基地には過剰ともいえる迎撃ミサイルが搭載されているのだ。従って簡単に基地まで届くとは考えられなかった。
「何だと!? どこから飛んできた!? 誘導ミサイルの類は初っぱな以降、見られなかっただろう!?」
被害から見るその破壊力は疑いを払拭するに十分だった。ユニック単体をまるごと吹き飛ばし、尚且つ接続先にまで甚大な被害を与えていたのだから。
「アーチボルト! 貴様の意見はどうだ!?」
クェンティンは参謀の意見を聞く。AIによる解析結果を疑うわけではないが、長年に亘り意見してきた彼の言葉は判断に欠かせないことの一つだ。
「AIの判定は正しいかと……。ただ今は被害よりも爆発物の解明が最優先です。このキノコ型をしたミサイルのようなもの。こちらを先に解析してみましょう……」
言ってアーチボルトが指示を出す。爆発する直前にボウル型をした飛来物が映像に映っている。それはミサイルにしては幅があり、先端にビーム砲まで装備していた。
「出ました! 映像解析結果は有人貨物船であるとの判定です。船首にビーム砲を換装し、反物質爆弾を搭載していたとのこと。アルファ線上で加速し、准光速域で戦線を突き抜けたようです」
解析結果に眉を顰めるクェンティン。被害の原因は戦闘機やミサイルではなく、小型の輸送船らしい。
「有人機だというのか? それは自爆したということだぞ!?」
「無人機が発する電波を検知していませんし、飛行ルートの解析結果はフルオート操縦を否定するものでした。また激突時はかなりのスピードでしたが、事故ではなく自爆行為である可能性が極めて高いとのことです」
クェンティンがアーチボルトと目を合わせる。泥沼化した戦争の末期に見られるような行為。エイリアンではあったけれど、クェンティンにはその思考が理解できなかった。
「自爆だとすれば用意できる数は多くないでしょう。ただし、この一発だけではないと考えられます。最低でもイプシロン基地を破壊できる数は用意しているはず。基地機能を維持するのであれば、全てを撃墜するべきです」
アーチボルトがカザインの狙いについて話す。現状から推察できることは多くなかったが、それでもクェンティンの同意を得られる説得力を有していた。
「なるほど……。やつらはイプシロン基地から叩く算段であったか……」
「そのようですね。ゲートに基地がある方が有利ですから……」
頭を抱えるかと思えばクェンティンはほくそ笑む。奇襲ともいえるカザインの作戦に対し、彼にはまだ笑う余裕があった。
「こしゃくな……。エイリアン風情がやりおるわ! 全軍に通達だっ! 特殊マーカーで表示される機体を優先して撃墜せよ! 絶対に撃ち漏らすな!」
新しい指示が飛ぶ。コードネーム【マッシュルーム】と名付けられた破壊兵器型航宙機の撃墜。時をおかずに通達された。
「楽しいキノコ狩りの時間だっ!――――」
「酷い有様だな……」
クェンティンが漏らす。勿論それは自軍の被害状況である。戦力ダウンを危惧しての交代先延ばしであったが、結果として多くの戦力を失うことにもなっていた。
「あの猛攻であればやむを得ないでしょう。寧ろ彼らであったからこその現状かと。予定通りの交代であったなら、現状はより酷いものとなっていたはずです」
データを眺めながらアーチボルトが返した。ただ想定よりも酷い惨状に彼も長い溜め息を吐いている。
「セラフィム隊は現状維持と考えるがどうだ? 彼らはあとどれくらい戦える?」
重い口ぶりで問うクェンティンにアートボルトは視線を外した。まだ戦線を維持し続ける彼らの実力はGUNS屈指であろう。エース不在の中で想像よりも機能している。本来なら休息を与えるべきなのだが、悩ましい問題は攻め手が一向に緩まぬことだった。
「あと三十分。それが限界でしょう。補充要員ではなく後方部隊の何機かを欠損機に宛がうべき。また彼ら以外の前衛部隊は既に限界です。いち早い交代指示を願います……」
交代を先送りにした結果、忙しなく実行することに。その中でもミハルたち301小隊は一番後になる模様だ。
「β線配備、全隊に告ぐ! これよりβ線を一時放棄する。速やかにγ線まで後退せよ! 以降のエリア割り当てはモニターにて通知。γ線だけは抜かれるな!」
遂にアートボルトの作戦が実行に移された。限界に達した部隊から補給へと回る。戦線は一時的に下げられて、ガンマ線が最前線となった。
「早く時間が経たないかと考えてしまいますね……?」
「ふん、貴様が立てた作戦だぞ? 堂々としておけ!」
懸念された混乱もなく、部隊の交代が進んでいる。戦線を下げた効果か自軍の活躍が目立つようになっていた。
