Solomon's Gate

坂森大我

文字の大きさ
上 下
53 / 62
第三章 死力を尽くして

新たな輝き

しおりを挟む
 ソロモンズゲートの裏側。光皇路と呼ばれる穴の脇には出撃前の戦艦が停泊している。 数多停泊する艦隊の中でも一際大きな艦船の発進ゲートに二つの影があった。

「ベゼラ様、どうかお願いします!」
「デボルセ、お前は私に敵前逃亡しろというのか?」

 どうやら二人は主君と家臣であるようだ。
 主君らしき一人はベゼラ・リグルナム上級連士であり、彼の家臣はデボルセ・ミューガンといった。

「この機体はいわば棺桶です。聞いていた最新鋭機などではありません……」
「何だと? どういうことだ?」

「ある機密データを入手しました。この機体が光速に近いスピードを持つのは事実でありますが、基本的に突き進むしかできません。一旦発進してしまえば障害物を回避する程度しか操縦を受け付けないのです。それどころか指定された距離を進めば自爆するよう設定されています。つまり殿下は戦争に乗じて暗殺されるところだったわけです」

 思わぬ話にベゼラは眉を顰めた。連士と呼ばれる士官級待遇で軍籍となったばかりである。まだ若き彼は配属辞令に秘められた陰謀に気付くことなく戦場まで来ていた。

「七番ハッチへ連結している物資輸送船に席を用意しました。向こうに手引きする者がいます。どうかベゼラ様はお戻りください。リグルナム家が管理しているアルバに潜伏できるよう手筈が整っております」

「本気か? 国に帰っても罰せられるだけだろう?」
 急かすようなデボルセにベゼラは首を振る。彼とて覚悟を決めて戦場まで赴いたのだ。たとえ陰謀であったとしても星院家の長男としては安易に引き返せない。

「それは問題ありません。既にヘーゼン星院家も動いております。全ては陰謀なのです。この戦争は失態を犯したカザイン皇家の責任逃れに他なりません。今すべきことは臣民を守る政策であるというのに、侵略戦争にて臣民の目を逸らしている。カザイン皇家の陰謀を明らかにすれば臣民の支持を得られることでしょう」

 どうやらカザイン光皇連は一枚岩ではないらしい。一連の事象により国家全体が混乱しているだけでなく、その内部ではきな臭い謀略が交錯しているようだ。

「こちらが作戦内容を記した極秘文書のデータです。カザイン皇とハニエム総統の署名が入っております。これを武器に立ち上がってください。貴方様の戦場は母星ゼクスにあります。我ら光皇連を正せるのはベゼラ様をおいて存在いたしません」

 デボルセの話は恐らく真実だと思えた。署名入りの証拠まであるのだからカザイン皇とて言い逃れはできないだろう。

「しかし、私が出撃しなければ直ぐに計画は破綻するぞ? 私の殺害が目的だとすれば、出撃状況を必ず確認するはず」
「問題ありません。リグルナム星院家の仮面を用意しました。私がこれを装着し、殿下になりすまし出撃いたしますから……」

 ベゼラはデボルセの覚悟を見ていた。鋭い眼差しを見ると頷くしかできない。しかし、身代わりとするのには躊躇いがあった。

「私のことはお気遣いなく。全てはリグルナム星院家と臣民のためですから。さあ殿下、お急ぎください。時間がありません」

 デボルセの説得にベゼラもようやく覚悟を決めた。危険を承知で準備した彼の意を汲むこと。忠臣の願いを聞き遂げることこそが自身の義務であると。

「デボルセ……すまない」

「私はよき主君に恵まれました。何の後悔もございません。今ここで殿下を失うことがあれば、それこそ悔いが残ります。さあ俯くのはおやめください。この老いぼれに未来の光皇となられるお顔を見せてくださいまし。貴方様が立派な光皇となられるよう星界より願っておりますので……」

 二人は握手を交わしたあと、それぞれが成すべき行動を始めた。一人は最新鋭機といわれる機体に乗り込み、もう一人は通路を駆けていく。

 新たな星が一つ広大な星系に輝き始めていた……。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...