Solomon's Gate

坂森大我

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第三章 死力を尽くして

未知なる規模の戦い

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 司令室では各部隊への指示が飛び交っていた。
 交戦が始まってから二時間。β線上で両軍が押し合うような状況が続いている。

 既に前回の大戦を遥かに超える敵機がゲートより侵攻していた。一方的な戦いとなった前回とは異なり、両軍の戦力は拮抗している。

「とんでもない数を送り込んできましたね……。もう既に前回の総数を超えています」
 参謀のアーチボルトが溜め息混じりに話す。ただ言葉とは裏腹に悲壮感はない。カザインの猛攻も想定内といったところだろうか。

「しかし、またもや無人機が目立つな。有人機がいないわけでもないのだが……」
「確かに気になります……。第二陣に有人機部隊を組み込んでいるのやもしれません」

 今回も敵航宙機部隊は無人機が中心の編成であった。GUNSとしては有り難いことであるのだが、有人機が最後まで姿を現さないなんて話は期待していない。

「無人機のハッキングはどうなっている?」
「いえ、どうもシステムごと換装されているようです。残念ながら戦闘中のハッキングは難しいですね……」

 先の大戦後にGUNSは回収した無人機を解析していた。その過程で発見したセキュリティホールを利用し、戦闘中にハッキングするという大胆な作戦を立てていたのだ。しかし、カザインはそれに気付いていたのか、対策を講じてきた模様である。

「ならば蹂躙するしかないな……。β線及びγ線の艦隊は戦線を押し上げろ! α線に配備された艦隊はゲートへ直接撃ち込め! カザインの大将をいぶり出してやれ!」

 戦況を動かす指示が飛んだ。無駄撃ちとなる可能性が高かったものの、クェンティンは挑発と威嚇の意味を込めてビーム砲の照射を命令している。持久戦となる前に敵主力部隊の侵攻を促そうとしていた……。


 ミハルたち301小隊は依然として戦線を維持していた。ゲートのど真ん中に位置する最も攻撃の激しいエリアであったが、そこはエース部隊である。怒濤の勢いで押し寄せる無人機からエリアを守護していた。

『こちらセラフィム・ツー、全隊員に告ぐ。W1ラインEブロックがβ線を抜かれたようだ。現在W1ラインFブロックから救援を割き戦線を押し戻している。この処置により我々のエリアはW1ラインEブロックの一部にまで拡大。既に反映済みとのことで各自モニターにて確認するように……』

 ベイルから通信があった。遂にβ線を抜かれたブロックが出てしまったようだ。それによりミハルたちの担当エリアは拡大し、今よりもラインの維持が困難となる。

『あと新型の有人機が確認されたようだ。こちらもデータベースに反映済みである。確認しておいてくれ……』

 続けられた話は新型の有人機について。とてもじゃないが確認する暇などない。エリアが拡大するならば尚のことである。
 通信が終わると、メインモニターがパッと切り替わる。一瞬ブラックアウトした直後に更新された。

「これは……?」
 確認しようと表示した二次元レーダー。それは地図のようなもので、高低差を表示しない簡易的な平面レーダーである。

 ミハルは息を呑んでいた。なぜなら更新された担当エリアが異様に広かったのだ。二倍までは届かないだろうが、それでも受諾できる範囲を超えているように思う。

「ベイル副隊長! このエリアは!?」
『すまない、セラフィム・ワン。これは現状の撃墜数から割り出したものらしい。出来る限りフォローする。また抜かれた敵機は四班に任せて構わない。君はこれまで通りα線からの侵攻機を撃墜し、戦線の維持に努めてくれ……』

 有無を言わせぬ返答があった。確かに実力を加味するならば撃墜数はこれ以上ない指標である。とはいえ納得できるものではない。エリアの前衛を任される他の二班は何をやっているのかと疑問を覚えるほどに差があった。

「ねぇ、ジュリア……。私は絶対に抜かれたくないの……」

 ふとジュリアに呼びかけがある。それはミハルらしい話だった。

「これから先は指示できない。感じるがままに撃墜していく。ついてこれる……?」

 姉と同等以上の負けず嫌い。エリアが広すぎたという言い訳を彼女が認めるはずもなかった。ミハルは全ての敵機を撃墜しようとするだろう。ジュリアは察していた。

「セラフィム・ツーファイブ、了解。俺は初めからそのつもりだ。遠慮するな。お前の持てる全てを出し切れ……」

 了承を得たミハルはスロットルを踏み込む。絶対に抜かせないのだと心に決めた。襲い来るカザイン機に向かって、ミハルは意志を伝えるべく声高に叫んだ。

「幾らでも相手になってあげるわ!――――」
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