腕を組み戦況を見つめる二人。このまま上手く運べと祈るしかなかった。しかしながら、想定外の事態は予想を遥かに超えて起こり得るもの。見守る二人を嘲笑うかのように、戦況は一転して暗雲に包まれていく。
爆音が響いたかと思えば、イプシロン基地が激しく揺れた――――。
立っていられないほどの衝撃である。超巨大構造物がこんなにも揺れるなんて異常事態に違いない。
「何事だっ!? 報告急げ!!」
クェンティンの大声が轟く。戦況が好転しかけたところに原因不明の揺れ。司令室に満ちる不穏な空気はまるで敗戦したかのようである。
「ば、爆発です! 独立型ドックの一つが消失! 接続先の区画もほぼ全壊です! カザインの攻撃であるとの判定が出ています!」
イプシロン基地は戦線から距離を設けている。またゲートから狙われないようにゲートの直線上を外した場所へと建造されたのだ。よって直接攻撃を受けるはずがない。誰もがそう考えていた。
「解析を急げ! 早く映像を回せ!」
クェンティンの怒号が飛ぶ。イプシロン基地に接続していたユニックの消失。もしもカザインの新兵器であれば早急な対応が求められるところだ。
「センターモニターに映像を回します! 続いて解析結果を報告致します!」
パイロットが強者揃いなら、司令室は秀才揃いである。指示に対する素早いレスポンスがあった。
「対消滅の痕跡を検出…………」
オペレーターの声が震えている。彼自身も解析結果に戸惑っているようだ。
「反物質爆弾である確率は99%――――」
誘導ミサイルへの対策は万全であったはず。基地には過剰ともいえる迎撃ミサイルが搭載されているのだ。従って簡単に基地まで届くとは考えられなかった。
「何だと!? どこから飛んできた!? 誘導ミサイルの類は初っぱな以降、見られなかっただろう!?」
被害から見るその破壊力は疑いを払拭するに十分だった。ユニック単体をまるごと吹き飛ばし、尚且つ接続先にまで甚大な被害を与えていたのだから。
「アーチボルト! 貴様の意見はどうだ!?」
クェンティンは参謀の意見を聞く。AIによる解析結果を疑うわけではないが、長年に亘り意見してきた彼の言葉は判断に欠かせないことの一つだ。
「AIの判定は正しいかと……。ただ今は被害よりも爆発物の解明が最優先です。このキノコ型をしたミサイルのようなもの。こちらを先に解析してみましょう……」
言ってアーチボルトが指示を出す。爆発する直前にボウル型をした飛来物が映像に映っている。それはミサイルにしては幅があり、先端にビーム砲まで装備していた。
「出ました! 映像解析結果は有人貨物船であるとの判定です。船首にビーム砲を換装し、反物質爆弾を搭載していたとのこと。アルファ線上で加速し、准光速域で戦線を突き抜けたようです」
解析結果に眉を顰めるクェンティン。被害の原因は戦闘機やミサイルではなく、小型の輸送船らしい。
「有人機だというのか? それは自爆したということだぞ!?」
「無人機が発する電波を検知していませんし、飛行ルートの解析結果はフルオート操縦を否定するものでした。また激突時はかなりのスピードでしたが、事故ではなく自爆行為である可能性が極めて高いとのことです」
クェンティンがアーチボルトと目を合わせる。泥沼化した戦争の末期に見られるような行為。エイリアンではあったけれど、クェンティンにはその思考が理解できなかった。
「自爆だとすれば用意できる数は多くないでしょう。ただし、この一発だけではないと考えられます。最低でもイプシロン基地を破壊できる数は用意しているはず。基地機能を維持するのであれば、全てを撃墜するべきです」
アーチボルトがカザインの狙いについて話す。現状から推察できることは多くなかったが、それでもクェンティンの同意を得られる説得力を有していた。
「なるほど……。やつらはイプシロン基地から叩く算段であったか……」
「そのようですね。ゲートに基地がある方が有利ですから……」
頭を抱えるかと思えばクェンティンはほくそ笑む。奇襲ともいえるカザインの作戦に対し、彼にはまだ笑う余裕があった。
「こしゃくな……。エイリアン風情がやりおるわ! 全軍に通達だっ! 特殊マーカーで表示される機体を優先して撃墜せよ! 絶対に撃ち漏らすな!」
新しい指示が飛ぶ。コードネーム【マッシュルーム】と名付けられた破壊兵器型航宙機の撃墜。時をおかずに通達された。
「楽しいキノコ狩りの時間だっ!――――」
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