Solomon's Gate

坂森大我

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第三章 死力を尽くして

銀河間戦争

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 β線配備の部隊は持ち場に入っていた。他の航宙機隊も全てが指定宙域についており、敵機を迎え撃つ準備が整っている。

 ミハルもそんな僚機の一つだった。初めての大戦。シミュレーターとは違う張り詰めた空気を感じている。前方で爆発が起こるたび、ミハルは鼓動を早めていた。

「ミハル、落ち着いていこう。お前ならやれる。俺は必ずついて行くから……」
「何、生意気言ってんのよ? 当たり前でしょ? この戦争に勝利して生き残る。そして私はアイリス中尉に勝つんだから!」

 緊張を見透かされたミハルは強気に返している。しかしながら、ずっとミハルを突き動かしていた一途な想いは身体の震えを止めた。全てはこの時のため。ミハルが努力し続けた理由は戦争に勝利した上で、アイリスを超えることだった。

 戦線は縦のラインの他、左右にも分割されている。それぞれがE側W側となり全体の中央ブロックはW1ラインEブロックとE1ラインのEブロックとなった。

 ミハルたち301小隊の配置はβ線E1ラインEブロックの最前列。その中でミハルは[βE1・D1]という逃げも隠れもできないど真ん中の配置である。

 ミハルたちが交戦となるにはα線に陣取る第一・第二航宙戦団所属の無人機部隊が抜かれることが条件である。しかし、先の大戦を鑑みればそれは時間の問題であった。

『ミハル君、そのエリアを頼んで良いか? 何かあれば遠慮なく通信してくれ』

 ベイルからの通信にミハルは了解と答えた。だが、戦闘になれば当てにはできないことも承知している。窮地に立ってから救援を申し込んだところで間に合うはずもないのだと。

「ジュリア、本気で行くよ? やっぱりまだ死にたくないわ……」
「ああ、そうしてくれ。無事に戻れたら、打ち上げで奢ってやるよ……」

 先ほどから先輩風を吹かすようなジュリアにミハルはプッと吹き出していた。
 ジュリアは二度目の大戦であるけれど、その口調は明らかに平常時と異なる。平気なふりをしていても、緊張は隠しきれていない。

「やばいなそれ……。キャロルとも打ち上げするし、太っちゃうかもしれない……」
「ちょっとくらい太った方が良いんじゃないか? 引っかかりがまるでない身体だ」
「何ですって!?」

 他愛もない会話で簡単に緊張が解れた。会話の内容は頭の片隅にも残っていなかったが、面白かったくらいは記憶にある。ミハルはふぅっと息を吐いて再び集中を高めていた。

「やるしかないんだ……」

 前方視界に映る幾つもの爆発。それは何者かが無残にも失われた痕跡に違いない。
 ミハルは操縦桿を握り直した。もう直前まで敵航宙機が攻め込んでいる。β線の交戦開始はもう間もなくだ。

 戦線の維持を重視する無人機は抜かれた機体を無理に追いかけない。故にα線最後列へタッチした敵機は自動的にβ線区域へと進入を始めるのだ。

「ジュリア! DE方向から進入! CA055をチェック!」
「了解! CA609フォロー!」

 遂に戦線が動き出した。どのブロックでも交戦が始まっている。長く焦らされた有人機部隊は一斉に攻撃を仕掛けていく。

「CA055シュート! 続いてCA720チェック!」
 今のところ問題はない。まだ敵戦闘機部隊はα線上の混戦にあった。よって漏れ出した機の掃討がミハルたちの役目である。

 敵機のナンバリングは三桁を超えるとアルファベットが追加された。ただ、既にゲートを通過した敵機は無人機と有人機を合算して六万を超える数にまで膨れ上がっており、それでも表示しきれなくなった機体の頭文字はCからD、Eへと変更されていた。

「ミハル、あちこち抜かれだしている。ここも直ぐに混戦となるぞ!」
「分かってるよ! 大軍が押し寄せてきてる!」

 モニターには黄色いマーカーのついた一団が迫っている。周辺のブロックを確認してみても、状況は同じようなものだった。

「後手に回っちゃ駄目だ。常に先手を取る……」
 ある程度の予測を立てる。抜けてきた順に撃ち落としてゆけば、有利な展開に持って行けるはずだと。

「ここは攻めるしかない! ジュリア、α線に入るけど気にしないで!」
「了解。セラフィム・ツーファイブ、トレースする!」

 やむを得ない場合を除いて基本的に担当エリアは遵守しなければならない。しかし、ミハルは待機するよりも打って出た。α線は無人機しかいないのだし、先制されるくらいなら攻め入った方が有利との判断だ。

「N方向に進入。E方向へと抜ける。DAA109チェック!」
「CA925及びCAX750フォロー!」

 連日の特訓のせいか、二人の連携は随分と改善されていた。ジュリアの技術向上は勿論のこと、ミハルが細かく指示しているのも大きい。

「次は並んでる三つを連続で! DAB822シュート!」
 宙域を縦横無尽に駆け巡った。与えられた任務以上のことはしていない。けれど、担当エリアだけは守り切るのだとミハルは全力を尽くした。

 一体、何機撃墜しただろう。未だかつてこれ程の敵機を撃墜したことはない。にもかかわらず今もモニターを埋め尽くす黄色いマーカーが視界を覆っていた。

「きりがないね……」
「ミハル、少し下がろう!」

 ミハルを案じての提案であるが、ミハルは駄目だと一蹴した。戦線を下げてはならない。後退することは他に迷惑をかけることになるし、何より負けた気がする。

「始まったばかりよ! まだまだ戦えるわっ!」

 大きな声を張って、ミハルは集中力を維持した。疲れたなどと口にする時間ではない。次なる標的に向かって、彼女はスロットルを踏み込んでいる。
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