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第三章 死力を尽くして
新たな輝き
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ソロモンズゲートの裏側。光皇路と呼ばれる穴の脇には出撃前の戦艦が停泊している。 数多停泊する艦隊の中でも一際大きな艦船の発進ゲートに二つの影があった。
「ベゼラ様、どうかお願いします!」
「デボルセ、お前は私に敵前逃亡しろというのか?」
どうやら二人は主君と家臣であるようだ。
主君らしき一人はベゼラ・リグルナム上級連士であり、彼の家臣はデボルセ・ミューガンといった。
「この機体はいわば棺桶です。聞いていた最新鋭機などではありません……」
「何だと? どういうことだ?」
「ある機密データを入手しました。この機体が光速に近いスピードを持つのは事実でありますが、基本的に突き進むしかできません。一旦発進してしまえば障害物を回避する程度しか操縦を受け付けないのです。それどころか指定された距離を進めば自爆するよう設定されています。つまり殿下は戦争に乗じて暗殺されるところだったわけです」
思わぬ話にベゼラは眉を顰めた。連士と呼ばれる士官級待遇で軍籍となったばかりである。まだ若き彼は配属辞令に秘められた陰謀に気付くことなく戦場まで来ていた。
「七番ハッチへ連結している物資輸送船に席を用意しました。向こうに手引きする者がいます。どうかベゼラ様はお戻りください。リグルナム家が管理しているアルバに潜伏できるよう手筈が整っております」
「本気か? 国に帰っても罰せられるだけだろう?」
急かすようなデボルセにベゼラは首を振る。彼とて覚悟を決めて戦場まで赴いたのだ。たとえ陰謀であったとしても星院家の長男としては安易に引き返せない。
「それは問題ありません。既にヘーゼン星院家も動いております。全ては陰謀なのです。この戦争は失態を犯したカザイン皇家の責任逃れに他なりません。今すべきことは臣民を守る政策であるというのに、侵略戦争にて臣民の目を逸らしている。カザイン皇家の陰謀を明らかにすれば臣民の支持を得られることでしょう」
どうやらカザイン光皇連は一枚岩ではないらしい。一連の事象により国家全体が混乱しているだけでなく、その内部ではきな臭い謀略が交錯しているようだ。
「こちらが作戦内容を記した極秘文書のデータです。カザイン皇とハニエム総統の署名が入っております。これを武器に立ち上がってください。貴方様の戦場は母星ゼクスにあります。我ら光皇連を正せるのはベゼラ様をおいて存在いたしません」
デボルセの話は恐らく真実だと思えた。署名入りの証拠まであるのだからカザイン皇とて言い逃れはできないだろう。
「しかし、私が出撃しなければ直ぐに計画は破綻するぞ? 私の殺害が目的だとすれば、出撃状況を必ず確認するはず」
「問題ありません。リグルナム星院家の仮面を用意しました。私がこれを装着し、殿下になりすまし出撃いたしますから……」
ベゼラはデボルセの覚悟を見ていた。鋭い眼差しを見ると頷くしかできない。しかし、身代わりとするのには躊躇いがあった。
「私のことはお気遣いなく。全てはリグルナム星院家と臣民のためですから。さあ殿下、お急ぎください。時間がありません」
デボルセの説得にベゼラもようやく覚悟を決めた。危険を承知で準備した彼の意を汲むこと。忠臣の願いを聞き遂げることこそが自身の義務であると。
「デボルセ……すまない」
「私はよき主君に恵まれました。何の後悔もございません。今ここで殿下を失うことがあれば、それこそ悔いが残ります。さあ俯くのはおやめください。この老いぼれに未来の光皇となられるお顔を見せてくださいまし。貴方様が立派な光皇となられるよう星界より願っておりますので……」
二人は握手を交わしたあと、それぞれが成すべき行動を始めた。一人は最新鋭機といわれる機体に乗り込み、もう一人は通路を駆けていく。
新たな星が一つ広大な星系に輝き始めていた……。
「ベゼラ様、どうかお願いします!」
「デボルセ、お前は私に敵前逃亡しろというのか?」
どうやら二人は主君と家臣であるようだ。
主君らしき一人はベゼラ・リグルナム上級連士であり、彼の家臣はデボルセ・ミューガンといった。
「この機体はいわば棺桶です。聞いていた最新鋭機などではありません……」
「何だと? どういうことだ?」
「ある機密データを入手しました。この機体が光速に近いスピードを持つのは事実でありますが、基本的に突き進むしかできません。一旦発進してしまえば障害物を回避する程度しか操縦を受け付けないのです。それどころか指定された距離を進めば自爆するよう設定されています。つまり殿下は戦争に乗じて暗殺されるところだったわけです」
思わぬ話にベゼラは眉を顰めた。連士と呼ばれる士官級待遇で軍籍となったばかりである。まだ若き彼は配属辞令に秘められた陰謀に気付くことなく戦場まで来ていた。
「七番ハッチへ連結している物資輸送船に席を用意しました。向こうに手引きする者がいます。どうかベゼラ様はお戻りください。リグルナム家が管理しているアルバに潜伏できるよう手筈が整っております」
「本気か? 国に帰っても罰せられるだけだろう?」
急かすようなデボルセにベゼラは首を振る。彼とて覚悟を決めて戦場まで赴いたのだ。たとえ陰謀であったとしても星院家の長男としては安易に引き返せない。
「それは問題ありません。既にヘーゼン星院家も動いております。全ては陰謀なのです。この戦争は失態を犯したカザイン皇家の責任逃れに他なりません。今すべきことは臣民を守る政策であるというのに、侵略戦争にて臣民の目を逸らしている。カザイン皇家の陰謀を明らかにすれば臣民の支持を得られることでしょう」
どうやらカザイン光皇連は一枚岩ではないらしい。一連の事象により国家全体が混乱しているだけでなく、その内部ではきな臭い謀略が交錯しているようだ。
「こちらが作戦内容を記した極秘文書のデータです。カザイン皇とハニエム総統の署名が入っております。これを武器に立ち上がってください。貴方様の戦場は母星ゼクスにあります。我ら光皇連を正せるのはベゼラ様をおいて存在いたしません」
デボルセの話は恐らく真実だと思えた。署名入りの証拠まであるのだからカザイン皇とて言い逃れはできないだろう。
「しかし、私が出撃しなければ直ぐに計画は破綻するぞ? 私の殺害が目的だとすれば、出撃状況を必ず確認するはず」
「問題ありません。リグルナム星院家の仮面を用意しました。私がこれを装着し、殿下になりすまし出撃いたしますから……」
ベゼラはデボルセの覚悟を見ていた。鋭い眼差しを見ると頷くしかできない。しかし、身代わりとするのには躊躇いがあった。
「私のことはお気遣いなく。全てはリグルナム星院家と臣民のためですから。さあ殿下、お急ぎください。時間がありません」
デボルセの説得にベゼラもようやく覚悟を決めた。危険を承知で準備した彼の意を汲むこと。忠臣の願いを聞き遂げることこそが自身の義務であると。
「デボルセ……すまない」
「私はよき主君に恵まれました。何の後悔もございません。今ここで殿下を失うことがあれば、それこそ悔いが残ります。さあ俯くのはおやめください。この老いぼれに未来の光皇となられるお顔を見せてくださいまし。貴方様が立派な光皇となられるよう星界より願っておりますので……」
二人は握手を交わしたあと、それぞれが成すべき行動を始めた。一人は最新鋭機といわれる機体に乗り込み、もう一人は通路を駆けていく。
新たな星が一つ広大な星系に輝き始めていた……。
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